契約の破りかた
星が落とす僅かな光の中
藪道を騒めかせ、一陣の風が吹き抜ける
「ハァッッ!!!」
土を蹴立てて疾走する白き駿馬の手綱を握りながら
ボルグの加速を邪魔せぬよう
銀の甲冑に包んだ身を限界まで前傾に倒す
「なんたる油断・・なんという不覚ッ!!」
割れんばかりに強く食いしばった歯がギリリと耳障りな音を立てた
此度の出征の際に己が発した言葉を脳内で反芻し後悔が燃え続ける
『必ずや閣下とレディを無事連れ戻ると誓いを立てます』
いったいどの口が守護るなどと宣誓したのか
闖入者に気を取られたのは言い訳にはならない
むしろ、ああいった連中の襲撃を見越して同行を申し出たのだ
連中と彼の者、アーチェが共謀関係にあるのか
はたまた折り悪い巡り合わせの結果かは不明だが
相手が亜擬といえど決して目を離すべきではなかった
己の不甲斐なさに無意識、手綱を握る手に力が込もるが
ボルグが減速し始めた事により我に返る
「どうしました?イア様の行方を掴めましたか?」
「ブルっ・・・フゥ・・」
ボルグは戸惑ったように落ち着きなく耳をぱたぱたと震わせ
訝し気に鼻を鳴らし周囲を気にしている
「ドウ・・ドウ・・、気を静めて下さい」
何度か首を撫でて宥めると
次第に荒かったボルグの呼吸も緩やかに落ち着き始める
「それで、どうしたのです?
魔力の残滓が薄まり追跡が困難になりましたか?」
いつまでも魔力が濃く残り道標の役を果たしてくれるわけではない
時の経過や風の流れで容易く移ろい霧散してしまう
問いに答えるようにボルグは首をゆっくりと揺らし蹄で足元の土を掻く
「逆・・ですか?この周辺一帯に魔力が充満している、と?
それは・・・不自然ですね」
地脈には樹齢数千年の神木や魔石の大鉱床などの魔素溜まりにより
魔力が満ちている土地が存在してはいるが
ここは一見してただの獣道、魔力を生み出す要素は見当たらない
つまり何者かが意図的に魔力を散布したのだろう
「当たりの匂いを追跡する鼻を潰すために悪臭をばら撒きましたか」
痕跡を上書きする、乱雑だが厄介な策だ
「ですが、このような手を打っているということは
ここまでの方角は間違っていないようですね
ボルグ!まずは直進し散布された偽跡の範囲から出て探り直しましょう!」
再びボルグを駆って進み出そうとした時
しん、と静まり返っていた夜闇に手を叩く音が響く
乾いた拍手の音と共に前方、何も無かった筈の風景に切り込みが入り
裂け目の向こうの空間から色黒の小男とその後ろに続く3人の人影が歩み出てくる
その内の2人は小柄な、年端もいかない少女
少女達と小男の間に割って入る位置に居るのは
「アーチェ・・・・・」
顔色が悪く先程よりも生気が薄い印象になったが
少女達を庇うように立った瞳には意志が灯っている
「は~いはいはい、ご苦労はん
そこまで分かってるんやったら種明かししたりましょ!」
小男は拍手していた手を止め、紫色のレンズをはめこんだ丸い眼鏡をクイと上げ
「あんさんが辿ってきはったんはコイツの尻の匂い
最初っからVIPへの足掛かりなんか残して堪りまっかいな」
親指で隣に立つアーチェを示し
口元から金歯を覗かせ嫌味な笑顔を浮かべている
「あの御嬢ちゃんはとっくに目的地に着いとりまっさかい
無駄な努力、実にごくろーさん!っちゅーわけで
さっさとくたばってくれへん?
諦めてサパァッ!とオノレで首掻いてくれると手間がないんやけど・・」
「どうやろか?」と、手刀をトンと首にあてて勝手な言い分を並べ立てている
「致しかねますね、亜擬の誰も彼もが人様の無茶を飲む訳ではないのですよ」
悔恨と自身への怒りで雑念が飛び交っていた思考が
アーチェの姿を確認して醒めていく
(これ以上闇雲に探す手間が省けた)
馬上から降り、踵がザシッと踏みしめた地を鳴らす
「要求するのはこちらです、拐かしたレディの所在と身柄の引き渡しを。」
「はぁ・・・反抗的やな~、これでもな忙しいねんじぶん!
