第31話 はた迷惑な酒宴
話は外出禁止令が解除された当日にまで遡る。
その日、俺はオリヴァーさんの代理で、例の猪鬼騒ぎで傷を負ったアレンに追加の丸薬と塗り薬を届けに行った。
すると、アレンの兄とトマスが、ちょっと前に大きな実入りがあったとの事で、たまっていた薬代を支払ってくれたのだ。
どうも、外出禁止令にも関わらず、騎士団の眼を盗んで、密かに狩りに出かけていたらしい。
俺はその時に初めて銅貨を目にしたわけだが、その帰りに一階の居酒屋で、あるやり取りに出くわした。
「これじゃあなぁ。ちょっと、うちでは扱えんな」
「そこを何とか、お願いできないでしょうか」
居酒屋の店主が困った顔をして、俺と年頃も変わらない、若い娘に言い聞かせている様子だった。
「亡くなったお前の親父さんとは長いつきあいだったから、俺としても何とかしてやりてぇんだが」
「でしたら……」
「でもなぁ。売り物になんねぇんだよ、こいつは」
そう言いながら、店主は手にした葡萄酒のグラスを見やった。
「原料が悪かったな。たぶん、ダンクマール子爵んとこの葡萄を使ったんじゃねぇか?」
「出入りの商人が薦めてくれたもので……」
「あそこのは酒造りには向かねぇんだよ。香りは悪くないんだがな。それだけで言えば、さすがに親父さんが仕込んだだけのことはあると思うぜ。こいつのブーケはちょっとしたもんだ」
そこまで言うと、店主はため息をついた。
「だが、ダンクマール子爵んとこのは、甘みがちと足りないんだ。そこそこの酒精にするには、ある程度甘い葡萄じゃねぇといけねぇってのは知ってんだろ?」
「ええ。その商人が見本に持ってきた葡萄を吟味して、その上で造ってみました。その葡萄酒は父が造ったものと同じ出来映えでした。本当です、私もこの舌で確かめたんです」
娘は必死な表情になって言った。
「それで、同じ葡萄を大量に仕入れたんです。同じように造ったので、同じ出来になるはずなんです」
「ものが酒じゃあ、お前さんが全部を味見ってわけにもいかねぇか。そこを狙われたってことだな」
「え?」
「たぶん、お前さんが味見した、最初の分だけは別の品種を持って来たんだな。つまり、そいつに騙されたのさ」
「そんな……。父の頃からの取引相手だったのに」
「ダンクマール子爵は耕作地を誤魔化していたのがバレたんで、追徴金を言い渡されたって話だ。とにかく、金をつくらなきゃってんで、あちこちの商人に圧力をかけているとも聞いたぜ。巡り巡って、その商人もお前さんを裏切る羽目になったんだろう」
店主は深いため息をついて、気の毒そうに娘に言った。
「ともかく、商売で売るには酒精が弱すぎるんだ。酸味も強いから菓子や料理に使うってわけにもいかねぇしな」
どうやら、故人となった親父さんの後を継いで葡萄酒造りの職人となった娘が、諸々の事情で、葡萄酒には不向きな材料を仕込んでしまったようだ。
聞いていて若干の違和感があるのは、魔法具の存在などもあって、俺たちの世界とは工程が少し異なるせいだろう。
だが、基本的には原料から仕込んで醸造すると言う、その製造手法はだいたい同じのようだ。
元の世界であれば、自分でろくに味見もできないものを造ると言う点で大量の突っ込みが入るかもしれない。
しかし、この世界では職業選択の自由度が極めて狭い。
この娘は自分には不向きとわかっていながらも、父の後を継ぐしか他に道がなかったのだろう。
彼女がここまで運んできたらしい台車には、葡萄酒の樽がいくつも積まれている。
それを見ながら、娘は途方に暮れたように呟いていた。
「どうしよう。これが売れなきゃ、弟達をどうやって養っていけばいいのか……」
あまりの事に、娘は涙も出ないようだ。
気の毒だとは思うが、俺にはどうしようも無い。
そんな同情とも無力感とも言えぬものを覚えていると、用心の為に装備に同化させていた剣牙狼もどきと大鬼もどきが、俺にアピールしてきたのだ。
どうも、店主が売り物にならないと断言した、その葡萄酒を欲しがっているようだった。
そんな事情で、俺は先ほど受け取ったばかりの薬代でもって、その葡萄酒を一樽ほど買い込んでしまったのである。
まぁ、洞窟に溜め込んでいた毛皮などが、相場は今ひとつわからないながらも、Cクラスの冒険者も驚く値打ちモノだとわかって、いささか気が大きくなっていたのかもしれない。
薬代のかわりに、ローグにも手伝わせて葡萄酒の樽を背負って帰った俺に対して、オリヴァーさんは苦笑い一つで済ませてくれたが、シャルロッテちゃんには散々に叱られてしまった。
