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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
42/192

第4話-8/9

初めまして、【れいと】と申します。


初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。



ただのじゃんけん大会に参加するぐらいなら構わないが、ステージ上で行われて


いるのは夜を共に過ごすためのもの。


それが何たるかを知っている月姫は羞恥と怒りが同時にこみあげて来るようだった。



「冗談だよ、冗談。んっとに堅いなぁ、かぐは…」



「もぉ!」



悪びれることなく言ってのける蒼太に月姫は彼の腕を取り、ぎゅっとつねった。


思った以上に力が込められたそれに男は思わず悲鳴を上げてしまった。



「いててて!痛いって!」



「今日のアフターキャストが決まりましたね。

有瑠香(あるか)さんと寧音(ねね)さんと瑠多(るた)さんね」



2人が横並びに見守る中、ついにステージ上では決着がついていたようだった。



「ルタさんって初めて見たかも?」



白いスーツにピンクのショートヘアーのキャスト。


蒼太がホールで何度かすれ違ってはいたものの、会話に至るまでにはいか


なかったキャスト。


大きな瞳に、これまた大きな胸が魅力的に彼の目には映った。



「まだまだお会いしていないキャストさんはたくさんいると思いま…」



「いてっ!なにすっ…」



言葉途中で再び月姫が蒼太の腕を強く抓った。



「鼻の下伸びすぎです…もう少しここのスタッフとしての自覚を持ってください」



「へいへい」



別に見るぐらい良いだろ、的視線を月姫に送りながら蒼太は生返事を返した。


ホールで働いている間、何度も何度もキャスト達の特に胸に視線が釘付けに


なっていた蒼太。


男の性だから仕方ないと言ったところで月姫には言い訳にもならないだろう。



「本当に分かってます?もう少ししたら閉店の音楽が鳴りますから

ファナーさんが居なくなったら片づけを始めてくださいね」



MCの練がイベントを締めくくり、ステージに上がっていたキャストや


ファナーが退場していく。



「かぐは?」



「私は先ほどのファナーさんにアフターの説明と諸注意を伝えてきます。



後、閉店の時にファナーさんの送り出しがあるのでそこに向かいます」



「じゃあ片づけをしてれば良いんだね…ふわぁぁ」



言い終わると同時に大きな欠伸をする蒼太。


朝早くからこの時間で働いていては無理もない。



「あくび…だめですよ。



朝早かったのは分かりますが、ここでは我慢してくださいね」



「へいへい…」



再び月姫に生返事を返す蒼太。


月姫は彼をきっと睨むと言いかけた言葉を飲み込み、ステージの方へと足早に


駆けていくのだった。


時同じくして薄暗くなっていた店内に照明が灯る。


同時に穏やかな音楽が流れ、ファナー達も次々と席を立ち、あちらこちらで


別れの挨拶をする声が聞こえだした。



「この音楽か…そろそろ終わりだな」



辺りを見渡せば入り口兼出口のエントランスへ向かうファナー達でごった返し


ている。



「おっ、そうニャン、最後までお手伝いかニャ?」



たまたま通りがかったミオが蒼太に声をかける。


見るからに彼女はまだまだ元気が有り余っているように思えた。



「うん、今日は最初から最後まで」



「ご苦労様ニャ」



「ミオは?」



「今から送り出し、終わったら手伝うニャ」



特徴的な尻尾がふりふりと揺れ、彼女は軽く蒼太に手を振った後ステップを


踏むようにエントランスへと向かってしまった。


キャストのほとんどはファナーと仲良くホールを後にする様子だ。



「蒼っち、お疲れ様。こっちは俺が片しておくよ」



そう声をかけてきたのはMCを務めていた練だ。


今日一日だけでも練には色々助けてもらった印象が強い。


蒼太にとってさながら良き先輩ともいえる存在だ。



「あ、僕もここを片付ける様言われてて、他にすることもないですから」



潮が引くようにホールから人気が無くなっていく。


練は蒼太に近づき、テーブルをダスターで拭き、椅子を上に上げながら話を


振った。



「蒼っちは借金生活かい?」



突拍子もない質問に蒼太は目をまんまるにして驚いた。



「なっ、そうじゃないですよ!」



誰がそんな噂をばらまいたのか気になったが、噂ではなくそれは練の勝手な


推測だったことにすぐに気が付いた。



「そうかそうか、じゃあ誰かの伝手で?」



「か…ムーンの紹介で入れてもらいました」



思わずかぐと言いかけて、名前を言い直す蒼太。


2人でいる時は許可が出ているもののこのお店では彼女の名前は月姫ではなく


ムーンと呼ばれていることを思い出す。



「へー月っち(つきっち)の紹介か~そっちの方が珍しいな」



「つき…って月姫(かぐや)…かぐの名前知ってたんですか?」



作業の手を進めながら練は他愛のない話を繰り返す。


蒼太は練が言った彼女の呼び名に本名を知っている仲間が居ることで安堵した。


練に対しては彼女の名前を呼び間違っても問題はないだろうと推測する。



「いや、ムーンだから月だろ?ムーンっちや、ムっちってなんか

しっくりこないから、つきっちって呼んでる」



「あ、そうなんですか」



「そうかそうか、月っちってかぐやって名前なんだな」



安堵が一転、彼女の本名を暴露したことに冷や汗が噴き出る。


内緒にしろともいわれてないがおそらく彼女はここでの名前は俗称で通している


