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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
六章【朝へ向かう夜の狩人】
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148話『そして歩みは止まらせず』

 ナハトは白く整頓された一室で、格調高いソファに座り窓の外を見ていた。

 遺跡から抜け出した先の本物の空にはモコモコの雲がゆっくりと流れていて、森では風に揺れる木々の間を鳥が羽ばたいている。

 のどかな光景に心を現れていると、テーブルの向こうで修道服の女性が傷だらけの手でティーカップに紅茶を淹れてくれた。


「ラベンダーのハーブティー、ワタシのおすすめよ。よかったら飲んでね」


 こうやってナハトを迎えてくれたのは、リリム・エル・イヴという魔王を自称する女性だった。ピンクの髪の毛を揺らしてナハトへふわりと笑いかけてくる。

 拘束したアゲイン・ロッソを連れて行った先で、呼び寄せた()に乗っていたこの女性は、靖治たち一行を招き入れてそれぞれ別の部屋へ通してくれた。


「……ありがとうございます」


 お礼を言ってカップを手に取ると、まず芳香な匂いを鼻腔で味わってから少し口に含む。

 渋みはあるがそこまで強くはない、それでいてよく香りが立っている。


「いい紅茶ですね」

「うっふふ、ありがとう。落ち着く味わいよねぇ。話を聞くと、ナハトちゃんは随分と過酷な旅路だったのね」

「いえ、わたくしが負ってしまったものですから」


 憐憫を振り払うかのように表明したナハトは、茶の水面を見つめながら肩を落とした。


(全部喋ってしまった……)


 このリリム・エル・イヴという女性には、ナハトは過去のことを洗いざらい話してしまっていた、それもまだ靖治たちにも打ち明けてないことまで。

 かつての所業、殺してしまった人のこと、初めてあった人に話す内容ではないのに、つい口が滑った。

 それだけリリムは独特な雰囲気を持った女性だった。ナハトが語るあいだ、少しも嫌な顔をせずに聞いてくれて、その温和な空気を前につい口が滑ったのだ。

 まあ、良かったかも知れないとナハトは考える。今一度過去を振り返るにはいい機会だし、相手が下手に親密な仲でないぶん話しても後には引かない。


「わたくしの仲間たちは?」

「この船の別の部屋で、ワタシの分身とお話し中。みんないい子だわ、優しい子たちね」


 今頃は他のメンバーも同じようにリリムの歓迎を受けていることだろう。


「わたくしが連れてきた彼は、どうなるのですか?」

「アゲイン・ロッソちゃんねぇ~。彼はひとまず空間凍結された後、大気圏を覆う次元光の真下にある船の親機へ搬送されて保存されるわ。それからあとは……決めてないの」

「決めてない?」


 随分と曖昧な言葉にナハトは思わず尋ねてしまう。

 するとリリムは揃えた膝に手を置いて、ゆったりと明るい声で話し始めた。


「ワタシが罪人を集めるようになったのは、現状のこの世界で重度の犯罪者は殺されるしかないからよ。ほら、ワンダフルワールドって社会基盤が脆弱じゃない? 強力な能力者を収容する施設もないし、そうすると殺すしかない。でもそれって良くないことだと思うの」

「それは、罪人に対して……?」

「罪人にとっても、それを捕まえる冒険者にとってもよ」


 それは超越者らしいマクロなものの見方。

 罪人に対しても、それを狩るものに対しても、平等に慈しみ瞳に浮かべながら、リリムは言葉を続ける。


「罪に対して適正な処分を受けられず、ただ一様に殺されるのは酷いことだし、それを実行してしまうことも酷いことよ。例えそれが大義に依ったものでも、殺せばその人の業となる。正しいからと殺し続ければ、人は魂が重くなって立てなくなってしまう。あなたなら、そのことがわかるんじゃないかしら?」

