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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
二章【栄光のきざはし】
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35話『街中での戦い』

 新たに現れたアルフォードという障害に対し、魔人はイリスへの追撃を止め、火の海の上で静止して睨み合った。

 魔人の内部からアリサが眉間に皺を刻み、憎々しげに声を漏らす。


『アルフォード……来やがったか……』

「余所者同士の争い程度なら静観するが、街にここまで被害を出されたなら話は別だ」


 すでに魔人の猛攻により、辺り一帯の建物は崩壊して川の中に沈んでいる。周辺が退避区域ゆえに幸いにも人的被害はまだないが、このままでは住人にも被害が及ぶだろう。

 アルフォードという男は、現在この大阪を任されている人間だ。このまま見過ごす訳にはいかない。

 ウサミミをしならせたアルフォードは、胸ポケットのポケットチーフを指でいじってアリサを見据える。


「経緯は聞こえていたぞアリサ・グローリー、随分と非道な真似をする女だな」

『あぁそうさ、だから何もかもどうだっていいのさ。全部ぶっ潰して今までのあたしを終いにしてやる』

「フン、子供の駄々は聞くに堪えんな」

『なんだと……?』


 感情的で支離滅裂なアリサに対し、アルフォードは静かに首を振ると、メガネの位置を掛け直して号令を上げた。


「行け、無人兵器部隊。地力を削れ」

『ピポパポパ、命令ヲ受信シマシタ。ラジャ』

『ラジャ』『ラジャ』『ラジャ』『ラジャ』『ラジャ』


 アルフォードの両隣に、警備用の簡易ロボットがその細身な姿を表した。

 次々に同じ言葉を並べながら建物の上に現れたロボットたちは、アリサを中心として取り囲むように円形に陣を張り、十数体のロボが魔人へと銃口を向けた。


『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』


 備えられた機関銃とロケットランチャーが砲火を発して、魔人に対して攻勢を仕掛けた。

 炎でできた魔人の表皮を銃弾が雨あられと突き刺し、更にはロケット弾が無数の爆発を引き起こして、黒煙で魔人の姿がかき消える。

 ビル一つは余裕で打ち壊せるほどの弾幕であったが、煙の中から出てきたのはまったく損傷のない魔人の姿だった。


『チィ、舐めんじゃないわよ!!!』


 こめかみを押さえたアリサが叫ぶと共に、魔人もまた攻撃行動を開始して、半開きの手を無造作に横へ振り抜けた。

 手のひらの軌跡に沿って、炎熱の衝撃波が広がっていき、建物の上に陣取ったロボットたちを次々と討ち滅ぼしていく。

 その衝撃の一波が当然ながらアルフォードの元にも迫りくる、しかし彼はその場を微動だにせず、右手の指に挟んだ短刀を目の前に投げつけて四角の空間に固定すると、それを起点として結界を張った。

 優れた空間術師により作られた障壁は、アルフォードを見事に守り通した。両脇のロボットは壊滅的なダメージを受け、爆発しながら吹き飛んでいったが、アルフォードが立っていたところだけはまったくの無傷。

