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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
五章【エゴイストのエンドレスカーニバル】
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121話『合流完了』

 戦いが終わり、敗北したオーガスラッシャーのメンバーはそれぞれ傷だらけの体を引きずられ、戦闘が勃発した最初の地点に引っ張り出されてきた。

 巻き込まれた不幸な隊商が見ている前で、三人のロクでなしが地面に転がされて互いの傷を見合う。


「よーぉ、お前らもやられたかよ」

「ウホ……恐ろしい相手だったウホ」

「いやぁ、イケルと思ったんスけどねー……」


 ウポレは全身の切り傷から血を流し、ケヴィンは真っ黒なスーツの下は大火傷だ。


「ハハ、強えなぁコイツラは」


 グッタリした仲間たちを見ながら、けれどもなぜか嬉しそうにハヤテは笑いを浮かべた。

 三人がロープで厳重に縛り付けられているあいだ、凱旋したはずの靖治たちのパーティでは、イリスの悲鳴が上がっていた。


「もぉー!! 靖治さん何やってるんですかー!! 傷口にうんち練り込んで歩き回るなんて非常識です! 非合理です! 」


 地面にあぐらをかいだ靖治が、糞をねじ込んだ右手を差し出す前で、イリスは慌てふためく。

 イリスは戦闘で乱れた銀髪も直さずに、靖治の惨状を見て泣きそうな顔で応急処置を始めていた。

 水で傷の周りを洗い流し、消毒液をジャバジャバかける行為に靖治も激痛で顔をしかめている。その様子を見ていたナハトが靖治へと頭を下げた。


「申し訳ありませんセイジさん。わたくしの回復魔法が使えればいいのですが、あなたの体にあるナノマシン? というものが拒絶してしまって」

「あー、いいよいいよ。そのナノマシンがあるんだから、それこそほっとけば治るんでしょ?」

「でしょ? じゃないですよ!! いくら回復能力があるからって無茶し過ぎです!!」

「ア、アハハ、ゴメンゴメン」


 眼を鋭くして顔を詰め寄ってくるイリスに、靖治は苦い笑いでごまかそうとする。


「ただ今回は、出しゃばりたくなっちゃってね」

「出しゃばりたくって何なんですか!? そんなワケわかんない理由で手に穴開けたままドンパチしようとか、靖治さんってもしかして馬鹿なんですかぁー!?」

「アッハッハ、まあ馬鹿だよね!」

「笑ってないで! 戦闘は私たちに一任してください!!」

「はーい」


 一通りまくしたてたイリスは「うぅー、こんなに傷の周りを汚して……」と眉を垂れ下げながら丁寧に手当てをしていった。

 イリスの小さくなった背中を眺めて、アリサがため息を吐きながら素足で地面を歩いて言い寄った。


「ったく、あんまイリスに心配掛けさせんじゃないわよ。そいつ昨日の晩から戦い通しなんだからさ」

「昨日から?」


 言われてみれば、イリスのメイド服はハヤテとの戦闘の前からボロボロだった。端っこが破れてたり、ところどころが黒く焦げていたり。

 その疑問にナハトが付け加えた。


「イリスさん、靖治さんとはぐれてしまって落ち込んでいらしたのですが、元気を取り戻してからはわたくしとアリサさんをかばって一晩中一人で戦い抜いて」

「あの青いのが寝てるあいだもひっきりなしに襲ってきてたんだけど、イリスのおかげでまあまあ休めたわ。つってもあんたを助けに、今日敵を蹴散らしながら猛ダッシュしたんで、付き合わされて疲れたんだけど、ったくもー」

