ドラゴンの殴りかた
「イアッッッ!!!!くっそッ!!」
攫われたイアへ届かなかった手を忌々しく振り下ろす
「いえ、まだですッ!あの簡易的な装置では大した距離を移動出来ないはず
それに、ボルグ!転移魔力の痕跡を追えますね!?」
「ブルっっ!!」
ラッセルの言葉を肯定し、任せろと言うように大地を蹄で掻きボルグが嘶く
「さぁ!閣下もお早くッ!!」
軽やかにボルグへ跨り同乗するよう俺へ手を差しだすラッセルだったが
「あぁ、いま行く・・・ッ!?せあッ!!!」
嫌な風切り音を察知し、直感で拳を振り
横殴りに迫ってくる質量の塊を殴り飛ばす
「そうだよな・・はいどうぞ、と行かせてくれるわけないわな」
不意に襲い掛かった暴力の正体は龍が放った強靭な尾だった
「ル゛ル゛ァ゛ァ・・・」
『逃げられるものなら逃げてみろ』と
爬虫類の冷たい瞳がせせら笑っている
「ボルグが速いのは知ってるが
コイツを気にしながらじゃ追跡に専念できないだろう」
「だから!」と続けながら龍と真正面に向き合う
「ラッセル!お前が追え!!」
「ですがッ!!」
「俺も脚には自信アリだ!すぐに片付けて追い付く!」
後ろ手を上げて『早くしろ』とジェスチャーを送る俺に
これ以上の問答は不毛と判断したのか
「・・・・・くっ!!いいえッ!
自分がそれよりも速くレディをお救いし閣下をお迎えに参りましょう!!」
ラッセルは言うなり「ハァッ!」とボルグの腹を蹴立てイア奪還へ出立する
「はっ!抜かせ」
いつもどこかに余裕を湛えた美形を
らしくもなく曇らせたラッセルの決意がなにやら可笑しくなり
込み上げた笑みを鼻から追い出す
「・・んなに悲壮な顔しなくともすぐに取り戻すさ、絶対にな」
『ヴヴヴゥゥゥ・・・・』
その場から離脱する存在を見咎めた爬虫の王は双眸をギョロリと収縮させる
その大木よりも太い前脚が持ち上がるよりも速く、腕にチカラを込め
「おいおい!こっから先は行き止まりだぜッ!!」
その場で地面に擦るように振り上げた拳から異能を発現させる
【大地蛙の舌峰ッ!!】
龍の頭と両前脚の間に一本ずつ、そして顎から脳天までを貫く位置に一本
計三本の鋭利な土石柱が龍に風穴を開けるべく襲い掛かる
『オ”オ”ォ”ォ”ッッ!!!』
しかし野生特有の直感か
龍は巨体をその場で回転させ石柱の直撃を逃れる
掠めた拍子に鱗を数十枚剥ぎ取り、血を流させたが
致命傷には至らなかった
だが効果は覿面だったらしく離れ行く騎馬にはもはや目もくれず
龍の視線は足元で這う矮小で生意気な生物に釘付けになった
当の龍は翼竜ではなく四足で地面を踏みしめる地龍
蜥蜴よりも鰐に近しい風体だ
龍は身を左右に大きく振り、残った石柱を折り砕くと
長大な尾を大きくしならせ薙ぎ払ってくる
「なによなによ!頭の先にまで届くとか長すぎじゃないの!?その尻尾!!」
ギャー!と胸元で叫ぶミィを振り落とさないよう
手で庇いながら回避行動を取るが、龍の足下に人影が見えた
「なぁにやってんだアイツぁ・・・」
ユンとかいう男だ、未だ座り込んで呆けている
その元へ周囲の状況が見えていないのか
無謀に突っ込むもう一つの影
「ユンッッ!!」
青い髪を乱しながら走り寄っていくソフィナが見えた
(あの距離じゃ男の元に間に合っても踏みつぶされて終わりだろうが・・・ッ)
「あぁ・・・くそッ!!
