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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
二章【栄光のきざはし】
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26話『くすぶるカルマ』

 アリサや靖治たちが食堂にいた頃、砂漠沿いのガレージで陰鬱な空気を漂わせている集団がいた。

 朝方の戦艦騒ぎから逃げ帰ってきた、ミズホスの部下たちトカゲ人間たちだ。

 明かりも付けず、外から入ってくる日の光だけに照らされた薄暗いガレージの中、停車した装甲輸送車の周りで、9名のトカゲ人間が力なく座り込んでいる。


「ボス……やられちまったぁ」


 誰となく呟いた。彼らは次元光の騒ぎの時に一目散に逃げ出したが、守護者の飛来と共にボスであるミズホスを探して引き返した。

 だがそこで見てしまったのだ、メイドの放った光の風がミズホスを空高くへ吹き飛ばす姿を。


「ボスだけじゃねぇよ、他のもみんな死んじまった……」


 戦艦襲撃にはもう9名参加していたが、戦闘から戻ってこない。きっと転移に巻き込まれて死んでしまったのだろう。


 彼らは元々、原始的な生活を営む少数の部族であった。日の出とともに目覚め、獣を狩って木の実を集め、日が暮れれば村に帰り眠りにつく、そんな生活を死ぬまでずっと繰り返す、そう思って生きていた。

 だがある日突然、空から次元光が降りてきて、彼らを集落ごとこのワンダフルワールドへと引きずり込んだ。大きく変わった環境、村はモンスターに襲われ壊滅し、残った者たちで必死に食いつないできた。

 そしてその最後に、戦艦の奪取を狙い、失敗した。このままの生活を続けても先は短い、ならば一発逆転を狙おうという賭けだったのだ。


「俺たちの村で残ったの……たったこんだけ……」

「最初はいっぱいいたのに……」


 最初は30名以上いた仲間たちも、もうこの場にいる9名だけだ。絶望的な状況に、全員とも悲痛な面持ちで黙り込んでいた。

 ここまで彼らを導いてくれたミズホスはもういない、彼らは初めて訪れた場所で親に捨てられた子供のように、道に迷うしかなかった。


「……………………あの女を殺そう」


 長い時間続いた静寂を、ある一人が打ち破った。

 仲間の中から出た言葉に、他のトカゲ人間たちも顔を上げる。


「復讐だ……復讐だよ。他の奴らもボスも、みんな死んじまったのは、戦艦で俺たちの邪魔をしたあの女のせいだ! あの女の殺して、仲間の仇を取るんだよ!」


 燃え滓のようだった彼らは、この言葉で一気に燃え上がり始めた。

 気味の悪いほど不安定な火を眼光に宿し、それまで消沈していた者みな立ち上がり、同じように喉を震わす。


「あぁそうだ! こんなとこまで来て、やられっぱなしじゃ死んじまった仲間たちに申し訳も立たねえ!」

「みんな死んじまったのも、あの女のせいだ! 全部あの女が悪いんだ!!」

「ブッ殺してやる……ブッ殺してやる……!!」

「ま……待てよお前ら!」


 吠えるように言い合いトカゲ人間たちに、ただ一人だけ反対するものがいた。


「お前ら、ちょっとおかしいんじゃないか!? 落ち着けって!」

「なんだよお前、ボスの死を愚弄する気かよ!?」

「そうじゃねえよ! ボスたちがやられて怒るってのは当たり前だ。でも俺らだって散々殺したり奪ったりしてきたんだ、逆にやられるってのはしょうがないことなんじゃないか?」

「はあー!?」


 比較的冷静な意見を出したのは、この中で最も若い男だった。

 人間で言えば20歳前後である彼は、怒り狂った彼らの中で唯一、自分で考えた意見を口にした。


「仇を討ったって腹が膨れるわけじゃねえ、それより俺たちが生き延びるためにできることを探したほうが良いんじゃないのか?」

「ふざけんな! ボスを殺したやつを捨て置いて、のうのうと生きれってのか!?」

「それだっておかしいだろ!? お前らだって元の世界でボスに……ミズホスに何したよ!?」


 いきり立った仲間に、若者は怒鳴り返す。


「俺たちはみんな、ミズホスのことを鬼子だバケモノだって言って馬鹿にして、イジメてたんじゃねえか! それを、こっちに来て頼るあてがないからボスだなんだの祭り上げて、それで今度は仇討ちって……メチャクチャだよ!」


 元々ミズホスは、今言ったように村では排他された存在だったのだ。

 邪神とのあいだに生まれた子であるミズホスのことを、みなが白い目で見て、食べ物や道具を分けず、バケモノと罵って石を投げつけた。

 しかしワンダフルワールドに来てそれが救い主となった。力は強かったし、頭は悪く乱暴だったが人を引っ張っていくカリスマがあった。未知の世界で怯えるトカゲ人間たちを、今日まで引っ張って連れてきたのだ。


 この若者とて、村で過ごしていた頃はミズホスのことを怖がり、同時に彼を擁護すれば仲間はずれになると怖がり、他のものと同様にミズホスに敵意を向けた。

 だがその相手となし崩し的に和解した気になって徒党を組み、殺されれば今度は怒り狂う、そんな主体性のない感情に流れに、どこか違和感を持ったのだ。


「なに言ってんだこのアマちゃんが! そうやってボスに恩があるからこそ、それに報いるんじゃねえか!?」

「恩はあるけどさあ、殺したらそれに報いたことになんのかよ!? なあそれより、この先のことを考えて……」

「ざけんなぁ! 俺たちの邪魔すんなら出てけぇ!」

「そうだそうだ!」


 だがその考えは、他の者達には受け入れられなかった。

 若者は仲間たちに囲まれ、体中を殴りつけられた。

 寄ってたかって痛めつけられた彼は外の砂漠に放り出され、唾を吐き捨てられる。


「うぅ……」

「二度と戻ってくんな!」

「おいそれより行こうぜ、あの女を探すんだ!」


 穏健派の若者を捨て、他のトカゲ人間たちは武器と金を手に、街へ向かっていった。

 唯一残された若者は、その背を見ながらも追いかけることは出来ず、ただ砂を握り込むだけだった。


「……俺だってよぉ、このままじゃ惨めだって思うけどよぅ……だけど殺して殺して、今度は返すっておかしいじゃねえか……」


 自分たちが悪いのはわかる、だがそれでも同胞を殺されて、何も思わないということは出来ない。

 胸の奥で絡まった矛盾を抱えながら、彼は砂漠に伏して涙を流す。


「どうすればいいんだよぉ……俺らはよぉ……」


 呟き応えてくれるものは誰もおらず、彼自身が答えを出さなければならなかった。

・一行後書き

 まだ出番があったトカゲさんたち、あまりろくなことにはならなさそう。

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