「……はい」


 ナハトは重く頷いて過去を振り返る。かつて神を盲信し、自らの行いを疑わずにいた時だって、殺した人々のことで胸を痛めていた。

 戦争でだって、人を殺す内に心を病んでしまう人がいる。人が人を殺すなど本来あってはいけないことなのだ。例え仕方なかったとしても、殺しはその人を苦しませる。


「人が人を裁くというのは悲しすぎる行為だわ。だからこそ人は神を頼り、法を頼り、裁きの手を人間以外のモノに委ねてきた」


 それは人より長く生きて人を見てきた者だからこそ語る、慈愛に満ちた響きだった。


「だから、ひとまず犯罪者の受け皿を用意しようと思ったの。罪を犯した人が流れ着く場所。彼らを今後どう扱うかはこの世界次第ね。いつか刑法がしっかりしたなら、その法律と照らし合わせて刑罰を与えるかも知れないし、もしワンダフルワールドが進退窮まったならそのまま廃棄処分してしまうか、あるいは無罪放免で解き放つかも知れない。先のことはわからないわ、今はただ集めてるだけ」


 つまりはリリムがやってるのはなんてことないボランティアだ。この難事が続く世界の人々のことを思いやって、ちょっとした手助けで活動しているということらしい。

 大きな器で自然に手を差し伸べられる人柄に、ナハトは靖治とは違う安心感を覚えて微笑んだ。


「リリムさんは不思議な人ですね」

「うっふふ、これでもけっこう長生きだもん。それに人じゃなくて魔王よぉ」


 そう言うとリリムはこれみよがしに服の下から毒々しいまでの黒く仰々しい角と翼、それにソファに収まりきらない分厚い尻尾を伸ばしてきて、広がる威容にナハトは頬を引きつらせた。


「そ、そうですか……魔王……」

「まあ、人間に味方した不良魔王だけれどねぇ。でもおかげでこうやって色んな人と巡り会えて、すっごく楽しいわ♪」


 ナハトは聖騎士として魔王と仲良くするのはどうなんだろうと、ちょっと悩みながら紅茶を口にする。まあワンダフルワールドに来た以上は今更である、ここはそういう土地だと腹をくくるのが健全だろう。

 悪い人、もとい魔王ではないと考え直して、ナハトは少し気になったことを問いかけた。


「その格好……シスターなのですか?」

「そうよ~。ナハトちゃんには見慣れた服装かしら?不思議と世界が違っても様式とかは似てくるものでね、異世界を見ていっても宗教家ではポピュラーな服よ♪」


 リリムは頬に手を当ててうふうふ笑いながら声を弾ませて答えてくれた。

 しかしナハトはこの返答に苦い表情をしてしまう。聞いた手前失礼とはわかっているのだが。

 リリムはそんなナハトに嫌な顔ひとつせず笑みを絶やさないでいてくれた。


「ナハトちゃんは神様のことは苦手?」

「えぇ、少し……」

「そっか。そうよねー、ナハトちゃんみたいな人生なら神様恨んじゃっても仕方ないもの、ワタシなら神様にパンチしちゃうわね! パンチ!」


 軽快に唱えたリリムが傷だらけの拳で勇ましく空を切った。魔王だけあって堂に入ったパンチで、重い風の音がナハトの髪を揺らしてくる。

 職業柄、彼我の戦力差を計算し、ここで彼女に襲われたら多分殺されるなとか思考してしまう。あの尻尾とか自慢の愛刀でも斬るのは難しそうだ。


「リリムさんは、神のことを信じているのですか?」

「うーん、神そのものを信じてると言うより、神様の形を信じてるって感じねぇ」


 リリムは拳を解くと、下顎に人差し指を立てながら一つ一つ整頓して解す。


「ワタシは色んな異世界を旅してきたから、人を救う神様がいるとはあんまり思ってないの。まあ世界によってはそういう神様がいたりすることもあるんだけどね? すっごいパワーを持ってる神様が、たくさんの人を幸せにしてる世界とか」

