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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
五章【エゴイストのエンドレスカーニバル】
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107話『死よりもなお恐ろしいケモノ』

 気絶から目覚めた靖治を取り囲んでいたのは、タクティカルベストを着た狼の獣人に、アロハシャツのゴリラ、青っぽい機械系のパワードスーツをまとった鷹の鳥人と、バラエティあふれる集団だった。

 靖治本人は身ぐるみを剥がれてからロープにより縛り付けられており、オレンジのシャツとズボンの姿になって山中で座らされていた。

 靴底を合わせた両足の上に両手首が置かれて手足を結び合わされていて、膝も閉じたまま縛られているため手足を動かしてもまったく身動きが取れない。自由なのは手の指が精々で、そこから脱出の糸口を掴む技術は靖治にはなかった。


 そこから周囲の地形をぐるっと見渡す。旅に不慣れな靖治に周囲の山から元いた場所を割り出すのは難しかったが、山に倒れた巨大な青鎧の姿は視認できた。

 どうやら世界を征服しようとしていた青騎士はすでに倒され、守護者が飛び去った後らしい。

 イリスたちとの位置関係は見当がつかない。自身は孤立無援の状況に立たされていると来た。


 自分の置かれた立場を確認する靖治の目の前で、いたいけな少年を捕まえた三人の獣集団は気ままな様子だ。

 狼の獣人がタバコに火を付けてヤニを吸い込む後ろで、ゴリラと鳥人が靖治のバックパックを勝手に漁って中身を見ているようだった。


「おぉーい、壊さないでねー」


 靖治の呼びかけも無視し、無言で荷漁りは続けられる。中に入っていた食料や着替え、寝袋などが地面の上に並べられ、一つ一つ真剣に探られている。

 狼の獣人が煙を浮かべながら、荷物を検分していた二人へと振り向いた。


「おうウポレ、ケヴィン、面白いもんはあったか?」

「霊的な力を感じるモノはないウホ。至って普通の旅人の荷物ウホね」

「こっちも大体同じっすねー、武器もそこらで売ってる拳銃ッスよ」


 何やら動きが妙だ。拘束されてるところから野盗の類かもと思ったが、何かを探しているようなそぶりだ。


「でもこっちの学生服はけっこうスゲーっすよ、特殊繊維で耐弾耐刃なんでもござれッス。あと腕時計がハイテクッスね、でも連携する機器がないとただの時計ッス」

「そうか、っつーことは手がかりはこいつだけだな」


 再び靖治を見下ろしてきた狼男は口から煙を吐き出して空に浮かべると、腰を落としたヤンキー座りで目線を合わせて話しかけてきた。


「ようガキよ、ご機嫌いかがかな?」

「あなたたちのおかげで、身動き取れない以外は快適ですよ」

「へへっ、そうかい。そいつはけっこう」


 靖治の言葉は皮肉なようでもあるが、実際この状況下ではこの獣人たちによって、山に住まう害獣やモンスターから守られていると言っても良いのだから、靖治としては本心だ。

 嫌味なく言い切った靖治は、眼の前にいる灰色の毛むくじゃらな顔が誰なのか考えていると、過去の記憶から思い当たるものがあった。


「そういうあなたは……もしかして、大阪砂漠の戦艦で、イリスを撃った人?」

「イリス?」

「ほら、虹の瞳が綺麗なロボットで、メイド服のかわい子ちゃん」

「おーおー、アイツかあのトンチキメイド! イリスっつーのか、初めて名前聞いたぜ」


 ズケズケとした物言いで膝を叩いた狼男は、長い口に加えたタバコを摘み上げ、靖治を真正面から睨みつけてきた。


「そうその通り! あそこでトカゲ共と共同戦線を張って、銃ぶっ放してた一人がこのオレ、ハヤテだ。っつーことはお前は、あの戦艦で守られてたガキに違えねえな」

