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戴冠式の光と暗躍する闇

戴冠式当日は晴天に恵まれた。


ツタン城、玉座の間。

扉が開くと、玉座がある一段高い場所の手前にマウントシュバッテン王が立っている。


俺は初めて着る金糸銀糸がふんだんに使われた絹の服を着て、入口からマウントシュバッテン王がいるところまでゆっくりと歩く。


両脇には各国使節が整列し、直立不動で静観している。

中には人間形態をしている魔族も参加している。

もちろん、皆は最上級の服装なのできらびやかだ。


緊張で動きがぎこちなくないだろうか?


そんな事を思いながら、一歩一歩フカフカの赤いカーペットの上を歩いた。


 ゆっくりと進み、王様の前に対面する。


 王様がにこやかに笑った後、真っ赤な豪華な刺繡を施したマントをかけてくれた。


 王様がマントをつけ終わり、引いたタイミングで、近くにいた夫人達が鞘のついた魔剣や、黄金の杖、宝石がちりばめられたネックレスをつけてくれた。


 一呼吸着いた後、段差を上り、ゆっくりと玉座に座る。


 その間にマウントシュバッテン王は自分が戴冠式使った専用の王冠を持つ。


『でかいなぁ……』

リハーサルの時見せてもらったが、やっぱり大きい。


金銀や宝石をふんだんに使った王冠はかなりの重量だ。頭をすっぽりと覆うその迫力はとんでもなかった。


王様は俺の前まで来ると、いったん後ろを向く。

そして、両手で王冠を持ち、高々と掲げた。


「今ここに!イスポワール王国を魔界に建国する!そして、カール・リヒター・スベロンニアを初代、王と定めることを、グレートアルメラント王国、第32代、王。マウントシュバッテンⅢ世が宣言する。異議あるものは名乗り出るがよい!」

