夜のお茶会2
「……という作戦を計画中なんだ、だから戦争はせざる得ないんだよ」
まっすぐ対面に座ったマウントシュバッテン王は真顔でそう言った。
「なっ!……大胆不敵というか……前代未聞というか」
俺は驚いて思わず立ち上がってしまった。
先ほどこの戦争における王様の真の作戦を聞いた俺は、開いた口が塞がらなかった。
戦争の形態が一気に変わるその作戦は、まさに奇想天外だった。
「作戦は奇を持って良しとする……僕の信条だよ。唯一の心残りはこの作戦でも犠牲者は0ではない可能性が高いって所かな……その点は申し訳なく思うよ。これが僕の限界だ」
申し訳なさそうに少しだけ俯く王様。
「いえ……しかし、うまくいきますか?」
「さあ?なにせ誰も試したことないからね。君たちとルビンの頑張り次第って所が大きいね」
「……はぁ~」
思わずソファに深く座り、ため息を出してしまった。
「名付けて『浄化作戦』将来の遺恨を絶つ為、帝国とマッケイヤーを浄化しないといけない。改めて言うが……そのためには君たち魔族の協力が必要不可欠だ。君の期待通りではないけどできれば協力して欲しい。でないと……」
王様は言葉を続けようとしたが、俺は手で言葉を遮った。
「わかっています……従来の戦いでは犠牲者はそれこそ何十万と上るでしょう。そして、この問題を先送りすると将来の争いの火種を残してしまうことになる……」
俺は背筋を正し、王様を正面に見据えてハッキリと言った。
「可能性があるならやりましょう!私も犠牲者が出ないように努力します。マウントシュバッテン王だけに責任を負わせるわけにはいかない!」
俺は思わず両手を強く握り、ハッキリと言った。
一瞬、王様は驚いたような顔つきをしたが、すぐに頬を緩めた。
「ふふ……さすがは元勇者だ。頼もしいよ」
王様は年相応のにこやかな笑顔を見せ安堵しているようだった。
ソファに深く座った王様は言葉を続けた。
「この作戦の目標は2つ。ひとつは王国と宗主国のマッケイヤー一族の排除だ。マッケイヤーの件は、誰かは教えられないが、実はもう協力者に動いてもらっている。戦端が開くと同時に踏み込むように手筈は整えている」
俺は無言でうなずいた。
「目標の二つ目は現皇帝と上層部の捕縛と交渉だ。特に、摂政のハウント・マルクルブ・リヒテホーヘン。彼がいないと始まらない。あとはルビンの頑張り次第かな?僕も最前線に出るけど……前にも言った通り武道はからっきしでね…申し訳ないけど戦力にはならない。君たちに迷惑をかける」
「任せてください。そういう事は得意ですから」
俺は笑みを浮かべる。
「あと……最後にこのことは僕と君だけしか知らない極秘事項だ。他言無用願う。特に……」
「特に?」
「筆頭執事のコーネリアなんかには言わないように」
「なぜです?」
「彼はマッケイヤー一族の手先だよ?気付いてなかった?」
極々当たり前のことを言うように淡々と話す王様。
「えっ!……初耳です」
俺はそんな所にまでマッケイヤーの影響力があることに驚く。
「まあ、彼はマッケイヤーの手先ということ以外は本当に優秀な人材だからね。わからなくてもしょうがないかぁ」
「……しかし、そこまで、マッケイヤーの影響力が強いとは…恐ろしい」
俺は腕を組みながら考える。
王の側近中の側近である筆頭執事はよほどのコネと、本人の実力がないと付くことはできない。
王様の生活やボディーガードを含む警備全般についてはもちろんの事、ときには内政のアドバイスや外交での王様の代わりも務めないといけない場合もある役職なのだ。
まさに第二の王。
それ相応の人物でないと務まらないのだ。
そんな中枢の人物までマッケイヤーの影響力があると思うと恐ろしかった。
そんな事を考えていると、王様はゆっくりと立ち上がり左手を出してきた。
「責任まで押し付けるつもりは無かったけど……そこまで言ってくれる人は君が初めてだ。ありがとう。感謝している」
王様は少しだけ照れたように頬が赤くなっているような気がした。
