ギリム王
「なっ!何っすか!?あいつなんかヤバいっす!」
リリーは不気味にたたずむギリムに向かって変な驚き方をする。
「あの刺青が龍族の戦闘モードなのかな?」
「そんなわけないっす!龍族の戦闘モードは本来の姿に戻ること……龍の姿に戻ることっすから!?」
「じゃあ……あの刺青みたいな赤い文様は…?」
俺らがそんな事を話してると、ギリムは笑いながら口を開いた。
「クックック……驚いたか?妹よ。今や俺様は親父レベルまで強くなった。命乞いをするなら今のうちだぞ?まあ、許さんがなぁ」
「はぁ?こんな短期間でありえないっす!!バカも休み休み言えっす!!」
「でも……確かに、あの雰囲気。このあいだ上空であった時とはまるで違う。なんというか、強さを感じる」
俺は思わずギリムの姿を見据えながらそう呟いた。
「ハッ!?……そういえば、他の奴らはどこ行ったっすか?」
リリーは少しだけ心当たりがあるようでギリムを睨みながら言った。
その表情からはかなりの憤怒が感じられる。
「此処にいるよ……俺様の肉体の中になぁ?」
ギリムはニタッといやらしく笑った。
その表情は非常に俺の心を不愉快にさせた。
『体の中?』
俺はギリムがとんでもないことをしたと直感した。
「貴様!!仲間をっ!!喰ったなーーーー!!!」
リリーの感情は臨界点を突破し、変身が解けて巨大な赤い龍の姿になった。
しかし、それだけでは収まらず炎のオーラをまき散らしながらそのまま突っ込もうとした。
俺は慌てて前に出て止める。
「リリー!!落ち着け!!早まったらダメだ!!」
「どけっす!禁忌である『同族喰い』をした外道は、この世から血の一滴も残さず消し炭にしないと気が済まないっす!!」
「クククッなんとでも言うがいい。王はより強くなり、迫りくる外敵を打ち払わねばならん。例えその方法が禁忌だとしても王としてやらねばならんのだ!ハーハッハッハ!!」
後で、黒龍に聞いた話だが、『同族喰い』とは、文字通り同族を生きたまま喰らい、自らの体に取り込むことで喰った同族の力を取り込み、自身の力を短期間に格段にアップさせる方法らしい。
しかし、代償として自身の寿命と精神を削るそうで、過去の例でいえば、1体でも数年で廃人。2体ならもっても数時間で肉体が取り込んだ同胞の力に耐えきれず崩壊するとの事だった。4体同時の『同族喰い』は黒龍でも聞いたことがないくらい恐ろしいことらしい。
それほどまでに体と精神を蝕む諸刃の禁忌……それが『同族喰い』なのだ。
彼の言動や、浮き出ている刺青もその影響だったのだろう。
勝たねばならぬという極限のプレッシャーと王としての自負が最後の自我を保たせてたと俺は思う。
俺はリリーの言動や、ギリムの様子、『同族喰い』という言葉の意味を考え、大体同じような推測に至った。
そして、魔族の長としてギリムに深い憤りを感じた。
「ギリム!魔族の長として、お前の行動は許されるものではない!!覚悟しろ!!」
俺はギリムを睨み、叫んだ。
「はっ!人間なのに魔界を乗っ取ったお前が何を言っているのだ?あまつさえ人間の王の保護を受けているくせに何が魔族の長だ!恥を知れ!!貴様はリリーを喰ったあとにたっぷりといたぶってやる!!」
そういうと、ギリムは変身を解いて、龍の姿になる。
その姿はこの前見た時とは別物だった。
基本、毒々しい紫色の鱗の上に、まだらに浮き出ている炎のような赤いうろこ。
醜悪に角の生えた顔。
そして、不格好に膨れ上がった体。
見るものに嫌悪感と威圧感を与えるその容姿は、物語の中で語り続けられている悪の巨大ドラゴンの姿そのものだった。
俺は背筋に寒気が走った。
「旦那は手出し無用っす!あんなクズ、私が燃やし尽くしてやるっす!!」
リリーはギリムを睨みながら呟いた。
日が昇る。
リリーのブレスによって闘いの火ぶたが切って落とされた。
