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入学先の学校へは、自室として住まわせてもらっている屋根裏部屋のあるお店から徒歩+列車で計小一時間ほど。朝六時より少し早めに店を出発して、六時発の電車に乗って、最寄りの聖魔法学城前駅で降りれば、学校は目の前。アイリーンは魔法の地図を辿って毎晩、ベッドの上で確認したのだ。学校が屋根裏部屋から通えることがわかれば、通学の不安はひとつ消える。もうひとつ不安なことがあるとすれば、それは学校の規則で、一年生から全学年、卒業式までは女子は皆、男性の付き添い人が必ず一人必要なところだろう。一二歳で故郷である王都より南を出てこの喫茶店に住み込みでアルバイトをしに来たのだ。同い年の友達は皆王都より南部にいる。喫茶店で働き始めてから知り合った友達などひとりもいない。
「どうしよう。誰もいないんだけど」
ベッドの上で突っ伏していると、ふと、あることを思い出した。
「そうだ! ミス・ユウキの甥さんも、一緒の学校に入学予定だって、この間ミス・ユウキが言っていたわ!」
アイリーンは素早く魔法で電話を召喚すると、結城紗絵に電話した。幸い、結城の甥である山田優三郎も快諾してくれたらしい。電話口から、結城の「優三郎君はどうなの?」という問いかけと、それに対して少年の「おっけー♪」という声が聴こえたのだ。
これから通学路を共に歩く相手の優三郎とは、いったいどんな人物なのだろうか。
受話器から零れる話し声からして、ある程度は融通のきく男のようではあるが――。その辺については通学時のお楽しみ。
「これで通学の問題は全部解決♪ 入学金とか授業料は私が今まで貯めてきた貯金を毎月引き落としにすればいいし、あとは……、特にないな」
入学先での人間関係に関しては、これといった不安はなかった。なぜなら、アイリーンはどんな人も惹きつける魅惑のアイドルウェイトレス。人付き合いに困ったことなど今まで一度たりともない。
「そうと決まれば、準備だな」
呟きながら、召喚した電話を魔法で元の世界へ返す。机の上に置きっぱなしのランタンに手をかざして明かりを灯し、
床の上に置くと、クローゼットからカバンを取り出した。
引き出しから出した魔獣召喚実習用の私服を折りたたんで入れていると、ふと、窓の外が気になった。今夜は雨で一段と冷え込むと、テレビで予報されていたが、今のところ、まだ降っていない。
むしろ、空には星が煌めいている。
「この天気が、入学日まで続いてくれたら良いなぁ……」
暫く眺めてから、アイリーンはカバンに鍵をかけた。
4.
いよいよ入学日当日を迎えた朝。アイリーンはいつも以上に早起きして、身支度を素早く済ませると、セリーナが作ってくれたサンドイッチ入のバスケットと、テキストやノート、羽ペンなどが入っているカバンをとって、元気に出発。
優三郎との待ち合わせ場所である駅前のクレープ屋さんに、一足先に着いた。
コーヒーを頼んで待っていると、2分ほどで、結城が電話で教えてくれた外見の人物が来た。
(七三分けの黒髪に、浅黒い肌、青くて四角いフレームのメガネ、痩せ絞まった体型……。間違いないわ、彼がミスター・ユウザブローだわ!)
心の中でガッツポーズして、立ち上がる。
「アーユー、ミスター・ユウザブロー?」
「イエ~ス。 ユウザブローイズミー」
「やっぱりミスター・ユウザブローね! アイリーンは思わず優三郎の手をとり、握手する。その目はとてもキラキラと輝く。
「なんだ、僕の故郷の国の言語も話せるんじゃないか。安心したよ。僕、外国語は苦手だから」
「そうなのですね! ごめんなさい」
「いいよ。それより、」
優三郎は腕時計を見て言う。
「まだ列車が来るまで時間あるけど、何か頼んだ?」