シャシャっと領地に戻ってキュキュっと一杯やりたいやんかぁ?
もうちびっとさぁ人の気持ちに寄り添って行動してくれへん?」
困るなぁ?と項垂れて首を大仰に振る男だが
「あ、あの・・ロベルト様」
キリのないやり取りにおずおずとアーチェが声を出すと
「大事な商談中に!横槍を入れるんやないっ!!
それに!亜擬如きがファーストネームで気安く呼びつけるとは何事やっ!!」
火が着いたように怒声を上げ
アーチェと2人の少女の肩がビクリと跳ねる
「も、申し訳ありません!ロベルト・ブラウファッツ様!」
「フルネームで長々呼ばれるのも不快やな
今だけはファーストネームで呼ぶことを聞き流したるわ
で?なんやねん!話の腰を折ってまで茶々かましたんや
しょーもないコトやったらただじゃおかんで!!」
折れるような腰のある話をしていなかった癖に
ずんぐりした上体を反らし偉そうに胸を張る小男
「わ、私の役目は既に果たしましたので
け、契約の履行をお、お願いしたく・・・」
天性のものか油断を誘う演技だったにしろ
あれほど爛漫に笑んでいた人物とは別人のように
アーチェは震えながらロベルトなる男に提言する
「ん?あー・・はいはい、せっつくのは感心せんなぁ
焦る乞食は貰いが少ないちゅー言葉を知らんのかいな」
ロベルトは心底面倒そうに小指を耳に突っ込みガシガシと掻きながら
懐をまさぐり一通の丸めた羊皮紙を取り出し
「あー、『ロベルト・ブラウファッツを甲』えー、チッ!
『アーチェ・レスティマを乙とし、乙は甲の要請する依頼を遂行し
甲は達成の確認をした後乙ならびに乙が扶養する者達の権利を一部認め
衣食住の庇護を与えることを呪紙へ契約し、ここに調印するものとす。』」
亜擬の名を呼ぶのを忌むように舌打ちしながら
契約内容を朗々と読み上げる
「あ、あの娘はお約束通り転移させました、ですので!」
「わーかったっちゅーに!コイツは互いの命魂を縛り
契約に反した者を食い潰す呪約を結ぶもんや、例外はあらへん
誰でも命は惜しい、わやにするかいな」
「ではっ!」
両腕に少女達を掻き抱き悲痛に懇願するアーチェ
あの少女達がアーチェの護りたい家族なのだろう
「はいはいな、だからここにサラサラ、っと・・・」
ロベルトは羽ペンを取り出し
羊皮紙に何かを書き込もうとペン先をつけた瞬間
何処から発生した黒紫の霧がロベルトを包みこむ
「きゃあッ!!」
「お姉ちゃんっ!!」
「だ、大丈夫・・・大丈夫ッスよ」
突然現れた霧煙から庇うように2人の少女の頭を守り
身を伏せるアーチェ
「あれは・・呪殺の具現!?
契約書に細工しようとして失敗したのですか、愚かな」
口元を手で覆い
自身の言葉でもって言っていた例外なき罰則を浴びる者にぽつりと感想が漏れるが
「そう思うやろ?どっこい!備えはバッチシやでぇ!」
死の霧が晴れると残ったのはロベルトが羽ペンを上げた姿だった
「馬鹿な、名と魂を常に握る契約反故の罰則呪法から
逃れることは不可能」
「そないに不思議でもないんやで
【死請けの護摩符】が代わりに呪いを引き受けてくれたもんで
ひーふー・・あー・・たかが一言付け加えただけで
36枚も使ってもーた・・貴重なんやでこれは」
黒ずみ塵になって消える符の束を捨てて
薄く光りを放つ羊皮紙のインクを息を吹きかけて乾いたのを確認すると
「よっしゃよっしゃ!これで契約更新や」
見せつけるように掲げられた羊皮紙には
『乙は甲の要請する依頼を命尽き魂魄擦り切れるまで遂行し』
「・・・悪辣な」
醜悪な文面に吐き気が込み上がる
「え?なっ・・・、え?」
理解が追い付かないのであろう
アーチェは呆然と契約書を見ている
「なんや?わからんか?つまり、お前の肉体が崩れ落ちた後に
魂の一片まで利用し尽くしてやっと契約満了や!」
「飽くまで現時点での内容でやけどな」
そう付け加えられたのは
その都度、今やったように内容を改竄してやるぞ、と
悪意に満ち満ちた醜言だった
「ッチ!!」
眼前の耐えかねる暴挙に瞬時に弩弓を抜き展開し
ロベルトへ向けて引き金を引く
余裕ぶってヘラついていたロベルトの身に
次々と銀矢が突き刺さる・・かと見えたが
「かなんな~、貴重な逸品やてゆうたやん!」
瞬時に展開された薄い皮膜がゴムのように肉へ食い込もうとする矢を阻み
その度に一枚また一枚と例の札が黒く変色し塵になっていく
「この死に請けは魔法的なものやなくて物理攻撃にも対応しとるんや
それになんや怒っとるみたいやけどなぁ?
