7-8:救えない世界
(´・ω・`)遅くなり申した。
パナサの死因に付いては聞くべきか悩んだのだが、その原因が自分にある可能性も考え、名前を忘れたオッサンに彼女の顔のことをさり気なく話す。
「そう言えば、火傷痕が綺麗に治ったパナサを見たか?」
俺の言葉にオッサンが硬直し、周囲の男達もぎょっとした顔を見せた。反応から察するに知っていたことが予想外――というより、知っていると拙いという反応だ。
「そうか、折角望み通りに治してやったんだが……残念な結果に終わってしまったか」
大きく溜息を吐き、落胆していることを見せつけると集団の中から一人の青年が俺に向かってやってくる。その表情は怒りに満ちており、俺に掴みかからんばかりの勢いであるが、そうなる前にオッサンが青年を止める。
「放してくれ! こいつの所為でパナサは死んだんだぞ!」
抵抗する青年は羽交い締めにされてしまったが、なおも俺を睨みつけ噛み付いてくる。
「貴様が余計なことをしなければ! パナサはあいつらに目をつけられることはなかったんだ!」
正直人形が何を喚こうと気にするつもりはないのだが、後ろのライムはいつ青年を殺すかわからない。なので仕方なく相手をしてやることにする。
「ほう、俺の所為でパナサが死んだのか? 彼女の望み通りに顔の火傷痕を治したんだが……それが原因でまた教団の連中に目をつけられたと?」
「そうだ! お前が彼女を殺したんだ!」
吠える青年に集団の中の何人かは同調しているが、目の前のオッサンやこの中の中心となっている連中は顔を伏せるだけだ。状況的に予想はできるが、あまりそうであって欲しくはない。所詮人形のやることと言えど、胸糞が悪くなることには違いはないのだ。
「そうか。で、お前達は何をやっていたんだ?」
「あ?」
俺の質問の意図が理解できないのか、羽交い締めにされた青年が間の抜けた声を出す。
「だから『パナサが再び教団に狙われているという状況で、お前達は何をしていたんだ?』と聞いているんだよ」
「お前……」
悪びれる様子がないことが信じられないのか、青年は言葉を詰まらせた。
「まさかとは思うが……教団が怖いから黙って見てたの? 普段あれだけ希望だ何だと言っておきながら守りもしなかったの?」
「ふざけるなぁぁぁ!」
その叫びが青年の最後の言葉となった。突如空中に現れた赤い玉がチカチカと光ると青年の頭部が細切れとなって重力に引かれ落下する。羽交い締めにしていた男は慌てて頭部を失った青年から離れると、足がもつれたのか尻もちをついてアワアワしている。ライムがいるからこうなることはわかっていたが、これは仕方ないね。
「ああ、言い忘れてたけど……あんまり俺に対して無礼な発言は控えた方がいいよ? こうなるから」
地面に倒れた頭部のない死体を指差し「あーあ」と口調だけ残念そうにしてみたが、彼らの俺を見る目は大変厳しい。なのでここは一つ俺の疑問を解消してもらい、綺麗サッパリ関係を解消してしまおう。
「というわけで『催眠』効果発動。パナサの死因とそれに関する知っていること全てを教えてくれ」
名前を忘れたオッサンを指名すると直立不動のまま語り始める。
「パナサを殺したのは革命派のダリルだ。強姦されたように見せかけ絞殺した」
オッサンの言葉に周囲が騒然とし始め、後ろにいた青年に肩を掴まれてもそのまま話を続ける。
「連中が言うには『後一押し』が必要だった。だから火傷痕が消えたパナサを殺し、それを教団がやったことにして民衆を焚き付けた」
この言葉に周囲の連中は言葉を失った。若干数名ほどは真実を知っていたらしく俯いたままだが、概ね予想通りの結果である。そもそもの話、彼女が自分から火傷が完治したことを吹聴するだろうか?
