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正体不明の敵1

正直な感想を言えば、彼らの夕食は味気なかった。


素材の味を活かすと言えば聞こえがいいが、基本煮るか、焼くか、生で食べるかの三択しかない。


それは、元々獣魔族が四本足で生活していることに起因する。


彼らは代々料理という物ができない。


手がないので当然だ。

何も持てないのだ。


食事はただ腹を満たすだけのも。

そういう感覚なのだ。


現代では、対外的に食事を出さざるえない立場であるので、魔法でゴーレムを作り、煮たり、焼いたりとバリエーションを増やしてはいるが、基本料理の知識がないので味はそのままなのだ。


また、それを良しとする獣魔族としての気概が、この皿の上の料理を超薄味へと誘っている。


「なあ、塩かなんか無いのか?」

俺はたまらずメラダーに申し出る。


「塩?珍しい奴だな。ほら、あそこに出てる土を舐めろ」


「ええ!」

俺は驚きその方向を見る。


そこには何体かの獣魔族が土を一生懸命舐めている。

その表情は必死だ。


『あそこを舐めるぐらいなら……我慢した方がマシだ』

俺は思わず、自分が土をペロペロ舐める姿を想像して思う。


「ああ……わかった。ありがとう」

俺は礼だけ言ってルシフルエントを見る。


「なんじゃ?おまえ様。妾のはやらんぞ?」

ルシフルエントはごく普通に食べていた。


そして、思い出した。

ルシフルエントが生のウサギの頭をボリボリと食べれる肉食系魔族であることを。


俺は頭を抱えた。


「おまえ様?どうしたのかえ?気分でも悪いのかえ?」

心配そうな顔でのぞき込むルシフルエント。


「いや……大丈夫だ。ちょっとこの料理が健康的で嬉しくなっただけだ」


「?……まあ良くわからんが大丈夫そうじゃな」


「そうそう。大丈夫だ」

そう言って、俺は一気に料理を食べる。



ちょっとしたカルチャーショックを受けながら俺は心に誓う。

ルシフルエントに料理を教えようと。



食事も終わり、メラダーと明日のことで打ち合わせる。


赤の宮の広い個室で車座になって座る、俺と、ルシフルエントとメラダー。


「明日は魔法を使う奴らの所まで、誰か案内をお願いできる?」


「それに関しては私自ら赴こう」


「自ら?ミレでもいいのだぞ?」

ルシフルエントが怪訝な顔で言う。


「いえ、奴の魔法は少し特殊で、対処が難しいのです。大勢で行くと犠牲が出るやもしれません。ミレは特に次期部族長なので……それに、魔王様に仇なす者を防げなかった私の失態。償わせて下さい」

メラダーは頭を垂れて懇願する。


「……わかった。メラダーに任せよう」

ルシフルエントは腕を組みながら言った。


「質問していい?特殊な魔法ってどういうの?」


「奴の魔法は魔力反応が関知できません。遠目でしか確認できませんでしたが、背中から何かが飛び出したかと思うと、壺のような魔導具が飛んできて氷系の魔法を放ちます。恐ろしく早く、空を縦横無尽に飛び交うため反撃も、防御もしにくく、無残にも8体の我が部族の戦士が犠牲になりました」