近くにいる俺でもその熱さは感じれるほど強力な炎のブレス。
ギリムのだいぶ後ろにいる帝国の兵士たちもその熱さに驚き、陣形が崩れるほどの閃光と熱量だった。
ギリムは避けようともせずそのまま受けた。
ギリム周辺の草木は炭も残らず一瞬に燃え尽き、茶色い乾いた地面が現れる。
しかし、ギリムは全く動じず、その場に佇んでいた。
「どうした?何かしたのか?」
ギリムはニヤニヤと見下すように呟いた。
リリーはすぐに突貫した。
ギリムはリリーがもがく様子を楽しむように何もしなかった。
ギリムの喉元に食らいつくリリー。
口元からはボタボタとギリムの血液らしき紫色の液体が地面に落ちた。
「甘噛みか?もっと食いちぎるぐらいの勢いでやらんと俺様は倒せんぞ?」
ギリムはそう呟いた後、尻尾をリリーに対して振るう。
「バシッ!」という強烈な音とともにリリーは吹っ飛んだ。
「ガハァッ!」
リリーは口の中にたまった赤い血を吐きだした。
ギリムの一撃は、リリーの美しい鱗を引き剥がし、紫色の内出血を起こすほどの強烈なものだった。
たぶん、内臓や骨にもダメージがあるだろう。
「弱い……弱すぎる。こんなに弱い妹が俺様より上の序列にいたなんて何てことだ…」
ギリムは憐れむように語る。
そして、まだ起き上がれないリリーにブレスを吐き出した。
青色のそのブレスはかなりの熱量でリリーを包み込む。
リリーのブレスもかなりの熱さだったが、ギリムのブレスはさらに数倍熱く、様子を伺っている帝国軍、連合軍の両陣営の前線が思わず後退するほどの熱量があった。
周辺の草木を一瞬にして燃やし尽くした。
リリーも姿を現したが、あの美しかった赤い鱗がいたるところ黒くくすんでいる。
「リリー!!」
俺はその姿に思わず叫んだ。
「大丈夫っす!これぐらい……何ともないっす!!!」
怒鳴り散らすように叫ぶリリー。
そして、ヨロヨロと立ち上がる。
その様子は弱々しく、無理して叫んでいるのがバレバレだった。
「ほう?流石は妹だ。火龍の耐性限界を超える熱量のブレスでもまだ形を保っているだけでなく、立ち上がる力もあるとは」
「親父の平手打ちに比べれば屁みたいなものっす!」
その言葉を聞いたギリムは少しだけ表情を歪めた。
そして、罵るようにリリーに語る。
「口汚い愚かな妹め……では、これではどうだ?」
ギリムはそういうと、さらに強力なブレスをリリーに吐き出した。
「グッ!」
思わずリリーの口から言葉が漏れた。
そのブレスはリリーの美しい赤い鱗を焼き、角の大部分を溶かすほどの威力があった。
炎が消えるころ、リリーの容姿はかなり黒ずんで痛々しい姿に変わっていた。
「どうだリリーよ?これでもそんな減らず口を言えるか?親父なぞ俺様は超越したのだ!アーハッハッハ!!」
リリーはヨロヨロと首を上げてギリムを睨む。
そして、口から血をペッと吐き、呟いた。
「『同族喰い』のくそ野郎がよく吠えるっすね?」
「……貴様は本当に愚かな妹だ。最後は俺様が手ずからに喰い殺してやろう」
ギリムはそういうと、リリーに近づいて行った。
リリーは避けようとしなかった。
いや、ダメージを受けすぎて動けなかったのかもしれない。
俺は、怒りの頂点にすでに達していたが、リリーの意思を尊重し、見ていた。
そして、静かに魔剣を取り込んだ。
ギリムとリリーが近くで睨みあう。
蔑むようにギリムはリリーに語りだした。
「さて……何か言い残すことはないか?リリーよ」
「私を殺しても、旦那がお前をギッタンギッタンのコテンパンにして、ギロギロのブチブチにしてやるっす!!」
「……脆弱な人間にそれができると妄言するほどお前の頭はイカれたか。残念だ」
「私の旦那は最強っす!親父に勝った唯一の人間っすから!!」
「そうか……それは楽しみだ」
呆れるようにギリムはそういうと、口を開け、リリーを喰おうとした。
――俺は力を開放した。




