7-9:王都の道中
神器一号に乗ってスイスイと砂漠を横断中。なんとこの砂漠、過去に召喚された異世界人が焼き払ったことが原因でできたものだと言うのだから、最上位スキルというのは侮れない。これは獲得した領域に保存されているデータを読み取ることで手に入れた情報であり、同様に色々なことを知ることができるのだから便利なものである。
検索機能などを付け加えて見たところ、まんまインターネットになってしまった。これはこれで良い暇潰しになるので、中々お買い得な機能であったと自画自賛。車内を寝室モードにして、その上で下着姿のライムと寝そべって足をばたつかせながら空中に浮かぶ画面を見る。
「なるほどねぇ……まーた性懲りもなく召喚に手を出したのはそういう理由かー」
クーラーの効いた快適な空間でチョコ菓子を一つ摘み口の中に入れる。甘すぎないビターチョコが丁度良い塩梅だ。口の中でチョコを溶かし、果実水でスッキリさせつつ画面に映る情報の続きを読む。
「なんというか、権力争いがホント好きだよなー、ここの連中は」
現在の目標地点はローレンタリア王都――つまりは俺を召喚しやがった国。移動中は暇なのでこうしてローレンタリアの内部情報を読み漁っているのだが……これがまたやましいことが出てくる出てくる。現在この国は南の帝国と北の王国の二正面戦争の真っ只中であり、西の魔族領土へ向かわせていた軍を呼び戻し絶賛防衛中である。
とは言え、帝国に王都まで侵攻を許している時点で最早勝機はなく、俺としては勝負が決まる前にお邪魔したい。北の防衛に新たに召喚した異世界人を用いており、王都の防衛にも一人いるので神器による防衛と合わされば、帝国と言えどそう簡単には陥落させることはできないだろう。なのでこうして急ぐことなくまったり砂漠を横断中なのだ。
「結局、召喚した日本人だと思われる『藤井トワ』だけでは防衛の手が足りず、新たに異世界人を召喚。それを主導したのが俺を召喚して責任を取らされた大臣の後釜に座った男なのだが……実際はそれを裏で進言し、そいつを失脚させようと召喚費用として国庫で散財した罪をなすりつけようとしていた女が黒幕。その黒幕にしても、政敵から送られてきた男と懇ろになって言われるがままに金を出した結果、国庫に手を付けているわけなんだから救えない」
読み物としては良い暇潰しになるのだが、こいつらには理性が少々足りないのではなかろうか?
おっと、炭酸飲料がなくなったライムが物欲しそうにこちらを見ている。色々とガチャ産の物を飲食した結果、ライムは炭酸飲料を嗜好品として愛飲するようになった。あのシュワシュワしたのが大変好ましいとのことだが、できれば味もしっかり見てやって欲しい。そんなわけで追加のペットボトルを取り出し手渡すと、ライムは嬉しそうにキャップを捻じり切って中身を飲み始める。
その光景を「手加減も覚えさせる必要があるなぁ」と微笑ましく見ていると、不意に前方に何か巨大な反応があることに気がついた。画面表示を切り替え確認したところ、100mはあるバカでかいワームがこちらの進行方向にいることが判明。
「砂の中か……まあ、無視で良いか」
巨大生物の討伐とか「異世界あるある」なイベントだが、今の俺だと特に必要のない狩りにしかならない。向こうから襲ってくるようならば対処するが、ライムがいるのでそんな馬鹿な真似をする生物はいないだろう。
「しかし、いい加減砂漠を抜けてもいい頃合いだと思ってたんだが……」
目的地まで一直線に進んでいるおかげで見事に砂漠地帯のど真ん中を通っている。おまけにホバーモードな上に静音を意識しての移動なので、速度も控えめとなれば時間もかかるというものである。最初は「よし、ライムとたっぷりスキンシップだ」と意気込んではいたが、流石に丸一日楽しんだ翌日にまたするのは気分が乗らない。何事もほどほどが肝心である。
取り敢えず今日のところはライムの教育と、作ったスキルの改変に勤しむことにする。時間を有意義に使えたと思うが、あと少し何かがあればという気もしないでもない一日だった。