「へえ……」

「でも彼らも結局は有限というか、永遠にすべてを救えるわけじゃないし、ワタシみたいな世界を渡れる超越者ならなおさら。神はワタシを救いはしない」


 自分を救わないという言葉には、ナハトは酷く共感して頷いた。ナハトはそこに絶望して、信仰を打ち捨てようとしたのだから。

 だがリリムはそのことを嘆くことはせず、ただ愛しさを胸に唇を震わせる。


「でも神様の存在は、人を安心して眠らせてくれる」


 それは子を見守る母のような、あるいは愛しい人の寝顔を見つめる新妻のような、そんな慈愛に満ち溢れた表情だった。

 ナハトはそこに自分とは隔絶した『差』を痛感し、羨ましさに眉を垂らして黙り込む。


「神は最初、祈りによって生まれてくる。世の中には人を利用するために教義も数多くあるけれど、根源的には世よ安らかであれ、父母よ安らかであれ、そんな気持ちが集まってできるのが宗教よ。ワタシはその神様の形が大好きなの。だから神様を信じてるかって言われたらNOで、敬虔な信者かって問われればYESのつもり」


 ――それは彼女がかつて愛した男性が、教えてくれた信仰の在り方だった。

 大樹のように揺るがず芯の通ったありようは、例え世界の終わりが来ても曲げることはできないだろう。


「ナハトちゃんは、まだ神を信じてる?」

「……わかりません。わからないんです。一度わたくしの信仰は裏切られた、でも胸の中に神の存在はわずかに残ってる。それが故に罪悪を感じている。神の教えを覚えているから、わたくしは過去を悔やむことができている。いっそ神を捨ててしまいたいのに、そうするとこの胸の悔恨すら捨ててしまう気がして……」


 ナハトは神の不在に絶望し、形だけの宗教を唾棄した。だがここまで来て自己を振り返ってみると、まだ神への信仰を完全には捨てれていない気がするのだ。

 だって神の教えこそがナハトの『規範』だからだ。朝は早く起き、人を助け、世を思いやる、その原点であり基本こそがアガム教の教義だった。

 そしてまた、その教義こそがナハトの罪を責め立て、後悔させてくれる。


「初めて人を殺したあの日。サリーを殺せと迫られたあの時。わたくしは刃を捨てればよかった。何もかも投げ出して、彼女の手を取って逃げ出せばよかった」


 ナハトはきつく眉を締めた顔を俯かせて自らへと唱える。

 この後悔を捨てたくはなかった。サリーを殺さなければよかったと、心底思っているからこそ、その後悔を繋ぎ止める神という楔を捨てきれなかった。

 結局、ナハトの半生は今まで神への信仰とともにあり、それで紡いだ命なのだから、それを切り捨ててしまえば自分は自分でなくなってしまうのだ。

 大事なものと辛い記憶の狭間でもがくナハトに、リリムが少し心配してくる。


「あまり思い詰めすぎても体に毒よぉ~。話を聞いた限りじゃあなたの力じゃどうにもならなかったみたいだし、時流の一つと諦めてもいいのよ?」

「そうとは思えません。いずれわたくしも、大勢の人を殺してきた罰を受ける時が来るでしょう」

「そう。それがナハトちゃんが進む道だというのなら止めはしないけどぉ。誰しも何らかの使命を持ってるし、そういう使命もあるわよねぇ」


 大きなものの見方をするリリムはナハトの意見を否定はしなかったが、それでナハトは気が紛れるわけでもない。


「本当なら、彼らと共に行くことなど、許されるべきではないのかもしれませんね……聖騎士たらんという願いは別としても、これまでの罪を償うために、人を助け続けないと……」


