63 疑惑
「・・・・・・」
「アイリス嬢がクリスと共に飛び級で卒業試験を受けることも知っている。そして、アイリス嬢の成人を待って結婚するのだろう?そうなってしまったら、あなたを助けることができなくなる。」
エドウィン殿下はそこまでご存知で・・・これも王家の影からの報告か。
「私を・・・助ける?今さら何故・・・」
「何故って・・・アイリス嬢はセレーネの姉だろう?その姉が危険に巻き込まれようとしているのを見過ごせるわけがない。」
そうか・・・私は、聖女様と姉妹なんだ。
ああ・・・エドウィン殿下は、どこまでも真っ直ぐなお方だ。
聖女様の心配を取り除くためなら、たとえ嫌いな私にでも手を差し伸べることができるのか。
「セレーネがクリスを怖がっていてね。アイリス嬢がなにか良からぬことに巻き込まれているのでは、と私に相談してきた。先日正式に王太子となった私なら、権力を行使して助けることが出来る。」
「助けるとは、具体的には・・・」
エドウィン殿下が、どこまでも真っ直ぐ私を見つめる。
「卒業試験を無効とし、私たちと共に卒業した後、形だけ側妃として召し上げる。そして、離宮にとどまってもらう。これが一番安全を保障できる。」
「な・・・」
「誤解しないでくれ、アイリス嬢。決してやましい気持ちはない。あなたを守るためなんだ。考えてはくれないか。」
「何故、クリス殿下がそれほど危険だと仰るのですか。」
「理由は先ほども言ったね。なにより、聖女であるセレーネの、あの怯えようは普通ではない。この国を守る聖女がだ。アイリス嬢も、この国の建国記は知っているだろう?」
「殿下、そろそろ・・・」
いつの間にか、アーサー様がエドウィン殿下のお側に近づき、耳打ちをされている。
「ああ、もう戻って来るのか。アイリス嬢、クリスに対して少しでも違和感を感じたら、私に言って欲しい。いいね?あなたがクリスの妻になってしまう前に。」
最後にそう言い残して、エドウィン殿下は足早に図書室を後にされた。
クリス様に対する違和感・・・お兄様も驚いていたが、時に恐ろしいお方だということ。
それは、自分のやるべきこと、自分の未来の為に動かれているからだと思っていた。
私には、とても優しくて、甘くて・・・私の心を守ってくださるお方だ。
そういえば、エドウィン殿下が『建国記』と仰っていた。
アクオス王国建国記・・・アイリスの記憶にもぼんやりとしか残っていない。
この国の、文字が読める者なら誰でもが一度は読んだであろう建国記を、なぜ覚えていないのか。
まさか、アイリスは、それさえも疎かにしていたというの?
私は席を立ち、歴史書が並んでいる一角に足を運び、その中から一冊を手に取った。
「アクオス建国記 第一章」




