第三話 文化祭準備
朝、目が覚めると、スマホに赤崎から連絡が来ていた。
どうやら、この間の雨で大会の日程がズレたため、文化祭準備が前倒しになったようだ。
7時には学校にいなければいけないらしい。
そして現在時刻は12時半である。
やってしまった。
だが遅刻したのなら何時に行っても大丈夫だろう。
憂鬱だが準備を始める。
リビング行くと、床で寝ている奴がいる。
この人は、俺の姉の一之瀬かずさである。
姉はいつもこんな感じで、自分が見るときは、基本的に寝ているか、寝ぼけているかのどちらかである。
一応大学生らしいが、大学生ってこんなに暇なのか?そんなことを考えていると、のそのそ動き始めた。
「あれー蓮ちゃんなんで制服着てるの?夏休みだよね」「文化祭準備の手伝いに行ってくるんだよ。」
「文化祭準備か。ねぇ文化祭ってお姉ちゃんも行っていいの?」
「あぁ、別にいいと思うけど。」
「やった。お姉ちゃんが行ってあげるからね。」
「別に来てとは言ってないんだけど。」
「うんうん。分かったよ。仕方ないから行ってあげる。」
いったい何が分かったんだ。
理解力の低い姉を横目に玄関に向かう。
「行ってきます。」
そう言って家を飛び出す。
一応遅刻しているので、形だけでも急いでいるふりをしたほうがいいのだ。
学校に着いたころには1時半だった。
急いで俺は生徒会室に向かう。
「すみません。寝坊しました。」
生徒会室には神楽坂会長しかいなかった。
「一之瀬くんじゃないか。てっきり、買い出し係を忘れたのかと思ったよ。」
「ちょっと昨日疲れてて、すみません。」
「私に謝るんじゃなくて、赤崎くんに謝って来たほうがいいよ。ぷんぷん怒ってたよ。」
ぷんぷん?なぜ、そんなかわいい表現なんだ?
「わかりました。失礼します。」
とりあえず急ごう。
と言っても、買い出し係はいろんな教室を回るのから、どこの教室にいるのか分からないので、とりあえず歩き回ることにした。
一つだけ電気のついていないクラスを見つけたので、覗いてみると綿貫が寝ている。
こいつは何をしてるんだ。
綿貫さんは文化祭準備当日には、仕事がないはずなんだが。
気を取り直して、赤崎を探しに行く。
なんか教室の扉に張り付いてる変な人がいると思ったら、夢路先輩じゃないか。
大丈夫か?生徒会役員。
「やっと来たんだね。」
立ち止まっていると、赤崎に声をかけられた。
「ごめん。最近疲れが溜まってて、寝てて遅れた。」「寝てたの?」
ボソっと呟く。
「私が頑張って早起きして準備して働いてたのに、一之瀬は呑気に寝てたんだ。」
赤崎の目が死んでる。
実際は昨日赤崎に連れ回されて、疲れて熟睡してた。なんて、口が裂けても言えない。
「すみませんでした。」
こういう時は、早めに謝っておいたほうがいいのだ。
謝ったほうが怒られないで済む可能性が高い。
「まぁ、昨日疲れたよね。仕方ないよね。まぁ、私はちゃんと時間通りに来たんだけどね。」
すごい圧を感じるぞ。
「何でもするんで、許してください。」
「何でも?今何でもするって言った?」
「はい。何でもします。だから、命だけは勘弁してください。」
「私のこと何だと思ってるの?」
そう言ってジト目を向けてくる。
「じゃあ、今度パフェ奢ってもらおうかな。」
5000円ぐらいなら支払う覚悟だったが、赤崎は優しい。
「分かったよ。」
「本当に!何味食べようかな、これも捨てがたいけど、あれも食べたいしな。」
何味のパフェを食べるか真剣に考え始めたので、先に買い出しに行くことにした。
えーと買い出しリストには、風船、折り紙、のり、ガムテープ、など様々な物が書いてある。
その辺の100円ショップに売っていそうな物ばかりなので意外とすぐ終わりそうだ。