「ふむ……難敵じゃな。おまえ様よ、妾が拠点防御魔法を展開しつつ、少しずつ近づき、隙をみて、一気に叩くのはどうじゃ?」


「そうだね……それが一番手堅いやり方か」


「私も微力ながら参加させて頂きます」


「うむ。期待している」

ルシフルエントは頭を撫でながら言った。


「しかし……魔力が関知できない魔法か……妙じゃな」

ルシフルエントが顎に手を当て考える。


「空飛ぶ魔法の壺も……そんな、魔導具聞いたことないね」

俺も腕組みをしながら言った。


「私も、初めて見ましたが……とにかく、強い。我が部族の戦士があっけなくやられ、忸怩たる思いです」


「そう、気を落とすでない。妾の旦那様が来たからには大船に乗ったつもりでおるのじゃ!」

ルシフルエントは満面の笑みでメラダーの頭を撫でながら言った。


「はは……はぁ~」

俺は苦笑いしかできなかった。



細々とした事を打ち合わせ、明日のために早めに就寝した。




次の日。


メラダーの背に乗り、戦闘があった付近まで出向く。


メラダーが立ち止まる。


「この先の丘を越えた当たりで遭遇しました」


俺達はメラダーから降りた。


「おまえ様、メラダー。支援魔法をかける。じっとしておれ」

ルシフルエントは、そう言うと魔法を唱え始める。


「よろしく」

「よろしくお願いします」

俺とメラダーが同時に言った。


「……今…すべての者に……全能なる力を与えたまえ……ハイ・ポテンシャル!!」


魔方陣が俺とメラダーを包む。


力が沸いて出てくるような感覚がした。


「グレートウォール!」


魔力が俺たちを包み込み、見えない壁が俺たちを囲んだ。


「さあ、これでいつでも大丈夫じゃ。いくぞ!」


「おう!」


俺たちは慎重に、回りを警戒しながら進む。



そして、丘の上まで来た。



丘の上は、ごつごつとした岩がむき出しで転がっている広い平地で、奥の方には坑道の入り口が見える。


その坑道の入り口に一人の少女が立っていた。


「あのシルエット!!間違いありません!!奴です!!」

メラダーが叫ぶ。


「ええ!でも…あれって……少女じゃないか?ちょっと、かるってる鞄が大きいのが不自然だけど……」

俺は戸惑う。


遠目なのでよくは見えないが、間違いなく11~12才ぐらいの少女だった。

短めの緑色の髪をアップでまとめて、丸眼鏡をしている美少女だ。

しかし、背負っている鞄が異常に大きく、大人の背丈ほどあり、金属的な光沢を放っている。

しかし、まだこちらに気付いていないのか、棒立ちのまま止まっている。


「なんじゃ?様子見で攻撃してみるか?」


「わかりました……私におまかせ下さい」

メラダーはそう言うと、魔力を溜める。


「グォォォォオオオ!」

メラダーが吠える。


すると、顔の左右から新たな顔が出てきて吠える。


「ガオォオオオオ!」

三つの顔はそれぞれ吠え、炎のたてがみは荒ぶり、白銀と赤の毛並みは逆立っている。


その巨体と相まって、強烈な威圧感を醸し出していた。


ゴウ!ゴウ!ゴウ!

三つの口から巨大な炎の玉が吐き出される。


その炎の玉はかなりの早さで少女に向かう。


俺は少し目を背けたくなったが、見る。


炎が着弾した。


真っ赤な炎が少女を包み込む。


『オーバーキルじゃないか?』

俺はその炎の火柱を見て思った。


しかし、次の瞬間の光景を見て、焦る。


少女は無傷だった。


見えない壁に炎は遮られ、まったくダメージを受けていない。


片手を上げ、立ち尽くしている少女は無表情だったが、瞳はこちらを見ていた。




「熱攻撃感知……対熱式戦闘モード……ターゲット……3体。所属不明。距離……350メルテ……フルホイール射出。遠隔攻撃準備」




なにか、ブツブツ言っているように唇が動いている。

バシュッ!と何かが飛び出す音がすると、背中の鞄から例の魔法の壺が出てきた。


どういう、魔法を使っているかわからないが、10を超える魔法の壺が宙に浮いて明らかに攻撃しようと準備している。


「来るぞ!!」


俺は魔剣ルシフルを鞘から抜き、戦闘態勢をとった。


メルダーもルシフルエントも身構える。



そしてついに、魔法の壺が不規則な軌道を取りながらかなりの早さでこちらに飛んできた。

9月30日炎の宮→赤の宮に変更

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