「そうだけど、それがどうしましたか?」


 最初に靖治が長い冷凍睡眠から解放された時にいた砂漠に浮く病院戦艦で、戦艦の奪取を目的として襲いかかってきた者たちの一味。

 嫌な予感がするなーと思いながら靖治が尋ねると、帰ってきた答えはいかにもなものだった。


「単刀直入に言うぜ、オレらの目的は閉鎖された東京への侵入経路だ。オメーがその鍵になるってことは掴んでるんだ、大人しく白状しな」


 なるほどわかりやすい、と靖治は胸の内で頷いた。彼らの真意がどこにあるのかはわからないが、東京への手がかりを欲して靖治を尋問しようとしているのだ。

 だとすれば、ただ偶然鉢合わせただけとは考えにくい、恐らくは靖治の後を追って捕まえに来たのだろう。もしここで運よく靖治が逃げ出せたとしても、彼らは執拗に追いかけてくる可能性が高い。


 東京と言えば、次元光による文明の崩壊以降、異世界の神と手を取り合うことで急速に復興し、大きな壁を建てて安全を確立した巨大都市だ。

 しかし靖治がコールドスリープで眠っているあいだに崩壊から復興した都市は、管理AIの暴走から機械により虐殺が起き、現在は人っ子一人残っていないとイリスが言っていた。

 靖治としても幾分謎が残る地だ。もしかしたらこの狼男の言う通り、自分は何かしらの手がかりを秘めているかも知れないと靖治も思う。


 しかしここで疑問なのが、ハヤテという狼男たちが実勢に靖治のことをどこまで知っているのかだ。まず白状しろと言われたって、靖治自身が知っている情報など非常に少ない、しかしまるでそれ以上の決定的な秘密を掴んでいるかのような口ぶりだ。

 単に大げさな態度が身に染み付いている性格か、それとも意識的にブラフを張ってきているのか。


「東京? 随分と前に閉鎖された場所に、どんな用があるんですか?」

「ククッ、とっ捕まりながら悠長に質問返しか? のんきなもんだな。おいケヴィン、手伝えよ!」

「ヘイッス~」


 靖治の問いは無視され、名を呼ばれたらしい鷹の鳥人は青色のパワードスーツをガシャガシャ鳴らしながら靖治に近づいてきた。

 ケヴィンは機械の鎧に包まれた手で靖治の持ち物である拳銃グロックを持ち、スライドを引いて銃弾を装填すると、持ち主のこめかみに銃口を突きつけてきた。

 乱暴に突きつけられるゴツゴツした硬さを感じながら、靖治は眉を少しも動かさずにハヤテを見つめ続ける。


「お尋ねするのはこっちからだ、お前は質問に答えるだけ、オーケィ?」

「それはどうかな。僕を殺したら、それこそ何も得られず本末転倒じゃない?」

「とは限らねえ。お前のDNA情報だけでもなんかの手がかりになるかもなぁ。あるいは指紋と眼球だけえぐり取って東京に持ってけば入り口の鍵になるかもしんねぇ。オレらとしちゃ試してみる価値はあるぜ?」


 ハヤテは短くなったタバコの火を靴で踏んで消しながら、一度も靖治から目をそらさない。

 露骨な脅しを重ねるハヤテの眼は、さっきからずっとおかしそうに笑っている。笑っていながら揺らがず乱れず、ただの一度としていかな精神的な動揺を見せない。

 それは単に自分優位な状況に浸っているのとは違う、その眼はもっと別のものを見ているようにも思える。

 軽薄な鈍い輝きを秘めた瞳を見つめながら、靖治はこの狼男はその気になれば、何でもやる手合だと直感的に理解した。


 白を選ぶか黒を選ぶか、その判断に迷う中間の部分が限りなく薄い人間というのはいる。

 靖治も同じようなタイプだからわかるのだが、そういう性格の人間は直前までは反対のことを言いながら、ちょっとでも条件が揃って意見を変えれば迷わず行動するのだ。さっきまで殺すそぶりをまったく見せなかったとしても、やるほうが有効となればあっさり引き金を引く、眼の前の狼男はそういうタイプな気がする。

