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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
三章【カルマ・オーバーラン!】
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42話『頭の痛い仕事仲間』

 そしてリキッドネスファミリーの屋敷の貸し与えられた部屋で寝た翌日。

 窓から入ってくる朝日に照らされて、新品同然のメイド服でガッツポーズを決めるイリスがいた。


「メイドロボット、イリス! ここに完全復活です!」


 自信満々で姿を誇るイリスの姿はまるで光り輝いているようにも見える、主に日差しの逆光で。

 同じ部屋で目覚めた靖治は、学生服に袖を通してからイリスにふにゃりと笑いかけた。


「メイド服治ってよかったねー」

「ハイ! やはり見た目が悪いとメイド指数が下がりますから!」

「何よその謎数値」


 頭ゆるゆるな会話を横から聞いていたアリサは、マントや腰のポーチなどを身に着けて、身支度をしながらイリスへ目を向けた。


「寝るだけね直んの? 便利ねー」

「それにただの服じゃありませんよ! これは耐弾耐刃耐熱耐冷の特殊繊維と液体金属を交互に重ねたハイブリットアーマーメイド服。液体金属の作用で服の形状も若干の操作が可能ですから、飛んだり跳ねたり逆さ吊りにされたりしてもスカートが下がらない鉄壁仕様です!」

「まああたしのアグニの前じゃ意味なかったけどねー」

「むぐぐ、それを言われると痛いです……でもアリサさんの能力が規格外すぎるんです、この服は悪くないです! ホントにすごいんですからー!」


 アリサに意地悪な笑い方をされて、イリスは憤慨した両腕を振り回す。

 もどかしそうに眉を曲げる愛らしい彼女に、靖治が優しく語りかけた。


「まあまあ、イリスが特別製なのはわかってるから安心してよ」

「靖治さん……ハイ、ありがとうございます!」


 靖治の一言で、イリスはあっさりと機嫌を取り戻した。


「つーか服より、夜のあいだ一睡もせずにセイジの隣でずっと突っ立ってんのどうにかならないの?」

「ここは一昨日の宿と違い広い部屋ですから、他の人の邪魔にならず気兼ねなく靖治さんの護衛ができました!」

「気兼ねしろ、ずっと真顔で目ん玉光らせてて怖いわ」


 今回、三人がアルフォードから与えられた部屋は元々客室らしく、二つのベッドとソファーが置かれた二人部屋だ。

 一人はソファで寝てくれとのお達しだが、イリスは靖治をそばで見守れればそれでいいということで、ベッドの脇で仁王だって一晩中物理的に目を光らせていたのだ。


「疲れたら休んでも良いんだよ?」

「お気遣いありがとうございます。確かに活動限界が来る前に数時間の情報整理が必要ですが、その時にはそちらのソファで休ませていただきます」

「そっかー、ロボットでも寝るんだ」

「脳内に溜まったデータの整理ですね、人間の睡眠と似ているかもしれません」

「あんたら、いつまでもダベってないで。そろそろ行くわよ」

「はーい」


 アリサが急かす形で、三人は部屋から出てアルフォードの元へ挨拶に行った。

 薄暗い廊下をガッシリした肩幅の構成員たちとすれ違いながら歩き、執務室の前で足を止めて重厚な扉を叩いた。


『誰だ?』

「靖治です。いまよろしいですか?」

『あぁ、入ってくれ』


 応答を受けてからドアノブを回す。


「おはようございまー……」


 ドアを開けて一番に足を踏み入れた靖治だったが、驚いて言葉に詰まった。

 次いで入ってきたイリスは特に動揺を見せなかったが、アリサは靖治と同様に目を丸くする。


 三人を待っていたのは、執務室で大きな机に両肘を着いて手を組んだアルフォードと、机の隣で背を丸めて立っていた、鱗のあるトカゲっぽい姿の人。


「こちらが昨日言っていた新人だ、彼と共に仕事を達成してくれ」

「へ、へぇ……ジャウメナ族のミールです。前はミズホスの部下やってました、よ、よろしくお願いします……」


 ジャケットとズボンを着た見覚えのあるその素形に、靖治とイリスは面食らうのだった。




 ◇ ◆ ◇




 オーサカ・ブリッジシティの川と街の隙間は、船が通れるくらいの空間が確保されている。

 各所にある係留所から街の下に降りることができ、そこから薄暗い川が延々と続いているのを見ることができた。

 そこかしこの街の空白地点から陽の光が差し込んでくるが、そんな場所はごくわずか、他の場所は質の悪い魔力式の照明器具――電力式だと川の水で漏電してしまうからだ――が無造作に点々と設置されている。

