5/2 午後
「もお〜先輩ったら!何でルーをよんでくれなかっんですか?」
「って、勝手に出てくんなよ!」
広大な敷地内の一角、民営のカフェのテラス席で一人でサンドウィッチを貪っているとルシファーが突然現れる。
「すいませ〜んパフェ一つ!」
「あら?お嬢さんスザクの知り合いかい?」
「ええ。スザク先輩とは先輩後輩の中で…」
「黙れルシファー、そして勝手にパフェを頼むな。」
「あら、いいじゃないの?可愛い子には優しくしないとだめよ?スザク君?」
「わかったよ。マーガレットさん。あとコーヒーください」
「あいよ。」
朱雀行きつけのカフェの四十代の店主の妻でありこの店のホールを担当しているマーガレット、彼女の言うことは大抵正しい。
「パフェ食ったら帰れよ?」
「えー先輩ひどーい!」
「つうかどうやって勝手に出てきてんだよ?」
「愛ですかね?キャーッ!言っちゃった!」
「殺すぞ。」
「先輩に上級悪魔が倒せるんですか?ん?」
そう言うと勝ち誇った顔で前のめりになってくる。
「ウゼぇ、離れろ。」
「一口くださいよ。」
「パフェがあんだろ。」
「甘いものは別腹ってやつですよ!先輩!」
「ハァ、一口だけだぞ、ほら。」
そう言って食べかけのサンドウィッチを置き残ったもう一切れを差し出す。
「こっちがいいです〜」
「ばっか!おまえ!人の食いかけ食うなよ。しかもそこダイレクトだぞ!?」
「えへへ〜先輩の唾液美味しいです!」
「キモい。消えろ。キモい。消えろ。」
「そんな〜冗談ですよ〜ハハハハッ」
そんな端から見れば昼間っから何してんだ通報すんぞ?見たいな会話を繰り広げているとマーガレットがお盆にパフェとコーヒーをもってやってくる。
「はい、お待たせ。イチゴパフェとコーヒーね。」
「わー!おいしそう!ありがとうございます!」
「ゆっくりしていってね〜」
そんな言葉を残して中へと入っていった。
「いや〜やっぱりパフェはおいしいです」
「お前って食べ物の好みまで設定で変わるの?」
「何言ってるんですか?先輩。先輩は馬鹿なんですか?パフェが好きなのは三百年前からずっ〜っとですよ?」
「え、じゃあ、あの黒々とした姿で?」
「そんなところです!」
(マジかよ…)
知りたくなかったことを知ってしまった朱雀はごまかすためにコーヒーを一口、口に運ぶ。
「先輩ったらよくそんな苦いものが飲めますねぇ?」
「はあ?何言ってんだ。旨いだろ。飲むか?」
「先輩の唾液……でもさすがにコーヒーは無理です。」
「最初のほう聞かなかったことにするわ。」
何を言っているんだこいつ、見たいな感じで小首をかしげるルシファー。彼女にとって朱雀の唾液は美味しいものらしい。
「じゃあ、先輩がパフェ食べます?はい、あーん」
「は?バカっ、周りの目とか気にしろよ!」
「今特別な結界を張ったので大丈夫です。店内からもその辺を歩く人たちからも見えません。」
「無駄にハイスペックだなお前。」
「エッヘンなのです!さぁ!一口!」
「ったくしょうがねーな。」
「えへへ…間接キス…えへへ…」
「キモい。」
「上級悪魔。」
「クソが。」
そんなこんなで午後一時五分前。もうすぐ集合時間だ。
「あ!ルシファー、マジで帰ってくれ、今から集合だ。」
「ハァ、しょうが無いですね。またパフェおごってくださいね。」
分別はついているらしく言うとおり消えていった。朱雀は銀貨二十枚を支払うと急いで第五体育館へと走る。
「あ!スザク!早く!早く!」
「お、おう、どうしたトム?」
入り口につくや否やトムに腕を引っ張られる朱雀。
「これだよ!これ!ユニフォーム!」
「ああ、そう言えば。」
先についていたほかの三人はもう既に着替えに行ったらしい。後は朱雀とトムだけだ。
「さっ!着替えにいこ!」
「お、おう。」
スクールカラーである濃い青色を基調としたそれは制服を少し軽装にした感じたった。
「おし、全員揃ってるな。」
試合開始十分前、珍しくルイスが顧問をやっている。
「まあ、今日は俺たちの初陣だ。気楽に行け。」
一度五人を見渡すルイス。
「だからと言って負けていいとは言ってない。やるからには勝て!以上だ!」
「うわ〜ルイスがルイスじゃない…」
「トムと、僕も今同じこと思った。」
「ああ、俺もだ。」
「ほんとにルイス先生じゃないみたーい。去年までとは違うわね〜」
「当たり前だ。今年は勝つぞ。目指せ国体だ!」
「まぁ、今年は去年と違って全員動けるからな。もしかしたらもしかするぞ。」
「それじゃあ行くわよ?エイエイ!!」
「「「オー!!」」」