【黄塵噴風・敏速!!】」
ぐんッ!と異能で加速を施した脚力で
龍に押し潰されそうな二人へ瞬く間に距離を詰め
そのままソフィナとユンの襟首を乱雑に掴み
勢いそのまま尻尾の射程外にまで離脱するとパッと手をひらき両者を解放する
「う”っ!」
「きゃっ!」
強かに尻もちをついた二人は各々鈍く呻き
一方は恨めし気に、もう一方は人のよさげな笑顔を浮かべ
「どうもありがとう!」
と、毒気なく素直に礼を伝えてきた
思えばこの男がこちらに宛ててまともな言葉を発したのを始めて聞いた気がする
助けたこちらが思うのもなんだが、このユンという男
お互いの立ち位置を理解しているのかいないのか
温い笑顔で礼を述べる
加えて今更ながらに気付いたがこの男、見覚えがある
生温い笑顔にファサっと跳ねた猫っ毛の黒髪
中性的で華奢な体躯、特徴が無いことが特徴の風貌
(こいつソシャゲの主人公キャラだ
たしか1年も持たなかったゲームの・・・
作品名はガールズ・トレジャーコレクションだったか?)
かくいう自分もサ開時にプレイしたが
ソシャゲでありながら主人公の名前固定、顔出し、会話テキスト有りのボイス有り
プレイヤーそっちのけで自己主張する主人公が気に入らず即日で辞めた記憶がある
良く言えば人懐こい、悪く言えば馴れ馴れしく周囲と親しくなっていく系主人公
(まぁ、コミュ強の性格が俺と乖離し過ぎで萎えたんだったか)
だがこれで疑問の1つに合点がいった
擬人であるソフィナと睦まじく行動しているのは
ゲーム中でも彼女らと苦楽を共にした主人公だからだろう
(そういや亜人達を毛嫌いしているのは
村人っぽいモブや悪党面の連中ばかりだったしな)
案外、人族と亜人擬人達の共存は難しくないのではなかろうかと
垣間見えた少しの光明に思いを馳せている・・場合ではなかった
(馬鹿な考えこいて休んでんなっての!
ラッセルが奪還に向かったとはいえ
今回の誘拐は計画的なものだ、悠長に構えてらんねぇ!!)
気合い1つ『パンッ!!』と両の拳を叩き合わせて己に喝を入れ
尻についた土を払い立ち上がる両者に告げる
「見てわかるだろうが状況は変わった。このまま逃げろ、んで俺の首も諦めろ
次はもう構ってやれないからな」
「は?なにを勝手にっ、ちょ!!」
ソフィナが食い下がろうとしていたが一方的に宣告し
「ミィは」
「ちょっと!つまんないこと言うんじゃないわよ?
ほら、アイツもお待ちかねよ?グズグズし・な・い・の!」
「安全な場で待て」との言葉を先んじて封殺され
「・・・わかった、仕方ないか」
下手に逃がすよりも懐に抱えていた方がまだマシと
胸元の強気なおチビさんをポンとひと撫でし
不敵に待ちわびる龍へと駆け向かう
ーーーーー
「ありえない・・ナニ?あれは・・・」
怪人は己が言いたい事だけを押し付けて
飛び跳ねながら龍へと襲い掛かり殴り合いを始めてしまった
思わず口に出たありえないことは2つ
あの龍、【世界獣】のこと
世界へ神出鬼没に現出し、一定時間のあいだ大暴れした後に露のように消え失せる
世界が見る悪夢、規模の階級は『村落』『城塞』『大陸』・・
まだ上位階位が存在するがあの強大さは少なくとも『大陸級』だ
一騎当千の兵が数十人、準備を整えて討伐にあたる災厄
そんなものが目の前に現れたのが1つめのありえない
・・・2つめは
掠っただけで絶命必至の爪牙の乱撃を真っ向から受け止め殴り返し
一度振るえば村を壊滅させる尻尾の殴打を難なく躱している
激しい闘いが巻き起こした風圧に飛ばされた岩塊が頭上を吹き飛んでいく
単騎で災厄と取っ組み合いをしているあの存在がなによりもありえない
「アレじゃあどっちも怪獣ね・・
本格的に巻き込まれる前に逃げましょうユン!・・・ユン?」