ことを悟った。



「あ、黙っていてくださいね」



「別に言いふらしたりしないよ、ほら手が止まってるよ」



練が作業を進める中、一人佇んでしまっていた蒼太は慌てて彼に倣うように


片づけを再開する。


徐々に店内のBGMのボリュームも下がり、大声を出さなくてもお互いの会話が


成立する状況。


すこしでも情報を得ようと蒼太は練との会話を続けた。



「練さんはここ、長いんですか?」



「そうだね、もう5年ぐらいかな。丁度ISKと名前が変わった頃の

いわゆるオープニングスタッフだよ」



「大先輩ですね」



5年前と言えばまだ蒼太が大学生活を謳歌していたころだ。


そのころからここで働いていた練を思えば少し羨ましいと思ったと同時に、


月姫も大学生のはずだったのではということが脳裏に過ぎった。


もしかすれば彼女は大学に行かずここで働いていたのでは?


と彼女の過去が少し気になってしまった。


そんなことを考えながらも今度は片付けの手を休めることなく作業に取り掛かる


蒼太。



「そんな大したものでもないよ。趣味と実益が合致っただけで」



練は練で昔の自分を少し思い返し、少し照れながら蒼太に告げた。



「趣味って聞いても良いですか?」



「オタクだよ、ファンタジーオタクってやつ。



これでも昔は声優を目指していてな、って俺の話は良いだろ」


そう言いながら練はより一層顔が火照るのを感じた。


彼の青春とは言わないが社会に出て、あこがれの仕事に期待と夢を抱いていた


純粋な頃の自分の姿が思い出されたからだ。




しばしの沈黙…だが、その沈黙も長くは続かなかった。


「練、オレにもたまには勝たせてくれよー」


見送りが終わりホールに戻ってきたキャストが片づけをしている練の隣に来て


不平を漏らす。


先程ステージでAR(アフタールーム)のイベントに参加していたサラだった。



「送り出し終わったか、そりゃー沙羅(さら)っちがじゃんけん弱いから仕方ない」



「これで5連敗だぜ?もう欲求不満溜まりまくりよ」



さすが5年の実績と言うべきか、当たり前のようにサラは練とスキンシップを


交えながら会話を続けていた。


すごく自然に、まるで古き良き知人のように肩を抱き、頬を寄せる。



「ご愁傷さまで」



「なんなら練が相手してくれても良いんだぜ?」



「ごめん、今ダイエット中」



邪魔者を追い払うでもなく、ごく自然に練はサラの束縛から逃れ、片づけを


続けていた。


蒼太なら間違いなく鼻の下を伸ばして、されるがままを選んでいただろう。



「っちぇ、連れないなぁ~。おい、そこのお前は?」



サラは獲物に逃げられ仕方なくその相手を蒼太に変えた。


蒼太に指を指しながら怪訝そうな顔で見つめて来る。



「え?ぼ…俺?」



「この指の先はお前しかいないだろう?」



至極当たり前のことをいうサラ。


見た感じから蒼太の苦手とする女性のタイプ。


いや、女性と言うより男性的な印象しか彼女からは感じ取れなかった。


それもそのはず蒼太は彼女がドラゴンの異住人だと決めつけていたからだ。


ましてや肉食系の雰囲気に物言い、できれば相手をしたくなかった。



「キャストに手を出すなって言われてて」



便利な言い訳でこの場を回避しようとする蒼太。



「あ~それか、ならあきらめるか…練、次は勝たせてくれよ?」



「イカサマはダメ?だろ?」



「っちぇ…」



舌打ちをしてサラは練の手伝いをすることに決めた。


次々とエントランスからホールに現れるキャスト達。


その中に混じっていた月姫も蒼太の元に駆け寄ってくる。



「お待たせそうちゃん、あらかた片付いているみたいだし、

アレで着替えてきてくれて良いですよ」



「アレ?…アレテイアか」



「おいおい隠語だ隠語。正しい名称なんて誰彼言いふらすもんじゃないぞ?」



2人の会話が聞こえたのか、練が蒼太に忠告を投げかける。



「あ、ごめん。練さんも知ってるんですか?」



「いや、知らない。ってことにしとく。

手品ってのもタネを知ってしまうと楽しめないだろ?ま~そういうこった」



蒼太は横やりを入れてきた練にすぐさま問いかけるが、彼は曖昧な言葉でそれを


濁した。


人生経験が少し豊富なこともあってか、尻尾を掴ませない話術が彼には備わって


いる。



「練さんの前で言った私も私ですけど…

そうちゃんも情報の扱いには少し気を付けてくださいね」



「どこがどこまで言って良いのか難しいよ」



「それはおいおい説明…感じ取ってください」



月姫の雰囲気から本当に練は細部まで情報を把握しているようには思えなかった。


追求することはできるだろうがあえてしないのが彼のスタイルなのだと蒼太は


勘繰った。


人付き合いするうえで大切な部分なのだろう。



「それより急いで着替えてきてください、

キャストのみなさんが着替えに向かう前に…」




「わ、分かった」



早口でまくし立てる月姫に、蒼太は今日着替えに行った時の状況が思い出される。


まもなく見送りを終えたキャスト達も衣裳部屋へと向かってくるのだろう。


そうなる前にと、蒼太は慌ててその場を後にし厨房の向こうのゲートへと早足に


駆け出していた。


彼の居なくなった後、月姫は練に向かって深々と一礼する。


練は練でそれに背中を向け軽く手を挙げるのだった。



ご覧いただきありがとうございます。


ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。


誤字脱字のご報告いただけると助かります。


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