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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第三章 戦略シミュレーションゲームの歩きかた
34/46

越えちゃいけない一線の越えかた

食休みにぐったりしていると表が(にわ)かに騒がしくなる


先程までの宴会ムードの賑やかさとは違いざわめきが強い


集落中央に据えられた高台に上がったペールさんが状況を説明する

「皆の者どうか、落ち着いて聴いて欲しい」


その一声で動揺が僅かに静まる、全員の視線が己に集まった事を確認すると


「現在集落の外、森の外苑区域に人間の部隊が確認された」


その言葉を聞いた住民の視線がいくつかこちらに向く

無理もない、突然集落に異物(人間)が現れたと思ったら

(はか)ったように襲撃者の来襲、内通していて招き入れたと思うのは極自然な思考だ


「早計な判断をせぬように!」

この状況で何を言っても信じてもらえぬと覚悟した瞬間

場の不穏な空気を制するようにペールさんが一喝する


彼等(ダイスさん達)が森に踏み入ってから今まで

何処かへの合図を目的とした不可思議な素振りが一切なかった事

したがって此度の一件に関りを持たぬ事をペールの名のもとに保証する!」


こちらを見たペールさんは

「申し訳ありません、森に侵入者があった場合

集落まで辿り着けぬように働く監視が居るのです

ミィを助けて頂いた恩人とはいえ集落に人が入るのは前代未聞

影ながらその監視を継続させていました」


ペールさんはすまなそうに頭を下げた


監視役・・全然気づかなかった、なんて事は置いておいて


「いえ当然の自衛手段ですから監視についての謝罪は結構です

加えて、潔白を証明してくれた事に感謝しますが

もしかしたら自分達は無関係ではないのかもしれません」


「それは、彼らが桃郷(人間の街)から差し向けられた追手の可能性・・ですか?」


首肯し、なのでと続け様に提案する

「この集落の位置が正確に知られてしまう前に

自分が迎撃に出向くというのはどうでしょう?」


追手の可能性もあるし先日(のが)した密猟者が仲間を引き連れてきた線もある

責任を取る方法としてはコレが手っ取り早いのだが


反応を待っているとペールさんは暫しの間、考えるように俺をジッと見つめた後


「お願いします、今一度お力をお貸し下さい」


───


ミィの先導で人間の部隊が展開している森の入り口付近へと行軍する


自分達の集落の事を余所者だけに任せてはいられないと

比較的戦闘が得手な獣人族、小鬼族ら数人も同行し歩いている途中


「ん?、ん”ぅ~~~?」

不意に俺の後方を歩いていたシャルが唸り始める


「どうした?人を見つけたのか?」


「いや、違くて・・・ねぇダイスって今なんか不思議な(ちから)使ってる?」


「全然?使ってないよ?」


「そか!んじゃぁっと!」

シャルは槍を取り出し俺の足下付近に穂先を向け

「なんか居るよ!ダイスの影の中!」


「・・・へ?は!?マジッ!?」


足を交互に上げるがそれで影が消える訳もなく

依然シャルは影に切っ先を向けながら


「集落を出た辺からなんか変な気配がすんだよね人間()じゃないのかも知れないけど

黙って他人の影に仕掛けをすんのは失礼じゃない?」


声音は軽いがギリリと音が鳴る程に槍を握りしめている


足下の影は沈黙を保ったまま、数秒待ち返答がない事を確認すると

「ふ~ん、そう・・じゃあちっと挨拶ッ!」


シャルが槍の柄を影へ振り下ろした


瞬間、影が濃くなりスゥっと何かがせり上がり・・


「フッフッフ、拙者の隠形(おんぎょう)を看破するとは見事也(みごとなり)!・・あでッ!!」

姿を現せと振り下ろした槍の腹が影から出て来た脳天へ鈍くヒットする

「ぐぉぉぉ・・オッ!マジいてぇ・・中身(のうみそ)出てそう」


頭を押さえ暫くもんどり打って地面を転がっていた何者かが

ハッ!とこちらを見、汚れを払い何事もなかったように一礼する


「なんだ跳影(とぶかげ)じゃねぇか!そうか長老殿の指示かね?」

同行していた獣人族が謎の人物を指差し得心がいったように笑う


「然り、監視兼連絡役兼護衛の任を託されたでござるよ」

頭頂部にこんもりと膨らんだタンコブを(さす)りながら

影に潜んでいた経緯を説明してくれる


跳影という名前といい着込んだ灰色の和装、所謂(いわゆる)忍び装束

頭巾ですっぽりと左目以外の顔部分を隠している、あれはまさしく


「忍者だ・・・」

「ほう!シノビをご存じ!?結構!実に結構でござるよ!」

ぽむ!と手を合わせ目を開く忍者跳影


(あれ?なんかこの人・・・)


