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サ終世界の歩きかた  作者: 39カラットルビー
第三章 戦略シミュレーションゲームの歩きかた
35/50

サ終世界での生きていきかた


─────


「な~んだ!大したこと無いじゃんね」


森から逃亡した部隊を追撃したシャルは突き立てた槍を傍に、辺りを睥睨する

周囲には冒険者や賞金稼ぎ、計26人が地面に倒れ伏している


打ち負かした無頼漢達を捨て置き、森へ戻ろうと振り返ると


「なに・・アレ・・・」


遠方からも(・)う(・)も(・)う(・)と立ち昇る黒煙


「おーいッ!た、大変だ!森に火が!それとッ!」

必死の形相で走って来た獣人族が叫ぶ

「あ、あの仮面の人が心配だとお嬢さんが行ってしまった!」


「え!?ちょッ!マジかッ!

ちょっとコイツ等(人間達)お願いね!暫くは気絶してっから!」

慌てた(・)た(・)ら(・)を踏む様に地面に突っ掛かりながらも急ぎ駆け出す



息せき切り集落の周辺と思しき区域で

前方に薄桃色の長髪を振り乱しながら走る後ろ姿を確認する


「イアちゃんッ!イアちゃんッ!!」

声を掛けながら距離を詰めていくと


「はぁッ!はぁッ!はぁ・・・はぁ、し、シャルさん・・」


藪を掻き分ける暇(いとま)も煩わしく一心に突き進んだ形跡が

服に纏わり付いた枝葉、葉で切ったであろう血が滲んでいる足から伺える


「イアちゃんッ!血ぃ出てんじゃん!」


「いえッ!今は、はぁ・・ダイスさんのはぁッ・・元へ急ぎましょう!」


「もうっ!少し立ち止まってくれればミィが治してあげるって言ってんのに

全然聞かないのよ!この娘(こ)!」


見るとイアの肩にミィが掴まっている

振り落とされないよう必死だったのかへろへろになっている


「この程度平気です!それよりもダイスさんですッ!」

いつものほにゃっとした雰囲気が消え去り

鬼気迫る表情で先に進もうとするイアに止めても無駄と


「うん、そだね・・行こうッ!」


恐らく自分もイアの事を言えない程に

顔の筋肉が引き攣(つ)っている事を自覚していた


入り口付近の連中は案の定、陽動だった訳で

本命は森に平然と火を放つ輩、森に住まう全ての命へ向かう殺意は明白


(いくら強くなったからって、なんだかんだ人の良いダイスが

本気で殺しに向かってくる相手に立ち向かえるか・・ッ)


心臓が痛い程に脈動し速く!疾く!と急き立てる


あれだけの黒煙を噴いていた筈なのに、そ(・)れ(・)を生んでいる炎は見えない

鬱蒼とした森中だとしても夜の闇の中、近付けば明かりとして分からない筈はない


(ダイスか、あの変な人が上手く消し止めたのかな?それなら良いんだけど・・)


楽観的な考えを胸に茂る木々を抜け出た、その先に広がっていたのは


想像もつかない光景だった



─────


踏み蹴散らした氷塊の残骸に


先程放り投げた

打ち捨てられた枯れ木と見紛う、首が不自然に曲がった翁(おきな)が転がり


足首の傷口に斬撃と共に擦りこまれた猛毒をそ(・)の(・)ま(・)ま(・)返してやった男は

胸を掻き毟り顔の穴という穴から血を垂れ絶命した


残った男は


「やッやめてくれぇぇぇぇえッッ!!!」


抜けた腰で後退(あとずさ)りながら両腕を前方に振り回し


「見るな観るな診るな視るなみるなミルナ!見ないでくれぇぇぇッ!!」


恐慌状態に陥った後、プツリと意識が飛ぶように命潰えた


怒りに呑まれた訳では無い

怒りを言い訳にするには今の自分の思考は不気味なほど透明(クリア)だ


これは他ならぬ自分が選択した事


常識を尊び、手を汚すことを嫌い、見逃した者が

自分と袖すり合った者へ脅威として再来するなら

笑い合った、名を知ってしまった皆の亡骸を前に不甲斐ないと後(のち)に悔やむなら


ーー決めた


ーー定めてしまった


ーー流された訳ではない


ーー後悔もない


ーーけれど



「もう一緒には居られないな・・・」


後ろに立つ馴染みのある気配に振り返る


「ダイス・・さん」


「バグと戦えるって・・そう思って手にしたチカラでやった事がこ(・)れ(・)だ」


「ダイスさんッ!」

脱力した腕をぶら下げ自嘲気味に顎で周囲を示した俺にイアが周りに一瞥もくれず

「ダイスさんダイスさんッ!!わぁぁぁぁぁッ!!!」

目と鼻を決壊させ満身の力を込めて抱き付いてくる


「おい・・イア・・・」

「うあぁぁんあぁああッ!」


形振(なりふ)り構わず走って来てくれたのだろう髪も服も乱れ切っている

仕方がないなと手櫛で髪を梳こうとし、ギクリと止まる


(もう忘れたのか?俺は今しがたこ(・)の(・)手(・)で)


