第18話 大虚言者によりラガシアで宗教が創始されました(勝手に)
新章開始。
戦略SLG要素が増えて行きます。
『名前、考えてあったのだがな。まさか名を持って生まれるとはな』
感動の再会で忘れそうだったが、グラザドカムイにとって我が子の誕生でもあった。
さて、この状況を最大限生かすには、どうするべきか。母はドラゴン、いいじゃない。
『お母様、私はあなたの子であると同時に、かつてあなたに食われたサクラの記憶を持って生まれた、サクラでもあります』
『龍族は、吸収したモノの力を子に残す。だが、吸収した姿や魂までを子に残すことは、記録にない』
『それは、他の姿となった龍は、龍としての道を歩まなかったのでしょう』
俺も龍の道を歩まないつもりだしな。
『ところで、考えてあった名前は何ですか?』
『ファーヴニル』
『いい。それ良い。でも、サクラも気に入ってるので、サクラ・ファーヴニルにしたいですが、良いですか?』
『それで良い。我や他の龍族は、そなたをファーヴニルと呼ぶ。他の者には好きな様に呼ばせればよい』
マルレーネたちは、龍の言葉は分からない。なぜか龍語が出来るようになった俺は、普通に会話を出来ている。
「マリッカ様、眼鏡、ありがとうございます」
「うんうん、よく似合っておる。それよりも、ワシは最高の気分じゃ。こんな面白い事を起こしてくれるとは、勇者の時代以来じゃ。あ、そうそう、お前たちは先に帰っておれ。こいつらとまだ話があるが、聞かせられんことも多いからの」
「折角サクラが戻って来たのに!」
「マリッカ様がそうおっしゃるなら、俺たちは先に都に帰ります」
「姉さん、またすぐ会えるから、帰ろう」
3人には聞きたい事も山ほどあるが、近いうちにまた会うだろう。今は、母と姉、そしてマリッカ様。
『さて、ファーヴニルよ。そなたも形は違えど、龍族の端くれ。龍族とはいかなるものか、教えよう。で、その前に、紫の魔女、この岩をどけて、お前もさっさと帰れ』
『えー、帰りたくない!』
駄々っ子(235)を生暖かい目で見る。
『そなたが帰らねば、龍族の神秘をファヴニールに伝えることが出来ん。こればかりは、そなたにも教えられん』
そこを何とか!と暫くごねて、駄々っ子(235)は帰って行った。ちなみに、岩はどけなかった。
『さて、では龍族について一通りの事を教えよう。親から子に伝えること、これは掟だ。そしてこれを龍族以外の者に教えぬこと、それも掟だ。良いか?』
『分かりました』
『クエレブレ、お前の力、ファヴニールに見せよ』
クエレブレは3mほどの龍。敵うのだろうか? クエレブレが突進してくるのを、避けながら、本気ではない威力で魔法を放つ。
「氷よ 刃の如く風の如く 切り裂け!」
『それらの魔法はいかん。力を示せ』
『この体には、強い力はありません』
エルフ女子(推定14)の体だし。
『力とは、腕足尾から発するもののみではない。目に見える力が全てではない。ファヴニール』
『目に見えない力?』
『大きな翼をもたぬ我らが、なぜ天を駆けられるのか、良く考えよ』
天を駆けるか。確かにクエレブレは、飛ぶ時に翼を開いてはいるが、鳥の様に羽ばたきで離陸していないし、飛行機の様に速度を上げて離陸しているのでもない。謎の浮遊力で飛んでいる。
『そなたも持っているはずだ。巨人の力を持つ者、ファヴニール』
『巨人の力、巨人って』
『そなたの正体は、サクラを食ったときから知っていた。そなたが今その体を動かす力、それは我らが飛ぶための力と本質的に同じものだ。使い方を、小さな体の中だけと思うな』
確かに、今この体を動かす力は、中の人の魔法だ。サクラの体の中でそれを使うから、サクラが動く。それを、体の中だけと思わないというのは? 外からも動かせるのか?