こう見えてじぶん?腕利きの商売人やんか?
契約は何が何でも相手には守らせる!自分は踏み倒して損益を出さん!
これが商売で上手く儲ける秘訣ですわ」
「そのような悪逆無道の行いを商いと称されては
数多の商売人が迷惑でしょう」
「商売の基礎も知らんような甘ちゃんの腐れボンボンたれが抜かすやんけ」
「ど・・・どうして・・・どうしてこんなことを・・・?」
掠れる声でそれだけをやっと搾り出したアーチェに
「お前はな使い道があるんや」
「つかい、みち・・・?」
「せや、目眩まし用に使わせた世界獣召喚なぁ
アレ、普通の亜擬が使うと一回で負荷に耐え切れず死んでまうんやけど
ハーフのお前は高ランクの世界獣を呼び出せる森貴人の魔力操作
召喚反動の負荷に耐えうる岩鉱細工人の頑健さを持つ稀有な道具や」
アーチェの利用価値を指折り数えるロベルト
相手が命だとまるで思っていない事が言葉の全てに表れている
「ならっ!!ならそれで構いません!!いかような指示にも従いますッ!
死ぬまでというならそれでもッ!!だから!
この子達と町に居る家族の解放だけでも・・
さっき達した依頼の報酬として・・・」
「姉ちゃん!」
「静かにっ、いいんスよ・・」
縋り付く少女達の頭を柔らかく撫でながら
諭すように言い含めるアーチェの言葉をロベルトが断ち切る
「ダメや、そんなことしたら意味ないやん?」
「意味・・・?」
「おかしいと思わんかってん?
なんで最初っからこの契約内容で約書を作らんかったか
切迫してる亜擬なら命賭けでも仲間ァの為ならサインしたやろ?」
(そうか・・・屑以下の汚物め)
ロベルトは罠に嵌まった獲物にどういう仕掛けの罠だったのかを
愉しげに説明して聞かせている
「これで仲間を助けられるっちゅ希望が絶たれた時の顔!!
たまらんねん!ホンマに!!わざわざ貴重品使った甲斐があったなぁ」
くぅ~っ!!っとロベルトは小柄な全身を身震いさせ悦に浸る
「間違いだった・・ちゃんとした契約を破る訳ないって、思ったのが・・
ここまでして・・・踏みにじってく、るなん・・ゲッホ!!エハっ!!」
「うんうんせやな、うんせやな後悔は後に立つもんや
でもそろそろ用事を済ませて帰りまひょ!」
懐から取り出し、破って捨てられた赤い紙切れが渦を巻き
中空に黒い穴を開ける
向こう側から多くの荒い息遣いが聴こえてくる
見覚えのあるアーチェの酷い咳き込みよう
アレは世界獣を呼び込む媒介としての反動を受けているのだ
「世界獣の召喚、此度は数も多い」
「ほんまはなぁ・・あの鰐から逃げた所を
ここで挟み撃ちにする計画やってんけど変更ですわ!」
「ほぅ・・変更ですか、どうやら閣下は世界獣を下し
ご無事に切り抜けられた様子」
「あーッ!アカンアカン!情報かて大事な商品や!
タダでくれてやるなんてしょーもなッ!!」
「ふん」
少なくとも杞憂の1つが消え、胸が幾分軽くなった
そのままガチリ!と弩弓を完全展開し臨戦態勢に入る
「おーおー!景気の良い顔しよって、安心すんのは早いんと違うか?
