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第九話

 気がついたとき、夏樹たちはぽっかり開いた樹冠の下に並んで、仰向けにぶっ倒れていた。

 空には再びのピンクが浮かんでいる。今度は、ここのてっぺんだけじゃない。二人が振り返った先の空にも、雲海の代わりに桃色の海が広がっていた。

 ここまでの道を覆っていた、枝葉たちも半壊している。ときに消え、ときにピンクの石と化して、もはや山肌のさらしを防ぐすべは失われていた。

 そこからのぞく街の景色も、異世界の被害と会長たちの頑張りをうかがわせる。

 低地にはさほど被害は出ておらずとも、背の高い建物のモニュメントや貯水槽のところどころに欠損や、ピンク色の硬質化が見られる。


 ――そうか、消えてしまうものは首尾よく拒みの言葉が届いたメンツ、というわけか。


 考えを巡らせながら、二人は立ち上がる。

 リュックもデジカメも、いまやピンク色。自分たちの痛みも引かないが、どうにかこらえつつ、タブレットを手に取った。


「ハピ、ハピ、ハピ、ハピ、ハッピータイム・レイディオ〜」


 始まった。会長の声だ。

 千里が肩をつついてきた時には、もうタブレットの電源はついている。

 ボイスメモを立ち上げる。そこに録音してある数十分にも及ぶ、会長声のテーマソング。

 わずか前まで、執拗に忌み嫌ってきた音楽。そいつをいま、拒みそのものに変えて伝えなくては。


「ハピ、ハピ、ハピ、ハピ、ハッピータイム・レイディオ〜」


 ここは俺たちの世界なのだと。


「ハピ、ハピ、ハピ、ハピ、ハッピータイム・レイディオ〜」


 お前たちの居場所はここではないのだと。


「ハピ、ハピ、ハピ、ハピ、ハッピータイム・レイディオ〜」


 自分たちはここにあり続けたいのだと。


「ハピ、ハピ、ハピ、ハピ、ハッピータイム・レイディオ〜」


 伝えなくては。


 夏樹の横に、千里が並ぶ。もう眼帯は血の赤にくわえ、ピンク色もたたえ出している。

 千里の口が動く。自分の名が呼ばれたが、もうそれはほんのかすかにしか聞こえない。

 今度は夏樹が、千里を呼んだ。千里は首を傾げた後、耳へその手を当ててみせた。

 目や腹だけじゃない。互いの肉声が聞けるのも、これが最後かもしれない。


 ――なら、思い切り知らせてやる。


 録音した声を再生する。設定は最大音量のはずだが、もはやか細い声しか耳に届かない。

 二人はすでに無数のひび割れを生み、それでもなお、落ちてこようとする空へ向けて、大口を開いた。


 ――これが俺たち3人の、最後のニュースだ!


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