62 試験勉強
イシュタル家での冬の休暇を終え、王都へと戻って間もなく、学園生活最後の新学期を迎える。
あと1年あると思っていた学園生活が、残り3カ月になるとは、夢にも思わなかった。
進級試験が、まさか卒業試験になるとは・・・。
授業内容は中学生レベルだから何とかなりそうではあるが、専攻である経営学科の試験は未知の領域。
お兄様から与えられた課題も、休暇中に終わるはずもなく、週に3回だった図書室での勉強は毎日となった。
イシュタル家のタウンハウスにある蔵書では、経営学に関する図書が少なかったせいもある。
そんなある日のこと。
「クリスティン殿下、学園長がお呼びです。」
図書室で勉強をしていたクリス様を、学園の生徒が呼びに来た。
「学園長が?なんだろう。卒業試験のことかな・・・ごめん、アリス。一人にしちゃうけどちょっと行ってくるよ。」
「はい、行ってらっしゃいませ。私はここでお待ちしていますね。」
「アリス、誰かに話しかけられても気軽に返事をしちゃだめだからね!」
「ふふっ。クリス様ったら。わかっております。」
クリス様は、これまで以上に私に甘くなり、そしてかなり心配性になられた・・・気がする。
そんなに心配しなくても、私に声をかける人なんていないから、無用な心配である。
さて、クリス様に恥をかかせてはいけない。
しっかりと勉強して、試験に臨まないと。
机に向かっていた私の前に、誰かが立っている影が見えた。
「少しいいかな、アイリス嬢。」
「エドウィン第一王子殿下・・・どうしてここに・・・。」
辺りを見渡しても聖女様の姿はない。
護衛のアーサー様は、図書室の入口で待機し、こちらを見ているだけだ。
慌てて立ち上がると、「そのままでいい」と手で制された。
「私になにか御用でしょうか。」
「アイリス嬢、時間もないので端的に言わせてもらう。クリスについてだ。」
「クリス殿下・・・ですか?」
「レーネ・・・セレーネがあなたを心配している。」
「聖女様が、ですか?クリス殿下が聖女様になにか・・・」
「いや、そうじゃない。クリスはセレーネとは接点がないからね。」
その答えを聞いて、安堵する。
「では、どういうことかお聞きしてもよろしいですか?」
「クリスは・・・変わってしまった。昔は側妃である母君の後ろに隠れ、大人しいだけの弟だった。いつ頃からか・・・そうだな、私たちが学園に入学する頃か、セレーネが聖女であると判明した時期か、そのくらいからクリスは変わった。あのような・・・人を人とも思わぬような目をするような弟ではなかったのだ。」
それは・・・クリス様が覚悟をお決めになられたからではないだろうか。
母君様である側妃様があのような状態になったのがきっかけではないのか。
「私が王宮に出入りしていた頃には、クリス殿下とお会いしたことは滅多にございませんでした。学園に入学してからのクリス殿下しか知りませんので、そう言われてもなんとも・・・」
「アイリス嬢は、クリスといずれ結婚することを・・・本当に了承しているのか?」
エドウィン殿下はなにを仰っているのだろうか。
そもそも、私がこんなことになっているのは、半分はエドウィン殿下のせいではないか。




