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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
40/52

第4話-6/9

初めまして、【れいと】と申します。


初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。



厨房はまさに戦場だった。新規のファナーが注文していることもあってか


数多くの料理が配膳待ちをしている状況だ。


2段のワゴンにいくつかの調理済みの食品が乗せられている。


その奥で一人の少女がナベに火をかけ、フライパンを巧みに操り、


あろうことか口から火を吐き、調理を進めていた。


蒼太もつい先ほど見た覚えのある女性。


褐色の肌に、灰色髪の中性的な彼女。


名前はまだ知らないが、口から火を噴くなど常人が出来るわけがない。


彼女も興味をそそる異住人だと確信しながら彼は一番近くのワゴンに手を


伸ばした。



「はい、アルザパスタとジオハンバーグあがりー、

そのワゴンを1番ボックスに持ってってー」



フライパンのハンバーグをサラダを盛り付けていた上に乗せ、蛇のような尻尾を


使いパスタの上にチーズを振りかけながら彼女は言う。


その尻尾は鱗に覆われ、蒼太は勝手ながら彼女が伝説の魔獣ドラゴンだろうと


推測していた。



「えっと、これ持って行って良いのかな」



恐る恐るドラゴンの少女に蒼太は尋ねた。


勝手な推測だが俗にいう逆鱗に触れないように心がけながら注意深く彼女の


動向を伺う。



「良き良き、よろしくー」



忙しい状況下で苛立ちを感じているのかと思えば全くその様子もなくまるで


料理を楽しんでいるような口ぶりに彼はあっけにとられてしまった。


その時に月姫が言っていた彼女たちにとってはここの仕事は楽しんでいる、


むしろ仕事ではなく遊びの一環だという意味が分かった気がする。


ワゴン内に乗っている料理に少なく見積もっても5人前はあるだろうと蒼太は


運びながら算段していた。


厨房を出て動線となるカーペットを敷いている上をワゴンを走らす。


練が言っていたウロっちが待つボックス席にたどり着いた蒼太はその状況に


驚き口をぽかんと開けてしまった。



「お待たせしました、ってすごい量…」



テーブル狭しと並んでいる料理、軽く4~5Kgの重量はあるのではないかと


思われる料理の数をゆっくりと口に運んでいく少女。


イメージはもっと大柄な女性がものすごい勢いで食べていると思っていた蒼太は


あっけにとられてしまう。



「ってあんな小さい娘が…本当にこんなに食べれるの?」



生憎運んだワゴンの料理をテーブルに乗せる隙間はなく、蒼太はその場で佇む


しかできなかった。


そんな彼の背後から馴染みのある声が聞こえた。



「そうよ~そうちゃんもユダンしてたらウロちゃんにたべられちゃうかも?」



間延びした声、独特のイントネーション、ここに来てから顔を合わさない日が


なかった女性、サキだ。



「え?冗談ですよね?」



「もちろんジョーダンよ、でもウロちゃんならホントウに

マルノみにしちゃうかも~」



冗談か本当か分からない言いぶりのサキ。


時折、彼女は紛らわしい表現をすることがある。




彼女の冗談と言う言葉自体が冗談の為、ある意味信憑性に欠けるところがあった。


だが、蒼太には今日の昼に相手こそ違えど飲み込まれるに近い経験をしていた。


その時の悪夢が脳裏によみがえる。



「ヒョイ?今日のヤツ。そう…そた…そ、そ…」



サキ後ろからもう一人キャストが顔を出してくる。


今まさに蒼太の脳裏によみがえった相手だった。



「蒼太だよ。確かミク?」



白いスーツを着ていた為分からなかったが彼女も今日はオープニングからISKに


居たようだ。


未だにこの小柄な少女に体を飲み込まれたとは考えにくい。



「あたいのこと覚えたか。良い心がけ、褒めて使わすぞぇ」



「あら、ミクちゃんともおシりアい?」



サキは蒼太の後ろからミクに向き直ると、胸を強調するように腕を前にして


ミクの背に合わせて前かがみに顔を近づけた。


見る角度を変えればスーツの中から溢れんばかりの胸の谷間が魅力的に見える


ことこの上ない。



「今日呑んでやった、喜んでたぞぇ」



エヘンとばかりに胸を張り、鼻の下をこするミク。


残念ながらその小柄な背格好に比例して彼女の胸は平べったいものだった。


豊満なサキが隣に居ればより一層そのナイチチが残念に見える。



「そうちゃんったらそういうシュミあったのね~、

だからウロちゃんのこともじろじろと~」



低い姿勢のまま蒼太を見上げるサキ。


そのアングルは男性の視線を胸の谷間一か所にくぎ付けにして離さなかった。



「じゃなくて!」



妙な勘繰りと誘惑から逃れるように蒼太は少し大きな声を上げ、


サキから視線を逸らした。


そうしなければまたしても彼女の誘惑に情欲が駆り立てられてしまう。



「この姿でもあたいはいけるぞぇ?」



未だに胸を張り続けた状態でミクは自慢げに言った。


あながち彼女が言ってる言葉は嘘に聞こえない。



「遠慮します…」



蒼太は丁重に断りつつサキから逸らした視線を再びボックス席に戻した。