自分は彼に見覚えがある、どうにも詳細を思い出せないが

もしかしたら自分が過去に軽く触ったゲームのキャラクターかもしれない


どうも!と握手を交わしていると、おずおずとシャルが跳影に


「あの・・ごめんなさい!アタシったら良くないものと思ってつい・・」

と、謝罪をし跳影がシャルに


「滅相もござらん!己の影潜の術に驕り、説明を怠った拙者の不徳でござる

まさか見破る御仁がおられると、は・・・」


視線を向けシャルの姿を認めた瞬間

「うっ!ううっ!」


急に前屈みになり再び影に潜り込み

シャルから距離を取った後スゥッと肩から上だけを出し


「低い所から失礼するでござる」


「え?どしたん?アタシなんかした?」


困惑するシャルの横にミィが飛来し


「気にしなくてイイわ、あいつってばドの付く助平だけど

女の子に一切近付けないのよ!好きなのか苦手なのかよくわかんない奴よね」

腰に手を当て凄まじいまでのジト目で跳影を見下ろしている


「失敬な!春画は大好物でござるよ!即物的な粘膜接触ではなく

紙面へと思いを馳せる風流と粋を愉しんでいるんでござるよなぁ~」

やれやれと首を振り戯言を垂れ流しているが


「相変わらず何言ってるかわっかんないわね・・ホレ!」


ひょい!とミィが足を出すと


「う”っ!う”ぅっ!!」

ピクピクと悶えだす


「あんまりうっさかったらこうすれば黙るからね」


「いやアタシはやんないけど・・ま、よろしくね~」


シャルもなにやら厄介な人物と理解したらしく

遠巻きからひらひらと手を振り歩いて行く


「あ~・・行きましょう、か?」

微妙な空気を振り払う為、目的地へ進軍を開始した一団を指差し促すと


「その前に、此度の監視は(おさ)に指示されたものでありますが

それも一重(ひとえ)に集落の皆の心の内の不審を払拭するため

長は既に貴殿らを信ずると腹を決めたようですが皆を説得させる最後の詰めに

拙者へ至近での監視を命じたのでござる

どうか長を悪く思わないで頂きたい事を伏して願います」


「はい、それは勿論です。」


正直、付きっきりで監視される事に少し抵抗があったが

軽く聞いた事情を鑑みても当然の対応だろう


「あ~、でも俺には構いませんけど・・」


「あなや!皆まで申されるな!無論!婦女子の影に潜むなどと

そのやうな不埒な真似致しませぬ!というか出来ませぬでご安心召されよ!」


後方を歩きながら、今までも自分達を監視していたことを打ち明けられる

「最初から?」


「左様、集落近辺の森が些か騒がしかったので様子を見たら

5人組との戦闘の最中でござった」


「あぁ・・あの時」


「例の飛んで逃げた男と女性(にょしょう)の行方は追えなかったでござるが」


徒歩で逃げた3人は自分が処理した、と日常会話のような気軽さで教えられた


告げられた事実に首の辺りが冷える・・いや間違いではないんだ彼の対処は

奴等が逃げおおせたら応援を大挙引き連れてくるに違いない

自分達が殺されかけたから今度は殺す為にそうさせない為に摘むしかないんだ


「・・何か思うところがあるようでござるな」


「!、いや奴らに仲間意識があるとか殺したことを責めるつもりじゃなくて!

