午後――新たな出会いと素敵な時間
午後。
日が高くなったころ、クラリーチェに導かれ、リリアは改めて館の使用人たちの前へと立った。
応接室の奥。整列した数十名の使用人たちが、一斉に深く頭を下げる。
その礼の整い方に、リリアは思わず背筋を伸ばす。
「皆、こちらはリリア・フェルト伯爵令嬢様。
この邸のご当主――公爵様の奥様になられる方です」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
リリアはお辞儀を返しながら、ひとりひとりの顔を、記憶に刻むように見つめた。
その中に、少しだけ緊張した面持ちで立っていた、柔らかな印象の少女がいた。
「リリア様――」
クラリーチェが一歩前に出て言う。
「本日より、リリア様専属でお仕えいたします、エリスでございます」
「……エリスです。まだ未熟ではございますが、精一杯お仕えいたします」
エリスは深く礼をする。
温もりのある声だった。
栗色の髪を低くまとめ、淡いグリーンの瞳が、真っ直ぐにリリアを見つめている。
「……ありがとう。これからよろしくね、エリス」
リリアが微笑むと、エリスの頬がふわっと赤らんだ。
「あ、ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします、リリア様」
年は同じくらいだろうか。親しみが心に差し込む。
きっと、よい友になれそうな気がした。
使用人の紹介が終わると、クラリーチェが再び声をかける。
「実は本日、厨房の者たちがリリア様のために、小さなお茶菓子を用意してございます。
よろしければ、ご試食をいかがでしょうか?」
「まあ、嬉しい……ぜひ、いただきたいです!」
*
日差しの柔らかな中庭に面したサロンにて、リリアの前には、小さな銀の三段トレイが置かれた。
トレイには――
淡いピンクの花の形を模したマドレーヌ。
すみれの砂糖漬けを添えた薄焼きのサブレ。
そして、ふんわりと薫る紅茶のシフォンケーキに、小さなリンゴのタルト。
「かわいい……!
どれも綺麗で、食べるのが惜しいくらい」
リリアは一口、タルトを口に運ぶ。
ふわりと広がる香りと、舌の上でとけるような甘さ。
「……おいしいっ!」
エリスが嬉しそうに笑う。
「厨房の者たち、すごく気合を入れておりました。
リリア様がいらっしゃるなら、まずはお菓子で歓迎しなければ、と……」
リリアはくすっと笑った。
「……本当に、優しい方ばかりですね。
緊張していたけれど……少しずつ、ほぐれてきた気がします」
「まあ、リリア様。
リリア様のお言葉、皆に伝えますね。きっと、喜びます」
エリスはリリアの隣に控えながら、そっと紅茶を注いでくれる。
この日、リリアははじめて――
心の底から、笑ったのだった。




