魔法使いと急な来客
本格的に寝込み始めてから二日が経った。
相変わらず熱は下がらず、俺は布団の中でうんうん唸っている。海ちゃんはそれこそ上げ膳据え膳で献身的に俺の看病をしてくれていて、全く持って申し訳ない。
まあ、病院にかかろうとしない俺も悪いのだが……。
「うーん、なかなか良くならないねえ」
ぼーっとしながら横になっていると、リビングの方からなにやら海ちゃんの声が聞こえてきた。どうやら宗次郎氏と話しているようだ。
「もう二日か。そろそろ医者などの世話になった方が良いのではないか?」
「そうなんだけど、お兄さん、病院には絶対行かないっていうんだよ。何か理由があるのかなあ」
…………。
理由か。あるといえばあるし、特に無いといえばない。
「金銭的な事ではなく、か?」
違うんだよなあ。さすがに緊急時に使えるお金を蓄えていない訳じゃないし。
「うん。話した感じじゃ、お金は関係なさそうだったよ」
「そうか。なら今は雄弘殿の事情を優先しておこう。状態が酷くなれば、またその時に考えればいい」
こういうところなんだよな、この二人といて居心地が良いと感じるのは。
なんて言うのかな、距離感のつかみ方が絶妙で、突き放すでもなく構いすぎるでもなく、それでいて俺の意志を尊重してくれる。
まだ付き合いも浅いのに、俺のことを良く理解してくれているって思えるのは、不思議な感覚だ。
「うん、分かったよ。まずは栄養のある食べ物でお兄さんに元気になってもらって……」
ピンポーン
「む、来客か。雄弘殿はまだ就寝中だが」
「えーっと……あ、今日はアパートの回覧の日だ。お隣さんなら知ってるし、出てくるね」
うーん、海ちゃん、もう本当にこの生活に馴染んじゃってるな。ずっと前から一緒に住んでるって言われても違和感ないかも。
ピンポーン
「はーい、今開けまーひゃあああぁぁ!」
繰り返されるチャイムに返事をしながらドアを開けたようだが、なんだかおかしな悲鳴みたいなのが聞こえてきたような。
すぐにでも様子を見に行こうと体を起こしかけたが、なかなかうまくいかない。
「あ、あの、どちら様ですか?」
どうやら訪ねてきたのは隣人の大学生ではないらしい。
若干戸惑い気味に海ちゃんが対応している。
「失礼、私こういうものですが、こちらは風間雄弘様のお宅で間違いありませんか?」
…………あー、なんか面倒なのが来たかも。
聞き覚えのある客の声に、気合いを入れてなんとか立ち上がる。
「そうですが、お兄さんは今具合悪くて――――」
「なんだよ、もう嗅ぎつけてきたのか」
これ以上海ちゃんに相手させるには行かない奴だ。
重い体を引きずって、どうにかリビングへの扉を開けた。
「雄弘様。……お久しぶりです。少しやつれましたな」
玄関先にいたのは、予想通りの男だった。
がっしりとした体を黒服に包み、厳つい顔に穏やかな笑みをたたえている。
「大きなお世話だよ。今日はなんの用だ?」
「雄弘様をお迎えに上がりました」
「親父は、まだ俺を捜していたのか」
「おそらくは。まあ、私はほとんど独断で動いておりますが」
独断。ね。
まあ家を飛び出した馬鹿息子のことなんか気にかけてる余裕はあまり無いだろう。あのクソ忙しい親父は。
子供の頃からそうだったが、特に愛情を感じていない訳じゃない。だが、他の友人達に比べると、やはり差を感じてしまっていたのは否めなかった。
「悪いが、見ての通り今体調不良でね。あんまりまともに話できる状態じゃない」
「かしこまりました。では、今日のところはこれで失礼いたします」
「今日は、じゃねーよ。できればもう来ないでもらいたいんだけどな」
ちくりとイヤミったらしく言ってやるが、それもどこ吹く風。奴は礼儀正しく一礼して答える。
「それは約束できかねますな。では」
そのまま扉を閉め、俺にとっての厄介者はようやく去っていった。