 一振りで陣形を崩されたのを眺めながら、アルフォードは短刀を引き戻すと、メガネをクイと中指で上げてため息をつく。


「まったく、金をかけて琵琶のファクトリーから仕入れたが、これでは金の無駄だな」


 悠長に話している間にも、魔人を中心に橋の上は大火事だ。天をも焦がすかのような炎があちこちで上がり、巻き上がった火の粉が肌を焦がす。

 まずはこれをどうにかしなければと、アルフォードは両手を足元に当てて力を注ぎ込んだ。


「位相結界展開――丸ごと閉じ込めてやろう!」


 魔人の周囲数百メートルを覆うように景色が歪んだ。アルフォードの空間術式により、火事と魔人だけを微妙にずれた空間に飛ばす気でいるのだ。

 歪んだ空間は徐々に収縮していき、端に触れたところから火の手が消え失せ、焼け焦げた建物の跡だけがその場に残る。

 火の勢いが失われていく中で、とうとう結界が魔人の身を捉えて、その身体を別の空間に飛ばそうと締め上げた。

 結界に肉体を締め付けられた魔人は両腕を閉じて一瞬動きを止めたものの、すぐに鋭い眼光をアルフォードへと飛ばしてきた。


『しゃらくせえ!!』


 魔人が力を込め、体中から炎を発すると力任せに腕を振り回し、アルフォードの結界を跳ね返した。

 結界が崩壊した余波が周囲に撒き散らされ、疾風が吹きすさぶ中で、アルフォードは目元を抑えながら魔人を見据える。


「やるじゃないか。街の中央で暴れられてたら、空間結界も破壊されてたところだな」


 だが火の手は飛ばした。これで生身でも戦いやすくなったところだ。

 焼けた橋の上を一つの影が走り出した。それはでっぷり太った巨漢の影、されどその肉の内に凄まじい鍛錬を練り上げて、手に持った大斧を強く握る。

 防具は肩につけた僅かなアーマーだけ、ほとんど半裸のその男は、豚の頭で大きな鼻を鳴らして息巻いた。


「ブッフォオオオオオオ!!!」


 地上から飛び上がった獣人の男は、無骨な大斧を振りかざし、魔人の腕に斬りかかった。

 力強い斬撃が一閃し、鍛え上げられた膂力を持って魔人の腕を腱に沿って大きく引き裂いた。

 手痛い一撃を受け、魔人の身体がわずかに後退し、切り裂かれた箇所から内に秘めた炎が漏れ出して揺らめく。


 ――オォォォォォォォ!!


 損傷に魔人が悲痛な呻きで空気を揺らす。

 その慟哭を聞きながら、焼け残った橋の上に着地した大男は大野を担いで大口を開いた。


「リキッドネスファミリー、突撃隊長オーガスト・レイジ推参!!!」


 スタンプのような太い鼻をブフゥーと鳴らし、口から伸ばした大きな牙が天を衝く。

 勇ましきブタの獣人、その風貌は人類基準では些か不細工だが、肉体に宿った魂はどこまでも高潔に自らを名乗り上げた。

 斬撃によるダメージを受け、魔人の内部にいるアリサが痛む頭を押さえてオーガスト・レイジを見下ろす。


『クソ、ウワサの猪武者まで来やがったか』


 闘気を込めた斧で切り裂く、ただそれだけのシンプルなバトルスタイルだが、彼がそれまでに退けた敵は数知れず。大阪でも名の知れた戦士だ。現にその攻撃は魔人にも届くと今まさに証明された。

 アルフォードも一息で地上に降り立つと、仲間の隣に肩を並べる。


「いいぞオーガスト。効果はあるようだ、このまま削っていくぞ」


 アルフォードがメガネの下から見据える先には、魔人の内部で頭を押さえて苦しそうな顔をしているアリサがいる。いかに強力な異能者とはいえ能力の泉は無尽蔵ではない、削っていけばいつかは尽きる。

 オーガストは鋭い瞳で魔人から一瞬も気を逸らさないようにしながら、慎重に隣へ話しかけた。


「いつもどおりだ。俺は正面から攻めることしかできん、フォローは任せるぞ」

「わかっている。だが一つ注文だ、メイド服の機械少女を見つけたら、可能な限り援護しろ」

「何故だ」


 妙な条件にオーガストが短く問いただす。このアルフォードは穏健で人の命を顧みるタイプだが、同時に切り捨てる非常さも持ち合わせている。理由もなしにこの状況で、街の危機より優先する男ではない。


「10年前、一度だけファミリーからの依頼で協力した女だが、その時にリキッドネス様が予知を授けられた」

「先代のお気に入りというわけか。いいだろう、請け負ってやる」

「頼んだ」


 オーガストが大斧を両手に構え、アルフォードも数歩下がって短刀を構えてどう来ても対応できるよう臨戦態勢を取った。

 挑む二人を魔人の中から見下ろしながら、アリサは切なそうに顔を歪めて、努めて不敵に口で笑い上げた。


『上等だ、あたしのアグニにぶっ飛ばせないやつなんていないんだからね』

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