途中まで上げかけ、触れられぬと握り締め降ろしかけた手に触れるものがあった


シャルが俺の拳を両手で包みゆっくりと開きイアの背中にそっと添わせる

瞳に涙が零れる限界まで湛(たた)えたまま


「自分一人で答えを出してさ、アタシ達に一方的に押し付けて

どっか行っちゃうなんてやめてよね・・・アタシだって泣いちゃうんだから」


そのままイアごと抱きしめられる


「ふっくぅッ・・っく・・・ぅぅ」


漏れ聞こえた嗚咽はシャルのものだったのか、或いは・・・



─────


落ち着き半ば・・否、3人に一切の抵抗許されず集落へ連行される


イアシャルの2人は兎も角としてミィにまで襟首を引っ張られた


「再三に渡り窮地を救っていただき一同感謝の念に堪えません」


集落には既にペールさん率いる皆が揃っており

深々と頭を下げられ、口々に礼を告げられる


取り分け先に戻っていた跳影には散々謝罪をされた

曰く、狙撃手の始末に手間取り応援に駆けつけた時には

残りを俺が片付けた後だったと


「己の選択を大事にしろなどと偉そうに説法を垂れてこのザマにて・・

まこと、面目次第もござらぬッ!!」


土下座をしださんばかりの跳影を慌てて止める


「あれは遅かれ早かれ直面した問題で、決して避ける事は出来ない状況だったんだ

俺はこの世界の人間の考えに賛同できない

今思い返してもあ(・)れ(・)以外の選択が思い浮かばないし選ばなかったと思う」


だから、と自分でも何かに踏ん切りをつけるように

「出した答えに後悔は無いんだ」

気持ちを吐露した



その後、疲れているだろうと気遣われ、昨夜世話になった庵に通される


果物に燻した肉など多くの食料を運んでくれる皆に礼を告げ

未(いま)だ落ち着かない気持ちを抱えながらも人心地(ひとごこち)つく


(だけど、話をしない訳にはいかないよな)


ふっ!と気合を一つ息を吐き


「あのさ」

「お別れしませんからねッッ!!」


意を決し切り出した言葉は目の前に陣取った

涙で顔をぐじぐじにしたイアによって食い気味に遮られてしまった


「だ、大体ッ・・なっなん、で一緒に居られないなんて事になるんですかっ!」


「それは・・・」

嗚咽を交え瞳で縋るイアに一瞬、窮したが


「普通は、さ・・そう簡単に取らないんだよ

殺(・)す(・)なんて最悪の手段は・・・」


「・・・」


「説得したり加減して追い返す事も出来たのに、しなかった

ちょっと力を身につけたら調子に乗ってこんな事やらかす奴はな、皆とは・・」

最後まで言い終わる前に横槍が入る


「そんな悪い事なの?ソ(・)レ(・)って」

寝そべり、枕兼頬杖にした右手がほっぺを押しむ(・)に(・)上がらせているが

シャルの眼光は鋭い、まるで納得していないという顔だ

「殺しにきてんだから殺されたって文句ないしょ」


「・・俺は正直、シャルに一番咎められると思っていたんだがな」


「はぁ!?なんで!?」

「俺が今回やった事はヤツ(蒲生)がやった事と同じだろう?」


異能に酔い、傍若無人に他者を傷つけて笑う声がフラッシュバックする


「・・・は?マジで意味わかんない、あん腐れは嬲(なぶ)ってトドメ刺さないわ

戦えない無関係な人達を襲って笑うわの畜生っしょ?」


「力を使って野放図(のほうず)に振舞ってる時点でいっしょ・・」

「全然ちーがーうーっつの!変な言葉使って煙に巻くなし!

大体ねぇ!罪悪感に悩んでる時点でア(・)レ(・)とは別もんでしょうが!」

「罪に思おうが思うまいが本質的にやってる事は同じだって・・ッ!」


「もういいわよッ!」

白熱し言い合いに発展しそうになる寸前にミィが割って入る

「ミィ達を助ける為にしてくれた事なのに喧嘩しないで・・・」


「その通りです」

気付くと入り口にペールさんが立っていた


「失礼、改めてお礼を、と伺ったのですが、お邪魔をする隙が無くて・・」

楚々と一礼したペールさんは丁寧に謝辞を伝え居住まいを正した後


「先程、後悔は無いと仰っていましが、あれは本心からのお言葉でしょうか?