『ハッ、お! いてっ』
ジャンプしたサクラのつま先を、足の裏から持ち上げる感覚。ジャンプの最高点からもう一段飛び上がり、二段ジャンプをして、着地に失敗した。
『体を外から動かすのに、見る力は中からのみ使うからそうなるのだ』
見るのも外からか。ファーストパーソンビューから、サードパーソンビューに変えられるんだろうか? 背中を見るイメージをしてみると、見えないはずの背中が見える。ゲームであるような、主人公を背後霊視点から見る感覚だ。
動きの自由度が上がる。空中を蹴って方向転換の様な動きまで可能になる。
『少し分かったようだな。次は体以外の物を動かしてはどうだ?』
体以外。その辺の礫を魔法で拾い上げる。何も触らないのに、礫が持ち上がる。それをクエレブレに投げてみる。空中で礫は方向を変え、サクラに向かって加速、当てられてしまう。
『それしき、私に当てられると思うなよ!』
今の動き。途中で加速しているという事は、
F=mα
礫の加速している間は、力が働いている。それならばと、同じ礫を飛ばし、魔法を持続してみる。
『ぐぬぬぬ!』
空中で、礫を押し合う力がせめぎ合い、不安定な動きをする。これが力と力の勝負。なるほど、サクラの体の筋力ではない、別の力の見せ方。
『中々面白かったぞ、我が子らよ。しっかり本質を知ったようだな。ファヴニール』
『負けないのに』
止められたクエレブレは不満気だ。
『そんな顔をするな、クエレブレ。今から他の力を見せる場がある。それは』
グラザドカムイが少し体を持ち上げる。
『われの背中の岩を退けるのを手伝え、我が子らよ』
やっと岩から解放されたグラザドカムイが翼を広げる。その姿は美しい。
『さて、我はファヴニールが孵ったら、クエレブレとファヴニールを連れて他の龍族が暮らす霊峰を巡るつもりでおった。だが、その体では龍族の地を巡るのはつらかろう』
龍族の地、その1つがここ、箱根の乙女峠。ただの箱根の山と思うなかれ。この世界が水平方向に5倍の大きさと分かっていたが、垂直方向も5倍である。だから富士山は美しい紡錘形を保っている。ここの標高は5,525m。そして、ここからよく見える富士山は、もうすぐ夏なのに、2合目まで雪景色。それもそのはず、18,880m。2合目で本来の富士山の高さ。
『ファヴニール。共に来るか、ここに残るか、選ばせよう』
ドラゴンと世界を巡る。それも楽しそうだが、数千mの山々を巡るのは、エルフの体では無理なんだろうな。
『ここに残ります』
『そうか。たまには帰って来る。その時にはさらに成長した姿を見せる事、楽しみにしておる』
こんな別れの挨拶の様な会話を交わしたが、グラザドカムイはすぐ発つというわけではないらしい。そして、龍族についての講義?が始まった。聞き、質問し、答える。「龍族とは何か」から、戦いにおけるノウハウまで。
『何か困ったことがあったら、我を呼べ。その声、大陸の果てからでも聞きつけてやる』
とても頼りになる母だ。この世界で持った、初めての家族。なお、ハコネはペットである。
5年ぶりに、山を下りて来た。
「なんだか軽快ね」
「魔法の使い方が変わったからさ」
以前歩くときは、サクラの足を魔法で動かしていたのだろうが、あくまでもサクラの体の動きは「出来ないことは出来ない」という制限があった。その制限を無意識に掛けていたのだろう。それが、外から動かせる。必要なら飛べるし、足を一切動かさずに前に進むことだってできる。不気味だからしないけど。
今日は例の温泉で一休み。魔族に襲われた因縁の場所だが、もし同じ事があっても今回は大丈夫と安心感がある。なぜなら、この体はまちがいなくドラゴンの特性を備えているからだ。
『飛翔にも魔の力を使う太古の我らは、魔を奪う力に弱かった。多くの先祖たちがその罠で命を落とした。そして、今生きる龍は、魔を奪う力に耐えた龍の血族。淘汰の力に打ち勝ったものが、今の龍族だ。よって今の我らには、魔を奪う力など効かぬ』
あれから5日ほど続いた龍生講座では、この様な大事な情報は得た。同じ轍は踏まずに済む。ドラゴンの体を得た事は、とても望ましい進化だった。