俺は、決められなかったから・・・」


判断を下せず見送った、いつでも結果オーライ(なんとかなる)なんて甘い算段では・・


「命を奪う判断を軽々(けいけい)に下せるよりは良いと思うでござるよ

僅かな時なれど拙者は貴殿らを危険は少ないと判断した次第

何が正しいかよりも己の判断を大切にして欲しいでござるよ」


そう真摯に告げられた言葉に礼を伝えたが


理性と思考に厚く張った迷いの雲は晴れないままだった


「ダイスさん!人が確認された地点までそろそろらしいです、行きましょう!」


前方から呼びに来てくれたイアに

「うっ!?」

またもや影に潜り


「・・・これは呪いに似た性分でござる、お気に為されるな」

再び頭の上半分だけ現出させ、忍はバツが悪そうに言った


───


そして比較的に森の入り口から

まだそう離れていない一画に探していた一団を見つける


噂を聞きつけた賞金稼ぎってところだろうか

以前に森で遭遇した連中よりも充実した装備をジャラつかせている


「2,30ってところか、結構な数じゃねぇか・・」


どうする?と互いの顔を見合わせる集落の面々

いざ武装した人間を目の当たりにして怯んでしまった様子だ


悠長に手を(こまね)いてはいられない


「俺が行って追い返そう」

「じゃアタシも~!」


「あ、アンタ達・・」


「元よりそのつもりでここまで来たんだ適当に追い返すさ」

名乗りを上げ、皆を掻き分け前に進み出る俺に槍を肩に預けたシャルも後に続く


木々の間から姿を晒すと一斉に武器を抜き構える襲撃者たち


「前に来た連中よりも手練れ揃いなのかな?」

一番前のゴツイ鎧姿に語り掛けると


「ふん!あんな盗掘者紛いの冒険者と一緒にされては困るな!」

言いながら先端に大きな金属塊が装着された武器を構える


(あれはメイスか・・ご丁寧にトゲまでびっしり付けてまぁ・・)


正面に捉えたメイス男を中心に据え扇状にこちらを取り囲む


「確かに、こないだのと違ってけっこー統率とれてんじゃん?」

囲まれた状況で不敵に笑うシャル


「こんの!舐めやがって!」

右側に陣取っていた男が鋭利な鉄爪でシャルに襲い掛かる


「丸見えなんだよねぇ~ほいほいほい!っと!」

素気無(すげなく)く石突で腹部鳩尾眉間を素早く突き

「おいっしょお!」

人垣へと目がけ蹴り飛ばす


男を受け止めた者も衝撃で気を失っている


「おい!」

「ああ!退け!退けぇ!!」


俺の前に陣取っている鎧が中央後方に声を掛け

控えていた男が撤退命令を下し、異を唱える者も無く一斉に森の外へ走る


「は?」

その綺麗な引き際に虚を突かれてしまった


「おい!」

後を追おうとすると


「やったな!あいつらビビッて逃げて行きやがったぜ!」

「スゴイ!スゴイ!」

隠れていた亜人達が姿を現しシャルの健闘を称える


亜人の皆は一様に笑顔だが俺の胸中に沸いたのは不気味な違和感だった


(荒くれ者とは違う装備を整えた戦士が少なく見ても20人は居た

それがたかだか数人負傷しただけであんなにあっさり退くか?)


「どう思う?」

シャルも腑に落ちない表情で問うてくる

「罠を仕掛けてて追撃した鼻っ柱を叩く気か

撤退したと思わせ油断を誘って転進してくるか、警戒した方がいい」


「心配ねぇって!連中予想外に痛い目見て恐れをなしたんだぜ!

ざまぁみろだ!はっは!」


駄目だ、見せかけの勝利に浮足立って言う事を聞いてくれない

どうも嫌な予感がする


「懸念があるのでござろ?拙者もでござる」

湧く戦勝ムードを崩さぬよう、しかし決して油断していない様子の跳影が

隣で耳打ちしてくる


先程までイアやシャルにドキモジしていた姿は今、微塵も感じられない


「このタイミング、戦力を釣り出して拠点を襲うって策もあるか?

