決戦の地へ
決戦の日の前日。
マウントシュバッテン王は、グレートアルメラント王国全土に戒厳に関する法律に基づき、戒厳令をしいた。
マウントシュバッテン王は事前に、リヒテフント帝国から宣戦布告状が届いていること、進攻が始まることを公的なお触れのみならず、民間の情報機関とも連携して王国全土に詳細な情報を公開していたので王国民はマウントシュバッテン王の厳戒令にもあまり混乱が起こらずに対応できた。
帝国進攻における非常事態に際して戒厳令をしくことは今までにおいても行ってきたことであり普通通りの流れである。
それによって、軍の動きが活発になり市中に多くの軍隊の姿が見られるのもごくごく普通の光景だ。
そういう隙をついて、マウントシュバッテン王はアスラムル宗主国のフスハーン統合議会議長とかねてより計画していた、両国における『浄化作戦』の初戦を発動させる。
帝国進攻に便乗し、高度に偽装した大規模軍によるマッケイヤー一族の壊滅作戦だ。
その日の夕方。
軍を大規模に使った、両国にまたがる100を超えるすべてのアジトの一斉摘発を敢行した。
マッケイヤー一族は寝耳に水の一斉摘発に動揺し、一部反抗を試みたが、用意周到に進められた計画に隙はなく、あっけなく陥落した。
トップである3主柱のうち、一人は墳死、一人は自害、最後の一人は自害未遂で取り押さえられた。
その他、自害できなかった幹部クラスも多くが捕まり、末端の多くの構成員も逃げることができずに捕まった。
こうして、マッケイヤー一族という両国の裏社会における最大勢力を駆逐した。
◆ ◆ ◆
戒厳令下、軍の移動はスムーズに行われ、決戦の当日の夜明け前には、グレートアルメラント王国軍25万と、イスポワール王国軍所属の魔族1万5000が決戦の地であるゴール平地に集結していた。
中央後方に陣取っている本陣では、マウントシュバッテン王以下、幹部クラスの人間とイスポワール王国からは俺やルシフルエント、リリーや部族長たちが序列に従い座っていた。
俺の隣にはルシフルエントが座っていたが、もうだいぶお腹も大きくなっていて目立っていた。マウントシュバッテン王は「身重なのにご足労痛み入るよ。ルシフルエントさん」と、微笑みを浮かべながら言った。
その言葉を聞いたルシフルエントは、挑発するように笑いながら答えた。
「ふん。まったくもってグレートアルメラント王国は魔物づかいが荒い。これは問題じゃぞ?……まあ、我慢することで今後の待遇に便宜があると信じておくとしようかのう」
「はは……流石はルシフルエントさん。考えておくよ。ところで、敵の総数はわかったかい?」
マウントシュバッテン王は近くの兵士に尋ねる。緊張した面持ちの兵士は、強い口調で答えた。
「細かい数字までは把握できませんでしたが、我々連合軍の倍……50万人程度と推定されてます!」
「5…じゅう万」
俺は途方もない人数に思わず呟いてしまった。
「ほほう……まあ、帝国の動員力だけは褒めてやるとするかのう」
「裏切り者は!?ギリムは何処にいるっすか!?」
リリーが机をバンバンと叩き叫んだ。
「落ち着かんか。リリーよ。お腹の子がビックリするじゃろうが?」
「ご……ごめんっす」
ルシフルエントに怒られたリリーはすぐにシュンとなった。
そんなリリーに待望の情報が届く。
本陣出入り口から若い兵士が前線からの伝令を持ってきて緊張した声で叫んだ。
「報告!リヒテフント帝国の使者からです!」
本陣内が一瞬にして緊張する。マウントシュバッテン王は冷静な声音で兵士に「読んで」と言った。
