第1話-12/16
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
その蒼太の視界に飛び込んできたのは先ほど席についていた
中年男性とユカのキスシーンだった。
パーテーションの僅かの隙間からたまたま視界に入った二人の接吻。
「えっ?」
この店では当たり前のこと、少し前には驚いている当人が
エルナと今の二人が交わす以上の激しいキスをしていたことを忘れてはいけない。
蒼太が一目見た時にユカに思い描いていた
清楚、純粋、穢れを知らない純白の彼女の印象が音を立てて崩れていく。
高級なお店ならいざ知らず、彼の想いこそここでは幻想でしかなかった。
「そうそう、ボックス席は特別な場所だから
キャストとのキスOKだニャン!するかニャ?」
最初にボックス席に着いた時のミオの愛情表現でキスの雨を降らされたときに、
どさくさにまぎれてキスをしてしまっていたことを
ルール違反だと思っていたがそれが元々容認されていたことを知った。
据え膳食わぬはと言うが、
隣のボックス席に負けじと蒼太は若さに任せる激しい口づけを求めた。
積極的な蒼太の行動にミオも一瞬戸惑ったものの、
日常的に沢山の相手と口づけを交わす彼女にとっては
自らギアを一段階上げるだけで彼の期待に応えるのは容易い事だった。
情欲を貪るような口づけ。
舌を絡め、唾液を絡め、緩急をつけつつ飽きさせることのない口づけを交わす。
時には蒼太の頬を両手で覆い、激しく求めることもあれば、
彼の欲望に任せるままの口吸いに受け身に回って全てを受け容れ
息をするのも忘れ互いが求めあうキスに没頭する。
窒息間際になり、空気を求めるために蒼太はミオの口づけから
逃れるように顔を上に上げると、彼を見下ろす一人の女性と目が合った。
「あ、あの…」
途端に目を背け消え入りそうな声で彼女は何かを言いかけた。
同時に蒼太は彼女に手を伸ばし、
逃げられないようにとその手を掴もうとしたが
残念ながら彼女には掴む手が存在していない。
「むっ!?邪魔者が来たニャ!」
新たな来訪者に嫌味を投げかけるミオだったが、
その相手を呼んだのは他でもないミオ自身だ。
「…ニャ~んて、今度はミーが邪魔者にニャりそうだから今回は退散するニャ!」
抱き付いていた蒼太の身体を押しのけ、
するりと抜け出すとミオは素早く立ち上がった。
そして両手を天井に向け、全身を伸ばすと来訪者のツバキを見やり、
蒼太に向かって忠告を投げかけた。
「ちなみにボックスは1時間交代制だから注意ニャ!」
言い終わるが早いかミオはツバキの肩を叩き、位置を入れ替えるべく、
自らはボックス席の外へ出て入れ替わるように彼女を中へと招き入れた。
「え、あっ…ったし…」
舞台上の彼女とは打って変わって初めて挨拶に来た時と同じように
俯き加減でプツプツと切れる言葉を紡いだ。
他のキャストとは明らかに違う消極的、
内向的な彼女が主導権を握ることが出来るはずもなく、
蒼太はあえて自分も苦手なその立場を買って出ることにした。
「座って」
先ほどまでミオが居た場所。
空になった右側のソファーをポンポンと叩いてツバキに着席を促した。
それに応えツバキはもじもじとしながら
ちょこんと小さく収まるように腰を下ろした。
が、彼女の身体は小柄でもその両翼は予想以上に
大きく片翼でも十分彼女の身体を覆い隠せるほどの物だった。
必然的に蒼太もその翼に触れるがとても造形品とは思えない品質で
自身が導き出した答えの核心を得る。
そう夢…ではなく、現実世界でありながらもここは異世界だと。
そう結論付ければすべてのキャストにおいて合点がいく。
コスプレや衣装ではなく彼女たちは本物の半獣半人で
なんらかの要因で自身が迷い込んでしまったのだと…
いつ終わるとも限らない千載一遇のチャンスに溺れるだけ溺れてしまえと。
「歌…すごかった」
蒼太は先ほどの率直な感想を伝える。
もっと表現力が豊かであればどれほど自分が感動したかを
伝えたかったが今の言葉が精いっぱいだった。
「…りがと」
ツバキもその言葉に応える。
しばしの沈黙。
奏でている奏者の姿は見えないがハープの綺麗な音色が二人の空間に漂った。
「ごめん、呼びつけてもらったりして」
「…そんな、…ったし、その話、下手...し、その…あの…」
詫びる蒼太に、途切れ途切れ何とか言葉を吐き出すツバキ。
互いの緊張が伝わりそれが増幅してさらに緊張度を高めていく。
会話が続かないもどかしさを感じつつ、
自身のコミュニケーション能力の低さを痛感していた。
友人と居る時はそこまでではないと思っていたが、
初対面の異性に対してはこれほどまでに会話が弾まないかと嘆いてしまう。
だが、蒼太が彼女にしたかったのは会話だけではない。
むしろ楽しいトークが出来るとは思ってもいなかった。
「無理して話さなくて良いよ。あの…チケット使っても良いかな?」
蒼太はテーブル上に残っている3枚のチケットを取り、
それをツバキに渡そうとする。
「…でも、ここ…使わなくても、き、き、キスできる…から…」
蒼太の顔を一瞬だけ直視し、ツバキは緊張気味に彼に説明する。
ツバキも彼がこの店には初めて来たことを知っているようだった。
「キスだけじゃなく君と…、
君に色々したい。触ったり、その一目惚れっていうか、好きなんだ、君が」
突然の愛の告白に赤面するツバキ。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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