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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第一章 MMORPG ロストフロンティア・ヴァンガード
12/44

”次”

バグとの死闘から数日が経過した



「結構貯まったなぁ」

「はい!頑張りましたからね!」


あれから何度か採取と売却をして得た革袋一杯の金銭を抱えて

過日の約束通り商店街に赴き、服を取り扱っている店を探す


「今更だけど服売ってる店あるかなぁ・・・どこも鎧しか売ってなかったりして」


少し茶化しながら言う俺に


「いーえ!あります!絶対!多分!」


むふん!とドヤ顔で断言するイア


その根拠の無い自信はなんなんだ


「まぁ着せ替えを楽しむゲームも最近多いし、あると良いな」

「はいッ!」


お目当ての場所は案外早く見つかった

人の良さそうなお婆さんが営む服飾店だ


「わっわっわはぁぁぁ・・・」


イアは陳列された色取り取り(いろとりどり)の服を見比べ

胸に当て、目を輝かせながら選んでいる


(俺はどうするかな・・・)


今までの人生で洒落っ気を出した事が無い自分はどんな服でも構わないのだが


しかし一着をずっと着た切り雀で平気、という程でもない


(動きやすく寝間着としても使えるシャツと・・・

中綿のフードが付いたコートか、下が肌寒いシャツでもこれを羽織れば問題ないか)


あとは替えを含めてインナーを数点手に取り


よし!と購入する商品を抱え、イアが物色してるコーナーへ向かう


紳士物売り場と軽く仕切られた売り場(コーナー)にお目当ての人物を発見したが


「ふんふん、おぉ・・」

服の山に頭を突っ込んで熱心に選んでいる


「良いものはあったかい?」

「にゅあッ!?」


声を掛けると服の山から出ていた尻が飛び上がる


何をやっているんだ・・・


「あはは・・あ!欲しい物決まったんですか?」

折り重なった布達から頭を抜き出し、服を抱えた俺を見て破顔する


「イアはどう?決まったかい?急がなくていいからゆっくり・・」


「大丈夫です!これっ・・で!」

そう言って服の山から取り出したのは

胸元にリボンが付いた白を基調に赤色が映える可愛らしい服だった


「へへ~このお洋服、凄く気に入っちゃいました!」


・・・要所要所ザックリと切れ込みがあり結構露出が多い気がするが

せっかく本人が気に入って選んだ品だし


こちらとしても眼福、野暮は言うまい


それと・・とイアはもう一着もこもこふわふわした服を取り出した


「それは?」

「パジャマです!」

「ほらほら!うさちゃんの耳がついたフードですよ!」


正直自分はパジャマが存在するか半信半疑だったが

山のような品揃えからきっちり自分好みの逸品を見つけ出すとは

女の子の可愛い物への執念は侮り難しだな


可愛いでしょ!と見せびらかしてくるイアを微笑ましく思いながら会計に向かう


服を物色する為、結構店内を引っ掻き回してしまったが

お婆さんはニコニコと会計してくれた


次いで雑貨屋で大きめの背負い袋や干し肉や瓶詰の食料を買い


宿への帰路につく


その途中

古めかしくも立派な建物前を通り過ぎ・・る前に歩みが遅くなった


ギルド連合の建物だ


ギルドの前を通り掛かると小さな後悔が頭で渦を巻き始める



ーーあれが最善だったんだろうか


ーー自分にはもっと何かが出来なかったんだろうか


ーーきちんとバグの説明をしていれば結果は変わったのでは



今更思い悩んだところで詮無い葛藤が湧いては消える


自分にとってこの一件は

決して成功とは言えない結果として心に残った



歩みを鈍らせる思考は手に触れた暖かな感触に中断された


「・・・行きましょう?」

イアが手を握り哀しそうな顔をしている


・・・駄目だ、俺が考え込んだらイアを不安にさせてしまう


もう事は済んでしまったんだ、くよくよしてはいられない


少なくともイアの前では


「あぁ」

握られた手を軽く握り返し歩き始めた


ーーーー


宿に戻り食事を済ませ、もはや当たり前の様にベッドに並んで眠る


布団に潜り暫し経った頃


「・・起きてますか?」

イアがそっと問いかけてきた


「起きてるよ、どうかした?」


「あの・・」

イアは言い辛そうに

「バグの退治、ありがとうございました」


「え?どしたの今更・・」

「えへへ・・言うのちょっと遅かったですかね」

「そういう意味じゃないけど・・ほんとにどうしたの?」


「私は大輔さんにバグの対処をお願いする為にこの世界にお呼びしました」

「そしてあなたは能力を授けられなかったのにも関わらず

そのお願いを聞いてくれました。」


イアの紡ぐ言葉に耳を傾ける


「この世界にはもうバグの反応はありません」


そう言えば聞いておかなければいけない事があった


「バグは次にいつ頃発生するの?」

俺の疑問にイアは言葉を躊躇った様子だったが


「この世界では暫くの間バグは現れないと思います」


比較的に安定した世界なので、あれ以上のバグ発生の心配は少ないらしい


「え?・・・じゃあ」

「はい、大輔さんにはもう元の世界にお帰り頂いても・・」


そうか、自分は晴れてお役御免となったらしい

だが気になる事が1つ


「あのさ、俺が帰った後、イアはどうするの?」

イアは「ぇ」と小さく呟き

「私はこの後は・・えと・・平和に、その」


「嘘。」

「え?」

「まだ一緒に居た時間は短いけど、今イアが嘘ついてるのは判る」

イアは判り易いし、と続ける


「そう、ですか」

「それで?ホントはどうするの?」


「私はこの後、別の世界に渡りバグの処理を続けます」


(・・・?)