 つまりは危険な輩だ。下手な揺さぶりをかけたところですぐには怒ったりしないが、それ故に油断させるのは難しい。


「とは言えアッサリ殺すのも芸がねえな。じゃあこうしよう、おめえは何を言ってもいいが、オレらが嘘だって思ったり怪しんだりするたびに、指を一本ずつ吹っ飛ばす。腹の探り合いは歓迎するぜ? 代償はデカイがな」


 ハヤテの提案に合わせてケヴィンが跪くと、今度は銃口を靖治の固定された手元へと向けてきた。

 指に当てられる銃口からヒンヤリした感触を感じる。

 いきなり脳髄に弾丸をぶち込まれるマシなようにも見えるが、靖治は余計に状況が悪くなっている気しかしない。相手共は面白がっているのだ。情報を求めながら、舌なめずりと共にわざと隙を見せて、靖治がどこまであがけるのかを間近で見物したがっている。

 何ならこの状況が逆転されたって良いのだと、彼らは思っているのだろう。刺激のためなら自分の命だって賭けたって良いと、そういう手合なのだ。


 だが期待して貰っているところ悪いが、靖治には舌戦で一分の隙も見せずに相手を騙くらかせるほど技量はない。ここで指を落とされたらこの先不便だ。

 不利な状況下、仕方ないなと決断した靖治は、つらつらと自己紹介を始めた。


「万葉靖治、そろそろ16歳。お察しの通り、東京から来た人間ですよ」

「ほぉ……」


 靖治は銃の硬さを指に覚えながら顔色を変えずに、尋ねられたことを明瞭に答えた。

 冷静に言うことに従った靖治を見て、ハヤテが細長い狼の口の奥から静かに息を漏らし、眼を鋭くさせて睨みつけてくる。


「だけど白状しろと言われても僕が知ってることは殆どありません。なんせずっとコールドスリープで眠り続けてた昔の人間ですからね。あっ、コールドスリープってわかります?」

