第四話 お出かけ
今日はわざわざ早起きした。
なんせ、今日は夢路先輩とお出かけなのだ。
この年頃の男子が女子と2人だけでお出かけなど、期待するなと言うほうがおかしい。
なので服装はしっかりして行きたいところだが、残念なことに無地Tしか持っていないので、困ることはない。
もうそろそろ時刻は、9時を回る。
集合時間は10時なので、かなり余裕がある。
どうやらできる男は予定よりも早く、着いて待っているらしい。
昨日少しみたサイトにはそう書いてあった。
信憑性は低いが、今は信じるしかない。
面倒くさい姉に捕まる前にさっさと家を出よう。
「行ってきます。」
「蓮ちゃん。お出かけするの?」
さっきまで2階にいたのに姉が話しかけてきた。
姉はワープでもできるのか?
「うん。ちょっと遅くなるかも。」
「悪い女には気をつけてね。お姉ちゃんが守ってあげるからね。」
なんかすごい見てくる。
怖いんだけど。
まあいつも通りよくわからない姉を置いて家を出た。
待ち合わせ場所は、駅から徒歩5分ほどの大型商業施設の東口である。
9時半頃に着いたため、何をして待とうか考えていると、待ち合わせ場所に制服姿の夢路先輩がいた。
なんか壁に張り付いてるし、しかもなんで制服?
まだ待ち合わせ時間になってはいなかったが、夢路先輩を待たせるのも悪いので、勇気を持って話しかけることにした。
「夢路先輩すみません。どのくらい待ってました?」
「3時間、ぐらい、かな」
3時間?つまりこの人は6時半にはこの場所に居たということになる。
この先輩大丈夫だろうか?
「先輩なんでそんな早く来てたんですか?」
「電車、乗る、お金、無くて、歩いて、来ようと、した、けど、どのぐらい、時間が、掛かるか、分からなくて、早くでたら、早くついた。」
この人6時半頃に着いたとするなら、少なくとも4時には家を出ていることになるぞ。先輩本当に大丈夫か?
「夢路先輩一つ聞きたいことがあるんですけど。」
「なに?」
「今日は何をするんですか?」
かなり踏み込んだ質問だが気になって夜しか眠れなかった。
「今日は、ホラー映画を、見る。」
なるほど。確かにここの最上階には映画館がある。
そして一番気になっていたことを質問する。
「それでなんで僕なんですか?綿貫とか赤崎とか他の人でも良かったんじゃないんですか?」
「嫌、だった?」
「嫌ではないです。なんなら嬉しいです。けどなんで俺なのか気になっただけで。」
「今日、この、映画館で、カップル割引が、やってる。本当は、坂下くんと、見に行こうと、思ってた、けど、部活で、忙しそう、だった、から、暇そうな、一之瀬くんに、した。」
今この瞬間デートではないということが、確定した。期待はしていなかったが少し悲しい。
まぁ夢路先輩と出かけられるなら、なんでもいいが。
「夢路先輩。映画館いきますか?」
「早く、行って、損は、ない、からね。」
最上階に着くとポップコーンの香りが漂っている。
いつ来てもいい匂いだ。
「夢路先輩はポップコーンとか買いますか?」
「今日、映画を、見る、お金、しか、持ってきて、ない、から、無理。」
この人はあまりお金を使いたくないのだろうか?それともただの金欠なのか。
塩味のポップコーンとコーラを買って、夢路先輩と合流する。
「夢路先輩。チケット買いますか?」
「もう、買って、ある。隣同士、だけど、良かった?」「はい。隣同士で大丈夫です。」
「はい、チケット。」
えっとなになに、今回見る映画の名前が、ミツケタらしい。
うん。正直ホラー映画は苦手なのだが、大丈夫だろうか?
「一之瀬くん。震えてる、けど、大丈夫?もしかして、怖いの苦手?」
「まあ苦手ですけど、大丈夫です。夢路先輩。行きましょう。」
逃げるようにシアタールームに向かう。
シアタールームの中は、すでに暗くなっていた。
足元に気をつけながら、自分の座席に向かう。
「一之瀬くん。遅かった、ね。」
「え?」
俺はさっき夢路先輩より先に入ったはずなのに、夢路先輩がいる。
「えっと。夢路先輩いつから居ました?」
「さっき、一之瀬くんが、先に、行くから、急いで、追いかけたら、着いてた。」
そうか。着いたならしかたがないか。
怖いので、細かいことは気にしないでおこう。
ポップコーンとコーラを置く。
コーラを一口飲むと、夢路先輩が見たことないぐらいキラキラした目でこちらを見ていた。
「それ、コーラ?」
「そうですけど。どうしたんですか?」
「コーラ、好き、だから、飲みたい。」
「良いですよ。」
「一之瀬くん。この、借りは、いつか、必ず。」
言い終わると夢路先輩はストローを咥え、ちゅうちゅうと飲み始めた。
いつもは生気のない顔をしている先輩が、今は生き生きとした顔でコーラを飲んでいる。
学校では見れない珍しい夢路先輩の姿を目に焼き付けていると、こちらの視線に気づいたのか、先輩がこっちを見てくる。
「顔に、何か、ついてる?」
「いや。先輩がそんな顔してるの、珍しくて。」
珍しい先輩の姿が見れて少し口が綻んだ。
「このコーラ、一之瀬くんの、だったね。はい。残り、あげる。」
そもそもこのコーラは俺が買ったやつなので返すでは?