そう、蒼太が来る前からウロと呼ばれた女性の手は止まらない。


ハイペースと言うほどではないが、決して遅くはないペースで食べ物が彼女の


口の中に消えていく。



「でもこのウロさんって人とファナーの関係って…」



思わず蒼太の心の声が口から零れ落ちる。


誰に問いかけたわけでもなかったがサキがその言葉を拾い上げ、回答に努めた。



「ヒトがショクジするのをミるのがスきらしいわ~、

ベツのイミでカわってるわよね~」



そういいながらサキの指が蒼太のもの惜しげに身体を這う。


尻尾が腕に絡みつき、その先端が彼の脇腹の一部を軽くつつく。



「まぁ分からないでもないけど」



サキのちょっかいに触れることなく、蒼太はサキの言葉に頷いた。


なぜだかバイト初日からやけにサキが彼にちょっかいをかけているが、普段の


彼女は別段そんなそぶりは見せたりしない。


むしろ新入りに対しては無関心な方だと思われていたりする。



「お店の趣旨と違うというか、そっちは別に興味ない人も居るんだね」



未だに食べるスピードが衰えない、少女の姿を眺めながら蒼太はつぶやき落とす。


反応がないのを良いことにちょっかいを続けるサキ。


それは徐々にエスカレートしていくが残念なことに服の上からではサキの


テクニックもパワーダウンしているようだ。



「そっちはそっち、あっちはあっち、こっちはこっちで

ぜ~んぶってファナーもイたりするのよ~」



「ソタもまた相手してやんよ?あたいは挨拶まわりしてくるぞぇ」



隙あらばと積極的に責めるサキを横目にミクは次の目的地を見渡し2人に別れを


告げた。


それに軽く手を振り応えるサキ。


蒼太は相変わらず目の前の光景を注視したままだった。


彼女の責め手に屈しない蒼太に呆れたのか、サキも彼に出していたちょっかいを


やめることにした。


今日は日が悪い、彼女の自慢の悩殺する肢体もスーツに隠れていては効力が


薄く感じられてしまう。


この場でこれ以上の進展を望むのも土台無理な話だ。



「とりちゃんはキョウはアフターケッテイのはずよ~」



「とりちゃん?」



「ウロちゃんのマイファナー、ウロちゃんのヨコにスワってるトノガタね~」



サキはとりちゃんと言った相手に指を指すことなく蒼太に教える。


見た感じは30代半ばか後半のダンディな男性だが、身に着けている装飾品は


蒼太でも知るハイブランドのものだった。


ISKではお酒も食事もフリーではなく有料で提供されている。


食事量だけで言えばウロムの周囲にある分をみても蒼太の一週間の食事の量を


優に超えてしまっていた。


もちろんアフターもそれなりの価格になるのだから到底今の蒼太が捻出できる


金額ではなかった。



「変わったお客さんだね」



「イいダしたらみんなカわってるわよ~、アタシたちもカわってるし~」



サキは目を細めてにんまりと笑った。


彼女独特の蝙蝠型の虹彩もそれに倣って真一文字のように変化する。



「はは、確かに身も蓋もないね」



乾いた笑いを浮かべながら蒼太は他の場所へと視線を走らせた。


いつまでもここで油を売っているわけにはいかないからだろう。


それを感じ取ったサキも押しても靡かないのれんのような蒼太の相手をあきらめ、


本来の持ち場に戻っていった。


ステージではマイクを持った練がイベントの開始を告げ、ホールの照明が暗く


なり彼にスポットライトが浴びせられている。


ボックス席以外も早々とテーブル席も埋まり、ファナー達は各々の欲求を叶える


ためにキャストと駆け引きが行われていた。


ふと、数日前は蒼太自身がそこに座り、欲求と理性とのせめぎ合いに身を置いて


いたことを思い出す。


いや、叶う事なら今一度その体験をしたいところだった。


そんな思いにふけっていたところに何者かと軽く体が接触する。



「ぼ~っと突っ立ってたら邪魔だよ…ってそうニャン!」



接触した相手から聞こえた呼び方に姿を見る前に相手が誰だか予測がつく蒼太。


姿を確認すると予想通りネコ耳をピョンと立たせたスーツ姿のミオが居た。



「あ、ミオさん」



馬子にも衣裳と言うが、今日のミオはいつもより賢く見えた。


おそらくそう見えたのは彼女の伊達眼鏡が仕事の出来る上司的な印象を与える


からだろう。



「今日はホールかニャ?

出世したニャン、ほいこれネネニャンの所に持ってってニャ」



と言ってミオは押していたワゴンを蒼太に譲り渡した。


その上には何枚か使用済みのお皿と、空になったグラスが乗っている。


本来はホールのスタッフが行う仕事だが、キャスト達も手が空いている時は


それを手伝うのが習慣となっているようだった。


ミオが言ったネネニャンとは先日蒼太と仕事を一緒にした洗い場のネネのことだ


とすぐに理解し、彼はそのワゴンを指定された場所へと運ぶのだった。


そのワゴンに乗っているお皿は言わずもがな、ウロと呼ばれた少女が平らげた


ものだった。



ご覧いただきありがとうございます。


ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。


誤字脱字のご報告いただけると助かります。


応援していただける方は、ぜひここで☆の評価とブクマをお願いします!!


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