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最後の平定先

『ああ……間違いなく最強の部類に入る龍じゃ。まさに生ける伝説と呼ぶにふさわしい黒い龍』

俺は、ルシフルエントの言葉が夢に出てきて起きる。


体を触るとじっとりと汗ばんでいて寝巻も重い。


どうやら俺は緊張しているようだ。

今まで、数々の伝説級の魔族と戦ってきたが、ホホロン基準であそこまで言われる魔族は聞いたことがない。

寝る前までは少しワクワクしていたが……心の奥では恐怖心を感じているようだ。


まだ日の出前だが、汗で湿った体は気持ち悪い。


『汗を流すか……魔法石を焚けばお湯はできるし』

3人を起こさないようにゆっくりとベッドから降りて、着替えとタオルを持ち、俺は風呂場に行った。



廊下で、ゼロに会う。


「おはようございます、マスター。かなりお早いお目覚めで」

優雅に挨拶をするゼロ。


「ああ、おはよう。ゼロこそ早いね?」


「私は眠る機能を備えておりません。機械人形ですので」


「そうか……じゃあ、少し手伝ってくれる?汗を流したいんだ」


「はい。では行きましょう」


俺とゼロは風呂場に向かった。


風呂場につき、水を溜める腰まである大きな壺に水を溜め始める。


「ゼロ、扉を出た先の貯蔵庫にある炎の魔法石を取ってくれる?」


「はい。マスター」


ゼロは外に出て行った。


普段はウィザードが魔法で湯を沸かすが、夜中や急にお湯が必要になったときはこうして炎の魔法石を使う。


炎の魔法石は人間が開発した魔道具で、生活必需品だが扱いが難しい。

コンコンと叩くと発熱する簡単な仕組みで便利がいいが専用の保管庫に入れとかないと些細な刺激で発火するのだ。

当初はそれが原因の火災が多く発生したらしい。

だいぶ改良されてそういう事件も少なくなったが、絶対ではない。


なので、ギルムアハラントでも燃えても大丈夫なような専用の保管庫に入れている。


ゼロが帰って来た。

ちょうど壺に水も溜め終えた。


「マスター。どうぞ」


「ありがとう」

俺は壺の淵でコンコンと魔法石を叩き、壺の中に入れる。


ボコボコボコ!

壺に入れた魔法石から泡が立ち、若干湯気が立つ。


「マスター」


「なに?」


「お背中を流しましょうか?」


「ありがたい。じゃあ、お願いしていいかな?」


「はい。マスター」

恭しく頭を下げるゼロ。


「じゃあ、俺は入るから、少ししたら入ってきていいよ」


「はい。マスター」

ゼロはそう言うと風呂場の外にでた。


俺は服を脱いで入る。


ザバーッとお湯を頭からかぶって、タオルを腰に巻いて、石鹸を使い別のタオルに泡を立てる。


すると、扉が開く音がしてゼロが入って来た。



そして、衝撃的な姿を目にする。



「いいっ!!なな!なんで裸なの!!」

俺は思わず違う方向を向いてゼロを見ないようにした。


「服が濡れてしまいます。マスター」


「別な服を着ればいいだろ!?」


「アルシュタイン様から頂いた服はアレ一着しかありません。他は戦闘服しか持っていません。マスター」


「じゃあ、何か胸とか隠してくれ!!」


「はい。マスター」


きゅっ!きゅっ!と布がこすれる音がする。


「もう大丈夫です。マスター」


俺はゼロを見るため振り向く。


そこには、胸と腰にタオルを巻いたゼロがいた。

しかし、もともと体を拭くやつなので妙に幅が狭く、隠れてはいるが、露出度は半端がない。


普段は見たことがない部分の金属っぽい肌が露わとなり、俺は少しだけ妙な気分になる。

体型的にはココと同じような感じだが、身長や外見から何か妙な背徳感が俺を襲った。


『……なんだか、余計に卑猥な感じになったのは気のせいか?』

決して性的な何かを感じたわけではないが……複雑な気分だ。


「どうかしましたか?マスター」

小首をかしげるゼロ。


「いや……もう大丈夫だ。頼む」

俺は諦めて背中を向いて座った。



ゴシゴシと丁寧にゼロは洗ってくれた。

その力加減は絶妙で先ほどの疲れが取れるような感じがした。


「本当に気持ちいいよ……ゼロ」


「ありがとうございます。マスター……私のベースタイプは元々こういう作業用ですので慣れています」


「ベースタイプ?」


「はい。初期開発コンセプトは『一家に一台、愛玩幼女』という宣伝文句で売られていました」


「……」

俺は何だか聞いていけない単語を聞いた気がした。

なんだよ……愛玩幼女って。

変態か!