むろん、これは言い訳の余地も無く、全面的に俺が悪い。
元の世界であれば、横領罪に問われても仕方の無い、軽率な行動だったとも思う。
それで、引き取った葡萄酒をどうするのかと思ったら、ヴァルガンはオリヴァーさんが薬草から成分を抽出するのに使う蒸留器を持ち出したのだった。
そこから先の詳細は割愛する。
ヴァルガンの器用さについて、認識を新たにした事だけ述べれば充分だろう。
かくして、不良品の葡萄酒は、全て上質なブランデーになったという次第である。
そういえば、世界に名高いコニャックブランデーも似たような話だったのを思い出した。
この「コニャック」とは産地の名前で、この地方では糖分が少なく酸味の強いぶどうを原料にしている為にワインとしては劣ったものしかできなかったそうである。
じつは、ブランデーの原料とするには、こうしたワインの方が向いていたそうで、ある時それを蒸留したところ、まれに見るすばらしいお酒ができたそうな。
どちらにせよ、未成年の俺はまともな飲酒の経験が無いので、酒の善し悪しなどは全くわからないが、試飲したオリヴァーさんや、そして、居酒屋の店主には、この上無く好評だった。
グラスの香りを嗅ぎ、そして口に含んだ瞬間の、驚いたような表情が印象的だった。
この世界では蒸留酒の類いは珍しいようで、葡萄酒を再加工するようなブランデーは革命的だったらしい。
普通のブランデーは蒸留後に樽に入れて、かなりの期間熟成するわけだが、こいつは香りが良いので、樽香をつけない無色透明のホワイトブランデーに向いている事も結果としては良かったようだ。
居酒屋の店主は「これなら、それなりの価格でも売れる」と断言し、俺のところでブランデーにする事を条件に、件の葡萄酒全部を結構な値段で買い取ってくれることになった。
本格的な蒸留施設があるわけでもないので一種の限定品となるが、それも付加価値を高めると言うことで、このブランデーには『鬼ごろし』ならぬ『大鬼殺し』なる銘が付与されたとか。
職人の娘に感謝されたのは言うまでもない。
御礼に、と言うわけで、造った葡萄酒のいくらかをこちらへ持ってきてくれるようになった。
ヴァルガンも蒸留のやりかたを工夫して、色々な種類を試作しているようだ。
つましい生活のオリヴァー家だが、酒だけは豊富にあるのは、そうした事情がある。
食後に旨い酒が飲めるようになったオリヴァーさんはご機嫌だし、お相伴に預かるヴァルガンとザガードも喜んでいるようだ。
つか、この〈使い魔〉どもめ、本当は自分達が飲みたかったらしい。
身体のサイズがサイズなので、あまり量を必要としないが、時にはへべれけになるくらいには飲んだりする。
ネクタイみたいな布を鉢巻にしたヴァルガンが手拍子を打ち、後足で立ったザガードが意味不明な仕草で踊り出すと言う、よく分からない状況になるのだ。
これをシャルロッテちゃんに目撃されたのが、その後、この二匹が彼女の玩具となる運命を決めたのかどうかはわからない。ちなみに、他の〈使い魔〉は好奇心旺盛なガノンでさえ、酒類には全く興味を示さなかった。
ともあれ、今夜はマルタもその余録に預かったわけだ。
「へぇ、結構いけるじゃない。うん、口当たりが良いとは言えないけど、あたしらにはこっちの方が合うと思うわ」
「ブランデーと言うものらしい。しかし、あんな出来損ないの葡萄酒が、こんな旨い酒になるとはねぇ」
取引の成立を祝って、酒盛りを始めたオリヴァーさんとマルタの声を背後に聞きながら、俺は食器の後片付けを始めた。
ヴァルガンが再現したオリヴァーさんのベストな料理は、言うまでも無くマルタにも好評で、食欲旺盛な女冒険者はなに一つ残さず見事に完食した。
食器を洗う身としては大助かりである。
日頃もガノンがザガードと組んで、各々の体調から分量を計算しており、食べ残しは一切出ないのだが、マルタだけは計れなかったのだ。
さて、食事の支度がヴァルガンとローグの担当なら、洗い物はグロムとドレイグの出番だ。
俺の正面にある大きな桶の中に、グロムが生成した水が渦を巻いている。
その中に、ドレイグが自身で合成した植物性洗剤(こいつはこんなものまで造るようになった)を入れ、俺が食器を放り込むと言う段取りだ。
グロムが渦の動きを調整し、自動洗濯機のような原理で食器を洗うわけだ。
汚れた水はドレイグが触手で吸い上げ、ちゃっかりと養分にする。洗剤部分は自分が出したものなので、無問題であるようだ。
最後にグロムが生成した水の渦で濯ぎ、その後に水を大気に戻す。
