正体不明の敵2
不規則な軌道で飛ぶ魔法の壺。
しかも、その早さは並みではない。
瞬きするまもなく移動し、光の玉を撃ってくる。
その光の玉に当たると、一瞬で氷の固まりになる。
魔法で防御していたから俺たちはダメージをくらわないが、外に出るのは難しそうだった。
「クソ!あの壺、前後左右にチョロチョロと飛んで予想ができない!」
「ああ……まったくじゃ。しかも、常に口がこちらを向いていて、いつでも氷の光を放てるようになっておる。グレートウォールも長くは持たんぞ」
「ガアァア!」
メラダーが炎の玉を吐く。
魔法の壺は平行移動して避け、一斉に氷の光の雨を俺たちに降り注ぐ。
魔法の壁にぶつかるたびに振動が伝わってくる。
「クッ!なかなかの威力じゃな」
ルシフルエントが笑いら言った。
不意に壺の一体が低い高度まで降りてきた。
「いまだ!」
俺は飛んだ。
ハイポテンシャルで強化した俺のジャンプ力で何とか壺まで届いた。
「せい!」
俺は思いっきり剣を振る。
壺は真っ二つに切れた。
俺は自由落下で元の場所に降り立つ。
ドーン!
上で何かが爆発した音がした。
「おお!一体やったぞ!!」
ルシフルエントが喜んだ。
その音で、全ての壺は高度を上げた。
そして、より激しく氷の光を撃ってきた。
その光景は豪雨のようだった。
魔法の壁にぶつかる量も増え、振動も大きくなる。
「ルフェちゃん!大丈夫!!」
「クッ!……ああ、なんとか大丈夫じゃ。しかし、きついのう。あの高度じゃ手も足もでん」
「このまま、少しずつ前進しましょう!本体を叩けば無力化できるはずです!」
「ああ……進もう!」
俺たちは防御に徹しながら、進み出す。
途中、何体かの壺が高度を落としてきたため、隙を見て切る。
合計3体を何とか切り捨てた。
「距離……200メルト……近接戦闘準備」
少女がまた何かブツブツと言っている。
すると、両手から3本の筒を束ねた物が出てくる。
それがすごい勢いで回転しだす。
回転したまま、両手をこちらに向ける。
ダラララララララ!
甲高い音と共に流れるように何かが打ち出された。
それは高速で飛んでくる鉄の玉のようだった。
魔法の壁が甲高い音を立てて、はじき返す。
『なんだ!?あんな鉄の玉が当たったら痛いなんてもんじゃない!なんて凶悪な物を持ってるんだ!!』
俺は焦る。
「リヒテフントで開発された『鉄発』という物に似ておるのう……しかし、こんなに早く撃てる物では無かった気がするが」
ルシフルエントが思い出しながら言う。
「テツハウ?」
「魔法を使えん人間が使う兵器じゃ。筒に火薬を詰め、鉄の玉を高速で撃ち出す物じゃ。人間が当たれば痛いじゃろうなぁ。まあ、魔族は一発や二発では何ともないが……ああも雨のように撃ち出されたのが当たると恐ろしい物があるのう」
ルシフルエントは不敵に笑う。
それは、余裕がある笑いではなく……恐怖に起因する笑いだ。
少女の攻撃に合わせて激しくなる壺の攻撃。
壁から伝わる衝撃は、一歩踏み出すごとに増している。
メラダーも果敢に炎の玉で攻撃するが、当たらないか、氷の光で消滅させられるかどちらかだった。
氷の光も密集しはじめ、隙がない。
壺の動きも速度を増し、なかなかタイミングが取りづらく、攻撃できない。
正直かなり、手詰まり感がある。
「進むしかない!ルフェちゃん!頑張ってくれ!」
「任せろ、おまえ様!」
ルシフルエントの瞳が赤く輝き始め、髪の毛が逆立ち始める。
魔力供給量を増やしたようで、俺の目でも、魔力の流れが見えるぐらいになっていた。
『すげぇ……魔力が……溢れてるようだ、綺麗』
魔力の流れはルシフルエントから放射状に魔法の壁に流れていた。
その光景は美しかった。
「距離……100メルテ。接近限界。短距離飛翔弾……準備」
少女がまた何か言っている。
「短距離ヒショウダン?なんだそりゃ?」
俺には理解できない単語だった。
「ルフェちゃん。ヒショウダンって?」
「さあ?初めて聞く……まあ、妾達にとって、あまり良い物ではなさそうだがの」
同感だった。
少女から鉄発のような攻撃が止んだ。
ガチャ!ガチャ!