 日当たりが悪いせいで陰気な雰囲気だが、おかげで夏場でもひんやりとした空気が、靖治たちを出迎えてくれた。


「うひゃー、広いねー」

「そりゃそうよ。街が混み合ってるってんで、交通船とかも出てるし。その邪魔にならないよう、生活用のパイプラインとかも一箇所にまとめてんのよ」


 そうアリサが説明して親指を立てた方へ視線を向けると、係留所の外周に沿っておびただしいほどのパイプが走っているのが目に入った。普段の生活で使う水はここから汲み取って、あるいは流したりしてるのだ。


「そのまま排水して汚染とか大丈夫なの?」

「ナノマシンバンザイってことよ」

「なるー便利だねー」


 靖治たちに仕事を与えてきたアルフォードは、今回の事件解決のためにファミリーのボートを一つ貸し与えてくれた。

 小さ目だがモーターが着いていてそこそこの速度で走ることができる、靖治が船を覗き見ていると、横からアリサがこっそり声をかけてきた。


「で、どうすんのよアレは――」


 靖治たちが降りてきた階段を、かなり遅れてトボトボと付いてくる一つの影。

 ジャケットを着た爬虫類系の人種、青い鱗を全身にびっしりと生やした姿を靖治はよく知っている、なんせこの世界でイリスの次に見た相手だからだ。

 イリスが倒したミズホスの元部下であり、リキッドネスファミリーの新入りだというミールという名のトカゲ人間だ。


「あの人たちジャウメナ族って言ったんだねー。さっき聞いて初めて知ったよ」

「じゃ、ない! あんた空気とか色々読め!」

「まあ、気まずそうだなーってのはわかるよ。まさかリキッドネスファミリーに雇われに来てたなんてねー」

「ミズホスのやつがおっ死んで、外に身を寄せるとこもなかったんでしょうね」


 普通ならお互いに対応に困るところだ、なんせミールから見ればイリスは憎むべき敵であるだろう。

 しかしそのイリスは、ミールに対してなんの感傷も抱かずに明るい表情で声をかけている。


「ミールさん遅れています、体調が悪いのですか?」

「あ、いや……大丈夫だ、気にすんなよ……」


 イリス本人は、仕事を回すために必要なことだとハキハキ話しかけているが、ミール当人は明らかに萎縮していて見ているだけで痛々しい。

 だが辛い空気を醸し出していた彼は、階段を降りる途中でなにか意を決すると、イリスに向かって叫ぶように言った。


「……なあ、聞きたいことがあるんだ!」

「なんでしょうか?」

「俺の仲間がお前のところに来なかったか……?」

「はい、来ました」


 話の内容に、アリサも険しい顔をして視線を向ける。


「そいつらはどうなって」

「あたしが殺した」


 話に割り込んで、アリサの刺すような言葉がミールの胸に突き刺さった。

 意表を突かれ、目を丸くしたミールは呆然と口を開けたまま目を向けてくる。


「なんで……」

「あいつらがあたしに依頼を持ってきて、あたしが受けた。でも達成することができなくて、結局あたしはクライアントを裏切って皆殺しにした」


 アリサは言い繕ったりせず、ただありのままに事実だけを並べた。

 彼女の姿勢もまた痛々しいが、それがアリサの咎である以上、靖治は何も言わずに黙って見守っていた。


「はは……そ、そうか……しょうがねえなアイツら……」


 声を震わせたミールは、力なく笑って見せて両手をひらひらと振ってみせた。


「き、気にすんなって。そもそも自分たちの復讐を金で肩代わりってのもおかしな話だしよ。殺そうとしてりゃ、殺されもするさ、そりゃ……」


 努めて険悪な空気にならないよう言葉を並べたミールは、大げさに背伸びをして声を上げた。


「そ、それより仕事だ仕事! 俺も早くファミリーに認めてもらいてえからな! よろしく頼むぜ!」

「はい、どうぞよろしく」

「よろしくおねがいします!」

「よーし、じゃあ船に乗らんとな! 船、ふね……」


 張り切ってみせたミールは、ドタドタと足音を立ててボートに走り寄っていく。

 通り抜けていく彼の姿を見ながら、アリサは苦々しい顔をして肩を落としていた。


「き、気まずい……」

「はっはっは、まあなんとかなるよ」

「はい、頑張りましょう!」

「よく笑ってられんねあんたら」


 いつも通りすぎる靖治とイリスを交互に見て、アリサは不安そうに頭を押さえるのだった。

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