轟々と逆巻く台風の目から離脱しようと相棒の腕を取り
立ち上がらせたまではいいがユンの足は動かない
眼前の光景に竦みあがってしまったのだろうか
「ユン?大丈夫・・?」
そっと覗き込んだ表情は恐怖で蒼白に歪んで・・・いなかった
いや、むしろ・・・
「・・ッ、すごいね!あの人!世界獣と互角・・それ以上だ!」
興奮気味に言う彼の目には憧憬が浮かんでいる
意外だった、ユンは周囲からどんなに非力さを侮られても依頼に失敗しても
自分の力量以上を欲張らず自分に出来る事を出来る範囲で、と
良くも悪くも弁えて生きてきた
その力に固執しないユンがよりにもよって暴力の化身を見て目を輝かせている
「ユンっ!今は呆けてる場合じゃないの!行きましょう!!」
「あの人は、どうしてあそこまで出来るんだろう
亜人達を解放するなんて、口にするだけでも大罪なのに・・・
もしかして天上人様を騙ったのも亜人の為だったのかな」
「ユン、どうしたっていうの・・?」
依然として彼は目の前で食らい合う二頭の化け物から視線を片時も離さない
「あんな能力・・・人族に迎合すれば重宝される筈なのに
虐げられる者の為に世界に立ち向かうなんて
僕には到底できないよ・・まるで物語の勇者みたいだ」
しかも言うに事欠いて、ゆで卵の怪人のようなアレを勇者と混同し始めた
「あんな怪しい姿の勇者が居るわけないでしょッ!!
勇者ってのいうはもっとキラキラして逞しい・・・って
そんなのいいから逃げましょう!」
戦闘の余波で大地に走った亀裂が足下に迫ってきている
もう一刻も猶予はない
強引にユンの腕を引き鉄火場から離れようとしても
尚も彼の足は動かず
遂には
「ソフィナ、僕たちも戦おう!」
「なッ・・・なにを言ってるの!!?」
無謀極まりないことまで言い出した
「アレは世界獣よ!?村落級でも手練れの冒険者が消し飛ぶの!!
いま目の前に居るのは最低でも大陸級、活動時間が無くなるまで逃げるしかないの!」
考えを改めさせようと言葉を尽くすが
「僕は変わりたい」
灯ってしまった決意は消えぬようで
ユンは自分の拳をキツく握り
「ソフィナが非難されている時に違うって叫べる勇気が欲しい
ソフィナを傷つけるものから守り通せる強さが欲しい」
「ここで背を向けたら絶対に手に入らないものなんだ、それは」
儚げで華奢な顔つきが固めた決意に比例するように
いつになく精悍にみえる
(そこまで言ってくれるのは満更でも・・いや、正直凄く嬉しい!
って、いやいやいや!!)
緩む頬を引き上げるように頭を振るい
「で、でも・・いきなりあんな高いハードルに挑まなくったって」
なんとかこの場からだけでも退いてほしい私の懇願は
ユンの笑顔と「それに」と告げられた言葉に遮られ
「僕には最高で最強の剣がついているじゃないか」
「・・・ッッ」
曇りのない澄んだ笑顔で言い切られた
私に向けて一心に捧げられた信頼
これを袖に出来るほど誇りは捨てていない
「はぁ・・わかった、降参。」
「そう言ってくれると思ったよ
さぁ、御手をお姫様」
「はいはい」
急に畏まったユンに苦笑しながら
差し出された手を取ると温かな感触が胸中に広がる
互いの心が繋がり、呼応する身体が光に包まれ
私の本来の姿へと導いていく
【エスパーディオサ・ポゼッション!!】
手に手を取った2つの人影は
男が高らかに叫んだ際に生じた光が収まった後
ただ1人、巨龍を見据え剣を携えた男のみだけが残った
「行こう!僕は英雄になるんだッ!!」
ーーーーー
「・・・・なんだ?いまのは」
龍とのせめぎ合いを幾度か繰り返したとき
夜の闇を払う閃光が周囲に炸裂した
「んぅ”~!なによなによ!いきなり!
