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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
二章【栄光のきざはし】
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27話『前途多難のカオリあり』

 靖治の前から去ったアリサは、オーサカ・ブリッジシティの中でも特に活気のあるエリアを歩いていた。

 少ない土地で生きようとするこの世界の街は高い建物が多い。大抵は一回が商店で、二階以降が住居となっており、少し見上げれば布団や洗濯物を干す主婦の姿が目に入る。

 街中には露天を広げている者も多く、商人の客寄せの声があちこちから聞こえてきた。


「安いよ安いよ、こちらのアクセサリー、高名な魔術師による幸運のマジナイ付きだよ」

「怪しいなぁ、本物か?」

「お前試しに買ってみろよ」

「銃のパーツのバラ売りやってるよー。へたってないスプリングいらんかねー? 新品同然のマガジンもあるよー」

「おい店主、このリボルバーのシリンダーを頼む」

「旅に便利な雑貨を取り揃えてますよー、冒険者の方に是非!」


 異能力で戦うアリサに護身道具の類は必要ない、それよりも食料だ。

 売り買いする人々のあいだから、アリサは目ざとく安い保存食を見つけると、すかさず交渉に入った。


「ちょっとおやっさん、干し肉ある?」

「おういいのあるよ、一つ500¥だ」

「500ぅ? 高いわよ、三つ買うから一つ200にしなさいよ」

「そりゃさすがに安すぎだよ、俺らのが干上がっちまう」

「200じゃなきゃ買わねぇー」


 しつこく値切って、数分後には300¥で品物を入手した。

 その他にもいくつかの店で値切りまくって、数々の勝利品を得たアリサは、重くなったバッグを背負い直し再び歩き始める。

 しかし鈍痛が走り左手で頭を押さえた。さっき食堂で怒鳴ったせいなのか、軽くだがズキズキと痛む。

 朝方の戦闘でも少しばかり無茶が過ぎた、その時の負担がまだ残っているのだ。

 今日はもうゆっくり休んだほうが良い。安めの宿を思い出していると、急に行く手に霧が立ち込めてきた。


「これは……」


 活気があった周囲の道から急激の人気が消えていく。ざわめきが消え、すれ違う人もいなくなる、露天の商人も透けるように消えてしまう。

 少し集中して気配を探ると、なにかに覆われているような感触がした。頭が痛い。


「結界……アルフォードのウサミミ野郎か」

「その通りだ、アリサ・グローリー」


 アリサの後ろから声が響いてきて半歩ほど振り向くと、誰もいなくなった道の真中に、メガネを掛けたスラリとした背の高い男が立っていた。獣人の血が混じっており、頭にはウサギの白い耳がピンと伸びている。

 彼はいつもどおり黒いピシッとしたスーツに、左の胸ポケットには折りたたんだ白いハンケチがポケットチーフとして差し込んでいる。

 現在、このオーサカの最大勢力であるリキッドネスファミリーを継いだ現統治者であり、この街の空間結界を行使しているアルフォードという術士だ。


 この霧と不自然に消えた街の住人もこの男の仕業だ、アリサを異なる空間に引きずり込んだのだろう。


「位相結界なんて持ち出しやがって……何の用よ」

「なに、気になったからな。随分と騒いでいたようじゃないか、お前の耳障りな声が届いてきたぞ」

「ふん、盗聴魔が」

「そう言うな、私の耳も使ってやらねば錆びてしまう」


 ウサギの耳をしゃなりとしならせたアルフォードは、本題を話し始めた。


「現在、大阪の情勢は危うい。刺激するようなことはよしてくれ給え」

「気にしなくたって、割に合わない喧嘩はしないわよ」

「ほお、言うじゃないか……砂漠での戦闘はどうした? 我がファミリーの者が、砂漠に行くお前とミズホスたちを見ていたと聞いているが」

「次元光が出たからね、とてもじゃないが抜けさせてもらったわ」

「なるほど、依頼主を裏切ったわけか……ミズホスのやつはそうなって当然だが、お前も意外と薄情……」

「あたしは裏切っちゃいない!!」


 突然、声を張り上げたアリサに、アルフォードも押し黙り、思わず目をしばたかせた。

 アリサは苦虫を噛み潰したような横顔を見せながら、苦しそうな声を食いしばった歯の奥からひねり出す。


「あたしは、裏切ってなんか……そう、先に契約した通りよ」


 過敏な反応を見せるアリサに、アルフォードは「ふむ……」と何かを推し量るような呟きをもらし、左胸のポケットチーフを指でいじった。


「非礼を詫び、今回はこれで引こう。だが忘れるなよアリサ、この街にはまだ私がいて、我々がいて、日常を過ごす人々がいる。いずれ相応しき者が継ぐその日まで、先代が遺したこの街を私たちがお護りする。それを傷つけるようであれば容赦はせんぞ」


