皇女誘拐
続きです、よろしくおねがいします
「うわぁ、物凄い人の列ですね」
元皇女ローゼスが結婚する事実は、諸国の貴族、領主の注目を集めた。
あの超跳ね返り豪胆女のロゼを、皇帝ハデスがどうして射止めたのか?。
招待客の大多数は、本物か見学に来たというのが、真実の処の様だ。
要するに、真実は闇に葬られ、この国は正当な理由で城主が代わったと、諸国には流れていた。中には真実を知る物も居るが、それは全てガリア皇帝の息の掛かった者達のみ、それ以外は始末されている。イリスも言っていたが、ラケニスから話を聞くまでは信じたくない真実と、思っていたそうだ。
「私達の耳にも、皇王様が御病気でと聞かされましたよ」
「冗談でしょ! 、全くのデマじゃない!」
「声がでかいっ! 、静かにしないと目だっちまうだろ!」
「ご、ごめんなさい……」
俺から注意されたマリネは、得意の縮こまりを見せる。
それを見たイリスは、微笑みながら言う。
「良いですねこの雰囲気、本当に帰ってきたんですね」
「イリス……」
俺とマリネはイリスの付き人の役で、宮殿へ入り込んでいる。
俺達の作戦は、実に単純な物を決行する、複雑にして失敗しては元子も無い。
昨晩、皆で集り決めた物を、決行する。
……昨夜、イリス宿泊室。
イリスは、あの性悪魔女に既に話を聞かされていた。
彼女曰く、とっとと、ロゼを攫って来いっ!、だそうだ。
「気軽に言ってくれるなぁ」
「ラケニス様らしいなぁ……」
「ふふふ、他に助っ人も居るんですよっ」
彼女は膝の上に長い銀髪を垂らし、青眼で嬉しそうにしている。
「え?、誰が?俺達に手を貸してくれる奴がいるのか」
「ええ、もう直ぐここへ…………、どうやら来られたようです」
ドアを、コンコンと叩く音がしてイリスが、入室を促し客は入って来た。
俺達を手伝う様な、奇特な者の正体に興味が沸いていたが、見て納得した。
「アネスっ! 、お前かぁ」
「わぁ、生きてたんですねぇ」
「勝手に殺すなっ、馬鹿者コンビっ!、それと……、良く戻ったユキヒト」
「ひっ!」
「あはははは」
得意の台詞を言った後は、俺達は背中を抱き合った。
この時の抱擁は、甘い恋人との物で無く、信じた友と交わす物だった。
四人で再会を喜び、本来なら宴会でもしたい気分だが、そういう状況に無い。明日に成れば、ロゼの結婚式が執り行われ、彼女はガリア皇帝の妃に成ってしまう。その前に、彼女を誘拐してしまう大事な作戦を、確実に成功させる為だけに集っている。
「ロゼの直近へ、イリスが扉を開き、俺は彼女を攫って逃走する」
最初に、要点だけ言うと、アネスがすかさず質問を飛ばしてきた。
「別に結婚式を待たずに、攫えば良いではないか?」
俺も最初はイリスに、長距離から扉を開き彼女を攫えないかと、進言した。
だが、イリスはこう返事をして来た。
「ロゼ様は今、魔法で呪縛状態にあります。それが解けないと攫っても意味が有りません。仮に連れ去っても、彼女は自分から皇帝の所へ戻ってしまうか、それが不能だと命を絶つ危険性も有るので、呪縛が解けるまで手が出せません……」
「なんとっ、そんな事までされてるのか!」
「なので、ギリギリまで私達は手を出すのは危険です」
遠距離からの誘拐は無理、呪縛が解けるまで出だし無用も分かった。
では、何時なら彼女を攫えるのか?、それをイリスは分かっているのか?。
その、もっとも重要なタイミングを彼女に問う。
「で、何時なんだ?、扉を開ける瞬間って奴は?」
「それは……」
誘拐犯三人の視線は、同じ誘拐犯その四人目のイリスに注がれる。
「それは?」
「それは何時なんです?
