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メルクニア戦記  作者: 風花
第六章
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怪物と花の誓い

 王都アイギスの夜が明け、薄絹のような朝靄が石造りの街並みを包み込んでいた。

 いつもなら、レオナールにとって目覚めは「地獄の再開」を告げる忌々しい合図に過ぎなかった。しかし、冷たい部屋に差し込む一筋の陽光は、今日だけは奇跡のように柔らかく、彼の肌を撫でていた。


 執務室の重厚な扉が開かれ、再び「氷の王子」の仮面を被ったレオナールが姿を現した。

 だが、その一歩には以前のような死の香りは微塵もなかった。愛を知り、守るべき「聖域」を定めた怪物は、かつてないほどに研ぎ澄まされ、冷徹な殺気をその身の内に静かに滾らせていた。

 彼は事務机に座ると、淀みのない手つきでマリスに向けた密信をしたためた。その末尾には、これまでの事務的な指示とは明らかに異なる、力強い一文が書き添えられた。

『――甥たちのために、最高の剣をまた送る。そちらの騒がしさを、いつか私にも分けてくれ。……近いうちに、私の大切な人を連れて行けるよう、こちらの掃き掃除を完璧に終わらせる。それまで、北極星を絶やすな』


 一方、王宮の深淵――玉座の間。

 国王ユヌベクスは、密偵からの報告書に目を落とし、梟のような鋭い瞳を細めた。

「ほう。レオナールが、今朝から別人のように執務に没頭しているだと?」

「はっ。抜け殻のようだった瞳に、今は底知れぬ野心が宿っております。……ポロック侯爵の汚職さえも、以前のように弾劾するのではなく、むしろそれを弱みとして握り、侯爵を完全に支配下に置こうと動いているご様子」

 ユヌベクスは、短く、不気味な笑みを漏らした。

 彼にとって、レオナールの変化は「情愛」などという軟弱なものではなく、より強固な「支配欲」への目覚めにしか見えていなかった。

「……毒を煽りすぎたかと思ったが、ようやく奴も、自らの手でこの国を弄ぶ愉しみを知り始めたか。面白い。絶望を突き抜けて、ようやく私の理想とする『冷徹なる支配者』への階段を上り始めたな、レオナール」

 王の歪んだ期待は、レオナールにとって最強の隠れ蓑となるだろう。

 

 孤独な闘いの時間は終わった。

 愛という最強の「武器」を、そして共に歩む「半身」を手にした怪物は、今、このアーシアという腐りきった国を内部から食い破るため、静かに、そして確実に牙を研ぎ始めた。

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