「そうなんだ……」


 肩を伸ばしながらかったるそうに言うアリサから視線を外し、靖治はイリスへと向き直る。

 彼女は激戦のあとだというのに、疲れを見せない顔で目を合わせてくれた。


「ありがとうイリス、心配かけてゴメンね」

「いえ! 靖治さんを護り、生かすことが私の使命ですから! それに靖治さんの声が聞こえましたから!」

「僕の声?」


 不思議な話しに聞き返すと、イリスは笑顔で頷いて答えてくれる。


「靖治さんがいなくて、どう走ればいいかわからなくなった私にナハトさんが助言してくれたんです。一人でも、胸の内にいる靖治さんに耳を傾ければ、声が聞こえるって」


 イリスは虹色の瞳を煌めかすと、自分の胸に手を置いて、ゆっくりと心の奥から言葉を引き出した。


「思い出に残る靖治さんの優しい影が、私の力になってくれました」

「そっか……頑張ったね、イリス」


 静かに語るイリスに、靖治が手を伸ばして頭を撫でる。

 銀髪の上から優しく熱を伝えてる柔らかい感触に、イリスは控え目がちにはにかんで白い歯を覗かせた。


「えへへ……」

「エフンッ、エフンッ!」


 いい空気になっているところに、ナハトがわかりやすい咳払いをして割り込んできた。

 ナハトは高い視線から地面に座る靖治へチラチラと目配せしながら、片翼をじれったそうにパタパタと仰いで言葉を漏らす。


「靖治さん? イリスさんばかりに構われてるようですが、先の戦いではわたくしどもも頑張ったわけでして。その辺りのほう振り返っていただければ……」

「ナハト……あんた面倒くさいわね」

「がふっ!?」


 十も年下の男に褒美をねだる聖騎士様に、アリサが渋い顔で苦言を述べて、ナハトは胸を突き刺す痛みに愕然として四つん這いになりうなだれた。


「うぅ……アリサさんの言う通り、どうせわたくしは戦いしか能のない面倒くさい女……!」

「あーあー、戦闘が終わるとすぐこれだ」


 戦ってるあいだは氷のような立ち振舞をしていながら、平時ではうだつの上がらない豆腐メンタルのナハトを見て、アリサが呆れて首を振る。


「あっはっは、ナハトもアリサも助けてくれてありがとう。アリサ、裸足みたいだけど大丈夫?」

「別に、契約した分を働いただけよ。でもブーツは全損したんだからね! 新しい靴はパーティの金で買わせてもらうわよ」


 なんだかんだ靖治以外のパーティはみんな大した傷は負っていない、靖治の右手が一番酷い怪我のようだ。

 みんな無事でよかったと、靖治はズキズキ痛む右手を見ながらも暢気に考える。


「それにしても、よく僕らの場所がわかったね」

「はい、それについては……」

「この我輩! 蒼き騎士の霊、ロムル・エンタリティウスの導きである!」


 突如としてどこからともなく現れた荘厳の顔をした老人が靖治の真ん前に顔を突っ込んできて、イリスやアリサなどは驚いてのけぞった。


「あっ、昨日の青騎士のおじいさんじゃん」

「うむ! その節は世話を掛けたな若人!!」


 昨日、守護者に退治されたばかりのロムルと名乗る巨漢で髭面の老人は、筋肉隆々の体でピシッとポーズを取って、傷跡だらけの力こぶを誇らしく見せつける。

 体の端々から煙のようなものを立ち昇らせる彼は微妙に向こうが透けて見えて、あと何故か一糸まとわぬ姿だった。

 どこも隠さない厳しいマッスル老人を、アリサが激しく唾を散らす。


「いいから何か服着ろー! アグニで燃やすぞテメエ!!」

「何を言うか、幽霊の身となろうと磨き抜かれたこのボディに恥じるところなどどこにもない!!」

「この人が靖治さんを見かけたと言うので、ここまで案内してもらったんですよ」

「へぇー、それでか」


 裸を見せびらかすロムルを前にして、イリスはいつもどおりにこやかな表情を作って教えてくれる。

 うまい具合にイリスが乱入してくれたのは、直前にあったハヤテたちの戦闘を彼が覗いていたからだろう。靖治は幽体となったロムルに頭を下げた。


「ありがとうございます、でも世界征服はもういいんですか?」

「うむ、そちらの方は考えを改めた。それにあの守護者という竜にやられた時に、電撃から強烈なウィルスを注入されてな、もはやあの鎧に込められた願いもまともに機能しまいよ。あと数日中には末端の兵士ともども自壊しよう」


 ロムルは青々しい空を見上げる。その眼はどこか清々しく、邪な気持ちを脱ぎ去ったように透き通っていた。


「まさかあのような巨竜がいようとは……秩序を成すことが使命としていたが、どうやらこの世界に必要なのは我輩のような、思想に依る偏った力ではないようだ、可能性ある若者たちを信じ潔く身を引くとするか」


 全裸で蒼穹を仰ぎ見るロムル、彼は自分の至らぬところを恥じていた。なんであれ討ち倒されたということは、自らの信念にどこか誤りがあったということであろう。

 彼は平和を願っていたし、人々が笑う姿を見たかった。泣いている子に花を一輪手渡しながら、屈託ない笑顔を見せられる、そんな男なのだ。

 かつて故郷の世界が天災で壊滅しかかった時、惑星環境維持システムの基幹ユニットという危険な役目に名乗り出たし、心身ともに研鑽を積み、機能を拡張し続けて自らの手で世界に秩序を敷いた。実際、彼は一度上手くやったのだ。

 故郷の繁栄が星を越えた時に眠りにつき、そしてこの地で目覚めた時に、だから同じことをしようと思ったのだ。それが自惚れかもしれないという考えはあったが、それでも誰かの涙を止められるなら自分が業を背負おうという覚悟を持っていたつもりだった。


 だがその施しの手は払い除けられた、きっとそれはあの大いなる竜の存在だけのためではあるまい。この世界そのものの性質であり、人々の求めるところが我ではなかったということだ。人々を助けられないことは悔しいが、これこそが傲慢というものなのであろう。

 この世界の住人は神に等しい存在には頼らず、自らの足で傷つきながらも進んでいくのだ。そのことがロムルにいは痛ましく感じるが、それでも人々がその道を往くというのならば信じようと、彼は身軽な体で思考していた。


「どうやらこの世界に問われるのは矜持や高貴さではないようだの。頑張れよ若者たちよ、老兵が追いやられるならば、未来はお前たちの手にこそあるのだ。いつか本懐を遂げる日を信じて進むのだぞ……」

「何かこの爺さん、それらしい感じの出してるけどマッパだから全然しまらねぇ……」

「そっちの趣味がお有りなのでしょうか。まぁいますわよねそういう殿方も」

「そうなんですか? 靖治さんも脱ぎます? あっ、でも体が冷えるのはよくありませんよ!」

「アハハ、僕は遠慮しとくよ。見せるより見たい派だし」


 神妙な顔をする全裸のムキムキ爺さんに。


「さてと、あっちはどうかな……」


 靖治は立ち上がると、縛り上げられたオーガスラッシャーの面々へと顔を向けた。


ぬっほぅ、ホントは今回で区切りつけたかったけど、調子悪くて短めになっちゃったよゆかてん。

次で多分今回の章はラストですゆかてん。

次の投稿はいつもどおり明後日になりますゆかてん。ゆかてんはいいぞ!

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