両手の回転体は収納され、代わりに円錐形の見るからに飛んできそうな物が出てきた。
魔法の壺も高度を上げる。
その円錐形のヒショウダンと思われる物はとんでもないスピードで無情にもこちらに飛んできた。
ドーーーーーン!ドーーーーン!
「うわ!」
「なんじゃ!」
「グウゥ!」
轟音と共に壁からすさまじい衝撃が伝わる。
俺たちは思わず跪いた。
煙があたりに充満して少女の姿も見えなくなった。
「くぅっ!こいつは中々痛いな!」
ルシフルエントは思わず呟いた。
よく見ると、額から汗が出ていた。
『ルフェちゃんがこんなになるなんて……相当な威力だ』
俺は背筋が寒くなった。
視界が晴れる。
無表情な少女の顔が見えた。
そして、円錐形のヒショウダンも見えた。
「うわ!!」
俺は思わず叫んでしまった。
そして、無情にも少女の両手からヒショウダンは放たれた。
ドーーーーン!ドーーーーーン!
ピシッ!
魔法の壁にヒビが入り、黒煙と共にまた視界が見えなくなる。
「ルフェちゃん!」
「大丈夫じゃ!……しかし、そう長くは保たんやもしれん」
ルシフルエントは自嘲気味に笑いながら答える。
『あの、ルフェちゃんが……まずい』
いつも自信満々のルシフルエントが弱音を吐く。
かなりの緊急事態だと考えていい。
「クソ……どこか、突破口が!」
俺は焦る。
視界が晴れればまたヒショウダンが来るに違いない。
「突っ込むか?」
思わず思っていたことが口に出た。
「人間……その役目、私がしよう」
メラダーが言った。
「しかし!危険だ!」
「それはお前でも同じだ。お前は次期魔族の長……後は、頼むぞ」
「メラダー!」
ルシフルエントが叫ぶ。
「ルシフルエント様……どうぞ、お幸せに」
そう言うと、メラダーが魔法の壁から飛び出した。
同時に、視界が晴れる。
「ゴオォオオォオオオ!」
炎を吐きながらものすごいスピードで走るメラダー。
少女がメラダーの方を向く。
そして、ヒショウダンを構える。
メラダーは横に移動する。
俺たちに攻撃が当たらないよう、注意を背けるために。
「いけ!おまえ様!」
ルシフルエントは叫んだ。
「おおおお!!!」
俺も走った。
少女はこちらにまだ気付いていない。
しかし、ヒショウダンは無情にもメラダーに放たれる。
ドーーーーン!ドーーーーン!
二発のヒショウダンが目にもとまらぬ早さで放たれ、爆炎がメラダーを包んだ。
そして、魔法の壺からも氷の光が爆炎に向かって降り注ぐ。
『考えるな!!足が遅くなる!!』
俺は一直線で少女に切り込む。
少女がこちらに気がついた。
その瞬間、俺は飛んだ。
「うぉぉぉぉおおおお!」
魔剣を大上段で振りかざし、切る。
少女は頭こそ下げたが、避けきれなかった。
俺は、鞄を真っ二つに切る。
そして、返し刀で切り上げた。
返し刀が、少女の背中に沿って切り上げ、鞄が宙を舞う。
そして、大爆発を起こした。
俺は、爆発の勢いで倒れ、気絶した。




