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後日談

「え⁉︎ アレをやって欲しいとの要望が殺到している?」


社交シーズンも終わりに近づき、ドレスや夜会服の洗濯の依頼が増えてきたところだった。

これからのトラブルを防ぐために戦略会議を終える頃、何かお客様より要望は無かったかと聞いたところ、「デモンストレーションでやったダンスを当家の夜会でやってもらえないか」と言うリクエストが多数あったという報告があった。


「私たちも社交はあるし、持ち回り制でこの商売回してるから、人数揃わないわよ?」

「私たちもそう言って断ったのですが、何分沢山のお客様から要望がありまして……。

アレを楽しみにされて、実際がっかりされた事もありますので、なんとかならないでしょうか。」


営業の担当にそう言われてミレーユは黙考した。

そもそも、この時代にはまだ娯楽が少ない。

大道芸などの見世物はあるがサーカスは無く、オペラやバレエなどの観劇もまだ発展していない。

自分からすれば中学生の創作ダンス並みの精度だったのだが、それでもあの音楽とダンスは刺激的であったのだろう。

前世の記憶から懐かしのアニメや美少女アイドル団体を参考にして、歌を教えて振り付けをしたのだが、思った以上に好評すぎた様だ。


「………ちょっと企画を立てて、フランソワ様(上司)達にお伺いして見ましょう」


別業も考えた方が良いかも。

これからの道のりを考え、ミレーユは遠い目をした。


******



「で、君らが立てた企画がこれかい?」


『淑女と獣の王』という題名の冊子を片手にフランソワは問いただした。

王妃も同じ冊子を熱心に読んでいる。


「はい。社交シーズン初期の一週間に王都の屋敷を借り、そこで1日二度上演します。

このお話をベースにして配役を決め、ダンスや歌を交えてお話を演じます。

入場は有料。売り上げは皆の給料と劇の必要経費に回します。」

「お話はとても面白いわ。私は好きよ?

なんだか今から楽しみね〜。」

「衣装や舞台セットは社員の実家から材料をある程度融通して貰えますが、やはりご実家の為にもお金はキチンと支払わないと……。

ですので、クリーニング業の売り上げで賄われるか不安なので、有料にしたいと思っております。」

「君の精霊を使えば衣装代などは浮くだろうけど、それでは『怪盗ヴァイオレット』の正体に気づかれるだろうからね……。

やって見なさい。私の方からも援助しよう」

「ありがとうございます」


ミレーユは安堵して頭を下げた。


「それはそうとミレーユ。最近『怪盗ヴァイオレット』が巷でものすごい人気なのはご存知?」


王妃の無邪気な質問にミレーユは乾いた笑みを浮かべた。


「ハァ、どうやらその様で……」

「彼ったら年頃の令嬢達や庶民達の心を鷲掴みしていて、最近は王宮で『怪盗ヴァイオレットファンクラブ』なるモノが出来ちゃったのよ〜〜 ♫

アンヌが会長でね、月に二度彼をモデルにしたお話や絵姿を載せた会報が発行されてるの!私も実は密かな楽しみで ♡

貴女も今度購入して見たら?」


それは初耳なんですけどぉ〜〜⁉︎

ミレーユはダラダラと冷や汗をかいた。フランソワはジト目でミレーユを睨んでいる。

誤解しないでくださいフランソワ様!

私はノーマルなんです!ステキな婚約者がいるんです!

アンヌ様に手を出すって事は、天地がひっくり返ってもあり得ませんから、嫉妬に狂って無理難題な仕事山ほど押し付けないでください!

寝不足と過労でお肌が荒れるのは勘弁してください!

氷の貴公子と評されるが意外と嫉妬深い上司に、ミレーユは切に願った。




これが後にこの国のミュージカルと言われる文化の発祥であった。

翌年の公演が大好評を博したので、『プリティスマイル』は本格的にクリーニング業と分離して劇団『クリーニング』を設立する事になった。

魔法が使えない庶民からも劇団員を募集した為、広く人材を集めることができた。

花の都フローレンスの劇団『クリーニング』と『怪盗ヴァイオレット』は、後々まで名物としてこの国の人々に愛された。

だがその始まりが国内初のクリーニング業であった事を知る人はいても、きっかけが一人の少女であった事を知る人はいない。

全ては王家の秘密の中であった。

ミレーユ:言わずと知れた転生者。前世ではオタクで、前世で読んだ名作やネズミの国の映画を今生で劇化した。本作では出なかったが、魔力量はアンヌと同じくらい多く、契約している精霊は光と闇。

この世界では魔法は主に戦力とみなされる為、この二つの属性の精霊と契約する者はおらず、ミレーユは落ちこぼれとされて、幼い頃家から勘当されていた。(ブロイ男爵家は縁を切られて押し付けられたミレーユの生家の寄家で、彼女の生家はその後大公との繋がりが発覚し没落した。)

しかしこの二つの精霊はどんな場所でも入り込むし、闇の精霊は闇と影と冷気、光の精霊は光と雷と熱を操ることができ、下手したらレール◯ンも撃てるので、使い様によってはミレーユは最終兵器扱いになる可能性もあった。

しかし彼女はそんな発想はなかった為、洗濯物の乾燥やプロジェクトマッピングの要領で舞台の演出や怪盗の諜報活動などに平和(?)活用された。

その後ミレーユはクリーニング部門は他者に任せ、演劇部門に専念する。シャンプーやリンスなどの衛生用品や無害な化粧品などを開発し、ゲロッグ大公邸跡にできた専属劇場で販売した。また、前世の知識で動きやすいドレスや舞台衣装を作り好評を期し、流行の最先端となった。

後にミュージカルの演出家・脚本家として名を残した。


アンヌ:契約していた精霊は土。

その後フランソワと結婚。『白薔薇の王妃』と呼ばれた。

控えめで聡明な彼女はゲロッグ大公の被害者の救済に奔走。多くの国民に愛された。

結婚後も『怪盗ヴァイオレットファンクラブ』の会長を続け、フランソワをヤキモキさせた。(そのトバッチリはミレーユに……。)


フランソワ:契約していた精霊は水。絶大な魔力量を持つ。

怜悧な刃物を連想させるその手腕で、即位後は『氷の王』と呼ばれた。

常に沈着冷静で物腰の柔らかい紳士であったが、アンヌに関しては心が狭かった。

諜報部門の元締めとして『プリティスマイル』と劇団『クリーニング』の後押しをした。




お読みいただきありがとうございました。

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