綺麗になった食器を、俺が棚に戻しておしまいである。
ちなみに、今俺がやっている仕事も、いつもはヴァルガンの担当なのだが、今夜はオリヴァーさんとマルタの給仕に廻って貰っている。
たいていはグラスに半分以下の分量を嗜む程度のオリヴァーさんだが、一緒に飲む相手がいると酒量が進むようだ。
蝶ネクタイのようなものを締めたヴァルガンが、二人を相手に、先ほどからブランデーベースのカクテルをせっせとこしらえている。
その材料は、偵察ドローンコンビがどこかの森から次々に採取し続けている、実にフレッシュな果実類だ。
いつのまにかドレイグも混じって、合成したミントのようなハーブ成分を材料として提供している。
そうやって造られるバリエーション豊かなカクテルを、美貌の薬師と女冒険者が、上機嫌で次々に空けていた。
「いいわねぇ、この五本角。あたしにも召喚してもらおうかしら」
「残念だが、コウイチが召喚できる鬼族はこいつだけだ」
「ん~、じゃあ、コウイチを貰えば、コレがついてくるのね」
「ほほう、コウイチが欲しいか?」
どうやら、二人ともだいぶできあがっているっぽい。
シャルロッテちゃんは先に寝入ってしまったので、歯止めをかける人物がいないのは困ったものだ。
なんにせよ、この分だとマルタのお泊まりは決定だろう。
俺が洗い物で背を向けている間、二人ともいつのまにか部屋着に着替えていた。マルタにはオリヴァーさんの予備を貸しているようだ。
――念の為だが、「しまった」とか「見逃した」などと言う事は、少しも考えなかった旨を明言しておきたい。
後片付けも済み、ガノンとグロムを還すと、手持ちぶさたとなった俺は、部屋の隅に座って、際限なく酔っ払っていく二人を眺めるしかやることがなかった。
「コウイチ、ちょっと来い」
そんな俺を、酔っ払いの一人が手招きした。
無視するわけにもいかないので、しょうがなく近づくと、オリヴァーさんは腕を俺の首に回し、そのまま、ぐいと胸元に引き寄せてきた。
「おわっ?」
バランスを崩した俺が、思わずついた片方の腕の上に、素早く腰を浮かせたオリヴァーさんが安産型なお尻を乗っけてくる。
変形スリーパーホールドとでも言うか、痛くも苦しくもないが、手と首を妙に決められていて、ちょっとやそっとでは抜け出せそうにない。
技をかけるタイミングも絶妙で、自然な感じで入られてしまい、防げなかったと言うのが正直なところだ。
オリヴァーさん、なかなかのグラウンドテクニックである。
それはともかくとして、この体勢だと、俺の頬に、その、豊かな弾力が当たってしまうんですけど。
つか、尻に敷かれた腕が伝えてくる感触と言い、また下着つけてないな、この人は。そんなんで、大胆にあぐらを組まないで欲しいもんだ。
などと、内心で突っ込みを入れている俺の顔を覗き込むようにして、オリヴァーさんが美しい顔に意味ありげな笑みを浮かべた。
「聞いたか? マルタがお前を欲しいんだそうだ」
「はぁ、さいですか」
酔っ払いの相手をまともにしてもしょうが無い。俺は適当に受け流す事にした。
このあたりは、自分でも成長したな、と思う。
だ、弾力とか、あ、安産型な割れ目の感触くらい、ど、どうってことは無いんだからねっ。
ところで、覗き込み過ぎです、オリヴァーさん。そんなに顔を近づけると、麗しい唇が……。
「ふむ、ちょうどいい機会かもしれんな」
そんな事を呟いたオリヴァーさんは、ギリギリな寸前でひょいと顔を上げ、おもむろに女冒険者に向かって質問をした。
「マルタ。君は男性経験があるかね?」
滅多に動じないマルタも、これには口に含んだカクテルを吹き出しかけた。
「い、いきなりね、オリヴァー」
「回答になってないぞ。ひょっとして、未経験てことかな」
「ふ、ふん。あたしがそんな世間知らずに見える?」
動揺したようにも見えたマルタは、ヴァルガンからひったくるようにしてお代わりのグラスを取ると、中身を一気に飲み干した。
ヴァルガンの眼が驚きに丸くなった。
そのグラスに造られたカクテルは、度の強いブランデーの割合が多い種類のものだったからだ。
本来は、もっとゆっくりと楽しむ性質のものだったのだろう。
これまでに飲んだ分量もあって、マルタの眼がとろんとしてきた。
オリヴァーさんも、結構酔いが廻っているようで、そんなマルタの様子には気がつかないようだった。
「経験済みか。それはありがたい」
「へぇ?」
「いや、このコウイチに女性経験を……はっきり言うと、女の抱き方を伝授してほしいんだ」
オリヴァーさん、やぶからぼうに、なんてことを!
