第38話 自動人形
「はぁ、なんとかなったかな」
メッゾとの邂逅を果たした分身体の記憶をリアルタイムで追いながら、”地中にいる”本体の俺は溜息を吐く。
自分の分身を作り出す上級魔技スキル≪オルターエゴ≫。
俺の魔力総量だと一体作り出すので精一杯だ。
いや、一応もう少し増やせるには増やすが、それだと実用的とは言えなくなってしまう。
≪オルターエゴ≫で使用できるスキルは本体が使えるものと変わらないが、使用できる魔力は、その分身体に持たせた量の魔力しか使えない。
例えば、自らの魔力を半分分身体に渡せば、本体も半分しか魔力が使えなくなってしまう。
俺の魔力を分割したところで高が知れてる。
弱い分身を作り出すくらいなら≪モルガナ≫で十分だ。
そんなわけで俺はあまりこのスキルを使用しないのだが、魔族を判別する魔道具の力を見るのに細心の注意を払ったのが功を奏した。
あんなのと生身で出くわすなんて御免だ。
ちなみに、魔王様は人族との大戦時、≪オルターエゴ≫で四人に分身し、四つの戦場全てで大戦果を上げていた。
流石魔王様だ、俺なんかとは格が違う。
魔王様、まじで神。
「それにしても、なんだったんだあいつ?」
メッゾは見た目こそ幼いが、中身は長く時を生きた歴戦の魔族だろう。
魔力の質が魔族化したばかりのソレとは全く違う、成熟しきったものだった。
魔王軍に所属している魔族以外の魔族で、ここまで強大な力を持つ者を見たのは久しぶりだ。
親友がいるとか言っていた気もするので、あのクラスの魔族が集まって徒党を組んでいるならば、魔王軍と肩を並べる一大勢力になるかもしれない。
目的が何であれ、魔王様の脅威になる可能性が高いし、後で少し探ってみる価値はある。
とはいえ、今は魔王様に任された特別任務の真っ最中、こちらが最優先事項だ。
それに、特に実害は出ていない。
それどころか、あいつのおかげで見張りの人族が機能しなくなっている。
利用しなきゃ損ってもんだ。
「早速魔王様からもらった”これ”が役に立つかな」
これとはもちろん、クロロ・ランフレイの身分証。
どうしようか悩んでいた、魔王軍領地と人族領地を繋ぐ隠し経路の開拓。
とりあえず現在進行形で地中の砂を毒で溶かしながら穴を掘ってみているが、こんなことせずともよくなるかもしれない。
それよりもっと楽に経路を開拓できるはずだ。
「これも魔王様のお導き、やはり神か」
虚空に向かって祈りつつ、俺は分身体と合流する為に引き返す。
「ああ、そうだ。せっかくここまで穴掘ったんだ。これも有効活用しないと」
※※※
「へー、今人族はこんなものも開発してるんだね」
ところ変わって、こちらは分身の俺。
今は隠し経路の開拓の芽を残した後、叫び疲れて泡吹いて倒れている人族を放置し、第二関所へとやってきていた。
ちなみに、人族から身分証を奪ってもよかったが、あの様子だともう兵士としてやっていくことは不可能だろう。
復職不可能なことがわかってる兵士から身分証を奪っても特に有効活用はできないから放って置いた。
さて、軍事国家アルシャリスの関所は第三層に分かれており、第一関所を抜けても第二、第三の壁が控えている。
第二関所は第一関所とは異なり、見張りをしていたのは、兵士ではなく、巨大な自動人形だった。
高さおよそ三メートル程の巨大な人型の鉄の塊が、ズシンズシンと足音を鳴らしながらうろついている姿はなかなかどうして迫力がある。
頭部から青白い光を発しているところを見るに、あの自動人形にも魔力検知器が搭載されているのだろう。
これについては、俺も知識がないため、比較的最近開発された兵器なのだと考えられる。
そんな自動人形は、どうやら第一関所で異常があると第二関所から第一関所へ移動し、敵を殲滅するようなプログラムで動いているようで、メッゾが人族を皆廃人化させてまもなく大量の自動人形がこちらに押し寄せてきた。
いやー、あの光景はすごかった。
しかし、魔力検知器は、魔力を消した俺に対して作動しないことは把握済み。
自動人形が俺の真横を通り過ぎるのを横目に、俺は悠々とここ第二関所へと到着したのだった。
ほとんどの自動人形が第一関所へ行ってくれたので、第二関所は閑散としており、ここにいる自動人形は数体程度。
ここも軽く素通りできそうである。
運が良すぎて、この後が怖いくらいだ。
「それにしても人族の技術上がり過ぎ。この感じ、やっぱり誰か一人の存在が関与してるんじゃないか?」
先ほど、第一関所の自動人形にそこらへんの魔物をけしかけて戦闘力を観察してみたが、その巨大な拳の一撃で魔物は一瞬にして魔石へと姿を変えた。
一体だけでもそこらの魔族数人分に匹敵する強さだ。
一人の天才が世界の常識を覆すことは稀にある。
魔王様もその一人であろう。
もし、そんな人物がアルシャリス軍の兵器開発に携わっているのだとすれば、俺の任務はそいつをどうにかすることになる。
「うーん、流石にそれは飛躍し過ぎか。ひとまず目の前のことに集中かな」
憶測はこの辺にして、第二関所の突破方法を考える。
ここを突破するのは簡単だが、自動人形が少ない今のうちに、第二関所も少しでも経路の開拓に活かしたい。