 警告を残し、一瞬霧が濃くなったかと思うとすぐに晴れ、後にはアルフォードの姿が忽然と消えていた。

 代わりに街の活気が取り戻され、行き交う人々の姿と声が再びアリサの前に現れた。


「……チッ、厄介なやつに目をつけられたわね」


 アルフォードは話のわからないやつではない、オーサカの先代に似てかなりの穏健派ではあるが、そんな彼でも現在の情勢では敏感にならざるを得ない。

 なにかまかり間違えば敵対する可能性もある、アリサは気に入らなさそうにバッグを背負い直して、再び歩き始めた。


 縮小された街の空間結界の内部で、適当な宿に足を踏み入れた。

 ここは他の客と同部屋だがそのぶん安めだ、今までにも何度か利用している。

 店の受付には、無愛想なおっさん店主が、仏頂面で新聞を眺めていた。

 アリサは前もって用意していたお金を受付に置くと、店主が新聞から視線を上げる。


「いらっしゃい」

「一泊」

「あいよ、どうぞ」


 金を確認してしまうと、店主はすぐに新聞に戻った。

 アリサにはこのくらいの接客がちょうどいい、それ以上言葉をかわさず、無言で宿の奥へと入っていった。

 ドアを開けた先は二段ベッドが四つ並べられた簡素な部屋だ。先客が二人いて、部屋の奥で向かい合って雑談しているようだった。

 全身にピアスで輪っかを付けて入れ墨を彫りまくったどこぞの秘境の部族っぽい若い男と、カウボーイハットをかぶって銃をぶら下げた中年のおっさんだ。

 こんな宿に泊まるようなのは、大体が同業者だろう。


「はは、マジかよ!」

「それでな……おっと、他の客?」


 アリサに気付くなり、ピアスのほうが立ち上がって、ニヤニヤと馬鹿にするように下卑た笑いを浮かべてきた。

 わかりやすい下品さにアリサは思わず舌打ちする。


「チッ、うぜえ」

「どうした嬢ちゃん。こんな安っぽい宿屋にきて、迷子になっちゃったのかい? いけないなぁ、お兄さんが家に送って……」

「おい、止めとけよそいつは」


 帽子の男が止めた時には、20cmほどの大きさの魔人アグニがアリサの目の前に現れて、ピアスの男の鼻っ面を軽く殴りつけた。


「ぐっは!? なんだ、人が親切に話しかけたのに!? やんのかオラァ!?」

「あんたが死にたいってんならやってやってもいいんだけどね」

「だから止めとけって、そいつアリサだぜ」

「えっ、あの噂の!?」

「この世界で人を見かけで判断しちゃいけねぇ。オレァ、今の魔人が機関銃の弾をことごとく防ぐところを見た。お前さん、同じことやれるかい?」

「うっ……」


 帽子の男は歳食ったぶん慎重になった手合いらしく、もう一人をたしなめた。

 ピアスの男も鼻を押さえて、ジリジリと引き下がりアリサから距離を取る。

 失礼な男の代わりに、帽子の男のほうが頭を下げてきた。


「すまねえな、一応コイツなりの親切のつもりだったんだよ」

「だったらあたし以外にやれ、つぎ手ぇ出したら殺すからね」

「こえぇー……」

「だから言ったろ」


 比較的利口な類で楽ができた。アグニをかき消したアリサは近くのベッドのそばにバッグを置くと、靴を脱いでベッドの上に寝転がった。


「ふぅー……ようやっとゆっくりできるわ……」


 頭の痛い出来事は忘れてしばし目を閉じる、このまま晩飯まで昼寝でもしてしまおう。

 疲労していた身体は、すぐに浅い眠りへと入っていった。


 そして小一時間も眠った頃、アリサは鼓膜を叩く音に少しずつ覚醒した。

 近くから声が聞こえる。若い男女の声だ。

 ボヤーッとする頭で、目元をこすりながら起き上がった。


「ふぁ……ねむっ……」

「靖治さんってばあちこち見て回ろうとするんですから、またはぐれるかと思いました!」