「もちろんわかるともさ。プックククク、なるほど。お前の読みは大当たりだなケヴィン」


 ハヤテが一度ケヴィンを見て嬉しそうに笑うと、すぐにまた靖治に刃のような切れた視線を向けてくる。


「ならお前が冷凍睡眠に入ったのはどれくらい前だ?」

「およそ1000年前」

「1000年っつーと……次元光が発生しだした頃合いじゃねえか!! ハハッ!!! どっちだ!? 次元光の後か前か!?」

「前です。僕は旧文明が発達してた頃の名残ですよ」

「ハッハッハッハ!!! おもしれえ人生送ってんじゃねえかお前!!!」


 的確に重要な情報を掘り出したハヤテは、驚くべき靖治の経歴を聞くと、さも愉快そうに目元を手で覆って大きな笑い声を空に上げた。

 残りゴリラと鳥人も顔を見合わせて、靖治の話を楽しんで聞いているようだ。


「ふへー、1000年ものんびり眠ってたなんて、のんびりで羨ましいッスねー。オレっちもそんだけ寝てみてー、キーッ」

「数奇な運命の持ち主は、それだけ人と違う世界を自身の眼に映して生きるウホ」


 脳天気なことを言う鳥人のケヴィンと、何やら意味深な言葉をつぶやくゴリラのウポレ。

 二人のつぶやく傍らで、ハヤテが目尻に涙を浮かべつつも、指の隙間から靖治を見つめてきた。


「クックック。良かったなぁおめえさん、目覚めた先がこんな世界でよぉ?」

「えぇ、まったくもってその通りです。おかげで毎日が楽しい」

「ほぉ……?」


 口の端をにんまり吊り上げたハヤテは、再び靖治への尋問へと戻る。


「なら聞くぜ。オレの知ってる話じゃ、300年前に東京内部との連絡が途絶した! 何があった?」

「わからないですね。僕はただ眠ってただけ。都市の管理AIが暴走して虐殺が起きたとは聞きましたけど、それ以上は不明ですよ」

「誰から聞いた?」

「イリス、彼女からですよ。彼女は東京で、たまたま難を逃れた僕を見つけて蘇生してくれたんです。それが看護ロボットだった彼女の原点だから」

「ならどうしてお前だけは助かった?」


 核心的な質問が靖治に投げかけられる。

 何故か東京の中でも秘匿された場所に隠されていた靖治の肉体とイリスのボディ、まだ靖治本人も真の意味がわからない謎。

 その謎を抱えながら、靖治は。


「僕にもわからないことです。ただ運が良かったのかも」


 表情一つ変えずに情報を伏せた。

 これを知られれば、ハヤテたちにとって靖治の価値が上がりすぎる。そうすれば彼らは何が何でも靖治を東京に連れて行こうとするだろう

 故に靖治は、このカードを取っておくことにした。


「フン……運か。なるほどな」


 ハヤテは納得した様子であるが、上手く騙せただろうか。一応、幼い頃から姉とのトランプ遊びで「お姉ちゃんは靖治の事は何でも知ってるが、お前の顔からは手札がまったくわからん!!」と言われる程度にはポーカーフェイスに自信があるが、生死を賭けた世界で通用するかはわからない。