綻びた計画っちゅうのは補填するためにもっと性質悪く変形するもんや
おんどれらにとって、もっと悪い方向に転がったでぇ!て・・うぉッ!!」
能書きを垂れ続けるロベルトに更に矢を放つ
「まだ忍ばせているのですか延命手段」
「は・・はは・・っ、言うたやろ?ワイは商人
備えも在庫もバッチシや!!」
『ドオッッ!!』と轟音を立てて世界獣が黒穴から出で落ちる
先程の龍と変わらぬ巨躯の牛、蟹に鷲が現れ
まだ後方でアーチェは苦しみ続け黒穴は閉じる気配が無い
「申し訳ありませんイア様、閣下、すぐに参上とはいかなくなりそうです」
───────────────
カビの匂いと換気が碌に行われないジメついた空気
冷たい石造りの施設内に規則的に弾ける水滴の音
寒々しい亜擬監禁施設『大きな葛籠』は静寂に包まれ
「ゔぉお~んお゛ん゛お゛ん゛!!」
てはいなかった
閉塞した監禁牢の石畳の上にへたり込んで
大口を開けて泣く人物
局所以外の地肌が透けている薄手のタイツで全身を包んでいるが
頭に身に着けた簡素な頭巾が辛うじて修道女の可能性を匂わせる
「泣き顔と声がキタナイ、普通に」
泣き腫らす女性にあんまりにもな言葉を投げるのは
同じ牢に数人入れられている小鬼妖精の1人
「オマエちゃん達ねぇ!こーゆー時は慰めんのよ!
じゃないとあーしがもっと泣いちゃうでしょ!!」
「ソレは困ル、若作りの涙は見るに耐えナイ」
「ヤレヤレ・・・」
小鬼達は慰めるどころか1人は追い討ちを仕掛け
もう1人は手を挙げて肩をすくめている
「ぢぐじょぉ゛ぉ゛!!こんなに生意気な連中なら
小鬼姫教皇なんて引き受けながっだ!!」
「思い出の改竄はイクない!ぼっちで森の中を泣き歩いてた小汚いシスターくずれに
食べ物を分けてあげたらそっちが居付いたダケ!」
「過去を都合よく変えるのだけはウマイ」
「ヤレヤレ・・・」
「くぅぅ・・・大聖堂に残っても地獄、出ても地獄・・・」
自分だってなにも好き好んで
小馬鹿にしてくるゴブゴブ達と慣れ合っているわけじゃない
神と同一の天上人様に祈りを捧げながら
潮流によって移動を続ける『巡礼島』で洗礼を受け慎ましやかに暮らしてきた
朝起きるのは早いし娯楽もない恋も駄目
それでも居るのか知りもしないモノに両手を組んで目を瞑っていれば
安定した生活を送ることができた
自分達だけは
太陽が昇らなくなり常夜の日々が続き
世界は冷え、霜だらけの土地も増えた
植物は発育が難しくなり緑を食む動物たちも数を減らし
農業、畜産業の食料の流通も滞るようになった
亜擬は言わずもがな世界の外れに住む人達にまで
食料が行き届く事は難しく貧困と飢饉に苦しんでいる
ーー表向きの情報では
巡礼島の地下、土と白煉瓦で美しく飾られた大聖堂の深き真下
地上とは全く違う一面が機械化された大空間
空気中に含まれる僅かな酸素や二酸化炭素
ほとんど無から食料を作り出す工場の存在を知ってしまってから
私に見える世界は一変した──
でもそれは、それ。これは、これ。
「神は民が飢えることを望んでいるのですか!?
いいえッ!!神は愛の名のもとに!
あまねく命に祝福の御手を差し伸ばしてくれているのです!」
(どうよ?この悲壮で純情なヒロイック感!
どこに出しても恥ずかしくない聖処女よね!
神の御名を利用して算盤弾くなんて
あーしが許しちゃおけないわ!)
食料に寄進された財産エトセトラエトセトラ
どーせ最至都市におわす天上人に隠れてシコシコ貯めているんだろう
「あぁッ!なんとお嘆かわしい!!私腹を肥やし己が利を追求するなど
神に身を捧げその愛と教えを世に広く説こうと真摯に誓いを立てた
昔の自分に恥じ入りなさいませッ!!」
知ってしまった秘密を取りあえず暴露する事で優位に立ち
義憤に駆られた儚く健気な告発者よろしく目尻にグッと涙を溜め
「あたくしはッ!この心を今一時鬼に変えてッ!
司祭様に断罪を求めますわッ!!」
さめざめと俯いていた顔をキッ!と力強く上げて前を見据える
勢いで涙がキラキラと周囲に散った光景は悪意に敢然と立ち向かう清廉な乙女
『ムフーー!』込み上げる鼻息を音が立たないようゆっくりと逃がし
醜い言い逃れか、はたまたこの威光に早くもギブアップ宣言を頂戴しちゃうかも!?