「なあ、ハコネ、サクラの体、前と変わった?」
「見た感じには前のままみたいだけど、なんで?」
「食われて、ドラゴンとしてまた生まれたんだけど、若返ってたらおかしいだろ。それだと、町では前のサクラの別人って事にしないとまずいかなってな」
若返ったなんて話になると、世の奥様方がその秘術を求めて押しかけてくるかもしれない。それも、押しかけて来て欲しくない年齢の奥様方が。
「同じだと思うけどね。そもそも最初だって、ルア様がお創りになった時からその姿なんでしょ。それと同じなんじゃないの?」
老化とか無いんだろうか。マリッカさん(235)が少女にしか見えないのを考えても、エルフってのには老化防止能力があるのかもしれない。
前回は中の人も入浴したが、誰も来ないと油断していたら来たってのを経験しただけに、そこは警戒。ハコネが自室の風呂に入れてくれた箱根の湯で我慢。
なお、前回索敵に失敗した原因は、髪を索敵に使用したからだ。理由は…… 言うまでもない。
温泉付近で野営して、翌日夕方にラガシアの都まで到着。以前泊まった宿に行くと、同じ姿で存在していた。5年くらいじゃそんなに変わらないか。
しかし、宿の客が多い。サービスの質が落ちては居ないので困る訳ではないが、楽しい風呂タイムは色々堪能させてもらった。ドラゴン直伝の能力でどこでも覗き放題になっているのだが、それはまた別である。
翌朝はまずハンターギルド。
「噂の新人が帰って来たか」
受付に行くと間もなく、ギルドマスターがやって来て、別室に連れて行かれた。
「噂になってたんですか?」
「5年前、お前さんが死んだって騒ぎになってな。お前さんの仇討だって、若い連中はドラゴンを狩りに行こうとする。さすがにやめとけって言ってたんだが、終いにはマリッカ様まで連れてきて、さすがにそれで行くなとも言えんでな」
若い連中って、マルレーネ達の事だろうな。
「それが、行ったら、お前さんを見つけたってんで、みんなびっくりだ。今まで何してやがった?」
5年間のアリバイ工作が必要か。
「あの日、温泉に行ったんですが、そこで魔族の襲撃に遭って、捕らわれの身になりまして。そのまま魔族に連れ去られそうになったんです」
「魔族に連れ去られたってのまでは聞いてる。お前さんが死んだって情報だって、その魔族がお前さんを残して逃げたから伝わって来たって話だしな」
前半の話は伝わってたのか。そこで嘘をつかなくて良かった。
「それから、その魔族共々、ドラゴンに襲われたんですが」
「それも伝わってる。運が無かったな。いつもそこにドラゴンがいるわけじゃないんだが、何かが呼び寄せてしまったらしい」
産卵前に子供に渡したいスキルがある生物を襲うのだとしたら、サクラか他の魔族にドラゴン垂涎のターゲットが居たのだろう。
「なぜかドラゴンにペットにされて、この前まで飼われてました」
あ、ギルドマスターが吹いた。
「飼われてたって、なんだそりゃ。まあドラゴンからすれば、俺らなんてネズミみたいなもんだろうけどさ」
「そういうわけなんで、復帰します」
やれやれという表情のギルドマスターだが、
「死んだはずのお前さんが生きてたってので、変な噂が広まっててな」
どんな噂だ?
「実は帰って来たのはドラゴンが化けた偽物で、本物はあの世って話だ」
これ、エルンストが疑ってた。まさかエルンスト、まだ信じてなくてそんな事を言ってるのか?
「他の噂は、こんな目に遭わせた魔族への復讐のために、レイスとなって帰って来た」
怨念が強いとアンデットとかになるのか? そんなの、そこら中がアンデットだらけにならんか?
「さらに別の噂は、お前さんは神の子で、死んでも甦る」
一番めんどくさい奴だ。俺の言葉を勝手に曲解して、その解釈の違いで戦争とか始めちゃうんだぞ。迷惑極まりない。
「まあ、前二つは、俺が今考えたんだけどな」
おいっ!
そして、最後のもあんたが考えたネタだったって言ってくれ!
竜に変身する巨人なんて設定のキャラクターが古典におりまして。