一番怖いのは集落だな・・ここ以外、回り込んで集落に近づく事は?」


「不可能、とは言えないでござるが、森の密度が濃く

容易く侵入は出来ぬ故に可能性は低いかと思いまするが

しからば拙者が斥候に参りましょう、こちらの警戒をお願い申す」


「いや俺も行こう、シャルこっちは頼めるかい?」


「もっち!任していて!」

ブイサインで応えるシャルに頷きイアへも


「何かあったら皆を連れて転移してくれ」


「私も!」

「駄目だ、強行軍になるし空振りの可能性もあるから、な?」


「・・・わかりました、お気をつけて」

手を握ってくるイアの手を握り返し、駆け出す


ーーー


「御仁!健脚でござるな!拙者についてこられる者は稀ですぞ!」


「まぁな!もうちっと速度を上げて貰っても構わないぞ!」

「はっは!頼もしや!・・・む!?」

目を瞑り集中した跳影の様子に嫌な汗が浮かぶ


「どうした!?」

「どうやらこちらが当たりでござるな!この焦げた匂い、奴らめやりおったか!」


顔を上げると夜空に立ち昇る一筋の黒煙


「なッ!?おいおいおい!!バッカやろうがッ!!」


───


「チッ!鬱陶しく伸び散らかしやがって!植物の亜擬でも居やがんのか!?」


「ぶつくさ言って無いで焼き払え!」


「おい!燃料が切れた!ストックをくれ!」


「ほらよ!ったく、生木(なまき)は燃え広がらなくていけねぇや・・・」


急ぎ煙の()()に向かうと

耐火スーツを着込み火炎放射器で森を焼く一団を発見する


「なぁにやってんだぁッ!テメェらぁッ!!」


「うぉッ!?なんだ!?亜擬か!?」


「はぁ、使えねぇ連中だな陽動すら真面(まとも)にこなせねぇのかよ」


「そらしゃーねっしょwGRADE(グレード)5以下のゴミ共をいくら搔き集めたって

糞の役にも立つものかよwだから()の俺達が駆り出されたんだろうが」


「ダラダラとくだらない事をくっちゃべってんじゃッ!ねぇッ!!」

地面を殴りつけ余波で炎を凍らせる


「・・・コイツ、おい!」

「あぁ、ビンゴ~♪まだ残ってくれてて良かったぜ」

「フッ・・ボーナスゲット、だなッ!!」


素早く耐火スーツを脱ぎ捨てた一人が這う程に姿勢を低くし

素早く懐に潜り込み足元へ何かを閃かせる


「グぅッ!?」

瞬間、(かかと)の辺りに鋭い痛みが走り、次いで熱く鈍い痛みに変わり

たまらず膝を突いてしまう


「腱を狙ったんだが裂けなかった、随分と頑丈なことだ」

手で怪しく輝く紫紺の短剣を弄びながら見下ろしてくる眼鏡の男

「ふん!・・・ってぁ!??」


そのまま頭を蹴りつけてくるがグギリという音と共に足を押さえて跳ねる

「な、なんだこいつは!?(ゴーレム)かなにかか!?」


「だっせw」

「やかましい!どんなに硬かろうが()()()の刃が通ったんだ

毒が回り(じき)に死ぬ!」

仲間に揶揄(からか)われた男だが数秒経ち、うんともすんとも言わない俺を不審に見る


「おい!・・・何故死なない!?」


「うるせぇよ・・好き放題しやがっ・・てッ!!」

立ち上がり動けるようになった足で回し蹴る


「お”ぁ!?あ”あ”!?な、なんで?痛い・・痛い痛いッ!!」

咄嗟に腕で胴を庇ったようだが構わず蹴り抜いた

ひしゃげた腕を見て苦痛に絶叫を上げている


『ピィッ!!』


ニヤつきながら様子を見ていた男達の表情が変わり

1人が指笛を吹いた瞬間


『タァァァ!ーーン・・』


風を切り顔の横を掠める物体


(銃弾?外しやがったなッ!どこから・・ッ)


射線から発射地点を探ろうと顔を上げた瞬間ーーー

『ドドドドッ!!』

複数矢が無防備な脇腹へと飛び込んでくる


(さっきのは外したんじゃなく(こっち)を当てる為の陽動か!?)


「チッ!!」

矢を払っている間に足元に霜が走り一気に足を巻き込み凍り付く


「凍り付かせるなんて芸当は儂も得意でねぇ、ひぇっへへ」

離れた位置で髭を伸ばした爺が持っている杖を撫でまわしながらイヤらしく笑う


「こんの程度ッ!!」

バギリと纏わり付く氷塊から足を引き抜くと


「おっせぇ!!」

忍び寄ってきていた男に後頭部を殴られる


「なんだよコイツまじで!手応えナッスィンじゃ・・あっ!やめろッ!」


後ろ手に殴りつけて来た腕を掴み、握力任せで雑に握り潰す


「ギァアアァァァァッ!!」


「ほぉう!やりおるやりおる!そらお代わりだぃ!!」


杖を持つ男が杖を眩く光らせると踏み砕いた氷塊が肥大していく

「う~ん!これぞ厳冬の覇者グロース・フロスティアーを

素材に使ったAA(デュアルエー)クラスの逸品!」


「?」


「おやおや!ご存じない!?極北の地に棲息する蒼氷の精霊!

おぉ!美しきフロスティアー!かの愛を唄いし喉笛を抽出すれば!この通り!!」


お気に入りのコレクションを自慢するように興奮に溶けた顔で杖を振りかざすと

メキメキと更に氷塊が成長し腰の上まで氷に埋まってしまった


「精霊を・・素材に?」


「え”えぃッ!くそったれ!!素材狩りに来たってのにこれじゃ報酬も

怪我の治療でトントンになっちまわぁッ!!」


「いや・・これだけのバケモノだボーナスに()をつけて貰おうじゃないか」


「お前らがここに来た目的は・・・まさか」


「あん?装具の素材になる亜擬を狩りに来たに決まってるだろ?