「何時なんだ?、それはイリス!」
それは……、から先を語るまでに、そんなに間が空いてた訳じゃない。時計が秒針を刻む音は、カチ、カチ、カチと、三度程度だった筈だが、しかし、気分は長時間待っている様にさえ想えた。
そしてイリスは瞑っていた青眼を開き、肝心な要の話を告げる。
「誓いの儀式の瞬間です! その時に呪縛は解かれます。扉を開くのはそこ」
「誓いの儀式って……、もしかして」
「アレですねぇ」
「うむ、二人が唇を重ねる瞬間を狙う訳だな、確かに虚をつけるな!」
アネスが露骨に言うもので、二人のシーンを想像してしまい。
俺は、これ以上ない位に、気分が悪くなった。
俺の顔が急変したもので、アネスはしまったとぱかりに口を閉じるが、遅かった。
「くそっ! 、想像しちまったぞ、全く気にイラネェ!」
「済まぬ、遂……」
「大丈夫……、その前にロゼ様を攫えば、問題無しですっ!」
これは……、絶対にタイミングを間違える訳にはいかない。
まぁ、ロゼに好意が無いのは承知しているが、触れさすだけでも気分が悪い。
そもそも、ロゼが婚約状態に成った時点で、気に入らないっ! 。
「こホンっ、続きいいですか?」
「あ……、うん頼むよイリス」
「もう一つは、ロゼ様を攫った後の逃走です」
そうだ……、同じ部屋に現れる訳で、そこから無事に逃げる算段も要る訳だ。
速攻で衛兵に、囲まれてしまう前に逃げ延びる事が求められる。
扉を閉鎖され、袋の鼠に成ってしまえば、そこで計画は失敗になる。
「そこでだ、私の出番が来る訳だな、イリス」
「ええ、仰る通りです、アネスさんには、誘拐した後に宮殿から脱出する際の、援護を頼みます」
「それは分かるけど、アネス一人では捕まって仕舞いに成らないか?」
彼女の強さは、十分知っているが流石に一人では、荷が重過ぎると言う物だ。
俺達が無事に逃げ延びても、彼女が捕まるのでは本末転倒じゃないか。
「私を心配してくれるのは、嬉しいが問題無い!」
「馬鹿言うな、捕まって問題無いと言えるか!」
「誰が一人と言った?」
「え?」
アネスから、自分が今は何をしているか教えられた。
彼女は今、各地に散らばってしまった旧ハインデリア兵を率いて、反旗の機会を窺っている。まだ反乱を成功させるに足る状態では無い為、直接的行動は出られない。それでも俺達を、宮殿の外へ脱出させる程度の混乱なら、楽勝だと豪語してくれた。
「そうそう、私だけお前に逢いに行くと言うと、散々に愚痴られだぞ」
「あははは」
ハルの名前が出たとこで、無性に逢いたくなった。
あの笑顔で癒されたい、そんな衝動に駆られるのをハッきりと感じた。
直ぐにでも、彼女の居場所を聞き、訪ねて行きたい気分に浸った。
だが今は駄目だその時じゃない、ロゼの誘拐作戦に、神経を尖らせる必要に迫られている。無事に誘拐して逃走出来たなら、その時は、ハルに逢いに行く機会も訪れるだろう。
「既に仲間の兵は、首都に潜入している」
武器を装備しての入都は、厳しく調べられるが素手だと、フリーパスに近い。
簡単な検査で、街へと入れる様だ。
「武器は、秘密の隠し場所から調達するから、これも問題無い」
後は、宮殿を出た後の逃走ルートだけ、それも既に決っていた。
「脚の早い地竜を既に、用意済みだ。それに乗って港町ペレストへ向かえ」
ペレストに用意している船で、ネーブルへと向いラケニスの塔へ避難する。
これで、一応全ての作戦は決ったが、二人はその後は?。
「私は……、お前と同行したいが、今は無理だ」
アネスは、今しばらくは反乱兵達と行動を共にすると言ってきた。
では、イリスは如何するのかと言うと。
「私も、思うところが有り、国へ帰ります」
二人とも、明日の作戦が終了したら暫らくは逢えなくなる。
寂しい気持ちが湧き上がってくるが、二人が決めた事を尊重したい。
皆が無事なら、何時か再会も果たせると言う物だ。
明日の成功を願い、俺達は解散して夫々に別れた。
……結婚式会場。
「そろそろ時間じゃないか?」
「ええ……、司祭が祭壇へ立ちました。もう始まります」
「緊張しますねっ!」
マリネの言葉で、俺も鼓動が早まって来るのを、感じた。
会場入り口が、一度閉められ礼服姿の衛兵が、扉の前に立った。
会場に、静けさが訪れた。
祭壇前に、もう一人姿を見せる者は、ガリア帝国皇帝ハデス。一瞬、あそこまで走りぶん殴りたい衝動を、必死で抑え、計画実行の時を待つ。
会場の扉がゆっくりと、開かれていく。
結婚式が、遂に始まりを見せる。
入り口の扉が開き花嫁が姿を現すと、式場の視線を一手に集めた。
若く美しい花嫁は、純白のドレスに身を包む、金色の髪を伸ばす頭部には冠、そこから拡がるベールは、床に着くほど長く、二人の女性が端を掴み拡げている。同じく純白のドレスの裾の端は、遥か後方まで拡がり伸びている。
ロゼのウェディングドレス姿。
皇帝からの物と分かっていても、ロゼの美しさに見惚れてしまう……。
マリネも、計画を忘れたかの様に彼女に魅入ってしまった。
「ロゼ様……綺麗……」
「ああ、凄く綺麗だ……」
他の男に見せる為の物と思うと、神経がはち切れそうになる。
今直ぐ飛び出して、ロゼを攫って行きたい衝動を、耐え忍ぶしかない。
花嫁の眼には、幸せを待ち侘びる……否、悲しみを蓄えてた色しか見えない。
両手にブーケを持ち、俯き加減に祭壇へと歩みを続ける。
花嫁が向う正面には、一段高い台に立つ司祭が待つ。
背中を向けて、花嫁の到着を待つ新郎が神官を見据えている。
その横へ、花嫁が到着し真横に並ぶ。
付き添っていた女性が、指を放し両脇へと歩いて行った。
二人が何か会話をしたが、ここからでは聞こえなかった。
「それでは、これより……、誓いの儀を執り行う」
司祭の宣言で、ロゼが司祭に頭を下げた。
ロゼの周りに光で包まれた……。
心臓の音が、はっきりと聞こえる……。
ここで失敗したらと、心がざわつく、緊張の糸が張り詰める。
ロゼの身体の光が弾け、彼女はベールを外し皇帝へと顔を寄せていく。
ユキヒトごめんね…………
彼女の声が確かに耳に聞こえたその時、イリスが告げた!。
『今ですっ!』
イリスの合図で、マリネが扉へと体当たりを敢行した。
扉の衛兵の注意が、彼女へ注がれた時、イリスは次元の扉を開いた。
「ロゼ様をっ!」
「おう!」
扉へと飛び込み、ロゼ誘拐作戦は開始された……!。
ありがとうございました