 ナハトはまた迷い始めていた。靖治たちとともにいることは嬉しいが、果たしてそれで良いのかと。

 そんなナハトの行く末を案じたリリムは、わずかに苦い顔をした後、すぐにまた顔色を明るくして話しかける。


「ところでナハトちゃん、あなたって寿命はどれくらい?」

「じゅ、寿命ですか? さぁ……わたくしの世界で、ハーフエンジェルは前例がありませんから」

「んー、ちょっと動かないでね」


 平手を向けてきたリリムは、ナハトから視線を切って天井を見上げた。


「ノーチラス! 彼女のステータスを解析してくれない?」

『了解した』


 どこからか男のような、それでいて無機質な音声が流れると、白い部屋の隅の様々な場所から光の膜が飛んできてナハトは驚いて身構えた。


「な、なんですこれは!?」

「大丈夫よぉ、ただのスキャニングだから」


 意味をなんとなく飲み込むナハトの体を、光の膜は爪先から翼の先端までなぞっていった。

 リリムの目の前にはスキャンの結果がモニターとして浮かんでおり、その数値を見て感心して眼を見張る。


「おっ、けっこうすごいポテンシャルしてるわね。これなら上手く行けば数千年くらいは生きられそう」

「数千……そんなにもですか……!?」


 いきなり明かされた数字に、ナハトは思わず声を失って口元を覆う。

 剣呑な表情をするナハトに、リリムが首を傾げた。


「あら、けっこうショック?」

「確かに他の天使様方はそれくらい生きているそうですが、わたくしにそう言われても実感がわかないと言うか……そんなに長く生きてどうすればいいのか、少し怖いです」


 数千年など、恐らくはその期間の殆どを一人で過ごすことになる。果たしてそれだけの年月を耐えられるだけの心の強度が自分にあるのか。

 漠然とした不安感に悩ましく眉間を歪ませるナハトに、リリムは泣く子をあやすように優しげな笑みを浮かべた。


「なら年上としてアドバイスしちゃうわ。ナハトちゃん、過去の償いをしたがってるようだけど、その前にまずは靖治くんのこと一生護ってあげなさい」

「へっ?」


 予想だにしない方向に話が飛んで一瞬呆気にとられたナハトだが、話の意味を理解すると慌てて両手を振って言葉を返す。


「い、一生とは……いやでも、自分でもそれは恵まれ過ぎと言うか。そんなことが許されても……」

「いーのいーの。それにさ、ナハトちゃん、彼のこと好きでしょ?」

「す……!?」


 ストレートな物の聞き方にナハトは年甲斐もなく頬を赤らめて言葉に詰まってしまう。


「それはその、好意を寄せてるのはバレバレとは言え率直に聞かれると困るのですが……年上としての威厳が……」

「バレバレなら良いじゃない、答えは?」


 重ねて尋ねられ、ナハトは顔を覆って視線を漂わせながらも、やがて意を決して想いを放った。


「す、好きです……わたくしなどに好かれても迷惑でしょうが……」


 それはあらゆる善悪と外れたところにある、本心から出た純粋で透き通った言霊だった。その言葉をリリムは嬉しげに受け止める。


「ならまずは全部を棚上げして、彼が死ぬまでそばにいてみなさい。償いはそのあと。あなたにはまず自分の心を育てる時間が必要だわ、一人でいても大丈夫なくらい、たくさんの思いでを彼らから貰っちゃいなさいな」


 リリムから思いやりのこもった言葉をかけられ、ナハトはその奥の温もりを感じ入り、手の覆いを降ろして心の真っ白な部分で受け止める。


「彼と共に幸せな時間を過ごして、自分の心を目覚めさせなさい。その時間があなたの力となり、より多くの者を救い、いつか償いになるでしょう。子供が騎士に一足とびにはなれないでしょ? それと同じ。あなたが歩む道にはその段階が必要だわ。神への信仰の是非も今は保留すればいい、捨てられないなら大切に胸にしまっておくといいわ」


 するとリリムは言葉の途中で茶目っ気よくウィンクしながら口の端を吊り上げる。


「それにこれはワタシの持論ですけどね。罪人は罰を受ける必要があっても、それとは別に幸せになる権利はあるって思うの。どれだけ極悪人でもね」


 それは優しさと言うよりも、世の悲惨と嘆きを見てきた者から出た、運命への抵抗のような言葉だった。

 だがそれでもその言葉は、ナハトにとってもわずかな救いになった。

 ナハトの胸に思い出されたのは、紫煙の奇術師が戦いの最後に見せた、人間らしい家族への想いだった。


「……わたくしが捕らえたアゲイン・ロッソ。彼もまた心に傷を追った人でした」

「そうなのねぇ」


 実は、靖治の説得で刃を降ろしたあとも、彼への処遇についてずっとコレで良いのかと悩んでいた。

 彼もまた弱き人だった、そんな彼に自分は他になにかできることがあるんじゃないかと、そんなことを感じていた。力で捕らえ、押さえつけることしか出来ない自分が情けなく感じていた。