あの龍ってば雷まで吐くの!?」
ミィが眩んでしょぼついた目を擦りながら言葉を漏らす
「いいや、龍の仕業じゃない」
目眩ましを防いでくれた仮面のお陰で
眼前の龍から視線を逸らさずに済んだ
放射の予備動作を見逃すほど間抜けではないし
なによりその龍自身も朦朧とした意識を払おうと頭を振っている
光の発生源は正面ではなく
「後ろ・・・、奴らか!!」
既に逃亡したかと思っていた例の2人組
首級に懸かった特権とやらを諦めきれずに刃を向けてきたのだろう
(これ以上は構わんという言い回しが甘かったか?
もう助けも見逃しもしないっつー意味で言ったんだが・・・
どう解釈したにしろ容赦はできんな)
イアの行方を一刻も早く追いたい危急の現在
もはや降りかかる火の粉を握り潰す事に躊躇いは感じなかった
硬めきった拳を背後から迫る人物に打ちつけるべく身構えていると
肩越しに後ろを覗いたミィは戸惑いの声をだした
「ちょいと待った!な、なんか様子が変よ!?」
「連中はずっと変だろ」
俺の醒めた返答にミィは「もぉ~!!」と肩をぱんぱん叩きながら
「で、なくて!!ミィ達を素通りして・・どこ行くのかしら?」
「素通りって、俺の真後ろ取らないと奇襲になんないべ
それにどこ行くってんのよ、俺らの前には・・・」
「まさか・・まさかよね?」
口角を引きつらせるミィと『そんなわけないでしょ』と
顔を見合わせたがそれ以外に考えが及ばない
「やあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
剣を上段に構えドタドタと横を通り過ぎるユン
どうやら予想通り、何をとち狂ったか巨龍に挑みかかるつもりらしい
「アイツ、死ぬ気か?」
剣道も武術の心得もトンと無い自分にもわかるほど
隙だらけな足取りで山の如き龍へ駆け寄っていく
声出し勇往する様は結構なものだが
あれでは剣が届く前に吐息で消し炭にされるのがオチだろう
どんな末路を辿ろうと自分から踏み入った死地
「世話を焼く義理もなし、ついでにこの戦いに埒を開けるチャンスだ!!
しっかり掴まってろよ!ミィ!!」
「なになに!?ちょっと待ちなさいってば!!」
ぐっと身を屈めた俺の様子に慌てて胸元へ滑り込むミィ
「どぉおおおっりゃッッ!!!」
大地を蹴っ飛ばしバネのように龍の頭上へ跳躍する
巨龍の視線は上空のこちらではなく
眼前をちょこまか走る蛮勇の徒にロックオンされている
大きく息を吸い込み肺へ送られた酸素が胸部の火炎袋を煌々と輝かせる
やがて臨界に達した光は胸部から首、喉を逆流し
『オ゛オ゛オ゛ォ゛ォォォォォッッ!!!』
奈落のように開く口から噴き出した
「ぎゃっ!!」
ぴょこっと胸元から顔を出していたミィが
無謀な男の辿る顛末を見てられないとばかりに両手で顔を覆う
だがミィの危惧した惨状が広がることはなく
「はああぁぁぁぁぁぁあッッ!!!!」
真っ直ぐ放射された炎がある一点から四方へと分散していく
炎を散らしている中心部には例の男
ユンが変哲もない凡庸なブロードソードを横に構えて叫んでいる
奇妙な光景だがよくよく観察すると男の周囲に淡色の膜が張っており
直射する炎を受け流している
悲鳴や焼き尽くす手応えを感じぬ龍が
訝し気に眉を怒らせ喉を震わせ続ける
予想外の展開だが決して悪くない
(一瞬、龍の気を引いてくれれば儲けものだったんだが
ここまで釘付けにしてくれるとはな)
跳躍による上昇が終わり
最頂点からの自由落下の浮遊感に身を任せながら
身体全体を捻りあげ右腕を引く
左の掌はギリギリと音を立てて握り締めた右拳に被せ
肩から二の腕、肘、上腕を経て力を流し込むイメージで拳へ蓄積させる
「時の底にて永久に微睡む泡沫の王よ」
「その先触れを我が腕にッッ!!!」
───【副王の指先!!】
『ドズンッ!!』と巨龍の脳天へ振り下ろした肉眼で視認できるほどの重圧力が
角を砕き、勢い止まらず頭蓋を割って炎を吐き散らしていた魔窟を閉口させた
断末魔を上げる暇もなく巨龍は一番損害が大きい頭部から順に塵へと変わっていく
最後に尾の末端の塵が風に乗って吹き消えたのを見届け
「・・なんとかなったか」
「生きた心地しないわよぉ・・最強種なんて初めて見たわ」
肩で大きく呼吸をして異能使用の疲労を抜きながらも
すぐさまイアの行方を追うべくラッセルが向かった方角をぐるりと探す
「あー・・っと、どっちだっけ?」
「えぇ!?あんなにびゃんびゃん跳ね回ってたし方向見失っちゃったわよ!