コートに移動する一同。相手チームと握手を交わすとそれぞれのコートに分かれる。
開始三分前。
「あ、そうだ、エル。」
「ん?どうしたの?スザク?」
「今日は全力出しても何も言わないからな。」
「え!?本当に!?」
エレーナの目が輝く。なぜならエレーナの魔法はいつもオーバースペックなため、朱雀に言われて少々抑え気味でやって来た。今日はその制約がないのだ。
「おーい。一回集まってー作戦再確認するよー?」
「「「はーい」」」
部長であるモーナの元に集まる一同。作戦と言ってもせいぜいポジションどりの話くらいだが初陣である彼らには重要だった。
「じゃあ打ち合わせ通りスザク君とジルドが前衛、私とエルちゃんは後衛ね、トム君はタイミングみて取りにいって?」
「おし、そんじゃあ、行くぞスザク。」
「はい!ジルド先輩!」
そう言って自陣の前の方まで歩き出す。
コートの広さは体育館全体。両端の壁際に二×二メートルの陣地があり、相手の陣地に相手を入れず単独で三秒間入ることで勝ちとなる。ただし相手陣に入っている間は魔法が使えないため実際は相手を殲滅させて勝つことの方が多い。
ピーッという笛の音が鳴り響く。スザクとジルドはまっすぐ突き進む。その少し後ろにはエレーナの、自陣にはモーラがいる。
相手の方からは四人が向かってくる。所謂セオリー通りだ。四人はフィールドにでて戦い、一人は自陣の守備に徹する。
「先輩!敵陣はとりあえずトムに任せて僕たちはこっちを!」
「おう!わかっている!俺は左二人をやる!お前は右二人を頼む!」
「任せてください!」
ジルドの召喚魔法によって巨大な大剣が姿を現す。某戦闘狂ほどではないが十分な強さを漂わせていた。
「おっら!」
その力むような声とともに振り下ろされたその大剣からはルイス程の威力は無いがカマイタチが発生する。スザクはそれを横目で見ながら両手に雷の魔法陣を展開する。切り札は最後までとっておかないと理論である。
スザクの両手から放たれた雷のうち右側は相手の一人へと当たる。だが練度は低く対したダメージは無いためわざと当たったようにも見受けられる。そのわざと当たった方の男。右の手には短剣が、左手にはかなり大きな盾が握られている。おそらく盾は召喚魔法だろう。
その男を盾にするように、もう一人の男はすぐ後ろに隠れる。そしてその男は両手で長い鎌を握っている、おそらくこれも召喚魔法だ。
「フェリオ!」
そう呼ばれた盾の男は朱雀との距離を詰める。盾を全面に押し出して朱雀の視界を遮るように。
「今だ!デーブ!」
今度はそのフェリオが鎌の男に呼びかける。その声と同時に後ろからも声が聞こえた。
「スザク!伏せて!」
朱雀は反射的にしゃがむ。そしてその頭から十センチほど上には鎌が通過した。
「アブねっ」
「あんしんしてんじゃねーよ!!」
後ろを向き一振りを避け安心しているとデーブと呼ばれた男は二度三度、鎌を振りかざしてくる。右、斜め左、真上、また右
「ッチ!エル!」
「任せて!」
あらかじめ決められたパターン。朱雀は一気に右に飛ぶ。
チーターを彷彿とさせるようなスピードでカマイタチが飛んでくる。それを辛うじて目視で確認することは出来たが避けきれなかったデーブは標的をエレーナへと変える。
「クソが!」
そう言って一気に近づいていく。
「おい、坊主、女の子をまもらなくていいのかぁ?」
フェリオが挑発してくる。
「ああ、あいつは強いか…ほらね。」
後ろの方で繰り広げられた音のせいで一瞬口ごもったが、朱雀は見なくてもわかる。エレーナが優勢だ。
「それじゃあ、そろそろ、僕も本気を出しますね?」
そう言うと四体の無地の分身をつくりだす。これが今の朱雀にとって一番操りやすい数だ。
「お、おい、おまえ…何者だよ!」
「ん〜史上最強の暇人ってとこかな〜」
そうよくわからない決めゼリフを決めると一瞬のうちに相手を包囲。そこからは一方的で一分とただすに相手チームの人数はエルがやった分と朱雀がやった分で二人減っていた。
「さて、そろそろかな?」
そんな独り言を呟きながらジルドの方に加勢に向かおうとする朱雀。だかそれは無意味に終わった。
「ゲームエンド!勝者ホームチーム!」
審判の声だ。
トムが敵陣の担当を背後から奇襲し倒して勝ちが決まった。
「ん〜疲れたわー」
「お前は何もしてないだろうがエセ顧問」
「エセとはなんだ!エセとは!さっき格好いいこと言っただろう?」
「自分で言うの?」
「「「ハハハハハッ」」」
五月二日、朱雀たちの圧勝であっさりと練習試合は幕を閉じた。