そんなわけで翌朝――裸のライムとイチャコラしつつ、日課のガチャを100連で一気に回す。大きな入れ物を用意して玉を全て受け止めた。対策は既にバッチリである。落ちていく中で見ただけでもそこそこの収穫が期待できる。今日の分だけでも白が二つ見えたのは大きい。さあ、開封の作業に入るとしよう。
銅:汎用カード×14 パンツと食料品に雑貨。
銀:汎用カード×53 魅惑的なバナナの皮×1 バニースーツ
金:汎用カード×18 幸運×1
白:汎用カード×2 ポーション×1
この三日の成果をまとめるとこんな感じになった。ちなみにバニースーツとバナナの皮カード、そして「幸運」は本日の成果である。今日の内容が際立って良い感じである。
「しかし、バナナの皮って交換できないカードなのか……相変わらず基準がよくわからんな」
ともあれ、まずはこのバニー衣装である。ライムを呼んでいざ試着――させたは良いのだが、やはりウサ耳が欲しい。タイツはあるのだが、この不完全さはいかんともし難い。なお、胸のサイズが合っていないので本当にギリッギリになっており、歩くだけでポロリする仕様となっております。
「これはこれでアリだな」という結論を出し、取り敢えず満足するまでバニー姿のライムを楽しんでから朝食の準備に取り掛かる。本日は食パンが一斤出てきたので、これを手頃な厚さに切ってサンドイッチを作ろうと思う。材料はハムとチーズのシンプルなもの。卵が欲しくなるが、残念ながら手持ちにはなし。
「そんなわけで取り出したるはフライパン。ハムとチーズを挟んだパンの両面を少し焦がす程度に焼いていきます」
説明ゼリフと共にクッキング。焼けたパンをまな板の上に乗せて包丁を入れると、ザクザクと小気味の良い音を立てて二つに割れた。それを皿の上に乗せていざ実食。
「……ハムとチーズは別に温めたほうが良いのかね?」
食べた感じチーズのとろけ具合が今ひとつ――というよりあんまり熱が伝わっていないので微妙なところ。やはり料理経験がないとわからないことだらけである。ライムはザクザク感が気に入ったらしいのだが、味より食感や感触を重視しているような気がするので、感想が参考にならないのが少し悲しい。ちなみにイデアネット(仮称)を使い調べてみるが、該当する料理がこの世界にはないようだ。
「簡単すぎて料理と呼べない」という可能性もあるが、これ以上調べる気にもならないのでこの件はこれにて終了。
「お、砂漠がようやく終わりか」
ふと外に目をやると砂漠が終わり荒野へと景色が変わるところだった。このまま進めば禿山に入り、その先にでかい峡谷がある。そこを越えればローレンタリアの領内に入ることができるで、今日中には確実に入国することになるだろう。そんなわけで緩やかな山の斜面を眺めながら後片付けを終わらせ、地図を出して位置を確認。
概ね予想通りの結果だったので、地図を仕舞って時間までは荷物の整理。神器一号の中に置いていても、収納モードで一緒に鞄の中に入れることが可能なので、すぐに取り出す必要がないようなものは、ここに置いていくこともできる。簡易移動拠点としては最適解と言っても過言ではない性能である。
倉庫としての機能もある以上、大量にある調味料や予備の服などは一部を除いてこちらに仕舞っておくのが正解だろう。そうするとこの溢れんばかりの下着の数々を前に、どうしたものかと頭を悩ませる
「幾らなんでも多すぎるんだよなぁ……でも捨てたくはないし……」
どうせまだまだ出るのだから大丈夫であることはわかっているが、どういうわけか俺がガチャで出すパンツは種類がやたらと豊富なのだ。色は勿論、デザインやサイズまで細かく分かれており、両手いっぱいのパンツでも被りの方が少ないのだ。
「……待て、まさか『パンツの中にもレア物が存在する』という隠し要素があったりするのではないか?」
突如俺の頭に舞い降りた天啓に、早速パンツの分別を開始する。結果、特にそういう傾向は見られず、気づいた時には渓谷に辿り着いていた。良い暇潰しであった。
「それじゃ、降りてこれ収納するから向こうまで俺を運んでくれるか?」
俺の言葉にライムは笑顔で頷くと「あれは何をやっていたのですか?」と真剣にパンツ並べをやっていたことを質問してきた。