ま、待ってなさい!お馬に出来るんだから
ミィにだって魔力の残り香を探知できるはずよ!」
わやくちゃと集中し始める胸元のミィの反応を
手近な岩に腰を降ろし待とうと屈んだ時
「ちょっと、こっちにはなにか無いわけ?」
別に忘れていたわけではないが
無事なら無事でそのまま立ち去って欲しかった二人組が
案の定また突っ掛かってきた
「はぁ・・・、なにかってなんだ?
助太刀の礼か?囮にした侘びか?そっちが勝手に乱入してきたんだから
どっちを期待するにしてもお門違いだぞ」
鬱陶しいものを払うように、しっしと手を振り
噛み付かんばかりといった剣幕のソフィナをあしらう
「だとしてもねぇ!結果的に助けてもらったんだから
一言あってもいいでしょ!道理ってものを弁えてないの!?」
(恩着せがましいな・・・)
「あー・・・森での奇襲、さっきの不意討ちで不義理を2回
龍の懐から助けてやった貸しが1つ・・」
二人組に関わった事で被った厄介ごとを
親指、人差し指中指を順に立てて数え
「そんなになにかが欲しいなら
この3回ぶんの迷惑料で払ってやるよ」
「ほらよ」とおざなりに3本の指をソフィナに向ける
「くッ、細かい事をうじうじと・・数え指も変だし
お前、やっぱり怪人ね!」
「なんじゃそら」
「普通の数え指は人差し指中指薬指・・ってやるもんでしょ!
お前のはなんかヘン!」
「ほっとけ」
「んもーッ!おだまりッ!集中できないでしょーがッ!!」
益体もない言い合いに発展しだした口論をミィの一喝が遮る
「あー・・スマン、静かにするしさせとくから続けてくれ」
「・・・静かにさせるですってぇ!?
随分とつけ上がるじゃない!」
売り言葉に買い言葉、たしかに言葉選びが不味かったが
ソフィナは聞き捨てならないとばかりに片眉をぴくりと上げる
「だーーッッ!!だからやめなさいっての!!
それにねぇ!弁えるってならアンタのほうこそでしょ!」
俺の襟元からよじ登って宙に舞ったミィが
物怖じせずにソフィナへ指を差し
「ミィ達の森へずかずか踏み入るわミィの・・」
(おっと!)
「むぐ!」
威勢よく啖呵をきり始めたミィを両手で包んで口元へ引き寄せる
「な!なななな、なによいきなり!
タイミングとムードを知らないの!?アンタ!」
胸元で両の手を握り真っ赤になるミィに
彼女にだけ届く声量で語り掛ける
『奴らにはキミの家族のことは伏せておくんだ』
『え・・・?あっ!ふ、ふん!なによ急に』
俺が伝えたい事をを察し、バツが悪そうに鼻を鳴らすミィ
『森での連中の反応は妖精を初めて目撃したそれだった
つまりミィの妹さんの拐かしに関わっていない筈だ』
『それは・・そうね、妖精捕獲の噂をたよりに
森へ出向いた感じだったわ』
思い起こすように腕を組んだミィがたしかにと首肯する
『妹さんの情報や身柄を質に取られるのは避けたいし
肝心な情報をこっちから出してやる必要はないさ
このまま適当に追い払っちまおう』
『ぅゆ・・・ミィが軽率だったわ、悪かったわね』
『謝るなよ、責めてるんじゃないんだ
俺こそ急に悪かったな』
ミィを解放しようとそっと手を開こうとすると
「お前って・・妖精愛者なの?