もし心の内からでた言葉でなく周りや御自身を無理に納得させる方便なら・・」


真っ直ぐ俺を見据えて「おやめください」、と・・・


「感情を切り離さないで下さい

どうか御心を痛めないで頂きたいのです

貴方の行動で救われた命を想って何卒、ご自身を許して下さい」



─────


俺はこのまま姿を隠し独自にバグや亜人達を狩る人間を狩る腹積もりでいた


ペールさんに説かれた後、イアにも一方的に捲し立てられた


「私だって色々考えています!

もっと・・・もっともっと!酷い状況を想定しろと言われて!

それでも貴方と共に在り続けたいと答えを既に出していますッ!」


「言われたって、誰に・・・」


「私の居場所は貴方で!貴方の居場所は私で在りたいんですッ!

私が自分の意思で貴方を招いた瞬間からッ!一蓮托生なんですッ!!」


疑問を差し挟む余地もなく涙を流し切(せつ)に訴えるイア

正直、あ(・)あ(・)まで言われて尚も彼女を振り払う事は・・出来なかった



紛糾した話し合いの熱を冷ます為、集落を一望できる小高い丘に腰を下ろす

・・・左右の腕に噛り付くように引っ付いたイアシャルを伴って


「二人とも・・もう居なくなろうとか考えてないから・・・」

「「「駄目ッ!!」」」


(・・・?)

ハモった声が3つある事を不審に思い頭頂部に手をやると

「あッ!ちょッ!コラ!どこ触ってんの!!あむあむあむッ!!」


「お前こそ人様の頭の上で何やってんの・・・あと指を噛むな」

痛くはないがこそばゆい


「まったくさ!もう一緒に居られないな・・じゃないっつの!」

シャルは未だ熱が冷めきらないらしくムクれている

「ガチ殺しにきてる連中を「これこれ、そんな事をしてはいけないよ」なんて

神様じゃあるまいし、円満解決~って出来るわけないじゃん!」


「神様気取り・・・か」


思えばゲーム世界に堕ちて早々に出くわした亜獣人(コボルト)達

あの時は殺されないように必死に戦って戦って生き残った


あの時と変わった事、変わらない事・・・


力を得て生きる術を手に入れた事

だからって傲慢に俯瞰した視点で偉そうに世界を制する事は出来ない


俺は既にこの世界群(サ終世界)に一時的に呼び込まれた異邦人ではない


還る道も逃げる道も己の意志で捨て

生きる世界をここに定めると自分で選び取った


「そうだな、納得できない理不尽には懸命に抗って

大切なものは失わないように必死に戦わなきゃならないんだ

それが、どんな結果になろうとも・・・全能な神じゃあないんだから、な」


「むぅ~?まったまた難しい事考えてんね?下手な考えアレなんだかんね!」


「仮面越しなんだからわかる訳ないだろう、それにアレって・・」

「私はわかりますッ!」


「へぇ~アンタ諺(ことわざ)詳しいのね?ミィに教えてよ」

「いえ!諺はどーでもいいですッ!

私が知ってるのはダイスさんの表情の機微ですッ!」


「なんなんだよこの会話・・・」


すぐに話が脇道に逸れ益体も無い内容に変わっていく


自分はこの時間と人達がとても大切だと思う


これを護る為になら何が相手でも徹底的に戦える


たとえ襲い来る相手の何もかもを奪う事になったとしてもだ


これが、この世界へ命を移し生きていくと決めた


「俺の道だ」


「なんかキメててワロ」

「どおりでいつもより素敵だと思いましたッ!」

「え~?ホントにキメ顔してんの?ミィわかんないんだけどぉ!」


締まらない・・・



─────


人類最至都市 桃郷


天上人拠点施設 天の原 ー最上階ー


摩天楼を見下ろすフードを目深(まぶか)に被った男


「そうですか、退(しりぞ)けられましたか

それなりの力を行使できるという訳ですね」


ぼそぼそと誰となし呟く声に


「勅命下さればいつでも私めが征伐に向かいましょう」

黒服を纏(まと)め上げていた男が膝を突きながら恭しく応える


「ヴァレリーさんの事は頼りにしてます、が。業腹ですが暫くは静観といきましょう

下手に送った兵を逆手に取られて、こちらの居所を探られるのは詰まらないですしね」


「勿体なきお言葉・・ッ!耳朶へ永久(とこしえ)に記憶させましょう」


感動に肩を震わせ顔を伏せる黒服から再び眼下の街へ視線を移し

「まぁ最近はこの世界も安定による停滞が著しいです」


「久々にやり込み甲斐のあるボスキャラが登場したんです、楽しんで討伐しましょう」


暗く、しかし喜悦を含んだ声が部屋に滲み渡った

ここまでお読みくださった貴方に感謝を


次回の更新をお待ち下されば幸いです

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