と脳内でシミュレートしていた勝利のビジョンは
「うんうん、そう言うチミこそ神の御意志を推し量ろうとしたね?
はい、死罪に値すると判断し即刻、処するものとす」
「・・・え?」
あっさりとした一言と共に打ち砕かれた
「ちゅーか、なに今更そんな世紀の汚職発見しましたみたいなテンションなの
ここで知らないのチミだけだよ
神の視野を逃れてこんなこと独断でやってるわけねーでしょ」
この古狸は脂ぎった見た目とは裏腹に案外と上層部に従順らしかった
つまり美しい大聖堂の闇に隠れていた食料を無尽に産出する施設も
信徒に清貧を求め修行を終えたと嘯き己たちは煌びやかに着飾る行為も
全ては神に容認されていたことだった
そうして余計な企みを持った子羊は狸の怒りを買い
「斬首より海に投げた方がおもしろそう」という理由で
無事に海上に叩き落とされ
しがみついたイルカに舌打ちされ渦巻く潮流に呑まれ
もがきもがいた末に流れ着いた不毛の地を
芋虫を食べるかどうか葛藤しつつ飢えて彷徨う中
食べ物をくれる小鬼にほいほい付いて行き
何か条件や取引などを提示していたであろう小鬼の言葉を完全に無視して
並べられた果物を片っ端から口に放り込み
果物の咀嚼のついでに適当に相槌を打っていたら
なんやかや小鬼に姫だと担がれて、いい気になって生活したのも束の間
小鬼なんて狩人からすれば捕獲する価値もない存在
姫を奉り中心に据える事で連帯を強化するという
小鬼族の中でも一風変わった種族性が珍しいと目を付けられて
イマココ
「ど~すんの!この状況!ピンチなんですけど!!それもメッチャ!!」
ぐあーっ!と頭を抑え嘆く
振り乱した拍子に明るい赤毛が頭巾から流れ落ちる
「案ガアル!!」
「はい!聞こう!」
挙手した小鬼に指を差し意見を聞くと
「シンプルに姫を置いて逃げル!!」
「シンプルに却下!!」
「ヤレヤレ・・・」
「ハイ!姫は声が無駄に大きい、それを活かス!」
「ほうほう?無駄は余計だけど続けて?」
「姫が部屋の隅でお腹が痛いフリして
入ってきた看守が姫に気を取られてる隙にボク達は逃げル!」
「ん・・?え?部屋の隅って・・・
囮じゃねぇか!置いて逃げるの具体案だろそれ!!」
「ヤレヤレ・・・」
「じゃあもう諦めてみんなここで死ヌ・・・」
「最悪の事言わないで!」
「3つの選択肢であーしが生き残れるものが1つも無いんですけど!!」
「犠牲はつきもの・・・シカタナイ」
「仕方なくなくなくないっつーの!!」
「こんなエッチなからだに生まれたのにエッチな経験ゼロで死ぬのイヤ~だ~!!
姫なのに王子様にも巡り逢わないしぃ~」
「望みが無理無駄無謀、オジサマがギリ寄ってくるレベル」
「貴様らぁッ!!さっきからやかましいぞッ!!」
「ぴぃッ!!」
「「「スミマセン」」」
無駄話を聞き咎めた武装看守が
牢の鉄格子を電磁警棒で殴りつけ暗い牢内に青白い電光が炸裂する
ヂリバチッ!と耳に怖い音と焦げ臭い匂いが辺りに漂い
すっかり口を開く力が失せてしまった
看守は意気消沈した皆を満足そうに眺め頷くと
「今日は急遽として面白い見世物が開催される、精々大人しくしているんだな」
去り際にもう一回鉄格子を殴りつけて看守は行ってしまった
「お~こら~れたぁ~!」
「原因はアキラカ」
「姫がウルサイせい」
「ヤレヤレ・・・」
「団結すな!ったくもー!でも見世物ってなに?」
暫くは競りの予定はなかった筈
なんだろうと自慢のバストを掬い上げるように腕をこまねいていると
「アレ?このニオイ・・・」
通路とは反対側、採光窓代わりにハメられた小さな鉄格子から
大きな中央広間に鼻を突きだし1人の小鬼が匂いを気にしている
釣られて1人もう1人と小窓を気にしだし
「コレ!同族の香の匂イ!」
「香?そんなシャレオツなもの纏ってんの?小鬼族って」
「チガウ、香は小鬼族が相手につけるシルシ代わり
他の小鬼族にたいしてコイツは良いヤツ悪いヤツって教える為のモノ」
「良い奴パフュームはともかく
悪い奴フレガンスは匂いつけたらバレて洗われるんじゃないの」
「特殊な香油で小鬼族にしか嗅ぎ分けられない!