変態の中でも下の下だわ」
一連の内緒話を逢引と勘違いでもしたか
ソフィナがドン引きといった冷めた視線を向けてくる
「あ?フェア・・?なんかわかんねーけど
ミィを馬鹿にしたんなら勘弁しねーぞ」
「い、今のはミィってよりアンタの・・・
くぅ・・あいつッ!!」
複雑な表情を浮かべてこちらを見たミィが
ソフィナに向き直りなにやら言い返そうとした瞬間
『『ドスッ!!』』
両者の間に複数の緋色の木箱が鈍い音を立てて落ちてきた
金の金具で縁取られ中央にデカデカとした鍵穴があいている箱
俗にいう宝箱だ
「ぎゃ!なによコレ!」
不意な宝箱の出現に気勢を削がれたミィが短く悲鳴をあげて顔にへばりつく
(これは・・もしかして龍討伐のドロップアイテムか?)
ミィを剥がし、ざっくりと宝箱を観察したが
箱の1つ1つが抱える程に大きい
先を急ぐ身でこんな物は不要
ならば
「おい!そんなに感謝が欲しいならコレを全部くれてやる
ここはそんで満足しとけ。ミィ、探知の続きを頼むよ」
「ん・・まかせなさいッ!」
興味なしと宝箱に背を向けミィに魔力追跡を促し
承知と腕をまくる仕草で探知を再開するミィだったが
「ぼ、僕も報酬が目当てなんじゃありません!僕はっ」
今度は男のほうが口を開き始めた
いい加減ウンザリし「あのなぁ・・」と
苛立ちを含んだ声を滲ませたとき
微かな落下音が耳に聴こえた
落下物はちょうど頭上、咄嗟に手を出しキャッチすると薄い板状の物体
重さはそこまででもない、大きさはA4サイズのノートほどの端末機器だ
「あ~・・・前言撤回、コレだけもらっていくわ」
「全部やるって言った先からそれ?
口約束でもねぇ契約不履行ってのはクズのすることで・・」
「お前らが手にしても意味ねぇんだよコレは」
くどくど文句を垂れるソフィナを黙らせるため
文字が表記されている面を彼女らに向ける
「俺に宛てられた挑戦状だ」
画面には────
『大きな葛籠、ネズミ御殿支部一同
貴方様のご来訪を心よりお待ち申し上げております。』
その場に居る全員がメッセージを読んだことを確認したかのように
端末に幾何学状の光が走った瞬間
周囲も同様、眩い閃光に包まれ
次に瞼を開いた時には
乾いた風に土埃が吹き上がり
割れ砕けたアスファルトの地面に
すっかり傾き、苔の群生地になったビルが生え並んだ
生命が感じられない打ち捨てられた廃都の真ん中
「ここは・・・」
ご丁寧に探すまでもなく招待くださったらしい
(なにからなにまで計算ずくか・・気に入らない)
「ケホっ!な、なにをしたの!?」
どうやらユンとソフィナも巻き込み転送されたらしく
辺りを見回し当惑している
「出迎えは・・なし、か?」
ビルの窓、屋上や物影に気を配るが
人の息遣いは感じられず
矢も鉛玉も飛んでこない
周到に仕組んだ癖に転送地点へ襲撃者を配置しないのは
こちらを見くびっているからだろうか
油断なく周囲の警戒を続けると
風向きの異変に気付く
とある一点へ吸い込まれるように風が集約している
源には地下へと続く深い階段が大口を開けて獲物を待ち望んでいた
「あそこ・・もしかして」
肩に立ち俺の襟を掴んでいるミィの手が僅かに震える
「あぁ、あそこだろうな
お土産は用意してないがお邪魔しようじゃないか」
「そ・・そうよ!調子にのってミィ達をおびき寄せたことを後悔させてやるわ!
それで皆を解放してあげるのよ!」
ぬん!と気合を入れ震えを打ち払うミィに同調し
「・・・上等ッ!財宝を貰い受けにいこうじゃないかッ!!」
渦巻く風にコートの端をたなびかせ
乾いた地面強く踏みしめ闇の奥底へ挑む
ここまでお読みくださった貴方に感謝を
次回の更新をお待ち下されば幸いです




