セシリアからの手紙
目を走らせるたびに、胸の奥で鼓動が強く打ちつける。
――妾腹ではなく、森の民の末裔だった。
――父とは血の繋がらない子だった。
その事実が、長く信じてきた自身の存在を静かに揺さぶる。
あの日々、愛情を惜しみなく注いでくれた父と母、
笑いながら手を引いてくれた姉――
すべてが温かくて、確かに「家族」だったはずなのに、
その根が違っていたのだと知ってしまった。
「……どうして……」
小さくこぼした声が、馬車の静けさに溶ける。
視界が滲み、震える指先で便箋を抱き締めた。
そんな中、封の奥にもう一枚の便箋があることに気づく。
慎重に取り出し、名前を見た瞬間、リリアの胸にまた別の熱が広がった。
――セシリア、姉さま……
幼い日からずっと支えてくれた姉の名前が、淡い涙で滲んでいく。
リリアは息を詰め、そっとその手紙を開いた。
*
『リリアへ
お父様からすべてを聞きました。
何も知らなかったことに、正直、すごく驚いています。
そしてあなたの本当のお母様がどんな想いで、あの日、あなたを託されたのか――。
でも、すぐに思ったわ。
「そんなこと、私たち姉妹の絆には何の影響もない」って。
私の気持ちは何ひとつ変わらないわ。
私にとって、リリアは大切な妹。
血の繋がりなんて、そんなものは関係ない。
あなたがいてくれたから、私はどれだけ救われてきたか……。
思い返せば、幼いころからいつもあなたは私のそばにいて、笑ってくれたり、泣いている私を抱きしめてくれたり、誰よりも優しい妹だった。
そう。
私はずっと、あなたを妹だと信じて、愛してきたのよ。
それは血の繋がりなんかよりも、
ずっと強く、ずっと温かいものだと分かっているから。
覚えている?
幼い頃、あなたはよく夜中に私のベッドへ来て、
「お姉さま、こわい夢を見たの……」って、
小さな声で泣きながら袖を引っ張ってきたこと。
私はいつもあなたの髪を撫でて、
「大丈夫よ、私がそばにいるわ」って抱きしめて……。
そうすると、あなたは安心したように眠っていたわね。
あの頃から、私はずっと思っていたの。
――どんなことがあっても、私はこの子を守ろう。
自分よりも小さな背中を、私の腕で包んであげたいって。
今回の婚約の話――。
私が逃げ出すように断ったのに、
あなたはためらわず、私の代わりに行くと決めた。
あなたは……私を守ってくれたのね。
あの時のあなたの瞳を、私は一生忘れない。
優しくて、まっすぐで、自分を犠牲にしてでも人を救う……
本当に、あなたのお母様に似ているのね。
だから、お願い。今はただ、北の地で、どうか幸せになってほしいの。
お父様も、そして私と、お母さま、そして――森で命を懸けてあなたを守った本当のお母様も、きっと。
みんなが、心からそう願っているの。
あなたが笑っていること、そのことだけが、私たち家族の一番の幸せだから。
これからも、私はいつまでもお姉さま。
あなたは私のたった一人の妹。
そのことは決して変わらない。
遠く離れていても、私の愛はいつもあなたのそばにあるわ。
リリア、大好きよ。
心から、あなたの幸せを祈って――。
セシリア』
*
(……お姉さま……っ)
堪えきれず、ぽとりと雫が便箋を濡らした。
震える肩を見て、エルヴィンは何も言わず、そっと彼女を抱きしめる。
広く温かな胸に、リリアは静かに身を預けた。
手紙に綴られた姉の言葉が、幼い日々の思い出とともに心を満たしていく。
夜中にベッドへ入れてくれたあの夜、
守ってくれるように包んでくれた優しい腕――
そのすべてが蘇り、リリアはとうとう泣き崩れた。
エルヴィンは黙ったまま髪を撫で、背に掌を添えて、静かに抱きしめ続けた。
「……リリア」
低く、けれど限りなく優しい声。
「泣きたいだけ泣けばいい。私は、ここにいる」
リリアは頷き、その胸に顔を埋めながら、声を押し殺して涙を流し続けた。
馬車の揺れと、エルヴィンの確かな温もりだけが、長い夜道を穏やかに進んでいった。




