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リリア去った後―執務室にて

リリアが一礼し、静かに扉を閉じて去った後――。

執務室には、再び静寂が戻った。


その場に残ったのは、エルヴィン公爵と執事のクラウスのみ。


長い沈黙のあと、エルヴィンは椅子の背にもたれ、仮面の奥から扉の方をじっと見つめる。


「……怯まずに、私の目を見たな」


低く静かな声。だがその声音には、かすかな驚きと、笑みの気配があった。


「はい。あのように真っ直ぐな眼差しは、久しく見ておりません。

澄んだ目をしておられました」


「仮面に恐れることもなかった。……面白い娘だ」


エルヴィンはわずかに口元を歪めた。それはこぼれるような微かな感嘆。


その言葉に、クラウスは微かに頷いた。


「ええ。若くとも礼節をわきまえ、言葉には偽りがない……誠実な娘とお見受けします」


「そうだな。

控えめでありながら、芯は強い。

礼儀も正しく、取り繕いの気配もない。

誠実さとは、得がたいものだ。

作ることはできても、纏うことはできぬ。……あれは、生まれつきの気質だろうな」


「妾腹とおっしゃっておりましたが……生まれよりも、生き様が人を形づくるものかと。

リリア様は、よく育てられたのでしょうな」


クラウスの声音には、わずかな敬意と慈しみがにじんでいた。

そして彼はひと呼吸おくと、思いを巡らせるように小さく言葉を続けた。


「本来、ここへお越しになるのは……姉君セシリア様であったと伺っておりましたが――」


その言葉に、エルヴィンはわずかに眉を動かした。

そして、低く、かすかな吐息のように言葉を漏らす。


「……ああ、そうだ。

だが、悪くはない。

……あの娘は……静かな泉のようだ。底が深く、穢れを知らぬ」


「……はい」


リリアという少女は、ただ王命によりここへ来たのではない。

自らを偽らず、怯まず、ここに立っていた。

それだけで、エルヴィンには十分だった。


しばし沈黙が流れた。


「……さて、あの娘がどんな風を吹かせるか──楽しみにしておこう」


クラウスは恭しく一礼した。


「承知しました、公爵様。

……より一層、丁重にお迎えいたしましょう」


静かな誓いのように言い、クラウスは深く頭を下げる。

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