「あはは、ごめんごめん。賑やかで面白かったからつい。それにしても剣とか盾とか銃とか色々あったねー! 僕も何か買ってみたいなぁー」

「ブフォッ!?」


 起きて早々、アリサの心の平穏は破られた。

 噴き出して目を丸くするアリサの前では、さっき別れたはずの靖治とリュックを背負ったイリスが和気あいあいと話しながら宿の部屋に入ってくるところだった。


「ん?」

「へ?」

「やばっ!」


 慌ててマントのフードをかぶって顔をそらすが、流石にそんなので隠せるわけがなく、靖治は彼女を見つめるなりパアッと顔を明るくして手を振ってきた。


「アリサ! いやー、奇遇だね! 同じ宿だったんだ」

「アリサ? ダレソレ? ワタシシラナイアルヨ」

「声紋照合、99%の確率で先程の少女だと確認しました!」

「くぅぅ……! こうなったら宿を変え……あーでも、金もったいないしぃ……!」


 裏声まで使ってしまったが、流石に馬鹿っぽすぎたとアリサは羞恥に顔を赤らめてフードを外す。


「いいあんたら! 相部屋なのは許すけど、あたしに関わってくんじゃないわよ! 絶対だからね!」

「えー、色々話そうよー。晩ごはん一緒にどう?」

「死ん! でも! ごめん! よ!」


 部屋の奥ではさっきの男たちが「なんだなんだ?」と興味津々に覗き込んできていて、アリサはこの醜態を見られている状況が恥ずしくって仕方ない。

 業を煮やしたアリサは、再び小さなアグニを作り出すと、それを靖治たちに見せて言った。


「あたしのそばにアグニを番に付けとくんだからね! 妙なことしたら、こいつがあんたらをブッ殺すわよ」

「へえー、さっきの魔人、こんな風に小さくもできるんだ」


 アリサとしては威嚇のつもりだったが、轟々と燃える魔人に、靖治は興味深そうに顔を近づけてきた。


「けっこう応用が効くんだね、番をさせるってことは自律行動するタイプなの?」

「い、いや……普段は遠隔操縦だけど、任せたら勝手に……じゃない! だから話しかけてくんなってのよ!」

「小さいと何だかカワイイなー、触ってみていい?」

「ハッ、火傷してもよかったらね」

「んじゃ遠慮なく、ずあっちい!?」

「靖治さーん!? 大丈夫ですか!?」

「なんでその流れで触るのよ!?」


 一連の流れに、奥の男たちが「プフフッ」と笑いを漏らす。

 帽子の男は「いや失礼」と謝罪したが、ピアスのほうなどはいやらしそうな笑みを浮かべで、馴れ馴れしく話しかけてきた。


「なんだアリサちゃん、噂と違って年相応にカワイイじゃないかよ」

「ああん!?」

「おぉこわ」


 睨みつけたところで、こんなボケとツッコミの応酬の後じゃまったく決まらないらしい。ピアスの男はちょっと大げさに驚くふりをしただけた。


「もう、靖治さん無茶しないで下さい! ちょっとの火傷でも、重大な健康の損失になり得るんですからね!」

「ごめんごめん、でもナノマシンの効果があるんじゃないっけ?」

「確かに、治癒力は高いのでこのくらいなら問題ないですけど、だからっていけません!」

「はは、その通りだね。次からはもうしないよ、火傷って初めてだけど痛いもんだ」


 イリスに怒られて、靖治は火傷した指を振って冷ましながら謝る。

 そして彼は、アリサの向かい側のベッドに腰を下ろした。

・毎回書こうとすると書きたいこと浮かばなかったりしたからやっぱり書きたい時だけ書くことにした気楽に行こうぜ! な一行後書き

 逃げられなかったアリサちゃん、幸薄い系なんです。

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