マウントシュバッテン王は凛としたハッキリした声で言った。


しばしの沈黙が場を支配する。


「異議なしと認め、戴冠す!」

マウントシュバッテン王は優雅にゆっくりと回り、俺の前に立つ。



そして、ゆっくりと俺の頭に王冠をかぶせた。



「おめでとう」

マウントシュバッテン王は小声で言った。


「ありがとうございます」

俺も小声で感謝を伝えた。


対面し、一呼吸置いた後、王様は横に並ぶ。


俺が姿を見せると、割れんばかりの拍手が玉座の間を覆った。


感無量の気分だ。


よく見ると夫人達は流れる涙も拭かずに拍手してくれている。


俺の目からも涙が一筋零れた。



割れんばかりの拍手は止まなかった。


 マウントシュバッテン王が手を出すとゆっくりと静かになっていった。


「今日のような良き日に素晴らしい式が挙行できたことを……神に…感謝」

マウントシュバッテン王がそう言うと、それぞれの宗派の神にそれぞれが祈る。


しばらく祈った後、さらにマウントシュバッテン王が語る。


「共に護国繁栄を願って……良き隣人に祝福を」


会場中が一斉に「祝福を!」と叫んだ。


その後、細々とした宣誓書にサインなどを行い、無事に戴冠式は終わった。


ゆったりとした動作で会場を後にしたあと、王冠を侍従に渡し、控室で休んでいると、急に足が震えてきた。

そして、思わず座ってしまった。


「大丈夫かえ!?」

ちょうどルシフルエントが居て、血相を変えて寄ってくる。


「大丈夫!大丈夫……ただの武者震い…はは、式の最中でなくて良かった」

本当にそう思う。


「じゃが……顔色が悪い。この後の予定は取りやめて……」


俺はルシフルエントの言葉を途中で遮った。


「そうしたいのは山々だけど……他の国々の使節にそれは失礼だから。俺は大丈夫。さあ!行こうか?」

俺は立ち上がり、ルシフルエントの手を取った。


「ああ……妾はいつでもおまえ様の傍におる。気分が悪くなったらいうのじゃぞ?」


ルシフルエントは微笑む。

俺も微笑んだ。


 そして、控室から、各国使節と挨拶を行う会場に移動した。

 これから、祝賀会や晩餐会など日付を跨ぐまで予定はビッシリだ。


 気合を入れて、俺は一歩一歩ルシフルエントの手を取って歩き出した。

 すると、ココやアルシュタイン、リリーも着替えて合流してきた。


 俺は目くばせして頬を緩める。

みな一様に笑顔で嬉しかった。

そして、できるだけみんなと手をつなぎ会場に向かった。



◆  ◆  ◆



話は過去に戻る。


王都の6番街外れにある小さな住宅に、コーネリアとホルスはいる。

ここは、コーネリアの私邸。

机に出された紅茶は先ほどコーネリア自ら入れたものだ。


先ほど降り出した雨はさらに雨脚を強め、雷まで鳴り出している。


コーネリアとホルスはお互い無言のまま対面に座り、品の良い香りのする暖かい紅茶をゆっくりと飲んでいた。


「さて……話というのは何だい?コーネリア」

ホルスは優雅に足を組みながら不敵な笑みを浮かべる。


「その前に……ホルス様はベルベルドという性を覚えておりませんか?」

コーネリアは不敵に笑いながら語る。


「ベルベルド?……どこかで…」

ホルスは怪訝な顔をして思い出そうとする。


「約100年前…といえば思い出せますか?」


「100年前?……ん?ああ。光の勇者にそんな奴がいたなぁ…たしか、名前は……ロック!」

両手を叩き思い出すホルス。


「そう……私の曽祖父です」

にっこりと笑うコーネリア。


ホルスは少し驚いたような顔をする。


「なるほど、合点した……たしか、やつは邪眼のロックと呼ばれてたはずだ……魔力の流れや不可視化を無効化するスキル。お前も……遺伝したか?」


「曽祖父がどれほど見えていたかは知りませんが、私のスキルは微々たるものです。しかし、今回のホルス様はハッキリと見えました。流石はけた違いの魔力回路を持つホルス様だ」

軽く頭を下げて、コーネリアは言う。


「私の不可視化の魔法も改良の余地ありだな~。そんなスキルを持つ奴なんてロック以外いなかったからロストスキルになったものとばかり思っていたよ」

額に手を当て、わざとらしく悔やむホルス。


「ふふふ……ホルス様からそう言っていただけると、このスキルもあながち捨てたものじゃないと思いますねぇ。ありがとうございます」

笑いながら深々と頭を下げるコーネリア。


ホルスは紅茶が入ったティーカップを持って優雅に飲む。


そして、少しだけコーネリアを睨んだ。


「……見たのかい?」

ホルスの声音は殺気を含んでいた。


「木偶人形の事ですか?」

コーネリアは全く動じていないのか、先ほどと同じ調子で答えた。


「……」

ホルスは何も言わない。


 しかし、木偶人形は音もなくコーネリアの首を刎ねようとしていた。


るならどうぞ?あんなじじい共……私としてはせいせいします」

コーネリアもティーカップを持って紅茶を一口飲む。


 コーネリアの言葉を聞いた木偶人形は、寸でのところで動きを止めた。


「おや?お前の話はマッケイヤーの事ではなかったか」

ホルスは残念そうに語る。


「はい……私は所詮、腰掛け程度にしか思っていませんから」

微笑をたたえながらホルスを見つめるコーネリア。


「それにしては随分と頼られてるじゃないかい?」


「彼らが勝手に頼ってきてるだけです……それも、もうすぐ終わりでしょう。聡明なマウントシュバッテン王がこのまま見過ごすわけはありません。どうせ、潰すつもりでしょう?」

不敵な笑みを深めるコーネリア。


「さてねぇ?……コーネリア。そろそろ本題を言ったらどうだい?私は紅茶も飲み飽きてるとこなんだ。用がなければ帰るよ?」


「それは困ります!ホルス様にはぜひご教授願いたくてこうしてお招きしたのに……」

コーネリアはワザとらしく悲しむ演技をした。


「なにを知りたいんだい?場合によっては教えてあげてもいい」

舌なめずりをするホルス。



「私がお教えしてもらいたいのはただ一つ……光の剣の使い方です」



コーネリアはホルスをまっすぐ見つめて、ハッキリと言った。


一瞬の静寂の後、ホルスは真顔になり語りだす。


「剣なんだ……振ればいい」


「私が聞いているのは真の使い方です。光の剣は人間界のマナの分身。一体化の秘術を教えていただきたい」


「……」

ホルスは無言のまま紅茶を一口飲む。


「知らないわけはないでしょう?人間界のマナの木の亜種である魔樹の防人であるあなたが」


「……知ってどうする?」


「私は正統な勇者の子孫です。もちろん勇者として魔王を倒すつもりですよ?」


「曽祖父が倒しきれなかったルシフルエントをか?」


「いいえ……今は違うでしょう?魔王……いえ、魔族の長でしたか?」


「まさか!?」


コーネリアは笑いながらある人間の名前を口にする。


「魔族の長であり、イスポワール王国初代国王になる予定の元・光の勇者。カール・リヒター・スベロンニアですよ」


笑いながら語るその声音は、愉快そうに弾んでいた。

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