というか、よく考えたらこれって間接キスってやつなのでは。
「コーラ、いらない?」
「ください。」
ストローの先端には薄く赤い口紅の跡が、ついている。
心を無にして何も考えずストローを咥え、コーラを啜った。
それから、映画が始まったものの、コーラを飲むたびに変に意識してしまい、映画に集中できなかった。
だが映画が怖かったということは、理解できた。
そして映画が終わり、横に目をやると夢路先輩が、少し眠たそうにしていた。
「先輩。眠そうですね。」
「あんまり、怖く、なくて、退屈だった。」
先輩はホラー映画に慣れているのか?
普通に怖かったぞ。
怖いので劇場を足早に去る。
「先輩。次どこか行きますか?」
「お腹、すいた。」
「それなら、なにか食べに行きますか?」
「でも、私、もう、お金、ないよ。」
「別に奢りますよ。」
「いいの?」
「はい。もちろんです。いつも先輩にはお世話になってるんで。」
「じゃあ、お言葉に、甘えるね。」
「なに食べたいですか。」
「ここ、行きたい。」
夢路先輩の目線の先には、イタリアンチェーン店があった。
ここは美味しくて安いので、学生には非常に心強いのだ。
夢路先輩と店の中に入る。
昼時だからだろうが、かなり混んでいる。
とりあえずウェイティングリストに名前を書く。
「先輩。少し待たないといけないみたいです。」
「うん。」
あまり話すことがなく、気まずい時間を過ごしていると、店員さんに名前を呼ばれた。
「先輩。行きましょう。」
「うん。」
席に着くと、夢路先輩は真っ先にコーラを頼んだ。
先輩本当にコーラ好きなんだな。
「好きなもの頼んでいいですよ。」
「うん。ありがとう。」
すると先輩はウキウキでコーラを頼みまくる。
「あの先輩。食べ物頼まなくてもいいんですか?」
「コーラ、で、お腹、いっぱいに、してみたかった。」
うん。もう好きにさせておこう。
俺は看板メニューのドリアを頼む。
しばらくして、店員さんがドリアと大量のコーラを運んでくる。
先輩はどれだけ頼んだんだ。
「いただきます。」
ドリアを食べようとしたが思った以上に熱かったので少し躊躇した。
すると先輩がスプーンで、ドリアを狙っている。
「先輩。欲しいんですか?」
「いや。違うよ。」
そう言いながらもドリアをとっていく。
先輩がドリアをふーふーしている。
「はい。あーん。」
「あーん。」
うん。やはりここのドリアは美味しい。
うん?ちょっと待てよ。
今先輩が食べさせてくれたよな。
あまりにも自然すぎて普通に食べてしまった。
「あの先輩。なんで食べさせてくれたんですか?」
「奢って、くれる、恩返し。」
なるほど。これは正当な対価なのか。
どこからか突き刺すような視線を、感じるがきっと気のせいだろう。
結局ドリアは全部先輩に食べさせてもらった。
人生で初めて人に、奢って良かったと感じた瞬間だった。
「先輩。今日はありがとうございました。」
「奢って、もらって、申し訳、ないね。」
「大丈夫ですよ。」
「あ、そういえば。明日、生徒会、あるから、来てね。」
なんでそんな急に。まあ知ってしまった以上、行くしかないのか。
「わかりました。それじゃあ先輩。また明日会いましょう。」
「うん。また、明日、だね。」
家に帰ると姉が玄関に座っている。
何してるんだ?
「ただいま。」
「蓮ちゃん。やっと帰ってきたんだね。」
「うん。何してたの?」
「蓮ちゃんが、帰ってこないから心配で心配で、ずっち玄関で待ってたの。」
姉がヤバいということを再確認した俺は、姉をスルーして寝室に向かう。
今日は疲れたので早めに眠りについた。
朝が来てしまった。
なぜか自分のベッドに入っている、姉をスルーしつつ、学校に行く準備を始める。
姉が起きる前にさっさと家を出てしまいたい。
「行ってきます。」
「蓮ちゃん。待って、顔見せて。」
よし。走っていこう。
走ったせいで、早く着いてしまった。
生徒会室に入ると、そこには赤崎がいた。
「一之瀬くんじゃん。今日は早いんだね。」
「まあな。少し急いできたから。」
「ねえ。一之瀬くん。一つ聞きたいことがあるんだけど。」
「なに?」
「昨日レストランで、夢路先輩に食べさせてもらってたのは何だったの?」
まずい。まさか見られているとは、思ってもいなかった。
もしかして、あの突き刺すような視線は赤崎だったのか。
なんとか言い訳しなければ。
「あのね。赤崎さん。別に僕と夢路先輩はそんな仲じゃなくてですね。」
「じゃあ。何してたの。」
「それは。えーと。」
「一之瀬くん。口開けて。」
なんだ。毒でも飲まされるのか。
だが断れる雰囲気ではない。
大人しく口を開ける。
すると赤崎が飴を口に入れてきた。
「どう?私が食べさせた飴は。」
どうもこうも普通の飴だが。
すると、扉を開けて神楽坂会長が入ってくる。
そして赤崎と俺を見て、ニヤニヤし始める。
「すまない。邪魔してしまったみたいだね。」
俺と赤崎は口を揃えて言う。
「「そういうのじゃないから!!」」