俺も立ち上がり、王様の左手を握り返した。
しばらく握手をして、お互い座った。
そして、冷めないうちに紅茶を飲み干したところで、王様が語る。
「君に紹介したい人がいる……ついて来てくれないか?」
「?……はい」
俺は不思議に思いながらも返事をした。
リビングを出て、二階に上がり、誰かの居室らしき部屋に入る。
そこは壁紙から調度品に至るまで少女趣味で固められた部屋だった。
俺はその様子から思い出した。
「妹さんですか?」
「そうだよ……僕とメイド以外で見るのは君が初めてだ。深い意味はない!!決して嫁に貰ってくれとかそうい意味ではないからな!!」
「はぁ……」
俺は苦笑いを浮かべる。
『正直もう4人もいるから、そういう話は勘弁して欲しいなぁ』
それが本音だった。
「……まあこの姿を見れば、そんな気も失せるか」
王様は一瞬だけ寂しいそうな顔をした。
「?」
俺にはその意味がよくわからなかった。
寝ていると思われる豪華なベッドの横に来る。
そのベッドには6~7歳ぐらいの女の子が静かに寝息を立てて寝ていた。
王様と同じく金髪で、外にあまり出てないのか肌が透き通るように白く、華奢で、まるで人形のような少女だった。
「可愛らしい女の子ですね?6歳ぐらいですか?」
俺は何気なしにそういった。
「…そう思うだろ?妹はこれでも18歳なんだ」
王は優しく妹の頭を撫でながら言った。
「!?」
俺は驚く。
18歳の体ではないことは目に見えてわかる。俺は一瞬、何かの冗談かと思い王様の様子を伺うがそんな感じではなかった。
「僕の家族は、マッケイヤーの策略で3年前殺された。その時、妹も毒を飲んだが奇跡的に一命だけは取り留めたんだ……だが、昏睡状態から意識は戻らず、挙句の果てには年々幼くなっていってるんだ」
「なっ!……そんな毒が存在するんですか?」
「僕はマッケイヤーの奴らにそれとなく聞いてみたが……そんな事は聞いたことがないらしい。命をつなぐためにかけた回復魔法や、未成熟な魔力回路が関係しているのではないかと言われたが……この3年間、色々な手を尽くしたが真相はわからずじまいだ」
「そんな……!」
俺は思わず奥歯を噛み締める
「僕はこんなことをしたマッケイヤーが憎い!だから徹底的に潰す!……僕はこれ以上ヤツラに好き勝手させられるのは我慢ならないし、それに従うのもまっぴらだ。そのために宗主国のフスハーンにも協力も得た。この計画が上手く進めばマッケイヤー一族は歴史上から消えるだろう!」
憤怒が顔からにじみ出るように鬼気迫る勢いで言葉を紡ぐ。
その声音はいつもの冷静沈着の声ではなく、感情をむき出したモノだった。
「……」
俺は何も言えなかった。
「すまないね。ついつい感情的になってしまった……忘れて欲しい」
先ほどとはうって変わってにこやかな笑顔で俺に問いかける。
「……いえ、そのお気持ちは忘れません。妹さんの為にも頑張りましょう」
「……ありがとう」
王様は短くそう答えた。
こうして、夜のお茶会は終了し、俺は領事館に戻る。
領事館に戻った時刻は日付を跨いで、だいぶ過ぎた頃だった。
居室に戻ると、ルシフルエントがベッドに座って待っていてくれた。
「ルフェちゃん!」
「お帰り。おまえ様。いろいろ話があるじゃろうが……明日も忙しい。寝たほうがよい」
安堵の笑顔を見せて、ベッドに促した。
「……ありがとう」
俺は言葉に甘えてベッドの中に入った。
ルシフルエントも当然のように同じ布団に入って来た。
「…ルフェちゃん?」
「寂しかったのじゃ……一緒に寝るぐらいよかろう?」
拗ねたように言う。
俺は少しだけ頬を緩めた。そして、そのまま寝ることに決めた。
ルシフルエントも少し笑って、軽く抱き付きながら優しく俺の頭を撫でる。
撫でられる感触は、疲れた体に染み渡るようで心地よかった。
緊張が一気に抜けて、ものすごい勢いで睡魔が襲ってくる。
『本当に色々あったなぁ……ほんとうに』
俺の記憶は、そこで途切れた。




