16 アーサー・スヴェン
「殿下、お時間です。」
王妃の庭園の中にあるガセボでセレーネ様と優雅にお茶を楽しんでいるエドウィン殿下に声をかける。
「そうか。セレーネ、今日はありがとう。楽しいひと時を過ごさせてもらった。」
「殿下、こちらこそ、こんな素敵な庭園のお茶会にお誘いいただいて、身に余る光栄です。」
「セレーネ、『殿下』はやめてくれないか。エドウィンと呼んでくれ。」
「そんな・・・殿下のお名前を呼ぶなんて、不敬なことは・・・」
「私がいいと言っているんだ。誰も咎めはしないさ。」
「そ、それでは・・・エドウィン様、と・・・。」
「ははっ。仕方ないな。今はそれで許そう。」
一体、私はなにを見せられているのだ。
私の名はアーサー・スヴェン。
代々国王の剣となる騎士を輩出している伯爵家の次男である。
私の父も、若き国王陛下の護衛を務めていた。
父が王宮勤めをしていた時、私が殿下と同じ年ということもあり、殿下の遊び相手として王宮に出入りしていた。
殿下とは、それ以来の付き合いである。
今は、幼馴染兼護衛として、殿下に仕えている。
殿下には婚約者がいる。
4大侯爵家の一つ、北方に位置するノワール家のアイリス嬢である。
第二王子派閥との確執が深まっている今、確固たる地盤を固めるだけの婚姻だ。
アイリス嬢は、お世辞にも優秀なご息女ではない。
そして、殿下に執着している。
自分を着飾り、自分のために相手を蹴落とす、殿下の一番嫌いなタイプの女性だ。
かくゆう私も、そういう女性は好きではない。
アイリス嬢が変わったのはいつ頃だったか・・・。
学園に通い始めて、殿下に纏わりつくものだとばかり思っていたが、その気配がまったくしない。
どちらかといえば、殿下を避けているように見える。
たまに視線を感じることがあり、そちらを見ると、唇を噛み、なにかに耐えているような表情をして、そしてさっと踵を返して背を向ける。
今日だってそうだ。
アイリス嬢が、このガセボにいる二人を見つけて微動だにしなくなった。
てっきりこちらに来ると思っていたのに、苦しそうな表情をしてそのまま立ち去ってしまった。
殿下がこの婚姻に乗り気ではないのは承知している。
だからといって、婚約者がいるのに他の女性と親しくするのは道理に反することではないのか。
どうしてこのように思うようになったのか、私にもわからない。
アイリス嬢の、苦しみに歪むあの表情が頭から離れない。




