第5話-5/7
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
ずっとひた隠しに内緒にしていたことだが、彼女は一流歌手ともいえる存在の
TBKだった。
一部の人間は彼女の事を知っているが本当の意味で彼女の正体までを知っている
人物はISK内のキャスト・スタッフを除いて皆無に近いだろう。
「うわ、そ、そんなことってあり!?」
衝撃の事実に蒼太は思わず立ち上がり、独り言をぶつぶつと言いながら部屋の
中を歩き始めた。
色んな事が重なりすぎて彼の頭の中では処理できない状況。
いずればれてしまうからと内緒にできず本当のことを伝えてしまったことを
ツバキは後悔していた。
いや、遅かれ早かれ何らかの形で蒼太はこのことを知ることにはなるだろう。
だがその時まで待っても良かったのでは?しかし彼女もまた蒼太に何か
惹かれるものを感じていた。
顔を合わせるたび感じてしまう嘘や隠し事をしてしまうことに対しての
後ろめたさも我慢できなかった。
部屋の中をうろうろとしていた蒼太の足が止まる。
彼の導き出した一つの結論…ツバキに正面から向き直すと深々と頭を下げ、
彼は右手を差し出し握手を求める姿勢を取って大きな声で彼女に告げた。
「あっ、あの、つ、付き合ってください!」
突然の告白。
「…っ!」
ツバキはあっけにとられ彼女の思考が止まる。
「君がTBKだからとかそんなんじゃなくて、いやそれもあるけど。
…そうじゃなくて一目会った時から惹かれてて、歌声も凄くて!」
大きな声で早口でまくし立てる蒼太。
頭を下げたまま、上目遣いにツバキの顔色を窺うとその表情は戸惑っているのが
分かった。
「あの…あ、…その…」
言い澱むツバキ。
ただでさえ話すのが苦手な彼女だが、蒼太の申し出に答えを出し切れずにいた。
「無理?…かな?」
玉砕覚悟で挑んだ彼の挑戦は彼女の答えを待たず自ら選択肢を絞った。
けれどツバキはそれに頷くのではなくぼさぼさの髪を左右に振って反論する。
「じゃなくて…時間、…ださい…」
滅多と視線を合わすことがない彼女がまっすぐに蒼太を見つめていた。
真剣な表情のツバキ。
あっさり引導を渡されると思っていた蒼太はその言葉に救われた。
「あ、ごめん。唐突で、そのあの日から君に心奪われてしまって…
急がなくていいから考えて欲しい…」
「…う、うん…」
「あ、あれだよね。あんまり長いしちゃ悪いし、俺はそろそろ仕事に戻るよ」
「…は、はい…」
さすがに時間が欲しいと言ってもこの場でもらえる回答ではないことを悟り、
蒼太は居場所がなくなった様子でこの場を去ることを決意した。
思い返せばなぜ告白してしまったのか自分でも分からなかったが、
1ファンとしてこの場所でもっとその空気に触れていたい心境にもなったが
もはやそれも叶わない。
蒼太は今まで手付かずだったグラスの中身を一気に煽ると、すぐさま部屋を出て、
玄関へと早足で向かった。
ツバキもそれに倣い彼の後を追う。
少し散らばった靴を並べ、急ぎそれに足を通すとツバキの方へ振り返り、突然の
訪問と告白に対して謝罪の言葉を述べた。
「なんか色々ごめん。でも本気だから、俺の気持ちに嘘はないから」
繰り返し彼女に告げる自身の本音。
重いと言えば重く感じるが、軽い気持ちではないと重々伝えたかった蒼太。
「…」
蒼太が出た後の扉が閉まるのを見守るツバキの顔には笑顔はなかったが嫌悪を
伝える色も浮かんではいなかった。
それから蒼太はISKに戻ってもずっと気持ちがふわふわと浮いているようだった。
幸いにしてアレテイアでの仕事はすべて済ませておいたから良かったのだろう。
朝の移動がゲートを使ったことや、ミクのようなトラブルに巻き込まれなかった
分、午後一番にはISKに戻ることが出来た。
アフタールームの備品チェックもスマホ片手に努めてはいたが、ふとした拍子に
ツバキの顔が浮かんではにやけてしまうを繰り返していた。
結局集中力がかけたまま、どの部屋のチェックも2、3回繰り返し、昨日の
3倍以上の時間がかかってしまっていた。
昨日の経験を活かし、キャスト達が着替え始めるより早く蒼太は黒服に着替え、
再びISKで時間が過ぎるのを待つことにした。
浮ついた気持で待ち続けること1時間弱…
その間に月姫が彼の横を通り、ゲートを使ってアレテイアに着替えに行ったこと
すら気が付かなかったのだ。
しばらくすると彼の見知ったキャスト達が開店準備のためホールに姿を現し
始める。
いつものと言えばいつものメンバーであるサキ、リリに続きライムや蒼太が
初見のキャスト達も複数名いた。
テーブルの上の椅子を下ろし、ダスターでテーブルの上を拭く。
彼女たちに倣い蒼太も同じように開店準備に向けて体を動かし始める。
そんなら彼の元にここのキャストでは一番親しいであろうサキがやってくる。
「そうちゃ~ん、どうしたの~テツのオキテやぶっちゃうの~?
ヤめさせられたりしない~?もしそうなったらサミしくなっちゃうなぁ~」
蒼太の首筋を指でなぞりながらサキの甘く鼻にかかった声が耳に届く。
「え?な、なななんの話?」
彼がツバキに告白したのは今日の昼頃の話、何がどうなってそのことを彼女が
知っているのか理解できなかった。
上手くとぼけようとしたが言葉が詰まって連続的に同じ音を発してしまう。
あら~とぼけるの~とばかりにサキは虹彩の蝙蝠を真一文字にして
悪戯っぽく目を細めて言葉を続けた。
「ツバちゃんからキいたわよ~、こ・く・は・く!しちゃったんですって~、
スミにオけないわね~」
「いや、あ、あれは…その…」
核心を突いてくるサキに答えに詰まる蒼太。
まさかその日のうちに噂になるなんて彼は思っても居なかったようだ。
ましてやツバキはそのことを言いふらしたりする相手ではないと思っていた
だけにショックも大きかった。
蒼太が見誤ったのはツバキの性格ではなく、取り巻き連中のサキの地獄耳の方
だった。
「え~ウソコク?ひど~い」
「違うって、本気!本気だよ!だけど掟の事すっかり忘れてて…
それ以上にツバキの事が好きだからっ!」
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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