 でもそのことに対し、リリムの言葉がどこか答えになった気がした。


 彼もまた、幸せになっていい人だったのだ。それが何か、嬉しい気がする。


「いつかあなたのように、罪を犯した人も助けられるようになりたいですね」


 誰かの幸せを願えるナハトの姿を、リリムは慈しむように見つめていた。


「自分の罪と向き合おうとするあなたの心は素晴らしいわ、まずは自分の未来を信じてみなさいな」




 ◇ ◆ ◇




 リリムとの話が終わり外に出てきた靖治たちは、本物の青空の下でさっきまで自分たちがお邪魔していた船を見上げていた。

 白い体に金の冠をかぶった100メートルほどはある巨大なクジラのような風体が、草むらの上に着陸している。


『当機は量子航行船クアンタムノーチラス号。これより出航します、行き先は次元境界線――次元境界線――』


 船と呼ばれるクジラから、リリムの声がアナウンスのように響き渡る。()などという呼ばれ方をしているが、このクジラは正真正銘生きていた。もっともまともな生物体系から生まれた種ではなく、便宜上クジラの形をとっただけの異質な存在なのだが。

 量子を操る特異能力を使い、量子分裂により薄くなった分身体で次元光を突破して派遣されたこのノーチラス号の子機は、これより大気圏ギリギリの場所に浮かぶ親機へ向かい、そこに捕まえられた犯罪者を送り届け保存する。

 ハグレモノを乗せた白いクジラの船が、靖治たちの眼の前で空へと浮かび上がっていく。

 雄々しい姿を見上げながら、イリスが手土産の菓子入った巾着袋を手に持って、明るい声を上げた。


「優しい人でしたね、お菓子ごちそうになりました! 味はよくわかりませんでしたけど」

「お土産も貰ったね。いやぁ、いい魔王さんだよねぇリリムさん。美人だし」

「鼻の下伸ばしてんじゃねー、よっ!」

「あだっ」


 いつもより二割増しでニヤげ面の靖治にアリサが怒って頭を小突く。

 その隣で、片翼を伸ばしたナハトが何かを思うようにしてずっと船を見上げていた。彼女の視線は、船の操舵室にいるリリムにまで届いていた。

 見上げるナハトの姿を、リリムが舵を手にしながらモニターから覗いていると、ふとノーチラス号が話しかけてきた。


『随分と話し込んでいたな』

「えぇ、シオリちゃんが気にするだけあって面白い因果が集まってるわ」


 リリムも本当はもっと色々手伝ってあげたいところだが、残念ながらそれはできない。

 所詮、次元光を突破してこの世界の内側に来られているリリムは、ノーチラス号による分身体に過ぎない。活動は限定的だし、範疇を超えると自らの存在を保てず自壊してしまう。こうやって向こうから連れてきてもらった犯罪者を収容するので精一杯だ。


