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3/21 午後

「ただいま帰りました!」

「あら、お帰りなさい。アレックスは出かけてるから私たちだけで食べ始めましょう?夫は今日は帰ってこないわ。」 


カレンさんの言うところによると今日は三百人会と呼ばれる国の統一議会の会合へと向かったらしい。アレキサンダーが国内でもそれなりに有力な人間であることを再確認すると食堂へと向かう。


「あら、お帰りなさい」

「た、ただいま。エル」

「なにきょどってるのよ。」

「なんか、照れくさくてさ?」 

「良いから座って、今日は私も手伝ったのよ!」

「エルったらとーーっても張り切っていたわよ。」

「もう!お母様ったら!」


朱雀は目の前の光景に少し困惑しながらも出てくる料理に対する期待を抱いていた。食堂側のドアが開くルルと他のメイド二名が料理を運びながら出てきた


(あれ、なんて言うんだっけ、ゴロゴロ?違うな、カート?違う。いったいなんて言うんだっけ?)


「他の方たちも読んできてくださる?」

「ええ、奥様」


十数人が机を囲み、一斉に食べ始める。今日の昼食はオムライスとサラダ。恐らくエルが手伝ったのはサラダだろう。アスパラのような野菜にサイズが極端なものがある。


「ねぇ、エル?明日はさ、僕も一緒にやっていい?」

「もちろんよ!」


満面の笑みでそう返してくるエレーナ。その様は天使のようだった。つい見とれそうになる朱雀だったが真横にいるカレンにばれることを危惧してすぐに食事を続けた。


ーー食事が終わり外に出ようとした朱雀だったが、外は生憎の雨だ。雨だから中止、と言うわけではないが今日はなんとなくこの家の中で過ごすことにした。


「あーあのーカレンさん?すいません、本を詠みたいのですが。」

「あら、そうなの?ついてきてくださる?案内しますわ。」


突然呼び止めたにも関わらず自ら案内してくれるカレン、朱雀はこの時また、この家族の優しさを感じだ。


案内、といってと所詮家の中、と思っていた朱雀だったがその道のりは離れまで続き、その一室、正確にはその離れに部屋は二つしか無く、図書館とお手洗い。そのうちの図書館が大多数を占めその辺の一軒家がすっぽりと入りそうな二回ぶち抜きの個人のものとしてはかなり大きな図書館だった。


その部屋は食堂や今、朱雀が寝室して使っている部屋同様手入れが行き届いており本棚の上すら埃がかぶっていなかった。


木製の本棚に木製の机といす。木の香り漂うその部屋は外の雨と相まってどこか懐かしい感じがする、そんな空間だった。


「何か必要なものがありましたら、そこの通信機をつかってね。使い方は簡単、スイッチを入れて通信したい場所、今回はメイドのところね、そこまでつながるイメージを頭で描くだけよ。それじゃあ。夕食の時間になってもでで来なかったら、誰か人を来させるわね。」


そういうとカレンは来た道を去っていった。


「さあーて。今から六、七時間知識を詰め込むか!」



ーー四時間がたった頃。たったの数十ページにまとめられた、簡単なこの世界の歴史を理解することができた。しかし並行して辞書や地図帳を見ていたため、当初の見積もりの二倍はかかってしまった。そのため疲労とのどの渇きが一気に押しよせる。


「えーっと…確か、スイッチを入れて…」


喉を潤すための飲み物をメイドさんに頼むために朱雀は例の通信機を使おうと試みる、仕組みは極々単純でファンタジーな無線といったところだ。この世界ではある程度の科学も発展してはいるらしいが、それは地球のそれと比べればとうてい及ばない。


そのスイッチ、最もそのファンタジーな無線には一つしかボタンがないのだが、を押し連絡したい場所を頭の中で想像する。するとその無線機は光だしティッシュ箱程度の大きさのそれはたった三つの部分で来ていることがわかった。


まずは動力、これは魔石と呼ばれる、魔力のこもった石。バッテリー式の電池と考えて相違ない。


次に上半分スピーカーがついている。下半分にはマイクに当たる場所が。


お察しのとおり見た目がファンシーなトランシーバーだった。


「あーあのーきこえてますかー?」

「ええ、スザク様、聞こえております。」

「あ!ルル?」

「はい。いかがいたしましたでしょうか」

「アイスティーを頼めるかな?」

「かしこまりました。しばしお待ちを。」


そこで通信はブツッと切れた。相変わらず愛想がない。


波が百回ほど打ち寄せるのにかかる時間が過ぎた。アイスティーを持ってきたルルシフルが現れた。少し早すぎる気もするがふれないでおこう。


「ありがとう、ルル」

「では、三時今後にまた来ます。」

「あーありがとう。」


そういうといつも通りのピンとした姿勢で去っていった。


「旨っ」


白に花の紋様のティーカップを朱雀の口へと運ぶ、するとその口からつい独り言が漏れる。芳醇な味わい、透き通った色、鼻孔をくすぐる絶妙な香り、口に負担のかからない絶妙な温度。それらは完璧なバランスだった。


その時朱雀は飲んでいる間は感想が言えないという焦れったさを改めて感じ、人の体は過去を振り返り生きているものなのだと痛感した。


それからしばしの休憩を二度ほど挟むと夕食の頃合になったとルルシフルが知らせに来た。朱雀はそれについて一緒に食堂へと向かった。目が疲れた。それが朱雀の純粋なその時の思いだった。


「読書は捗りましたか?」

「ええ、とても。」

「それは良かったです。明日は晴れると良いですね。」

「はい!」

「それじゃあ、いただきましょう。」


夕食は必ず家族と使用人が皆一斉に食べ始めると取り決めてあった。そのためいつもなら当主であるアレキサンダーが合図をするが、今日ばかりは妻が代理を務めた。


この世界に来てからそれなりの文化水準で生きているが、一般の人たちもこれと変わらない食生活をこの国では送っているらしい。それには主な理由としてこの国が積極的に貿易をしていること、また大規模な畑やなんかが各地にあることだった。なんでもここのパンはすぐ近くの小麦畑でとれたものをつかっているらしい。


ーー僕は今、待ち焦がれて居た瞬間を迎えている、お風呂だ。この世界では普通に入るらしく、大抵の家にあるそうだ。きのう入れなかったのは倒れてしまったからだ。


もっとも、湯を作るための燃料はガスか薪、それか魔石を使っている家庭がほとんどらしい。


「ファ〜」


久しぶりの気持ちよさについ口から零れる、この世界に来て早二日目、そもそも一日目すら山あり谷ありの下手すればその辺の人間の一生より波瀾万丈だったかもしれない一日だった。こんなに濃い日々が続くとなると朱雀は耐えきれるのだろうか。


朱雀は風呂から上がる寝支度を整えベッドに潜り込む。



夜は更け日は昇り、新しい朝が来る。




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