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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
七章【過去を見るは昏き瞳】
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172話『それは切っても切れない秘密の関係』

風邪引いたぁーん!! しばらく休みます、次いつ投稿か不明。

あとイリス看護ロボなのにトイレ知らないの? とツッコミ受けて「確かに……」ってなったので風邪治ったらちょい書き直します

「よし、実は僕もイリスに食べてもらいたいものがあるんだ」

「私にですか? そのう、あまり感想を言えるかはわかりませんが……」

「いいからいいから、試しにね」


 まだ未熟な味覚に控えめな言葉を言うイリスを席に座らせる。


「ところで、イリス。痛覚は感じられるよね?」

「ハイ! 痛みについては強めに設定されてるようで、靖治さんと会う前から感じてます。と言っても痛みに戸惑っては非効率なので戦闘時はオフにしてますが」

「うん、そっかそっか。それじゃあオンにして待っててね!」


 靖治はそれだけ確かめると、自分の分の食器を重ねて厨房へと飛び込んでいった。

 それをカウンターから見ていた岩おばさんが「ほほう。セイジくん、本当にアレを試すんだね」と興味深げに動向を見ている。

 間もなく靖治が持ち出してきたのは大皿にもられた一つの料理。白米とともに寄せられたドロドロのルーから、あつあつの湯気とともに香辛料が薫るカレーだった。

 メニュー自体は普通のものだが、アリサとナハトを驚かせたのはその色合いだ。それは普通に親しまれるカレーと違いまるで血潮のように赤く、漂ってくる匂いには刺激臭が混ざっており、鼻の奥がツーンとしてむせ返りそうになる。これらの意味するところは一目瞭然だ。


「ちょ、バカセイジこれは……」

「まぁまぁ。一回食べてもらいたくてね、岩おばさんにも手伝ってもらって作ったんだ」


 思わず止めそうになったアリサはさり気なく押さえて、靖治はニコニコと笑顔でカレーを差し出した。

 テーブルに置かれたカレーを、イリスは虹色の瞳でしげしげと見つめ、スプーンを力強く手に握る。


「味の是非はわかりませんが、靖治さんがせっかく作ってくれたものです! 食べましょう!」


 多分この色と匂いの意味がわかっていないのだろう、イリスはこれを単なる好意と受け取った様子で赤い海に挑みかかる。

 心配になるアリサとナハトが、顔を寄せ合って小声で話し合った。


「ちょっと、明らかに危険な色合いなんだけどこれ大丈夫なわけ?」

「さぁ……でもセイジさんにも考えがあるようですし、それに味がわからないならこういうのも大丈夫なのでは……」


 なにせイリスは人間と違う機械で、多分そのことを一番理解してるのは隣にいる靖治だろう。意味もなく食べさせるわけでもあるまい。

 しかしナハトは心配が尽きないという顔で語った。


「でも彼、少しサドっ気ありますよね……」

「あー、たしかに……」


 ニッコリ笑ったままの眼鏡野郎に恐ろしいものを感じながら二人がどうするか迷っていると、イリスは一口目をパクリと行ってしまった。

 アリサとナハトが「あぁ……」と力なく漏らす前で、イリスはも口を動かして味の程を確認する。


「もぐもぐ。今までにない栄養分が検出されてます。いろいろな香辛料を使ったようですね」

「うんうん、頑張って作ったよ」


 何ともない食事風景に見ていた二人がホッとしていると、急にイリスの体がビクンッと跳ねて動きが止まった。

 スプーンを握りしめたまま目を見開いて停止したイリスは、人工肌の顔をみるみるうちに赤くしていき、隠された発汗機能が珠のような汗をひり出してまだら模様を作っていく。

 周りがこれはヤバいと思った直後には、イリスの後頭部辺りがパックリと開かれて、下からポォーッ! と溜まった熱量が蒸気となって放出され、イリスは必死の形相で口の中のものを飲み下すと、すかさず悲鳴を上げた。


「うひぃぃ!? な、なんですかこれぇ!? 痛い! 痛覚センサーに反応を検知……痛いですぅ!?」


 悲痛ながらも奇妙な言葉に、アリサとナハトが「痛い?」と首をかしげる前で、靖治はニコニコと笑顔を絶やさないまま話しかけた


「それは痛いんじゃなくて辛いっていうんだよ」

「辛い!? これが辛いなんですか!?」


 口の中の辛味に苦しんで涙を浮かべたイリスは、カレーをキッと睨みつけると震えるスプーンを突き立てた。

 流石にアリサが立ち上がって止めに入る。


「イリス、ちょっともう止めたほうがいいんじゃ……」

「い、いえ! 食べます!!」


 静止を振り切ったイリスが果敢にカレーをすくって勢いよく食いついた。

 顔を真っ赤にさせて大量の汗を噴出させながらも、それでもイリスは手を止めずに激辛カレーを食べ続ける。


「か、辛い! 辛いです! でもわかる……これが辛いんだってわかります!!」


 目尻に大粒の涙を湛えながらも、イリスは声を震わせて感動を謳い上げる。


「辛い……喉がヒリヒリして、人工の内蔵が熱くなる……辛い、辛い。辛い辛い辛い辛い辛い!!!」


 悲鳴のように連呼して、イリスは夢中になって”食べて”いる。


「辛いです! これが辛さなんですね!! 私はいま、食べるということを実感しています!!」


 これがまた、人の生きる歓びの一つなのだと、感動に打ち震えた声をあげるイリスの目覚ましい成長を、靖治は優しい目で見つめていた。

 不思議に思ったナハトが尋ねる。


「セイジさん、どういうカラクリなんですの?」

「昔、病院に入院してた時に、味覚障害になった人の話を聞いたんだけどね。その人は味がわからなくなっても、辛味は『痛覚』で感じるから味わえたんだってさ。だから食事の美味しさを知るのに辛さが取っ掛かりになるかなって思ってね」