「バグ処理を続けるって、それに別世界って・・」


「本来歩いては世界と世界の境界へは辿り着く事は難しいのですが

私には戦闘向きではない能力があるんです」


「戦闘向きじゃないならどうやって?

召喚ってのももう出来ないんだろう?」


「・・・それは」


嘘を言ってもまた看破されると踏んだのだろう

少し沈黙した後、白状するように教えてくれた


「私、大輔さんがバグに立ち向かう姿を見て勇気を貰ったんです

今までは戦う力が無いって事を言い訳にしてました

でも今は生きる為に出来る事を精一杯やってみたいんです!」


「でも、それじゃあ!」


「バグの危険性を理解しているのは私だけです

バグが存在する限り、私が何かしなくては」


「・・その世界を渡るってヤツ、俺も一緒に行けるんだろ?」

「ッ!!駄目です!!これ以上あなたをッ」


「いいじゃないか、確かに俺も戦闘力なんて無いに等しい(カラ)っけつだけどさ

二人でなら出来る事ってのが増えるかもだぜ?」


・・・まぁ屁理屈のようなもんだけど、でも例え

やられても()()()で目覚めるだけだし、盾代わりにはなれるだろう


「でも・・でも・・・」

「俺じゃ大して役に立たんけど今、安全に帰るよりも最後の最後まで・・」

「それが駄目なんですッ!!」


イアが突然抱き付き、搾るように声を出す

「これ以上巻き込んで、例え仮初の身体でも・・あなたの最後を見るのは・・・

耐えられないっ・・・いやぁ・・・っ」


縋り付くイアの華奢な身体が震えている


・・・俺は、イアを(ひと)り放り出しバグの餌食に、なんて考えたくもない。


同じ様にイアも俺がバグやモンスターに八つ裂きになんて

思いたくも見たくもないと思ってくれていたか・・・


俺はそっと抱き留め返し

「分かったよ、じゃあやられないように頑張る、

これでどうだ?それとも俺と一緒も嫌?」


イアは唇を噛み締め、やがて身体の震えが和らいでいくのが伝わってくる


「うぅぅぅ・・・意地悪ッ!!そんな訳ないです!!」


抱き付く力を一際強くし答えてくれた


「一緒に居たいですぅッ!!」



翌朝、長く世話になった宿を引き払い

人気(ひとけ)のない町の片隅にて


「で、世界を渡るってどうやるの?」


「こちらへ」

俺の両手をイアが両手で握り


『  ─────────ッ  』


イアが聞き取れない何らかの言葉を発した瞬間


足下の感覚が無くなり狼狽える俺にイアが


「        」

大丈夫です。と口が動いている


なら、信じるか


繋ぐ手にそっと力を込め頷き目を瞑る


2人の姿が青白く光り一陣の風と共に吹き去って行った


こうして突然町に現れた2人の旅人は訪れた時と同様


突如として世界から姿を消した

           


           ────────────


同刻、ギルド連盟前


キッチリと整えた身なりをした女性が鼻歌を交えながら箒で小路を掃いていた


彼女は始業の前に清掃がてら

早朝から店を開ける近隣住民と挨拶を交わす事を日課としていた


だが少し前まではこの日課がとても憂鬱だったと朧げに記憶している


あれはどうしてだったか



枯れ葉、砂埃を箒で纏めながら

()()数日前の来客を思いだす


ギルドを訪れた彼等は大丈夫だろうか


あの時は間違いと言っていたが

行方が知れなくなった友人知人を心配する日々はとても辛い


もしまた訪れてくれたら今度はもっとお話しを伺おう

だって彼等にはお世話に・・・と


「あら?」

思い、自分で疑問が湧く

彼等とは()()()が初対面のはずだ


けれど何故かそんな気がしない

彼等にはたしか・・・


記憶を手繰ろうとした矢先


「きゃっ!」


突然、少し強い風が枯れ葉が巻き上げ思わず目を瞑ると


青白い光が風を巻き上げ空へ登っていく光景が見えた・・気がした


一瞬だったが不思議な光景だった


「あり・・がとう」

不意にそんな言葉が口を()いて出た


自分で自分の発した言葉に驚き、光の向かった方向を見つめる


女性は暫く空を見上げていたが、

やがて首を傾げまた箒を握り直し日常へと戻っていった。

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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