「ああ、もしかしたら何か法則みたいなのがあるのかもしれないと思ってな」
それっぽいことを言ったところ「さす父」と抱きついてくるライム――少しだけ申し訳ない気持ちになった。そんなわけで神器を収納してライムに捕まり幅20mくらいの渓谷をぴょんと飛び越える。ちなみにこの渓谷は自然にできたものではなく、過去の魔王と勇者の戦いでできたものだ。魔王を葬った斬撃で大地が割れてこの様である。
人間を辞めたからこそ笑っていられるが、厄災化前ならこの事実を知れば絶対に連中とは戦おうとは思わなかっただろう。「ま、今の俺ならこれくらい余裕でできますし?」と心の中でひっそり対抗しておく。というわけで障害を無事越えたので神器一号を取り出し再び乗車。ライムはそのまま俺を運びたがっていたが、まだまだこいつの機能をフル活用できていない。
何より、寝てても勝手に進んでくれるという楽な移動方法なので止められないのだ。少し早いが、ライムのご機嫌取りも兼ねて昼食は豪勢に行こう。その後は風呂でも入ってビール片手に戦争の観戦でもやっていよう。順調に堕落した日々を送れるようになってきていることに上機嫌になった俺は「交換」も使って肉や野菜を調達。結果として想定以上に豪勢なものとなってしまった。
さて、飯を食って風呂に入り、ライムと楽しんだ風呂上がり――冷えたビールを片手に金のカードで「千里眼」を発動させ、その情報を宙に浮かぶ半透明の大画面に映してみる。
「いよいよもって何でも有りになってきたな」
やはり「眼」から領域を分捕ったせいか、この手のことは大変やりやすい。下着姿のライムの腰に手を回し、王国同士の戦争を観戦する。だが、俺が期待したような動きはなく、有り体に言えば膠着が続いている状態のようで何の面白味もない。
「んー、じゃあ王都の方は……おっと、眩しいな」
「王の城壁」で守られているが故に、遠距離攻撃が使えない帝国軍に対し、王国軍は城壁の上からバカスカと撃ち放題である。その中に、黒目黒髪の少年がピカピカと雷を帝国軍に向かって撃ちまくっているのが見えた。
「お、こいつか?」
ツンツン頭の少年が大きく腕を振るうと豪雷が帝国軍の真っ只中に直撃。魔力による防壁が破られ、結構な数の被害を出したところで撤退が始まる。
「なるほどなー……防壁を維持できている間に城壁を登りたいが、異世界人が邪魔なわけか」
あの城壁は神器によって展開されたものなので「城壁型神器」と言っても過言ではない。当然そんなものが破壊などできるはずもなく、魔法や物理攻撃に対してとんでもない防御力を持ち、防壁を展開することで「一方的な攻撃ができる城壁」となる。真っ当な方法で攻略するならば、神器に蓄えられた魔力切れを狙う外ないだろう。恐らく帝国側はそれを狙っている。
「無謀だなー。そんなんで攻略できるほど、神器ってのは甘くない。あ、神器って知らないから当然か」
俺は一人で言って勝手に納得しているとライムが俺を押し倒してきた。なので下着に手を伸ばしたところ、意外なことをライムは質問したのだ。
「確か、あそこにいる異世界人はお父様と同郷であったかと思いますが……どうなさるおつもりですか?」
言われてみれば、どうするか決めていなかったと少し考えてみる。だが思った以上にあっさりと結論が出た。
「利用できそうなスキルを持っているわけではないのは確実。なら、邪魔をするようなら殺せばいい」
彼は同じ日本人だと思われる。だが、それが何だと言うのか?
雷を使った攻撃をしているということは、そういう系統のスキルだろうし、複数持っているとは考えられない。だったら別に必要のない人物である。邪魔をするなら排除するが、そうでないなら放置する。そこまで考えて俺は気がついた。
(あ、そうか。男だからどうでも良いのか。美少女だったらちょっと考えてたな、うん)
俺は自分が思った以上に冷めていた理由がはっきりしたことで満足気に頷いた。ローレンタリア王都には明日到着予定である。待っていろ豚王――貴様の死体には丁重に蝋燭を突き立ててやるからな。