『あまり干渉できない身で入れ込みすぎるのはどうかと思うがな。特に彼らは今後、恐らくは様々な難事に……』

「もぉ~、そんなノリの悪い話はノンノン! 可愛い子は愛でなくっちゃ~♪」


 頭のいいことを言うノーチラスに、リリムは世の美しさを語るように声を弾ませた。

 最後に地上にいる新しい友人たちにチラリを目をやり、愛を込めて小さく呟く。


「Good luck……愛しい子たちに良き未来がありますように」


 青空を船が征く。薄まった存在は次元光に囚われず、空の彼方へと今は救われない人を未来へ運ぶ。

 白い姿が遠ざかっているのを眺めて、ナハトは授かった言葉を反芻した。


「自分の未来を信じて……か……」


 自分は弱く、浅ましく、迷ってばかりで償いなどいつできるか知れないけれど、そう言われると信じたくなってくるではないか。

 決心したナハトは振り返ると、横にいる三人に向かって真正面から言葉を発した。


「靖治さん。イリスさん。アリサさん。あなたたちの旅に、わたくしを連れて行ってくれませんか?」


 それを聞いた三人は、それぞれ満足気に笑ったり、驚いたりしていたけれど、すぐに気持ちを受け止めてくれた。


「あぁ、もちろんさ」

「ハイ! 一緒に行きましょうナハトさん!」

「ったく、今更だっての」


 疑問を挟まず迎えてくれる仲間たちに、ナハトは嬉しさを覚えて歩みを共にする。

 清々しい青空の下で、再び人生の旅が始まった。


「さあ行こうか! 旅路は続くよどこまでも!」

「よーし! イリス頑張っちゃいますよー!」

「あんま張り切りすぎないでよね、後でガス欠したらどうすんのよ」

「ふふ、その時はわたくしどもでお助けしましょう」

「尻拭い担当なわけね。あー、かったるい」

「まあまあ、貰ったお菓子でも食べて楽しく行こうよ」

「あっ、私のぶんもアリサさん食べますか? 美味しいらしいですよ、ハイ!」

「別にそういうつもりで言ったんじゃ」

「いらないならわたくしが……」

「いや、いらないとは言ってないって!」

「あっはっは、分けて食べよっか」


 吹き抜ける風と共に、騒がしい声を散らしながら歩いていく。

 幾度の夜を超えてどこまでも、光を目指して進んでいった。

 というわけで六章もなんとか完結できました、作者の電脳ドリルでっす。

 割と最後の方は息切れして休み休みだったけどごめんね! いやまぁ色々大変でさぁ。創作は精神活動なので、元からメンタルふよふよ豆腐な作者には一定を保つのはけっこう難しいわけで。あとたまにソシャゲ。

 なんとか騙し騙しで書いてる感じですけど、おかげで後から「あそこ嗚呼書いときゃよかったー!!」となることも多く……あれ、でもそれ東方で百合SS書いてるころから多々あったからあんまり変わらなくね……? まぁそれも含めて勉強よね、次の小説のために、次の次の小説のために。そう考えて、ちょっとずつ先に進んでる気分で書いてます。

 しかし今回はそれ以外にも単純に力量不足からも反省点も多く。精進したい……まぁそれもいつものことよね!


 振り返ってみると、全体でナハトのメンタルケアにかかってる感じになりましたね。予定通り!

 割と作者の面倒くさい部分を詰め込まれたナハトさん。いろんな側面を持ち、毎回あれこれ迷って、でも気合入ると研ぎ澄まされた刃のように。

 いっつもあーだこーだ悩み捨てきれない彼女を、それでも今後に希望を持たせて書いていけたらいいなぁと思ってます。


 ちょこっと登場したリリムさんとクアンタムノーチラス号とかいう謎クジラは超越者側、つまりはあんまり本編に関わってこない盤外のキャラクターたち。

 悪意とは別のところで動いて、ちょこちょこと頑張ってる人のほっぺた突っついてくるような人たちです。

 彼女らは力があるし、ワンダフルワールドに対してももうちょっとどうにかできそうなもんですけど、何よりも頑張ってる人たちのことを信じてるので、大抵は「がんばれー」って手を振るだけに留める。賑やかしみたいなもんですよ。


 さて、ではまた次の章までお休みいただきます。長めに一週間ほど。

 ちょっとリアルの方でね、精神科から抗うつ剤貰ってみたんで、これ試すと副作用の心配もあるので長めの休みに。

 これで精神状態を良くしてもっと小説を書くのじゃ……フヘヘ……。抗うつ剤の結果、創作から毒が抜けてしまうパターンとか聞きますが、知るかー! もっと自由に色々書きたいんじゃーい!! もっと強く! もっと高く! もっと深く! 叫ぶように!! 踊るように!! 空へ飛び上がって地面に急降下して地層を突き抜けるかのようにフリーダムに!!

 というわけで運が良ければ一週間後のここでまたお会いしましょう!

 六章まで読んで頂きありがとうございました! アデュー!!

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