 だが一応は納得してくれたのであろう、ハヤテは尋問を切り上げて立ち上がり、銃を構えていたケヴィンもまた隣に立ち並ぶ。

 しかしハヤテがケヴィンからグロックを受け取ると、いきなりその銃口を靖治の顔へと向けてきた。


「なら逆に言えば、運しかねえお前なら殺しちまっても問題ねえってことだぜ」


 そう唱えたハヤテの顔は悪鬼のように邪悪で、漏れ出す威圧感は明確に殺気というものを表していた。

 靖治は表情を平静のままでいさせても、生理的反射により首の裏側に寒気が走った。肌を刺す殺気が命の弱さと敏感さを暴き出し、脳の柔らかな部分が靖治の背中を粟立たせる。

 引き金に毛むくじゃらの人差し指が掛けられた。少しでもハヤテが指に力を込めれば薬室に装填された銃弾が発射される。

 向けられた銃口から感じられるのは、嗅ぎ慣れた死の臭いだ。


 そうだ慣れている。靖治は幼い頃から、病気の発作で度々この空気を感じて生きてきた。

 だからこそわかる、ハヤテは本気で"靖治を殺したって良い"と考えている。

 ここで少しでも靖治が判断を誤れば――いや、もはや靖治の反応に関係なく、この気分屋は平気で人を殺めるだろう。


「安心しな、お前の体は切り刻んで東京まで連れてってやるよ」


 笑みを深めたハヤテの瞳からは、酷く鈍いエゴの輝きが見えた。

 彼の背後にいるウポレもケヴィンも彼の凶行と止める気はないらしい、片方は無表情で、片方は軽い笑いを浮かべて一部始終を見物している。


 靖治には出来ることは何もなく、ただ運命の瞬間に天秤がどちらに傾くのかを待つしかない。期待を持つことすら難しかった。

 狼の瞳と見つめ合う、その眼からは他人の人生を食いつぶす邪念を感じ取れる。

 引き金にかかった指がピクリと動いた。もはや銃弾が発射されるまでコンマ数秒だけしかない。

 最後の時、靖治はただお互いに視線を交わし続け、後に一発の銃声が響いた。


 空気を裂く魔弾の音が靖治の右耳の根本で唸ったかと思うと、ビッと肉を千切る音が鳴って、その直後に背後で木の表面が砕けた。

 グロックの放った9mmパラベラム弾は靖治の命からわずかに右へとズレ、弾丸はわずかに耳たぶを2mmほど食いちぎって後ろにある樹木に着弾したのだ。

 静寂がよぎり何もかもが嘘のようでいて、草の上に落ちた薬莢と銃口から上がる小さな煙が、撃たれたことを教えてくれる。

 熱い風を浴びた右耳が次第にどくどくと血を流すのを感じながら、靖治は涼やかな顔をしてハヤテと見つめ合っていた。

 不意にハヤテが口を開く。


「自分が死ぬとは思ってねえってか? なぁ!?」


 ハヤテの怒鳴り声を聞き、靖治は流れ落ちる血でシャツの右肩を汚しながらにっこりと笑って返した。


「僕を撃つことであなたが何かを得られるなら、その引き金を引くと良い」


 そこには何の戸惑いも邪気もなく、まるで世の方程式を唱えるかのような真っ直ぐな音色だった。

 恐怖を微塵も感じさせない靖治の姿に、ウポレとケヴィンが目をむいて呆気に取られている。

 そして彼らを率いるハヤテは、靖治の有り様を前にして口を歪ませた。


「……ヘヘッ、おもしれえ」


 そう言うと彼は引き金から指を離して、代わりにマガジンリリースボタンを押し込むと、排出されたマガジンを左手の指に挟み、そのままスライドを引いて薬室内に装填された弾も左手の中に受け止めた。

 銃から弾が発射されない安全な状態に戻し、取り出された弾をマガジンに込め直しながら、背後の仲間たちに振り向いた。


「おいウポレ、荷物を返してやれ。ケヴィン、治療だ」

「ウホ」

「ハイッス」


 指示を出したハヤテも銃を使用前の状態に戻しながら靖治の前に近づくと、懐から取り出したコンバットナイフで靖治の拘束を切り払った。

 突如として自由な手足を取り戻した靖治は、関節の動きを確かめながら不思議そうにハヤテの顔を見上げる。


「良いの? 解いちゃって」

「ククッ、オレらぁ、面白そうなやつが大好きなのさ。お前みたいな頭イカれたやつ、押さえつけるのは罪ってもんだぜ」


 喉を震わせて笑うハヤテの背後から、ウポレが学生服の上着と残りの拳銃及びホルスターを持ってきて靖治の前に置き、ケヴィンが赤い十字が描かれた携帯用の救急パックを手に靖治の右隣に座り込む。

 親切にしてくれる中、ハヤテは大口を開けて声を張り上げた。


「だから気が変わった! てめぇはこのまま東京まで連れて行く!!」


 有無を言わせない宣言が靖治の肌を打ち、それはともすれば先程の殺気よりもよほど強く心を圧倒しようとする。

 驚いて目を丸くする靖治の前で、ハヤテは新たに取り出したタバコにジッポで火を付けながら見下ろしてくる。

 その貪欲な顔を、靖治は今までで最も警戒しながら見上げた。


「おめえは弱っちいが()()()()ヤツだ。そういうやつを東京まで持ってけば、必ず何かが起こるはずだ!! 世界ってのは面白い方に転ぶように成り立ってんだからなぁ!!」


 何の確証もないはずなのに確信を持って叫ぶハヤテは、誰からの反論をも跳ね除けるパワーをまとっていた。

 靖治は内心、これはマズいなと毒づく。

 眼の前にいる男はこれまで靖治が出会ってきた、どんな人間とも違う。

 あらゆる金銭や損益に縛られないにも関わらずもっとも利己的で貪欲なエゴイストであり、自らが追い求めるモノのためならどんな危険や困難にも身を投じるある種の怪物だ。


「イヤと言おうが絶対に連れてくぜ。あのトンチキメイドもアリサもブッちぎってこのまま強制連行だ。東京で何が待ってるのか、それを楽しみにしとけよ」


 さて、これはどうしたものかと、靖治はうっすらとした微笑みの裏側に冷や汗をかきながら、久しぶりの恐怖を覚えていた。

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