そんなはずはないだろうし、それを知ることになるのも身内の中の極少数と見るべきである。ならば、パナサは身内の誰かに売られたと見るべきで、そうなった場合誰にとって最も都合が良いかと考えれば、自ずと今回の首謀者が見えてくるというものだ。
「ま、そんなこったろうと思ったよ。というわけで、だ。お前ら死んでいいよ?」
「は? 何を言って……」
俺に突っかかってきた青年に同調していた男性が言い終えるより先に、ライムの魔力線が集団を細切れにする。ただ、名前も忘れたオッサンまで殺してしまっているので詳細を聞きそびれた。やってしまったものは仕方ないので、この件はこれでお終いだ。後は踊り子衣装の入手だが、こちらはもう「検索」のカードで解決することにしよう。
「しかし何と言うか……人間を模倣するのはわかるんだが、嫌な部分ばかりが目につく。そういう部分ばかり学習しているのか、それとも召喚された人間にそういう連中が多かったのか……」
果たしてどちらなのだろうか、とこの世界で出会った異世界人を思い出し、最後の言葉を飲み込む。「そうならざるを得なかった」という可能性が抜けていたので、この思考は無駄だとこれ以上は考えないことにする。
「ともあれ、肝心の革命とやらは成功したのかね?」
誰に聞かせるわけでもなく呟く。ライムも何も答えないが返事など求めていない。結果の成否にも興味はないが、ただ何となくやるせないだけだ。
「神器の回収は終わったし、次に行くかー」
そう言うとライムは元気よく返事をして俺の腕を抱きかかえるようにして抱きつく。まったくもって可愛いやつである。少々胸にモヤモヤとしたものが残ってしまったが、本来の目的を忘れることなかれ。次の神器の回収のためにここから東に向かって突き進む。ちなみに踊り子の服は道中にある村の酒場でゲットしたので目標は残り一つである。
それから二日後――目的地も間近というところで神器キャンピングカー改め「神器NO.1」こと神器一号の中で、俺はせっせと水着を作成中である。結局先日変換した信仰関係の神器の「領域」を用いてスキルを作成。「作成」というイメージ通りの無機物を作成するスキルを獲得した。
「えーっと、ここはここで……色は――あー、だめだ。シンプルにいこう」
問題があるとすれば、急造したスキルなためか酷く使い勝手が悪い。3Dモデリングなどやったことのない人間がいきなり手を出して望み通りのものが作れるはずもなく、こうして悪戦苦闘を繰り返している。俺の傍らには少ないポイントで作られた歪なビキニらしき何かが散乱しており、それを手にするライムは失敗作の用途がわからず首を傾げている。
「うん、潔く水着は諦めよう。時間がある時にもう少しだけ『領域』を足して使いやすい機能を追加しよう」
俺は最後の失敗作を投げ捨てるとソファーに身を投げ出す。同時にライムが上に乗ってきたので、そのお尻を触りながら話しかける。
「次の目的地って海岸だからなー、海で遊ぶために水着を作ろうと思ったんだよー……でも慣れないことはするもんじゃないなー」
ライムは失敗を慰めるように俺の頭部を豊かな胸に抱え込む。そう言えばスキルを作ったり水着を作ろうとしたりであまり構ってやれていなかった。なので目的地まではたっぷりとライムを可愛がってやる。なお、昨日と今日のガチャはこんな感じになっている。
銅:汎用カード×11 パンツと食料品に雑貨。
銀:汎用カード×39 笛
金:汎用カード×16 靴
白:汎用カード×1
出てきた笛はモンスターを呼び寄せる効果があるもので、靴は水の上を歩くことができるものだ。タイムリーなアイテムだとは思うが、残念なことに神器があるのは海岸にある崖の洞窟なので水の上を歩く機会は恐らくない。相変わらず俺のガチャ運は微妙に的を外してくる。
さて、海岸に行くのだから港か漁村くらいはあると思ったのだが、予想は当たっていても見事に廃村となっている。人がいないとわかっているので自動運転中の車の中から外を見るが、明らかに略奪された形跡があり、ここを賊が襲った結果人がいなくなったことが見て取れる。
「どこも同じようなことになってんなー」と呟きながら、何かライムに合いそうな衣装はないかと物色しようかとも思ったが、こんな寂れた漁村にそんなものはないだろうとここを素通りすることに決定。周囲の状況をライムにも確認してもらいながら目的の崖へと神器一号は走る。
お昼はパスタを茹でてカルボナーラで頂く。キッチンがあるので調子に乗ってミネストローネのスープも添える。以前俺が食べていたのを見ていたのか、ライムもフォークでくるくるとパスタを巻いて食べていた。自分のこれまでの食べ方を思い返し、おかしなものがなかったことを祈るばかりである。
そんなわけで食事を終えて食器を食器洗い機に洗剤と一緒に入れてスイッチON――ああ、素晴らしきかな文明。丁度目的地へと到着したので車を出て崖を見上げる。「さあ、神器の回収のために洞窟探検と行こうか」と張り切ったところで、外に出てきたライムがさっと腕を振って崖を切断。
「お父様、参りましょう」
笑顔でむき出しの神器が眠る洞窟だった穴へと俺を誘う。手っ取り早いのは良いのだが、あっさりしすぎているのも問題だ。例えるなら味がしないさっぱり味と言ったところか?