下の方に目をやると、ふと目が留まった。
そこには、板材、電動のこぎり、インパクトドライバーなど、電動工具が書いてある。
「これ何に使うんだよ。」
思わず声に出すと、いつの間にか隣にいた赤崎が答える。
「これはね、迷路の出し物をするクラスがあるらしくて、そのクラスが使うらしいよ。」
「学校から許可は出たの?」
「学校には全部手作業でやるって言って誤魔化したんだって。」
それは大丈夫なのか。
いや待てよ。
ということは、この電動工具のお金は誰が出すんだ?怖くなってきたので、気づかなかったことにしておこう。
買い出しは意外とすぐに終わったから、早く帰れるのでウキウキしていると、夢路先輩に声をかけられた。「赤崎ちゃんは、帰って、いいらしい、けど、一之瀬くん、は、遅れてきた、から、私達の、仕事、手伝えって、先生が、言ってた。」
嘘だろ。
文化祭準備の最終確認はかなり時間が掛かるという話だ。
赤崎が今日一番の笑顔でこっちを見ている。
そんな顔でこっちを見るな。
笑顔が眩しすぎる。
「分かりました。どこの教室に行けばいいんですか?」「最終確認の、係、人、少ないから、一人、一学年、見る。」
一人一学年。
一人で10クラス全部を回るのか。
骨が折れそうだ。
「それじゃあ、私はお先に失礼します。」
そう言って、何かから逃げるように帰っていった。
さて、自分もさっさと終わらせて帰ろう。
確認の途中、まだ綿貫が寝ていた。
流石にもう5時が近いので、起こすことにした。
「綿貫起きろ。もう5時だぞ。」
「あと少しだけ。もう少しだけ。」
「流石に起きろって。」
「は。寝てた。私、何も言ってませんでしたよね。」「あぁ。何も言ってなかったよ。多分。」
「それならよかったです。じゃあ、私帰るので。」
あいつ普段喋らないが、意外と喋るとかわいい奴だ。
全クラスの確認が終わった頃には、もう6時で少し暗くなっていた。
夢路先輩が床に倒れている。
大丈夫か、この人。
「夢路先輩、何してるんですか?」
「床、冷たくて、気持ちいい。一之瀬くん、は、もう、帰るの?」
「はい。そろそろ帰ろうかと思ってます。」
「暗い、から、一緒に、帰らない?」
これは誘われているのか?
これなんか変な詐欺とかでは、ないよな?
落ち着けよ俺。
「えっと、お気持ちはうれしいのですが、先輩とは反対方向だと思うんですけど。」
よく言った俺。
すごいぞ。
「丁度、今日、そっちに、用事が、あって、寄らなきゃ、いけない、から、ついでに、付いていく。」
よかった。
別に俺に気があったわけではないようだ。
少し期待していたのが、恥ずかしい。
「分かりました。じゃあ帰りましょうか。」
「手、貸して。」
「あ、はい。」
「それじゃあ、行こっか。」
その後は特に特別な出来事はなく、そのまま帰宅した。
家に帰ると姉がソファーで寝ている。
起こさないように、通り過ぎようとしたが、声をかけられてしまった。
「おかえりー。お姉ちゃんね、今日ずっと一人で寂しかったんだよ。」
変なことを言っているが気にしないでおこう。
「蓮ちゃんから、女の匂いがする。」
「今日は色々あって、先輩と一緒に帰ってきたんだよ。」
「お姉ちゃん以外の女と蓮ちゃんが一緒に。そんなー」
姉が急に泣き出した。
よくあることなので放っておこう。
色々あったが文化祭準備も無事終わったので、ゆっくりできる。
そう思っていると、スマホに夢路先輩から、連絡が来た。
「明日、予定、空いてたら、一緒に、お出かけ、しよう。」
急なお誘いだ。
今日はもう疲れて早く寝たいので、返信だけして寝よう。
お出かけか。
どこに行くかとか、何を着ていくかとかは、全部明日の自分に任せて今日は寝ることにした。