「自ら手ほどきをするにやぶさかでは無いのだが、恥ずかしながら、私には経験が無いものでね」
「あら、オリヴァーも……じゃなかった……へぇえ、オリヴァーって未経験だったのね」
「何事も最初が肝心と言うからな。こうした事は経験者に頼むのが一番だろう」
おかしな方向へ進んでいく会話を軌道修正するべく、俺は介入を試みた。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。どうしてそんな話になるんですか」
「君には女性に対して、ある種の苦手意識を持っているとは話した筈だな」
「ええと、そんな事は無いと……」
「私が見るに、どうも幼児体験か何かに遠因があると思われる」
オリヴァーさんは、俺の言うことを少しも聞いていないようだった。
「いや、苦手と言うより、少し怖がっていると言った方が正しいかもしれんな」
これは、ちょっと反論できないかも。
特にクロルの実が絡んだ時の誰かさんとか、誰かさんとか、誰かさんとか。
「だが、君は〈勇者〉だぞ。そんな事では困るじゃないか」
そういうことで叱咤されても、こっちの方が困る。
だいたい、張本人の一人に言われてもなぁ。
「んー、でもねぇ。最近の男ってそんなもんじゃないのぉ。エッカルトもクララに頭が上がらないようだし」
マルタがそう口を挟むと、オリヴァーさんは大げさに嘆いた。
「あいつは、仮にも名の知られた〈暁の翼〉のリーダーだぞ。クララと結婚して二年も経つのに、未だに亭主としての自覚が無いのか」
なるほど、エッカルトさんは妻帯者だったのか。奥さんはクララって名前なんだ。
「エッカルトも情けないが、クララもクララだ。そもそも、だな。男児たるものがだ。女に首根っこを押さえられたり、尻に敷かれるなど、あっていい話では無いぞ」
オリヴァーさんて、意外にも保守的なんだ。
しかし、現在進行形で、自分のやってる事の自覚はないんだろうか。ないんだろうな、酔ってるし。
「そういうわけだ、コウイチ。弱点は今のうちに克服すべきだ。こんなものは女性とまぐわえば、一発で解決する筈だ」
だから、どうしてそう言う話になるんですか。
「え~とぉ、コウイチに女の抱き方を教えればいいのね」
すっかりと眼が据わった、もう一人の酔っ払いが言うのに、オリヴァーさんが大いにうなずいた。
「そうだ。頼むぞ」
「わかったわぁ」
そう言うが早いか、立ち上がったマルタは威勢良く部屋着を脱いだ。
こっちは一応下着をつけていたのだが、そういう問題では無い。
てか、この光沢はヴァルガンが織った下着だな。俺がノータッチだったのを良いことに、なんつー際どいものを造りやがるんだ、この大鬼もどきは。
いや、それどころじゃなかった。
慌てて顔を背けようとしたが、がっちりとスリーパーホールドを決めているオリヴァーさんが、それを許さない。
じつは本気で抜けだそうとすれば何とかなりそうだったが、下手にもがくと、安産型の下敷きになっている手が危ないところに触れてしまいそうなのだ。
間の悪い事に、偵察ドローンコンビが結構重量のある果物を運んで王都の空を飛んでいる最中で、眼を閉じるわけにも行かなかった。
いま、感覚の共有を消失してしまえば、その影響で果物を落としてしまうかもしれない。万が一にも下に歩行者がいたら大変なことになる。
焦る俺に向かって、あられも無い格好で四つん這いになったマルタが、妖しい……てか、怪しい笑みを浮かべ、近寄ってきた。
「ふふふ。ご依頼通り、女の抱き方を教えてあげるわ」
「ま、待て、この酔っぱら……むぐ」
オリヴァーさんが空いている手で俺の口を塞ぎ、抗議の声を封じた。
「往生際が悪いぞ、コウイチ」
本音を言ってしまえば興味はあるし、経験したいと思わないでもない。
だが、それをやってしまえば、義妹達に示しがつかないではないか。
自分のことを棚に上げて「不純異性交遊はけしからん」などと、もっともらしい事を言えるほど、俺は図々しい神経を持ち合わせてはいない。
――でも、やっぱり経験してみたいかも。
俺の心情が矛盾しているせいか、ヴァルガン達もどうしていいか分からず、おろおろしている。
「さ、マルタ。まずは存分に弄ってやってくれたまえ。私もこの手のものは初めてなのでな。大いに勉強させてもらうつもりだ」
オリヴァーさんがそんな事を言って、マルタをけしかけている。
「んじゃあ、遠慮無く」
マルタが躊躇いも無く、手を伸ばしてきた。
(ああっ、俺の貞操がっ!)
