61 サプライズゲスト
「さて、婚約者とはいえ淑女の部屋に男が長居するのも問題だから、僕はそろそろ失礼するね。」
そ、そうだった。
あまりにも衝撃的なお話で、今はまだ真夜中だということを忘れてしまった。
「そ、そうでございますね。申し訳ございません、お引止めしてしまいました。」
「ふふっ。僕もこれ以上いると理性が持ちそうにないから戻るよ。どうせあと3カ月後には結婚するから、その時まで楽しみはとっておく。それじゃおやすみ、アリス。」
クリス様は、私のおでこにチュッとキスをされ、部屋を退出された。
い、いま・・・私はなにをされたの?
チュッって、おでこにチュッって・・・。
途端に顔がカーっと熱くなる。
あやめの時代でも、好きな人はいたけど、彼氏なんていたことはない。
友人の話や、二次元の世界での話で慣れているつもりだったが、実際にされるのでは破壊力が違う。
おでこを押さえ、ベッドに倒れこんだ私は、なかなか寝付けなかった。
そして、次の日、新年の朝を迎える。
リタに起こされ、急いで身支度をし、朝食を済ませた私は、昨日の約束であるスコーンを作るため、厨房をお借りした。
イシュタル家の料理人にも手伝ってもらい、焼き上がりを待っていると、玄関の方が騒がしい。
「お嬢様、お嬢様~」と、リタが慌てて呼びに来たので、私は後をお願いして玄関の方へ赴く。
すると、そこには・・・。
「リズ!」
なんと、お兄様がイシュタル家へと来ているではないか。
「お兄様、どうされたのですか?何故ここへ・・・」
「イシュタル侯爵から招かれてね。家族になるのだから、是非にと。」
「そうだったのですね。お会いできると思ってなかったので嬉しいです、お兄様。」
お兄様が真面目な顔になる。
「・・・リズ?クリスティン殿下から、ヘンなことはされていないだろうね?」
「へ、ヘンな事ってなんでしょうか。ここには侯爵様もいらっしゃるのですよ。嫌ですわ、お兄様ったら。」
「・・・そうか、よくわかった。義兄として、クリスティン殿下には指導させていただく。」
「な、なにを仰っているのですか、お兄様!」
「リズ、私に隠し事をしようだなんて、10年早いよ?」
お兄様のアルカイックスマイルも、クリス様に負けていない。
早々に逃げ出したい気持ちになったが、ぐっとこらえる。
そんなことより、お兄様には伝えなければいけないことがある。
「お兄様、おそらく侯爵様より今後のことについてお話があると思われます。そのためにお呼びになられたのかと。」
「そうだろうね。手紙では何回かやり取りをしていたから、おおよそは承知している。リズは今年卒業するのかい?」
「お兄様、そこまでご存知で・・・。はい、挑戦してみようと思います。」
「私が呼ばれた理由は、それもあるだろうね。なにせ、経営学科の卒業生だからね。」
「それでは・・・お兄様にご指導してもらえるのですか?」
「リズ、私の指導は厳しいからね。課題も目一杯出すから、覚悟しておくんだよ。」
それから、私の冬の休暇は休暇ではなくなってしまった。




