41 私の運命
王都に戻る時が近づいてきた。
クリスティン殿下とお兄様が約束されたのは、私が王都に戻る日程を考えてくれてのことだろう。
新学期が始まるのが二週間後、私がこの領地を離れるまで、あと一週間ほどに迫っている。
「久しぶり。ちょっと早いけどレポートが完成したから、来ちゃったよ。」
「クリスティン殿下・・・何度言ったらおわかりになるのですか?事前に連絡をいただきたいと申し上げていたはずですが!」
階下で、声が聞こえてきた。
クリスティン殿下は、相変わらずこちらの予定を無視して突然やって来る。
リタが私を呼びに来た。
客間に行くと、ニコニコしているクリスティン殿下と、しかめっ面のお兄様が座っていた。
「アイリス先輩の顔を見たくて、早めに来てしまったよ。ごめんね。」
全然、申し訳ないという態度ではない。
お兄様が人払いをする。
「クリスティン殿下、レポートの前に我々の答えを。リズ。」
「はい。クリスティン殿下、殿下のお申し出を有難く頂戴したいと思います。」
お兄様と私が、クリスティン殿下に向かって頭を下げる。
「頭を上げて、二人とも。そう、よく決断してくれたね。」
「はっ。我が妹をよろしくお願いいたします。」
「もちろん。後のことは悪いようにはしないよ。新学期には僕の婚約者として堂々としてくれていいからね。」
クリスティン殿下は、私を見てニコニコしている。
エドウィン殿下のようなアルカイックスマイルではない・・・ように見える。
でも、新学期って・・・そんなに早くなんとかなるものなの!?
「話がまとまったということで、早速殿下のレポートを拝見させていただきます。大切な妹を預けるのですから、殿下には、いろいろと、もっとしっかりしていただかなくては困ります。」
「え・・・別に・・・そこまで求めてないよ・・・ただの口実だし。ほら、僕は腐っても王家の者だからね?多少出来が悪くても・・・」
クリスティン殿下の目が泳いでいる。
「殿下、昨年のリズのレポートは見ましたね?リズの夫になる殿下が、アレ以下では妹を任せられません。殿下には明日までご滞在いただきますので、そのおつもりで。ああ、もちろん私の部屋で夜通しご指導させていただきますからね。妹には指一本触れさせませんので。」
お兄様・・・すでにもう容赦がない。
「えっと・・・それはあんまりじゃないかな~。僕はこれでも王家の・・・」
「王子殿下の前に、リズの将来の夫ですよ。妹を不幸にされては困るのです、クリスティン殿下。リズの夫なら、私の義弟。そのこと・・・お忘れになっているわけではありませんよね。」
「ああ~、ああ・・・うん・・・そうだね。うん、わかったよ」
力なく項垂れたクリスティン殿下であった。
「僕・・・頑張るからさ。せめてアイリス先輩とお茶の時間だけでも欲しいな・・・」
「それは殿下の出来次第ですね。そうと決まれば早速取り掛かりましょう。時間は有限ですからね。リズ、キールに殿下の宿泊とおもてなしの用意をさせてくれ。」
「かしこまりました。クリスティン殿下・・・あの、頑張ってくださいね?」
「うん・・・アイリス先輩とのお茶の時間をもぎ取るために、頑張るよ。」
私の運命は決まった。
後悔がないと言われれば嘘になるが、クリスティン殿下の隣にいるのは嫌じゃない。
それに・・・クリスティン殿下のお側にいても、心臓が痛くなることはない。
私を必要とし、私自身を見てくれている、という事実に、アイリスの心も動かされているのではないだろうか。




