表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/38

朝食後――静かなる時間

広間での食事を終えると、エルヴィンは静かに立ち上がり、

リリアへ一礼を残して執務へと向かった。

仮面越しの視線が、ほんの僅かに長くリリアに留まった気がして、

彼女の胸の奥がふっと熱を帯びる。


「では、また後ほど」


それだけを言い残して、彼の黒衣が静かに遠ざかっていく。

リリアは、彼の背が見えなくなった後も、しばらく席を立てずにいた。


やがて、控えていたクラリーチェが丁寧に微笑む。


「リリア様、ご移動のお疲れもございますでしょう。

よろしければ、本日は館内をご案内いたしましょうか?」


「……え、本当ですか?

ありがとうございます。ぜひ……お願いしたいです」


リリアは微笑みを返し、クラリーチェのあとに続いてゆく。


豪奢ながらも、どこか静謐な空気を湛えた公爵邸――

長い回廊には肖像画が並び、差し込む朝の光がその額縁を鈍く照らす。


庭園が見える窓辺では、白いバラがひっそりと揺れていた。

リリアはふと、窓に近づき、その花に目を留める。


「……とても、静かで、本当に美しい館ですね。

まるで時が止まっているみたい」


「ええ。公爵様は静寂を好まれます。

けれど――リリア様が来られ、

少しだけ雰囲気が変わった気がいたします。

柔らかな、風が差し込んだような」


クラリーチェの言葉に、リリアは思わず笑みをこぼす。


「そんな風に、思ってくださったら良いな……」


彼の中に宿る何かを、自分が少しでも和らげられたのなら――

そんな思いが、胸の奥にそっと灯る。


この日、リリアは館の図書室を訪ね、詩集や物語を手に取り、

バルコニーでは、木々のざわめきや、小鳥のさえずりに耳を傾ける。


けれどどれも、どこか夢の中のように静かで――


ふと、彼のことを思い出すたび、胸の奥がほんのり温かくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