22 お兄様のアドバイス
「リズ、私はね、これ以上ノワール家が力を持つことは避けたいんだ。」
お兄様が、苦渋の表情を浮かべた。
「出る杭は打たれる、ということですね。」
仮に、私が王妃になれば、後継ぎを産むことになる。
次期国王を輩出した家となれば・・・その権威はいかほどのものか。
それは、私が学んできた歴史が証明している。
今の王妃様は、同盟国から嫁いだ方であり、どの家とも関係がなく、どこかの貴族が権力を握っているわけではない。
アイリスは、こんなドロドロの裏側を知らなかったに違いない。
いや、見たくなかっただけか。
キラキラとした綺麗なものしか信じたくなかったのかもしれない。
殿下のことが、ただただ純粋に好きで、殿下に抱きしめて欲しいだけなんだろう。
「リズはAクラスだといったね。この前の中間試験は何位だった?」
「20位です。Sクラスにはいかないよう、気を付けていますから。」
「そうか。それなら、もう少し落としてもいいくらいだな。」
「そ、そうなんですか?」
「30位くらいだと理想だが・・・まあ、こればかりは他の学生次第だから、なんともならないか。」
「が、頑張ってみます。」
順位を下げるために頑張るだなんて、なんかへんな感じだ。
「リズが婚約者の座から退くことで、ノワール家は苦しい立場になるかもしれない。しかし、本来貴族というものは自分の領地を、領民を守るために存在するんだ。」
「はい。そのとおりです、お兄様。」
領地を視察した時の、領民の人たちを思い出す。
汗にまみれ、土にまみれ、それでも笑顔で、私を歓迎してくれた人たち。
「中央での発言力がなくなったところで、領地まで失くすわけじゃない。それにこの先、あの王室がいつまで続くのかもわからないからね。」
「え・・・。」
「考えてもみろ。噂の聖女様頼みの王室だぞ。その聖女様がとんだアバズレだったらどうする?女神様の気まぐれで、この先ずっと聖女様が現われなかったら?」
「それは・・・国が傾きますね。」
「そうだ。信仰心は大事だ。しかし信仰と妄信は違う。聖女様の力で国が豊かになるのではない。領民の力で国が豊かになるんだよ、リズ。」
お兄様の力強い言葉が私を強くしてくれた気がした。
セレーネ様を殺めなかったその先に、私の未来がある。
寿命を全うするその時まで、この世界で生きていかなければならないんだ。
「リズ、知識をつけるんだ。知識は自分を裏切らない。そして常に裏側にある事象に目を向けなさい。自分が利用されないためにね。」
「わかりました、お兄様。」
お兄様のアドバイスを胸に、私は明日、王都に戻る。