俺は心の中で悲鳴を上げた。
さすがに、このムードもへったくれも無い、オープンな状況下で純潔を散らすのは本意ではなかった。
だが、無情にも女冒険者の手は留まることなく、ついに、むんずと掴んできたのである。
――オリヴァーさんの豊かな胸を。
「え?」
一瞬、オリヴァーさんが固まった。
おかげで変形スリーパーホールドも緩み、その隙に俺は脱出できたわけだが、安心するのは早かった。
次の瞬間、マルタがオリヴァーさんを押し倒したのだ。
「こ、こら、何をするか」
「コウイチ、よく見てなさい。女ってこうやって抱くのよぉ」
オリヴァーさんの抗議をスルーした酔っ払いは、確かに依頼された通り、「女の抱き方」を伝授すべく、実践し始めたのだった。
「や、やめ……ひっ、そこはよせ、やめろと言うのに……ぃいっ」
「へぇ、オリヴァーって敏感なのね。じゃあ、ここはどうかしら」
「はうっ。駄目、そこはもっと駄目」
目の前で繰り広げられているのが強制的な不純異性交遊であれば、俺は即座にやめさせただろう。
だが、強制かといえば、これはオリヴァーさんの方から言い出した事なので、たぶん該当しないんじゃなかろうか。
「そうすると、ここも弱い筈ね」
「うくぅっっっ。駄目、駄目だって……あうっ」
ええと、異性じゃなくて同性同士だし、これを不純と言えば、LGBTに対する差別になるのかな。
「んじゃあ、このへんは」
「ひぃいいいっ」
何にせよ、オリヴァーさんが敏感過ぎるようなので騒がしいが、正直な話、マルタがやっているのは、じゃれ合いに近いくすぐりっこだった。
いわゆる濃厚な百合百合という場面とはほど遠いもので、交遊と言えばその範疇だろうか。
とはいえ、片方は下着姿だし、もう片方は部屋着がはだけ、まくれ上がっている。
肝心なところは見えていないが、そろそろセーフな領域からは危うい感じだ。
目も当てられない光景であるのは確かだし、これだけうるさいと寝入ったシャルロッテちゃんも起きてしまう。
それに、外まで聞こえては、この界隈の男どもに何を言われるかわかったものではない。
「ドレイグ」
俺の命令に従って、雑草な〈使い魔〉が二人の酔っぱらいに枝を伸ばして、軽い睡眠薬を注射した。
ついでに二日酔いに効く成分も注入させる。
ちょうどその時にドローンコンビが帰って来たので、ヴァルガンを手伝わせて、意識を失った二人を寝室へ運ばせることにした。
そんな〈使い魔〉達からの視覚情報を遮断しつつ、俺は仕舞ったばかりの、洗い物につかった桶を引っ張り出すと、その場に座り体勢を整えた。
そして、オリヴァーさんとマルタを寝かせて、もどってきた〈使い魔〉達に、俺はこの日、最後の命令を下した。
「みんな、後の片付けは頼んだぞ」
それが、俺の限界だった。
桶に向かって、鼻血を勢いよく噴出させつつ、俺は意識を失っていった。
やっぱりというか、当然というか。
色々と刺激が強すぎたわけだ、今夜のあれこれは。
閑話的な内容でしたが、ちょっと詰め込み過ぎた感じですかね。
やはり、ハーレムは遠いかもしれません。
次回更新は3/6の8時。