犬獣人の鼻も欺ける」
「へぇ~・・んで、そこに来てるのはドッチちゃんなの
良いもん?悪いもん?」
「・・・良い人、スゴク」
「マジ!?脅して良いもんスメルをつけさせられてんじゃなくって?」
「さっき言った、小鬼族にしか嗅ぎ分けられないから
脅された時用の匂いもアル」
「え?え!えぇ!?じゃあ亜擬に優しいどなた様がお越しになって
あーしを助けてくれちゃうの!?やぁだー!
ロマンス始まっちゃうかもー!どぉしよー!お風呂入って無いのにー!!」
「牢屋暮らしじゃなくても水浴びすらしないクセ二」
「してますー!週1でぇー!!」
「ヤレヤレ・・・」
やいのやいの再び騒いでいると
鉄格子から外をずっと覗いていた小鬼が声を発する
「誰か歩いてキタ・・・!」
「どこどこどこ!?」
見逃さぬよう急いで鉄格子に駆け寄ると
照明が光を下ろす中央広間に入場してくる人影が見えた、が
先頭を歩く異様な風体の男?とそれから妙に距離を空けて続く2人組の男女
「え・・・っと、良い人香はあの中の誰?
あーしは真ん中を歩いてる男の子が本命で後ろの女の子が次点で」
「大穴予想の仮面つけてる人がイイ人!!」
「えぇ~・・でも、えぇ~・・・だって」
「見た目で判断良くナイ!!」
「そ~だけどさ~」
「でも確かに普通とは違う感じ・・・
あんな人見たコトない、神様カモ」
唖然としていたが小鬼の一人がポツリと呟いた単語は聞き捨てならない
「冗談はおよしったら!たぁしかに?
あののっぺらちゃんは個性的だけどね?
ユニークさが神様の特徴じゃあないの!!」
「豊かな恵みを与えて下さりどんなに誰からも認められない日陰の努力も
ちゃ~んと見ていて下さる、それが神様ね!
ってかそんな存在居ないって言ったからアタシは破門されたんだけど」
「神様、イナイ?」
「そーでしょ!天上人様~なんつって誰もお姿を拝したことないし
想像で肖像画を描く事すらも禁止されてたし居ないも同然よ」
「居もしない神様の威光を騙って信徒を増やしてぇ・・
そこまではね?ま、いいわ信仰で自分の救いを見出す人も沢山いるから
でもね!寄付金募り過ぎ!!修道士って凄い裕福なの!
朝食にカツカレー出す教会がどこにあんのよ!?
聖堂も金細工だらけだし!目ぇ痛いわ!」
暗き世界で天におわす神に我らの居場所をお伝えするために
輝く金細工で大聖堂を飾りたてるのだ!と
枢機卿のお歴々が託宣を広めたのには呆れ果てた
「だから存在しない神様の名を不当に名乗って
金銭を募るのはやめよう!って言ったら破戒扱いよ
んでうろついてたらアンタ達に祀り上げられて
でもオマエちゃん達は弱っちぃから今はこのザマ!!」
あのまま声を上げず、救うはずの人々から搾取した財で
唯々諾々と安全な生活を送っている方が良かっただろうか?
(違う!それは絶対に違うわ!!)
なら理想に殉じここで生涯を閉じるのは・・・
「それも絶対にヤダーーッ!!
もしあの仮面ちゃまがスーパー奇跡を起こして
空の下に出られたら
あーしはビキニシスターになるわ!」
「ウワ・・・」
「それはキツい」
「ヤレヤレ・・・」
「なによその塩っ辛い反応は!」
「ビキニになったら
その第三の目みたいに歪んだ臍が丸出しになるジャン」
「んだと~!?この曲線がセクシーなんじゃろがい!!」
「ヤレヤレ・・・」
「貴様らァッ!!少しは静かに出来んのかァッッ!!」
喧騒を聞き戻ってきた看守が再び鉄格子を強く殴りつけた
「ぴぃッ!!」
「「「スミマセン」」」
ここまでお読みくださった貴方に感謝を
次回の更新をお待ち下されば幸いです