「盟友ギリム王からの陳情を伝える。イスポワール王国第4夫人リリーおよび、魔族の長カールとの闘いを望む。時刻は日の出。本帝国として盟友の意思を尊重し両国の戦闘はその決着がつき次第、開始としたい。との事です。使者は、すぐに返答を求めていて、前線に待機しています」
「また、ずいぶんと変な話。よっぽど相手の龍はカール君達と戦いたいんだろうね?……どうする?カール君」
「モチのロンで望むところっす!!!!」
「リリーには聞いておらん!……まあ、そうはいっても、言わずもがなじゃなぁ、おまえ様?」
「ああ……もちろん受けて立つよ!」
ハッキリとした俺の返答に、マウントシュバッテン王はゆっくりと頷き、兵士に返答を言った。
「帝国の使者に返答だ。内容は『我らグレートアルメラント・イスポワール連合軍としても是非に及ばず』と伝えろ!」
「はっ!」
兵士は短く敬礼をすると、すぐに前線に走った。
俺は刻一刻と迫る決戦の時に少しだけ不安がよぎる。
「さて……あとは、ココたちがどれだけ早くハウント宰相を捕まえてくれるかだ。間に合えばいいけど」
「なに、おまえ様。第2夫人はロリ体系のうえに、周りが見えんバカじゃが、ちゃんとやるときはやる女じゃ」
ルシフルエントが微笑みながら予想外の言葉を口にする。俺はキョトンとして思わず「あれ?今日は褒めるんだ」と心の声を呟いてしまった。
そういうと、ルシフルエントはフンッ!とそっぽを向いて、腕を組みながら答えた。
「妾は第2夫人が憎くて言い合ってなぞおらんし、認めるものは認める。言い合いは、あのヒステリー・ロリ・バカ魔導師が無駄に突っかかってくるから相手をしてやっておるに過ぎんのであって、あやつにも良いところはある。……まあ、本人の目の前でそんなことを言うと、バカみたいに調子に乗るから言わんだけじゃ」
俺は苦笑いを浮かべながら聞き、そして「……第1夫人も大変だね?」とねぎらいの言葉を言う。
「まったくじゃ!妾がこれほど気遣いをしておるのにこれっぽっちも気を使わなんだ!まだアルやリリーの方がよっぽど気を使ってくれるぞ?本当に第2夫人としての自覚はあるのじゃろうかと常々悩んでおるのじゃ!」
「はは……はぁ~」
俺は苦笑いの後ため息を漏らした。
しかし、次の言葉をルシフルエントから聞いて安心する。
「まあ、でも……」
「でも?」
「……おらんとなんだか寂しいのぉ。妾にあれほど言うやつはホホロンか父上ぐらいじゃったし。なんだかんだ言っても……妾は、あいつも気に入っておる」
「そう……それは良かった」
俺はニヤニヤしながらそう呟いた。
その顔を見て、ルシフルエントが慌てたように弁明する。
「……あっ!別にっ!本気でそう思っとるわけではないからの?ただ、静かすぎてほんの少しそう思っただけじゃ!!」
「ほんっと姉御ってツンデレっすね!」
リリーはルシフルエントの慌てた様子を見ながら呆れながらそう呟いた。
「リリー?気のせいかのぅ?なにやら妄言が聞こえたようじゃがなぁ?」
ルシフルエントは怖い顔で笑いながらリリーを睨む。
「気のせいっす!姉御ってかわいいっすね!っていったっす!ねー!旦那!」
「はは…はぁ~」
俺は苦笑いを浮かべるしかできなかった。
そんな俺たちの様子をジト目で肩肘をつきながら見ているマウントシュバッテン王。
「気楽でいいね……君たちは。はぁ~」
聞こえないようにそう独り言を呟いた。
◆ ◆ ◆
日の出の時刻になる。
俺とリリーは最前線を抜けて、両軍が睨みあっている平地のど真ん中に向かって歩く。
そこには全身に赤い刺青を施した、禍々しいオーラを漂わせる龍が人間体系に変身したまま仁王立ちをしていた。
その顔は恐ろしいまでににやけており、余裕に満ち溢れていた。




