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マウントシュバッテン王1

マウントシュバッテン王は今日もツタン城を忙しく駆け巡る。


朝は、いつも朝食を食べながら、前日までの進捗状況と本日のスケジュールを確認する。


「閣下。本日もお日柄もよく……」

中年の執事がそう言い始めるとマウントシュバッテン王が言葉を遮る。


「もういい。別の奴に報告させる。お前はクビだ」

モグモグ食べながらあっさりと言う。


「ええ!私が一体何をしたんでしょうか?」

突然の事で驚く中年執事。


「僕はいつも手短に挨拶して用件を早く言えといってるだろ?おまえは3日連続で長ったらしい挨拶から始めた。おかげで食事も半分済んでしまった。時間の無駄だ。それに……」


「それに?」


「今日は曇りだ。お日柄は良くない。そんな状況判断もできないような無能はいらない」

ハッキリと、切り捨てる。


「は……はい」

中年執事はトボトボと下がる。

そして、両脇を衛兵に抱えられ連れていかれた。



「コーネリア!」

マウントシュバッテン王が少し大きな声で言うと。

すぐに長身の若い執事が優雅に早く来た。


肩まで伸びる綺麗な青い髪を後ろで結んだ長身の執事は20代前半のようだった。

しかし、目は鋭く、常に真顔なその表情からは冷徹な印象を醸し出していた。


「お呼びですか?閣下」

自然と、さも何事も無かったようにコーネリアは尋ねる。


「報告」

マウントシュバッテン王は少しだけ、イライラしているので端的に言う。


「前日までの案件は全て順調に運んでおります。本日は、この後すぐに232件の決済業務をしていただき、その後、国境警備増強の会議を行います」


「国境?なぜ増やす。魔界はひと段落ついただろ?」

怪訝な顔でマウントシュバッテン王は言う。


「そちらではありません。リヒテフント帝国とアスラムル宗主国です」


「……そっちか、わかった」


「昼食後、ソリ王国派遣団、ミドルガルド子爵、コトレン男爵が謁見です」


「ソリ王国は慎重にしないといけないな。コトレンはまたいつものか?ミドルガルドは何用だ?」


「コトレン男爵につきましてはそろそろ引退させる方がよろしいかと。ミドルガルド子爵様はリヒテフント帝国の越境行為についての詳細な報告と会議次第ですが御下賜金の授与が……」


「ああ、用意をしておけ」


「わかりました。財務に連絡しておきます」


「ソリ王国との晩餐会の準備は大丈夫か?」


「もちろんでございます。今後の事を考えて、盛大に準備しています」


その言葉を聞いて少しだけ怪訝な顔つきになるマウントシュバッテン王。


「経費的にあまり好きではないが……初めてくる王女に失礼があったらいかんからなぁ~」


「儀礼は大事です。我慢してください」


「そうだな。では、準備をして決済だ。今日は馬鹿のせいで時間が押してる。急がせろ」

口を拭き終わったマウントシュバッテン王は立ち上がる。


「了解しました」

コーネリアは深々と頭を下げた。


そして、二人は部屋を出た。




文筆管理室では文筆秘書官が忙しく仕事をしている。


その中央の豪華な机の上で肩肘をついて、気怠そうにハンコを押すマウントシュバッテン王。


傍らには先ほどのコーネリア執事も直立不動で立っている。


「なあ……コーネリア」

ペタペタとテンポよくハンコを押しながら気怠そうに言う。


「何でございましょうか?」


「お前が押さんか?」


「ダメでございます」


「なぜだ?」


「王の決済は絶対です。私ごときが押すと権威が失墜します。亡き王様の様に……」


「……あのテキトー王みたいにはなりたくないなぁ」

周りに聞こえないように呟く。


「ご無礼ですよ?」

コーネリアも周りに聞こえないように呟いた。


「死人に口なしだ」


「グールとなって戻ってくるかもしれませんよ?」


「あいつだとグールにした魔導師が困るだろう?何にもしないから」


「確かに……閣下は冗談がお上手です」

コーネリアは少しだけ鼻で笑った。


その様子を見て、マウントシュバッテン王も少しだけ笑う。

しかし、すぐに文章に不備を見つけ怪訝な顔になる。


「ん?この文章を書いたやつは誰だ?厳重注意で罰金だ」

マウントシュバッテン王はハンコを押さず、コーネリアに渡す。


「了解しました」

コーネリアはお辞儀をして紙を文筆秘書官に持って行った。





会議では喧々諤々の議論が繰り広げられていた。

ストレスからか各大臣たちの葉巻の数が増える。


「今年度の予算はひっ迫しています。長城を作るなど……維持はどうなさるおつもりか?」

財務担当の禿げかかった中年の大臣が言う。


「維持はミドルガルド子爵に任せればよかろう?予算も御下賜金以外は子爵もちで……」

軍事を担当する、いかにも武骨な髭を生やした中年の大臣が言う。


「こんな膨大な長城を子爵が作れるわけなかろう?もうすぐ第一期の収穫だ。人手が足りん!!」


「そんな事は知った事ではない。作らねば侵攻されればひとたまりがないのだ」


「まあ、待て」

マウントシュバッテン王がはっきりと言う。


「はっ!」

「はっ!」

二人の大臣は姿勢を正し、傾注する。


「ミドルガルド子爵の予算規模では確かに厳しい。侵攻への配慮も分かる。しかし、長城はリヒテフントへの刺激になりかねん。そこでだ……」


「??」


「上に流れているヨルー川を使えばどうだ?長城の代わりに堀のような灌漑用水路を引いて下のメルケン川まで繋げるのだ。一帯を農地として開墾開放し、振興策とする」


「しかし……予算が」


「予算は作る物だ。魔界の脅威が減った分、リヒテフントの脅威が増している。魔界関連の領主から臨時徴収してでも下賜金を増額せよ。いいな?」


「はっ!」


「あと、そこの髭!」


「はっ!」


「すべてを領主に任せるなど言語道断だ。もう少し考えろ。罰もかねて、おまえを臨時徴収第一号に任命する。金貨100枚すぐに用意しろ。いいな?」

きわめて冷静に、真顔で答える。


「は……はい」

髭がシュンと倒れる。


「それでは、会議は終わりだ。みな、ご苦労」

マウントシュバッテン王は退席する。


各大臣は全員立って、お見送りした。

1話にしては長すぎるので分割しました。

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