隠れ潜んでる妖精はレアな亜擬とつるんでる事が多くてな

お前さん、自分を目当てに俺達が集まったとでも?自意識過剰だな」

リーダー格の男が煙草を(くゆ)らせ煙と共に吐き捨てる


「・・っく、ふざ・・・っけ、るなぁぁぁッ!!」


「むぉ!?こ、こやつめ!!止まれ!止まらんか!!こ、氷よ!!っぶぁ!?」


地面から追い縋るように絡みつく氷縄をべギベギと振り払い

氷使いへ肉薄し腹を殴り、下がった後頭部へ拳で追い討とうとした瞬間


拳を止めてしまった



────


「この世界が丸ごとシステム外に!?」


イアから神妙な顔で伝えたい事がある、と告げられた内容に肝を抜かれる


「システムの逸脱現象はバグの影響に限った事ではありません

同じくらい影響力の強い世界の外の存在」


プレイヤー(呼び込まれた現代人)か」


イアは頷き

「ペールさんから御聞きしたお話しでは

余りに天上人という存在が世界に対して干渉を働いています」


「太陽を消した事と・・人間が偉い!

人間以外は命じゃないってゆーふざけたお達し?」

不機嫌そうに腕を組んだシャル

天上人の布いた観念が腹に据えかねているらしい、俺もそうだ


「そうです、万象の世界に当然存在する太陽を消し去り

意図的に特権意識を植え付けられた人間族、貶められた亜人族擬人族

これらの世界とそこに住まう命達が慢性的な異常事態(システムエラー)に晒された結果

この世界そのものがシステムの庇護の外に放り出されてしまっているのだと」


「太陽を消したってとこまでは()()理解できるがな・・

以前はバグが大挙押し寄せてた状況だったらしいし

太陽を消す事と引き換えにバグから身を守れるなら、まぁ・・死ぬより、は」


そこで()()と嫌な考えに思い至る


「世界が丸ごとシステムの外にって事は・・・みんなは・・」


「もし病や不慮の事故、或いは殺された場合この世界の人達は

リポップ(再出現)せずにデリート()を迎えるという事に・・なります」


「なんてこった・・・」

言いながら頭を抱え森で遭遇した荒くれどもを思い出す


(もしあの時、トドメを刺していたら・・俺は、人を・・・)


─────


昨日の会話が頭を(よぎ)り手が止まってしまう


「うぅぅ・・ぶへぇあッ・・オノレェ・・ちと、(こやつ)に注力し過ぎたわい

素材を・・素材を狩って今度は防具を新調せねばッ・・・」


「そ、ざい・・?」


「妖精を()った粉で研磨した防具は衝撃を緩和すると聞く

さすればお前の攻撃なッ!どぉ・・・ッ!?」


口の端から涎を垂らしこの場を切り抜けた後の予定(妄想)を並べ立てる

不快な声の出所()を絞めあげる


思考が灼けていく


食事を共にした集落の住民たち

本当は人間など恐ろしかっただろうに

ぎこちなくも言葉を交わしてくれた皆が


必死に俺達を受け入れようとしてくれたミィの顔が


段々と握力が込もっていく掌を抑えられない


白目に血管を充たし

先程とは違った泡紛れの涎を声にならない声と共に流す眼下の翁


ーー殺してしまう


ーーこのままでは・・・


ーー不味い


ーーどうして?


理性が自分を問い質してくる


それは正しいのか?


怒りのままに進んで良い道ではない


「フーッ!フーッッ!!」

怒りを排熱しようと無理やりに深呼吸をし

指先から少しだけ力を抜く


「げべぁっ!!」


酸素を求め必死に呼吸を始める翁を尻目に

胸中に(わだかま)っていた疑問をぶつける


彼等(亜人達)が何をした?過去に彼等が人類に害を為したのか?

天上人に()()言われただけで確執など無いんだろう?」


首領と思しき男はダルそうに首に手を当て軽く捻り溜め息交じりに


「奴らはなぁ世界(そこ)存在(いる)だけで気に食わないんだよ

なんの道具も使わず空を飛んで異様に速く走って魔法まで使いやがる

そんな気味悪い害虫はなぁ歯向かって来る前に殺して躾けて理解(わか)らせてやんだよ」


「その通り!人こそが世界の中心!自分達が取るに足りぬ害獣であるこッ!?」


再び不快に鳴き始めた

手に掴んでいた()()()


音を発しなくなりダラリと弛緩しそれきり動かなくなった

ここまでお読みくださった貴方に感謝を


最近の投稿エピソードの内容量が多くなりがちで

読んで頂く方に負担が掛かるかも?と

もう少し分割して投稿するか一考している次第です


では次回の更新をお待ち下されば幸いです

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