 イリスは人間と同等の痛覚センサーも備えていて、普段はそれをオンにしている。ならば辛さに関しては普通の人と同様の感性をすでに備えているのでは、という仮説を実験したわけだ。

 話を聞いたアリサは感心している。


「はー、なるほど。理屈はわかる、わかるが……」


 のうのうとした笑みを浮かべる靖治を、アリサが白い目で見た。


「それをどうして、こうまで笑顔で食べさせられるかなー、こいつは……」

「アリサさんが腹黒と言うのもわかりますわね……」

「あはははー」


 信じられない男だという非難の視線を靖治が笑って受け流していると、イリスが汗をかきながら顔を向けた。


「これが、これが食べるということ……いえ、普通から若干離れてる気がしますが、これもまた食の歓び……!! 靖治さんありがとうございます!」

「うん、手助けになれたならよかったよ。驚かせちゃってごめんね」

「いえ、唐突だからこその結果ですし。人間と同じように辛さを感じれて、感激です!」


 そう言うとイリスはまた一口パクついて、ジンジンとした辛さに目をぎゅっと瞑って「くぅー、辛い!」と悶えていた。

 今はまだ辛味以外について無頓着であるが、食事自体に歓びを見出し、それを繰り返せばいつしか他の味についても認識が広がっていくかもしれない。その最初の大いなる一歩として、今回のカレーは意味を持っていくことだろう。

 しかしながら辛さにヒーヒー言うイリスに、アリサが心配して声を掛けた。


「イリス、食べるのはいいけどあんま無茶すんじゃないわよ。辛いの食べすぎると後で辛いから」

「大丈夫ですよ。私はロボットですし、内蔵器官も人間より頑丈ですのでこのくらいで異常をきたしたり……はぐぅっ!?」


 得意げな顔をしていたイリスだったが、突如として苦しそうに目を見開くとスプーンを取りこぼす。

 お腹を押さえて動きを止める姿に、靖治たちは目を丸くした。


「どうしたんだい? そこまで辛いのキツかった?」

「い、いえ……それは美味しいんですが、下腹部に謎の不快感が……」

「お腹に?」

「辛いからってもうお腹壊したわけ?」

「ち、違うと思いますが……どうしたのでしょうか……機体をスキャンしても特に異常はないのですが……」


 イリスがさっきまで赤かった顔を今度は青くして、苦しみながら困惑していると、様子を見ていたナハトがおずおずと手を上げた。


「あの一つよろしいですか? これは侮蔑だとか、からかう意図は一切ない上での純粋な疑問なのですが……」


 一拍置き、言葉を続ける。


「イリスさんが食べたものって、どこへ行くのですの?」

「「「あっ……」」」


 全員が何かに気付いて声を漏らした後、お腹をギュルギュル鳴らすイリスを、一行は店の奥にある『ある部屋』まで連れて行って押し込んだ。

 バタンと閉じられた扉の奥からイリスの声が響く。


「こ、これがトイレ……えーと、確か昔に看護した時は……」


 ゴソゴソと何事か聞こえてくる扉から少し離れ、イリス以外の三人は輪になって無事に事が済むのを待つ。


「考えてみれば、当然のことでしたわね……」

「イリスのやつ、ここんとこ料理の練習で味見繰り返してたしね……まさか機械がアレするとは……」

「ちゃんとそういう機能も作るとは。製作者は中々の通だねー、わかってる」

「いやどこがよ」


 顔をしかめるアリサとナハトに対し、靖治のみが深く感心していると、奥から声が聞こえた。


「えっ、えっ!? これで大丈夫でしたっけ……スカート汚れちゃわな……た、助けてくださーい! 誰かぁー!!」


 届いてきた悲鳴に三人が顔を見合わせると、やがて靖治がナハトへ手を合わせて拝む。


「ナハト、頼むよ」

「えぇ!? わ、わたくしがですか……!?」

「流石に男の僕がここで行くのはどうかって思うし……」

「あ、アリサさんは……あなたこそいつも面倒見いいではないですか……! こういう時にこそあなたの優しさが……」

「あたしじゃ手枷邪魔でやりにくいし、アンタのほうが適任でしょ」

「くぅ、どうせわたくしは汚れ仕事がお似合いの女……!!」


 アリサに黒鉄の手枷を見せつけられ、ナハトは歯噛みしながらも結局見捨てられずにイリスの元へと赴き、いつもはのびのびと出している魔力の片翼を消して扉の奥へと入る。


「イリスさん、ではそのまま腰を落として……」

「だ、大丈夫ですか!? これスカート汚れませんか!?」

「ちゃんとやれば大丈夫ですから。ほら、落ち着いて……」

「うぐぅっ!? で、出ます! 出ちゃいそうです!!」

「あぁ、イリスさん落ち着いて!? あぁ……あー! あぁーっ!!」


 締め切られた扉の奥から、悲惨な声が繰り返される。

 凝り固まった眉を揉むアリサの隣で、靖治は神妙な顔でうなずいていた。


「頑張れイリス、それもまた生きるってことだよ」

「いいから、あんたは席戻っとれ」

「はい」

 今回の章のすべては、この時のためにあった。

 そりゃあアレは重要ですよ、銃夢のイド先生だってアレは大切だって言ってるし、デ○モンだってアレするもん。昔はデジモンワールドでトレーニング場を茶色く染めたもんだ……。

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