「ってことで任せた、本体の俺!」
直後、俺の後方からデフォルメされた髑髏型の≪カノン≫が残りの自動人形の数分だけ飛来した。
魔力を人族のそれに似せたつもりだが、自動人形の持つ魔力検知器がサイレンを鳴らしながら赤く光る。
やはり、魔法そのものを完璧に誤魔化すことはできないらしい。
しかし、サイレンが鳴ったのは一瞬のことでしかなかった。
飛来した≪カノン≫はそれぞれの自動人形の頭部を撃ち抜き、機能を停止させた鉄の塊が次々とその場に倒れ伏していく。
≪カノン≫が届いた仕組みは簡単、俺(分身体)が目になって、それを元に俺(本体)が≪カノン≫を遠隔で撃っただけ。
ここで分身体が魔法を使えば位置がバレてしまうため、分身体は一切魔法を使わないのが正解だ。
「もう問題はメッゾが起こしてるし、今更どうにでもなれだよね」
念のため本体にもう一度≪カノン≫を撃ってもらい、魔力検知器がどう反応するか再確認しておく。
うん、問題ないね。
ついでに、≪カノン≫に乗せてクロロ・ランフレイの身分証も分身体の俺に送ってもらった。
さて、自動人形を無力化できたということは、分身体もスキルを使いたい放題ということ、俺の独壇場だ。
「この辺かなー、≪カノン≫」
早速やることは本体と同じ、穴掘りである。
やはり隠密行動において地中は万能の拠点となる。
「そして~、≪メタモルフォーゼ≫」
次に使用するスキルは≪メタモルフォーゼ≫。
簡単に言うと、肉体を変化させる魔技スキルだ、主に別人へ変身する時に使う。
極めると、身体の大小まで変化させられると錯覚させることもできたりする便利なスキルだ。
今回の使用用途は二人のある人物に変身すること。
まず変身するのは、メッゾだ。
緑色の髪に、貧相な格好。
よしよし、こんなモンかな。
じゃ、撮りまーす、はいチーズっと。
俺は懐にしまってある、愛用のカメラを用いてメッゾの姿で自撮りをした。
これでよしっと。
次に変身するのは、魔王様より授かった身分証の持ち主、”クロロ・ランフレイ”だ。
黒髪に、やや目つきは悪いが平凡な顔立ち、成り済ますにはぴったりの人物というえよう。
先ほどの≪カノン≫に乗せて送られてきた身分証の写真と睨めっこしながら、細部を調整していく。
メッゾと違って、クロロは知り合いもいるだろう。
偶に黒子の位置とかで偽物判定してくる輩もいるので、その辺も慎重にだ。
調整も完了し、この姿で少しの間待っていると、多数の人族が馬に乗ってこちらへ向かってくる。
俺が予想したよりも早い増援だ。
異変が起きて間もないというのに、大した防衛意識である。
隊を率いている人物は俺の存在に気付き、駆け寄ってきた。
銀色の甲冑を着た立派な髭が特徴のその男は、馬の上から俺を見下ろしながら話しかけてくる。
「おい、貴様!ここで何があった!」
その尊大な口調とその身なりから、身分の高い者であることがうかがえる。
よかった、それなりの立場の人が来てくれて。
「ハッ!メッゾと名乗る正体不明の魔族が現れ、第一関所、第二関所が突破されました!第一関所の兵は皆命はあるものの壊滅状態です!」
「なっ!くっ、魔族に後れを取るとは……おい!貴様は何故この場にいる!第二関所は自動人形のみが見張りを担当しているはずだ!それに、なぜ貴様だけ無事なのだ!」
怒涛の質問攻めである。
まあ、どうあがいてもこの場に一人ポツンといた俺は怪しさ満点なのだから仕方ないか。
「申し遅れました!私はクロロ・ランフレイ!先の旧境界線での戦で訳あってアルシャリスに戻れなかった者です!詳細は後程説明いたしますが、つい先ほどこの場に辿り着き一部始終を目撃した次第であります!無事なのは、私が駆け付けられたのが一歩遅かったからであります!」
矛盾がなるべくないように、しっかりと報連相に努める。
それでも怪しさが薄れることはないが、今この場で処罰されることはないだろう。
俺は唯一この惨状について知っている重要参考人なのだから。
「……貴様については後で厳しく追求するとしよう。それで、渦中の魔族は何処へ行った!」
「第二関所の自動人形を破壊すると、そのまま引き返していきました!目的は不明です!」
「目的も正体も不明な魔族か……」
「証拠として、写真に収めることには成功しました、こちらが例の魔族です」
そう言って、俺は懐から例の自撮り写真を差し出す。
男は厳しい視線を向けながらも、渋々それをひったくるように受け取った。
「クロロ・ランフレイ、貴様は軍の本陣へ戻り次第、厳重な事情聴取を行う。ついてくるがいい!」
「ハッ!」
——よし。
これで、アルシャリス軍の内部へと堂々と潜入できる。
見渡せば、周囲の兵士たちは未曾有の事態にポツンといた俺に対して怪訝そうな目を向けているが、俺は気づかないふりをして彼らと同行する。
人族の手の内を暴き、魔王様の悲願である新経路を開拓するための一歩目としては……まぁまぁの滑り出しかな。
そんなことを思いながら、俺はメッゾに全ての悪事を背負ってもらうための言い訳プランを考えながら敵城へ乗り込むのであった。