そんなわけで無情にもトラップのようなものの断面図を見ながら神器が安置されている部屋に着地。ライムから手を離して壺型の神器に近づくと声が聞こえてくる。
「魂を捧げよ」
「嫌です」
俺は即答して神器を変換。評価額は普通だった。鑑定団辺りなら良い値段をつけてくれそうなデザインだったが、生憎と今の俺には飾るスペースがない。そして変換してこの壺を分析したところ、その名前が「願望の器」という名前であると判明。「代償と引き換えに願いを叶える」という破格の能力を持っていたのだが、使用用途が馬鹿みたいな願いしかなかったために「魂を求める」ようにテンプレ化していたようだ。
ちなみに願いの履歴を見てみたところ、そのほとんど全部が「世界の支配者」的な圧倒的権力を願うようなものばかりだった。「そりゃ魂でもないかぎり代償が釣り合わんよなぁ」と人形に魂を要求する意図を考える。「お前らじゃ支払えないから無理」という意味だったのではなかろうか?
「同じ願いばっかりというところに、所詮は人を模して作られたものって感じはするが……」
この世界で育つと皆そのような願望を持つことになるとか中々に酷い結果である。もっとも、俺が笑えるような願いがあれば、まだ救いはあったのかもしれないが、一様に同じでは面白くもない。これに関しては環境が悪いのか、それとも人形が統治するとこのようになるのが問題なのかは不明である。俺は後者と踏んでいるが、根拠は特にない。
人形の権力者はどいつもこいつも欲望に忠実すぎる。人間らしいと言えなくもないが、果たしてそれがイデアを作成した二人の希望に沿うものだとはとても思えない。イデアのスペックを考えるのであれば、これは修正されても良い案件だとは思うが、そのような気配はまるでない。
(製作者の最期を聞く限り、その辺の設定をする前にイデアに取り込まれてる可能性もあるんだよなぁ……となると、目的である二人が目指した「完全な人類の創造」ってのには永遠に辿り着けないんじゃねーか?)
不完全なものが完全なものを作る――まるで喜劇のようなタイトルである。笑いはしないが、面白くはある。一応イデアに不具合が生じているという可能性もあるが、そちらを考えるよりかはまだ現実味がある。
神器一号のソファーで寝そべり、外の様子を窓から眺めていると一台の馬車が転倒しており、投げ出された家財道具を賊が漁っているのが見えた。さらに二人の女性が服を剥ぎ取られ男達の集団の中に突き飛ばされる瞬間を目撃。よく見れば男性が一人殺されており、女性二人の年齢を見ると恐らくは母娘と思われる。
以前ならば助けたかもしれないが、今となってはその光景が人形劇にしか見えなくなった。お芝居を見て乱入するのはマナー違反である。
「はあ、救えねぇなぁ……」
こんな世界に召喚された俺は運が良いのか悪いのか?
最善は尽くすつもりではあるが、万一失敗した場合俺はどうなるのだろうか?
そんなことを考えていると、おやつ作りを任せてみたライムが割と良い感じに仕上がったパンケーキを持ってきた。甘いものタイムだ。考えるのは止めて今はこの時間を楽しもう。