「ありがとう。もういいよ。あとは俺がするから着替えて仕事に戻って」


「はい。マスター」


ゼロは手を洗い風呂場を出た。


「愛玩幼女だったり戦闘用だったり……変な星だったんだな」

俺は少しだけゼロの境遇が不憫に思った。


残りを手早く洗い、体を流す。


そして、残りのお湯で周りを少し掃除して、風呂場を出た。


「あ~……さっぱりだ!」

俺は思わず背伸びをする。

そして、急いで着替えて外に出た。

風呂を出るとすでに日は昇っており、急いで食事に向かった。




食事を済ますと、大陸地図の所に集まる。


集まったのはルシフルエントとココとキルとアルシュタインとホウデガーとゼロと俺。


「ホウデガーはわかるけど、なんでゼロがいるの?」


「ゼロも連れて行く。なにせあの黒龍こくりゅうじゃ。準備しておくに越したことはない」


「なるほど」


「アルとキルは留守番じゃ。色々起こるかもしれんが、よろしく頼む」


「色々って?」

ココが聞く。


「国境周辺がきな臭い……どうやらリヒテフント帝国は兵力を集めておるようじゃ」


「え……じゃあ、王様が言ってたことは」


「どうやら現実味を増しておるのう……ただ、やはり長城を建築しておるようで当分は攻めてこんじゃろうが、威力偵察くらいはあるじゃろうなぁ」


「対策は?」


「もちろん対策も立てておる。クップメントはこちらに報告すると同時に罠や、眷属の配置を変更しておる。また、こちらも拠点をいくつか築城するように言っておいた」


「ドワーフさんたちにも連絡して弓矢などの拠点兵器を作ってもらうように連絡しときましたぁ」


「そうか……ありがとう」


「こちらはお任せください……あと、ガルガン山脈は標高が高くて寒いので、耐寒マントを用意しました。どうぞお使いください」

キルが恭しく頭を下げて言う。


「ありがとう……じゃあ、準備ができ次第、すぐに出発だ!」


「おー!」



俺達は急いで準備して転移魔方陣の部屋に移動した。



転移魔方陣の部屋に集合して、俺達はキルから耐寒マントを受け取り着ける。


魔法の糸で編み込まれたその豪華な朱色のマントは、踝まで長さがありほんのりと暖かかった。


「ゼロは着けないの?」

ココは言う。


「私は耐寒マイナス200ドンまで耐えられるように設計されてますし、宇宙空間でも行動可能ですので、心配無用です」


「ドン?宇宙?よくわからないけど大丈夫なのね?」


「その認識で大丈夫です。ココ」


「わ!初めて名前で呼ばれた……」


「女の方が良かったですか?」

ゼロは小首を傾げる。


「い~や!名前の方絶対いいから名前で呼んで!!」


「ほらほら……漫才はその辺で辞めんか。第2夫人はこれだからいかんのう……では、おまえ様。行くぞ、ガルガン山脈へ」


「ああ。行こう」


俺達は転移魔方陣の中にはいった。



転移魔方陣を出ると、そこは氷と雪に覆われた山の頂だった。

外は猛烈に吹雪いており、厚い雲が垂れこめている。

しかし、魔法のマントが寒さを遮断しているのか寒くはなかった。


「他の所みたいに出迎えてくれるってわけではなさそうだね」


「いつもそうじゃ……黒龍のところへは、この先の尾根をまっすぐ行けばすぐ着く」

ルシフルエントは指をさす。


厚い雲が霧の様になっててよく見えなかったが、そこには人がふたり辛うじて通れる道があった。


「わかった、急ごう」


俺達は人数を確認して、黒龍こくりゅうの元へと急いだ。

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